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ROICとは?メリットやROE・ROA・WACCとの違い、ROIC経営のポイントも解説

近年、ROICを重視する投資家や経営者が増えています。

ROIC(投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために調達した資金を使って、どれだけ効率的に利益を出しているかを表す財務指標です。

今回は、ROICの基礎知識や、ROE、ROA、WACCとの違い、導入のメリット・デメリットや、ROIC経営のポイントを解説します。

ROIC(投下資本利益率)とは

ROICとは

ROICとは、Return On Invested Capitalの略称で、「ロイック」と読みます(「ローイック」、「アールオーアイシー」と読まれることもあります)。

日本語では投下資本利益率と訳します。

企業が事業活動のために調達した資金を使って、どれだけ効率的に利益を出しているかを表す財務指標です。

ROICの一般的な計算式は以下の通りです。

■ROIC(投下資本利益率)の計算式
ROIC = 税引後営業利益 ÷ 投下資本(株主資本+有利子負債)

税引後営業利益とは、企業が本業で得た利益のことで、営業利益から法人税などを除いたものです。

また、投下資本とは有利子負債と株主資本を合わせたものであり、銀行に預けている資金は含まれません。

つまりROICとは、事業に投下した資金から、本業利益をどれだけ生み出せたかを示す、企業の「稼ぐ力」を測ることができる指標なのです。

ROICが注目されている背景

近年、「ROIC経営」という言葉も聞かれるように、ROICを活用する企業は増えてきています。

なぜ、ROICが注目されるようになったのでしょうか。

これまでの日本は、PL(損益計算書)に記載されている数字を重視する経営が一般的でした。

しかし、企業へ投資をする投資家からのROE(自己資本利益率)向上を求める動きが高まってきたことに加えて、2014年に経済産業省が発表した「伊藤レポート」で、少なくとも達成するべき指標としてROE8パーセントが明示されました。

この流れを受けて、多くの企業でROE改善が課題となった結果、利益を効率的に生み出すことを表す指標であるROICが注目されるようになったのです。

ROE(自己資本利益率)との違い

ROE・ROA・WACCとの意味の違い
ROEは「Return On Equity」の略称で、「アールオーイー」と読み、日本語では「自己資本利益率」と訳されます。

株主資本に対して、どれだけ利益を出したかを表す指標です。

そのため、投資家が投資に値する企業かどうかを判断する基準として、ROEの数値を参考に用いることが多いです。

ROEの計算式は以下の通りです。
ROE=当期純利益÷自己資本(投下資本-有利子負債)×100

ROEは会社の純資産を変えることによって簡単に数値を操作することができるため、ROICと比較すると正確な指標として数値を示すことが難しい点が特徴です。

たとえば、自社株買いによって発行株式数を変えれば、分母を操作することができてしまいます。

ROA(総資産利益率)とは

ROAは「Return On Assets」の略称で、「アールオーエー」と読み、日本語では「総資産利益率」と訳されます。

会社が保有する全ての資本を利用して、どの程度利益を上げているのかを示す指標となります。

ROAの計算式は以下の通りです。
ROA=当期純利益÷総資本×100

ROICの計算式の分母は有利子負債と株主資本の2つであるのに対し、ROAでは全ての資本金を用いて計算します。

そのため、ROAはROICよりも広い視点で企業の経営力を表せる指標だと言われています。

一方で、ROAでは事業活動に直接関係のない資産も含む総資産を計算に使うため、買掛金や売掛金などの影響を受ける場合があります。

たとえば、発言権が強い企業ほど買掛金の支払いを留保して、資本効率を上昇させることが可能となってしまう等です。

ROAによる分析は、この点に留意する必要があります。

WACC(加重平均資本コスト)とは

WACCは、「Weighted Average Cost of Capital」の略称で、「ワック」と読み、日本語では「加重平均資本コスト」と訳されます。

資金調達のために必要なコスト、企業が投資の対価として投資家へ支払うことが見込まれる金利を表す指標です。

WACCの計算式は以下の通りです。
WACC=株主資本コスト×株主資本/(株主資本+負債)+負債コスト(1-実効税率)×負債/(株主資本+負債)

事業ではコストより利益が上回ることが望まれますから、利益率を表すROICが、WACCよりも上回っていれば経営状態が良いと一般的には判断できるでしょう。ROICとWACCは合わせて使われます。

ROICのメリット

ROICのメリット

ROICの導入は、企業の成長にとって重要な役割を果たします。

ROICを導入するメリットとして、以下の3点が挙げられます。

  • 資金調達がしやすくなる
  • ROEやROAの問題を解決できる
  • 事業や部門ごとに算出が可能

それぞれの具体的に見ていきましょう。

資金調達がしやすくなる

ROICは、事業規模の大きさに関係なく、事業の「稼ぐ力」を表す指標です。

ROICを使うことによって、自社がどれだけ効率的に利益を生み出しているのか、明確に投資家や金融機関に説明することができます。

ROICが高水準であれば、さらなる資金調達に繋げることが期待できます。

ROEやROAの問題を解決できる

ROICの関連指標として、先ほどご紹介したROEやROAがあります。

ROICが指標として優れている点は、ROEやROAの問題点である「企業の意図による数値の操作」ができない点です。

ROEは純資産を変えることによって簡単に数値を操作することができてしまい、ROAは買掛金や売掛金などの影響を受ける場合があります。

その点、ROICは分母の数値を変えられないため、見せかけの数値ではなく、資金調達に対する稼ぐ力を正しく示すことができます。

事業や部門ごとに算出が可能

ROICは、事業や部門ごとに算出することが可能です。そのため、事業や部門ごとの目標が立てやすくなります。

また、従来のLPの数字を重視する評価の仕方では、事業規模の大小によって数字が大きく異なってしまいます。

しかし、投下資本に対する利益を見るROICなら、規模や特性の異なる事業を公平な条件で評価することができるのです。

たとえばオムロン株式会社では、全社の活動をユニットごとにROICで評価しているそうです。

さらに、ROICを分解して各部門のKPIに落とし込み、現場レベルでのROIC向上を可能にしているといいます。

このように、ROICであれば、規模や特性の異なる事業でも同じ基準で評価することが可能になります。

ROICのデメリット

ROIC導入のデメリット

対して、ROICの導入にはデメリットとして以下の2点が挙げられます。

  • 使用できる業界や企業フェーズに限界がある
  • 計算式が複雑で浸透しづらい

それぞれ具体的に解説していきます。

使用できる業界や企業フェーズに限界がある

ROICは、導入できる業界や業界フェーズに限界があります。

サービス業など一部の産業では、投下資本を使用せずに事業の拡大を目指します。

投下資本を使用しない場合、単純に利益がどれだけ必要なのかを判断すれば良いため、ROICでの評価は適切ではありません。

反対に、多くの投資額が必要となる創業期や事業の成長期においては、ROICは低くなってしまって当然でしょう。

業界や企業のフェーズによって、ROICの有効性は変化するのです。

計算式が複雑で浸透しづらい

ROICはROEやROAと比べて計算式が複雑なため、他の指標と比較して浸透しづらいという課題があります。

ただし、一度計算方法を理解すれば、時間をかけることなく数値を算出することが可能となります。計算に使われる「投下資本」といった言葉や、そもそもROICが何を表す指標なのかなど、社内研修などを通して学習できる機会を設けると良いでしょう。

ROIC経営導入のポイント

ROIC経営導入のポイント

ROICを経営指標として用いる「ROIC経営」を導入する際、押さえておきたいポイントは4つあります。

  • 評価期間は複数年に設定する
  • ROAやROE、WACCなど他の指標と一緒に活用する
  • ROICはWACCより大きくなければならない
  • ROIC逆ツリー展開を活用する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

評価期間は複数年に設定する

事業を成長させるためにはある程度の投資が必要となるケースが多いですが、投資をしてすぐに利益が生まれるわけではありません。

そのため、1年で評価をしようとすると、多額の投資をした年の場合、本来の実力以上にROICの数値が低くなってしまう可能性があります。

以上の理由から、ROICを評価する際は1年ではなく、複数年に設定しましょう。一般的には3〜5年に渡って行われることが多いようです。

ROAやROE、WACCなど他の指標と一緒に活用する

本記事の冒頭でご紹介したように、各指標それぞれ違う視点から経営状況を判断することができます。

ROICのみでは気付けない課題もあるかもしれないため、把握したい内容に応じてそれぞれの指標を使い分けることが重要です。

また、次項で詳しく解説しますが、ROICはWACCとセットで活用するのがおすすめです。

ROICはWACCより大きくなければならない

ROICは、コストのかかる資本によって利益をどれだけ生み出したかを表している指標のため、資本コストを表すWACC以上の値であることが求められます。

「WACC(加重平均資本コスト)とは」の部分でも触れましたが、利益率を表すROICが、WACCよりも上回っていれば経営状態が良いと一般的には判断できるでしょう。

ROIC逆ツリー展開を活用する

「ROIC逆ツリー展開」とは、オムロン株式会社が独自に考案した手法で、ROICの要素を分解し、各部門のKPIに落とし込む方法を指します。

これによりオムロン株式会社は、現場レベルでROIC向上を意識することができ、ROIC経営がうまくいっていると言われています。

ROICの活用ポイントを理解した上で、経営に取り入れよう

ROIC(投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために調達した資金を使って、どれだけ効率的に利益を出しているかを表す財務指標です。

2014年に経済産業省が公開した「伊藤レポート」では、ROIC8パーセント以上が推奨されていますが、出資の目安となるROICのひとつの水準は7パーセントと言われることが多いです。

ROICとの関連指標であるROA・ROE・WACCは、それぞれ評価する対象や特徴が異なるため、必要に応じて活用していくことが重要です。

ROIC経営を実施する企業の一つであるオムロン株式会社は、コロナ禍においても好調な業績を見せました。

ROICの導入は、資金調達がしやすくなったり、経営状況が細かく分析できたりと、メリットがいくつもあります。しっかりと活用ポイントを押さえた上で、ROIC経営を行いましょう。

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。