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【定点観測レポート】経営指標(ROA・ROE・ROIC)動向 -2024年上半期-

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、当社の提供サービスである情報支援ツール“CCReB Clip”を利用して上場企業の経営指標トレンドの定期調査を行っている。今回は2024年上半期の動向調査として、2024年1月~8月の期間中に上場企業が開示した中期経営計画(以下、「中計」)を対象に、経営戦略上で採用されている財務指標のトレンド調査を行うとともに、PBRとの牽連性に関する調査を行った。

【おさらい】
2023年上半期レポートは、こちら

 

2024年上半期における各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の出現率について(図1)

2024年1月から8月までに中計を公表した上場企業数は672社であり、そのうち中計上で財務指標を取り上げた企業数の内訳としてはROA(総資産利益率)は60社(8.9%)、ROE(自己資本利益率)は358社(53.3%)、ROIC(投下資本利益率)は180社(26.8%)という結果となった。

※ROA(総資産利益率): 当期純利益÷総資産
  Return On Assetsの略称であり、企業が総資産に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標
※ROE(自己資本利益率): 当期純利益÷自己資本
  Return On Equityの略称であり、企業が自己資本に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標
※ROIC(投下資本利益率): 税引後営業利益÷投下資本
  Return On Invested Capitalの略称であり、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したかを示す指標

≪図1≫ 2024年上半期における中計上の各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の出現率

※東証、札証、名証、福証を含む(以下同様)。
※集計期間2024年1月~2024年8月。
※ククレブ総合研究所調べ(Powered by CCReB Clip 以下同様)。

 

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ククレブ総合研究所では2020年以降の中計における財務指標の出現状況を調査しており、ROAについては過去5年間において上場企業全体で10%前後を推移し大きな増減傾向は見受けられないが、一方でROEについてはプライム・スタンダード市場に属する企業を中心に年々増加の一途を辿っており、特に2022年以前は上場企業全体で30%前後と毎年の出現率に大きな動きは見受けられなかったが、2023年、2024年と出現率が大幅に増加し約2倍程度伸長する結果となった。
また、ROICにおいても同様の傾向がみられ、2022年以前は上場企業全体で10%前後の推移であったが、2023年、2024年と出現率が増加し約3倍程度伸長していることが調査の結果、明らかとなった。ROICは分母(投下資本(株主資本+有利子負債))の数値を変えられないため、見せかけの数値ではなく、資金調達に対する稼ぐ力を正しく示すことができるため、昨今、投資家が注目する指標となっており、そうした背景より今後もROICをもとにした経営指標を示す企業は増加する傾向が続くと思われる。

また、プライム・スタンダード市場に属する企業を中心としたROE、ROICの出現率の増加の背景として、やはり2023年3月末に東京証券取引所が上場企業に通知した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html)の対応を意図したものと窺える。2024年9月から12月にかけて開示される中計においても同様の傾向で財務指標が取り上げられると推測され、資本収益性を計る指標として、今後、ますますROE、ROICを中心とした経営計画が策定されるだろう。

≪図2≫中期経営計画における財務指標ROAの出現率推移

※東証、札証、名証、福証を含む(以下同様)。
※2024年の集計期間は1月~2024年8月。
※ククレブ総合研究所調べ(Powered by CCReB Clip 以下同様)。

≪図3≫中期経営計画における財務指標ROEの出現率推移

≪図4≫中期経営計画における財務指標ROICの出現率推移

 

2024年上半期における各財務指標(ROA・ROE・ROIC)数値とPBRとの関係性について

続いて、当該レポートで調査対象としている財務指標とPBR(株価純資産倍率)との関係性に着目し、調査を行った。
2024年8月末時点での上場企業におけるPBR数値(当該調査においては「プライム市場」「スタンダード市場」企業を対象とする)と財務指標平均値を調査したところ、PBR1倍以上と未満の企業で各種財務指標の平均値には差異が生じており、また、PBR1倍以上の内訳をみるとプライム市場とスタンダード市場でより明確な差異が生じていることが確認された。

※PBR(株価純資産倍率): 株価÷1株当たり純資産
 Price Book-value Ratioの略称であり、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを見る投資指数

≪図5≫上場企業のPBRと各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の平均値

※プライム・スタンダード市場に属する企業に限る(以下同様)。

次に、2024年に中計を開示した企業に絞り調査を行ったところ、図5で示した全上場企業を対象にした平均値と比較し、より明確にPBR1倍以上・未満企業における財務指標の平均値差異が生じていることが確認された。市場区分別での大きな数値差異は見受けられず、中計を開示しており、PBR1倍以上に達している企業はプライム・スタンダードともにROE平均値8%超となっており、市場評価の意識が高い企業が集中して中計を開示している点も特徴的な結果であるといえる。

≪図6≫中計開示を行った上場企業のPBRと各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の平均値

 

まとめ

以上、2024年上半期の財務指標トレンドの調査と、PBRに着眼した企業の財務指標平均について調査を行った。

ROE・PBRの分解式を以下に掲載する。
PBRの向上に向けた企業の取り組みとして、ROEの改善がポイントとなり、ROEの改善にあたってはバランスシート上の固定資産(=不動産等)の最適化(CRE(Corporate Real Estate)戦略)を図ることが経営戦略上、重要な課題と考えられる。

ククレブ総合研究所で別途行った調査によると、2023年4月以降、不動産売却に関するリリースを行った上場企業のうち、プライムで約50%、スタンダードで約70%の企業がPBR1倍未満であり、PBRの改善を図る目的での不動産売却であったと窺える。

企業の不動産戦略(CRE戦略)をROICに結びつけると、事業拠点建設の新規投資であれば、他人資本を活用したオフバランス開発(注:オフバランス効果には各種要件あり)により、自社の投下資本を可能な限り抑え、最大限の利益を取ることにより、社内ハードルレート(ROIC)の達成も可能となる。また、投資資金の捻出についても、手元の現預金の活用のみならず、企業にとって本業との結び付きが薄い資産(ノンコア資産)を売却することによりCFを創出し、バランスシートをスリムにしながら、各種戦略を実行することなども有益な施策となり得る。

昨今、ROIC経営という言葉が注目を集めているように、今回の調査でも中計上のROIC取り上げについては4年で3倍近くの急増が確認できた。

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ROIC経営を意識した戦略を実行することにより、ROE・ROA、ひいてはPBRの指標向上にも繋がることから、今後、プライム・スタンダード市場に属する企業を中心として、よりROICを意識した経営が求められる市場環境となることが想定される。

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今回の調査は当社の提供サービスである情報支援ツール“CCReB Clip”を利用して上場企業の中計分析、財務分析を行いました。

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当該サービスにご興味のある方は、上記サービスサイトよりお気軽にご相談ください。

 


 

免責事項

当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

 

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