ROIC経営とは?有名企業の事例から見る導入時のポイントやメリット・デメリットを解説!
ROICとは、銀行や企業などから調達したお金を利用し、どれだけ利益を上げられたのかを示す財務指標です。
近年、ROICは事業を評価する指標として多くの企業に注目されています。
本記事では、ROIC経営の基礎知識や導入のメリット・デメリットを解説します。
今後、ROICの導入を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
ROIC経営とは
ROICとは、「Return On Invested Capital」の略称です。
近年、投資効率の測定のためにROICを導入する企業が増えています。
以下でROICの基本情報や注目される背景について解説します。
ROIC経営とは「稼ぐ力」を評価する指標
ROICは、日本語で「投下資本利益率」を示し、調達した資金でどれだけの利益をあげることができたのかを示す指標です。
事業に投資した資本に対してどれだけリターンが得られたのかを知ることができるため、企業の「稼ぐ力」を評価することが可能となります。
ROICの数値を見ることによって、企業がどれだけ効率的に利益を生み出しているのかを知ることができます。
ROICの計算式
ROICは、税引き後の営業利益を株主資本と有利子負債の合計で割ることで表されます。
ROICの計算式は以下の通りです。
■ROIC(投下資本利益率)の計算式
ROIC = 税引後営業利益 ÷ 投下資本(株主資本+有利子負債)
上記の計算から、いかに株主資本と有利子負債を有効に活用して利益を上げているのかを判断することができます。
ROICが注目される背景
企業は、投資家から投資された資本を経営基盤として会社を運営しています。
そのため、企業には、投資をしてくれる投資家の期待に応えられるような企業活動を行うことが求められます。
投資家はリターンを求めて投資を行うため、ROICで期待収益率を明確に示している企業はリスクが少ないと判断し、投資を行いやすくなります。
このような背景から、資本コストを意識した経営を行うためにROICを導入する企業が増加しています。
ROE・ROA・WACCとの意味の違い
ROICと似た意味の言葉に、ROE・ROA・WACCが挙げられます。
以下で、ROICが示す指標とROE・ROA・WACCそれぞれの示す指標の違いを確認していきましょう。
ROEとは
ROEは日本語で「自己資本利益率」を示し、株主視点の投資による利益率を示す指標となります。
そのため、投資家が投資に値する企業かどうかを判断する基準として、ROEの数値を参考に用いることが多いです。
ただし、ROEは会社の純資産を変えることによって簡単に数値を操作することができるため、ROICと比較すると正確な指標として数値を示すことが難しい点が特徴です。
ROAとは
ROAは日本語で「総資産利益率」を示し、会社が保有する全ての資本を利用して、どの程度利益を上げているのかを示す指標となります。
ROAを見ることによって、企業がどの程度効率的に資本を利用して利益に結びつけているのかを確認することが可能です。
ただし、ROAが示す数値には取引先に対する交渉力が反映できません。
そのため、発言権が強い企業ほど買掛金の支払いを留保して、資本効率を上昇させることが可能となっています。
WACCとは
WACCは日本語で「加重平均資本コスト」を示しています。
会社を経営するにあたって、資金調達は必要不可欠です。WACCは、企業が投資の対価として投資家へ支払うことが見込まれる金利を示します。
WACCを導入することによって、企業が確保しておくべき収益率の最低ラインを明らかにすることができ、経営の目安として利用することが可能になります。
ROIC導入のメリット
ROICの導入は、企業の成長にとって重要な役割を果たします。
ROICを導入するメリットとして、以下の3点が挙げられます。
- 投資家達からの人気が得られる
- ROEやROAの問題を解決できる
- 利益創出の効率性を正確に把握できる
それぞれの具体的な内容を確認していきましょう。
投資家達からの人気が得られる
ROICは、企業の「稼ぐ力」を表す指標となります。
そのため、ROICが高いと投資家からの注目が集まり、さらなる資金調達につなげることが可能です。
資金調達を考えるうえでも、ROICの導入はプラスに働くでしょう。
ROEやROAの問題を解決できる
先述の通り、ROICと同じような指標としてROEやROAがあります。
ROICが指標として優れている点は、ROEやROAの問題点である「企業の意図による数値の操作」ができない点です。
企業側で数値を操作することが難しいため、見せかけの数値にならず、株主や債権者からの調達コストに応じた収益力を正しく示すことができます。
利益創出の効率性を正確に把握できる
ROICを導入することによって、企業の利益創出の効率性を正確に把握することが可能です。
ROICの数値によって会社の現状を正確に把握できるため、経営課題の適切な改善につながります。
ROIC導入のデメリット
ROICの導入は、投資家による企業価値の上昇や会社の「稼ぐ力」の可視化に役立つなどメリットが豊富です。
しかし、ROICの導入にはデメリットもあるため、導入の前に理解しておきましょう。
ROIC導入のデメリットは以下の2点です。
- 使用できる業界や企業フェーズに限界がある
- 計算式が複雑で浸透しづらい
それぞれ具体的な内容を以下で解説します。
使用できる業界や企業フェーズに限界がある
ROICは、導入できる業界や業界フェーズに限界があります。
サービス業など一部の産業では、投下資本を使用せずに事業の拡大を目指します。
投下資本を使用しない場合、単純に利益がどれだけ必要なのかを判断すれば良いため、ROICでの評価は適切ではありません。
計算式が複雑で浸透しづらい
ROICは計算式が複雑なため、導入したばかりの場合は計算に時間がかかることがあります。
計算に時間をかけることを嫌がる企業はROICの導入を考えないため、他の指標と比較してROICは浸透しづらいです。
ただし、一度計算方法を理解すれば、時間をかけることなく数値を算出することが可能となります。
ROIC経営導入のポイント
近年、ROIC経営の導入を考える企業が増加しています。
しかし、ROIC経営を導入したことがない企業では、「良いROIC経営」と「悪いROIC経営」の違いがわからないことも多いのではないでしょうか。
以下で「良いROIC経営」と「悪いROIC経営」の違いを解説するので、ROIC経営の導入に役立ててください。
良いROIC経営とは
良いROIC経営を行うためには、ROICを導入する企業の経営陣がROICについて正確に理解したうえで社内外に伝えることが重要です。
経営陣がさほど気にしていない指標であれば、導入しても社内全体での関心は高まりません。
また、決算時にROICの説明や数値の開示などを行い社内でROIC経営の重要度を浸透させることによって、良いROIC経営へつなげることができます。
悪いROIC経営とは
悪いROIC経営とは、ROICが形のみの導入となってしまっているケースです。
ROICを導入する企業の増加に伴い、他社に合わせてROICを導入しただけの企業では、ROICの理解度が低く社内に浸透させる動きがとられないことが多々あります。
形だけの導入にならないよう、ROICの理解を深めて社内に浸透させる取り組みを行うことが重要です。
ROICを取り入れる企業の事例
ROIC経営を取り入れて成功している企業の事例を紹介します。
事例を確認することによって、良いROIC経営をしている企業と悪いROIC経営をしている企業の違いを明確にすることが可能です。
今後ROIC経営の導入を考えている場合は、良いROIC経営を行うために事例を参考にしてみてください。
事例①:オムロン
オムロンはROICを重要な経営指標としており、社内への浸透に力を入れています。
取り組みの例として、社内全体がROIC経営を理解できるように翻訳式を導入したことが挙げられます。
翻訳式とは、複雑な計算式に誰でも理解することができるような意味付けをしたものです。
社員全員がROIC経営の意味を理解することができる仕組みを作り上げることによって、現場レベルでの事業改善が可能となっています。
事例②:日立製作所
日立製作所は、IT・エネルギー・インダストリー・モビリティ・ライフ・オートモーティブシステムの6つの事業セグメントにおいてROICの数値を取り入れています。
毎年、これまでの取り組みの実績値を社内外に開示しており、実績のみならず次年度の目標も見通しとして一覧で開示しています。
ROICを開示して透明性を高めることによって、常に目標に向けた業務に取り組むことが可能です。
東証プライム市場上場企業のROIC20選
ROICを向上させたい場合は、有名企業を参考にすることがおすすめです。
東証プライム市場に上場している、2022年3月期の税引後営業利益が高い企業20社をピックアップしてROICを算出しました。
各企業の直近のROICを以下の表に示しましたので参考にしてください。
順位 | 企業名 | ROIC |
1位 | 川崎汽船 | 45.8% |
2位 | 商船三井 | 30.5% |
3位 | 信越化学工業 | 14.5% |
4位 | 伊藤忠商事 | 10.7% |
5位 | 日本製鉄 | 10.4% |
6位 | 日本郵船 | 10.2% |
7位 | KDDI | 10.0% |
8位 | エネオスホールディングス | 9.6% |
9位 | 三井物産 | 8.7% |
10位 | ソニーグループ | 8.4% |
11位 | 三菱商事 | 8.3% |
12位 | 日立製作所 | 7.8% |
13位 | NTT | 7.2% |
14位 | 住友商事 | 6.7% |
15位 | トヨタ自動車 | 5.4% |
16位 | ホンダ | 3.8% |
17位 | 日本郵政 | 3.3% |
18位 | 三菱UFJフィナンシャルグループ | 0.4% |
19位 | 三井住友フィナンシャルグループ | 0.4% |
20位 | みずほフィナンシャルグループ | 0.3% |
(*2022年3月期のデータをもとに算出)
今後、ROIC経営を導入して自社のROICの数値を高めたい場合は、ROICが高い企業の戦略を調査し参考にしてみましょう。
ROIC経営を学べる本
効果的なROIC経営を行うためには、ROICに関する知識を深めることが重要です。
ROICを学ぶためにおすすめの本を3冊紹介します。
- P/Lだけじゃない事業ポートフォリオ改革ROIC改革
- ROIC経営:稼ぐ力の創造と戦略的対話
- ROIC経営実践編事業ポートフォリオ組み換えと企業価値向上
以下で書籍の内容について紹介するので、ぜひ参考書選びに役立ててみてください。
P/Lだけじゃない事業ポートフォリオ改革ROIC改革
『P/Lだけじゃない事業ポートフォリオ改革ROIC改革』は、会計や経理の専門家だけでなく一般社員でも理解しやすいように、ROICについて噛み砕いて説明した内容となっています。
ROICを学ぶための入門書となっており、ROICの基本的な知識から身につけることが可能です。
はじめてROICを学ぶ方におすすめの1冊となっています。
ROIC経営:稼ぐ力の創造と戦略的対話
『ROIC経営:稼ぐ力の創造と戦略的対話』には、ROICを企業が取り入れることの重要性やROICの活用方法が示されています。
また、ROICのメリットだけでなく、デメリットまで紹介されているため、事前のリスクヘッジにも役立てることが可能です。
企業価値を正しく認識し、高めていく方法を理解する際に適した1冊となっています。
ROIC経営実践編事業ポートフォリオ組み換えと企業価値向上
『ROIC経営実践編事業ポートフォリオ組み換えと企業価値向上』では、ROICの導入がいかに企業価値向上につながるかを、上場企業のKPI管理事例等をもとに説明しています。
事例をもとに解説しているため、ROICの導入から企業価値向上につながるまでのステップが実践的な知識として理解できます。
ROIC導入のための実践力を身につけることができる1冊です。
ROIC経営を導入するなら多くの情報収集が必要
今後ROICが低い企業は、市場から淘汰される可能性があります。
市場から淘汰されることがないようにROICを高めるためには、より良い戦略経営が重要となります。
良い経営戦略を立てるためには、市場に関する多くの情報収集が必要です。
CCReB GATEWAYのTOPページでは、経済の最新の動向や多角的な分析、情報収集をサポートするツールを豊富に提供しています。
今後、ROICの導入を考えている方やROICを向上させたい方は、ぜひ活用してください。
監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。
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