総研レポート・分析

【定点観測レポート】経営指標(ROA・ROE・ROIC)動向~今話題のPBRとの牽連性にも着目~

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、当社の提供サービスである情報支援ツール“CCReB Clip”を利用して半年毎に上場企業の経営指標トレンドの定期調査を行っている。今回はシリーズ第4弾として2023年上半期(2023年1月~6月)に上場企業が開示した中期経営計画(以下「中計」)に取り上げられている財務指標(ROA・ROE・ROIC)のトレンド調査および決算数値との牽連性に関する調査結果を報告する。

【おさらい】
2022年上半期レポートは、こちら
2022年総括レポートは、こちら

 

2023年上半期における各指標(ROA・ROE・ROIC)の出現率について(図1)

2023年1月から6月までに中計を公表した企業数は513社であり、そのうちROA(総資産利益率)の目標値を中計に掲げている企業は53社と中計公表企業の10.3%に出現する結果となった。ROAの経営指標としての中計における位置づけは継続して低下傾向にある。

一方、ROE(自己資本利益率)については205社と全体の40.0%を占める結果となっており、経営指標としてROEを重視する企業は依然として多いと言える。

尚、昨今、新たな経営指標として取り上げる企業が増加しているROIC(投下資本利益率)に関しては100社、全体の19.5%と昨年末から1.4倍の増加となっており、注目の経営指標として存在感を増していることが窺える結果となっている。

ROIC経営とは?有名企業の事例から見る導入時のポイントやメリット・デメリットを解説!

※ROA(総資産利益率): 当期純利益÷総資産
  Return On Assetsの略称であり、企業が総資産に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標
※ROE(自己資本利益率): 当期純利益÷自己資本
  Return On Equityの略称であり、企業が自己資本に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標
※ROIC(投下資本利益率): 税引後営業利益÷投下資本
  Return On Invested Capitalの略称であり、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したかを示す指標

≪図1≫ 2023年上半期中期経営計画書における各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の出現率

※東証、札証、名証、福証を含む(以下同様)
※集計期間は2023年1月~6月まで(以下同様)
※ククレブ総合研究所調べ(Powered by CCReB Clip 以下同様)

2023年上半期における各指標(ROA・ROE・ROIC)数値とPBRとの関係性について(図2)

今年3月末に東京証券取引所(東証)が上場会社に通知した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html)は記憶に新しいが、この通知を受け、上場企業各社はROICやROEといった財務指標に加え、PBRを意識した経営を求められ、上場企業各社は投資家に対する説明・情報開示に向けた準備を進めている状況が昨今の開示資料から見て取れる。

※PBR(株価純資産倍率): 株価÷1株当たり純資産
  Price Book-value Ratioの略称であり、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを見る投資指数

6月末時点でのPBR数値(当該調査においては「プライム市場」「スタンダード市場」企業を対象とする)と各指標平均数値を独自に調査したところ、PBR1倍割れをしている企業の各種経営指標平均値は低水準となっていることが確認された(図2参照)。

≪図2≫ 上場企業のPBRと各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の平均値

更に経営指標を経営課題として中計上に取り上げている企業の各指標平均数値についても独自に調査したところ、PBR1倍以上を達成している企業と未達の企業では3つの経営指標のいずれをとっても、より明確な数値差異が生じていることが確認された。

≪図3≫ 中計開示を行った上場企業のPBRと各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の平均値

投資家をはじめとするステークホルダーに対し中計上で経営指標を経営課題として明確に掲げる企業は資本コスト・資本収益性を意識した経営の着手が先行して進んでいると思われ、その結果、現状でPBR1倍以上を達成している企業の財務指標平均値(図3)は、上場企業平均(図2)と比較しても高い水準となっている。

ククレブ総合研究所の独自調査によると4月以降、日経平均株価の上昇により若干ではあるがPBR1倍以上の企業数が着実に増加しており、今後の各社の資本効率向上の施策に注目してきたい。

 

まとめ

以上、2023年上半期の経営指標トレンドの調査と、PBRに着眼した企業の経営指標平均について調査を行った。

上場企業はこれから、PBR(株価純資産倍率)の改善およびそれに付随して資本コストや ROE(自己資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)などの資本収益性を意識した企業経営とその情報開示の透明性が求められ、中計等での経営戦略のコミットと、その確実な実行過程がこれまで以上に注目を浴びることとなり、経営者の肩に目標の達成がより重くのしかかっている。

目標達成の実現性を高めるためには?

資本効率の向上を考える上で、企業不動産(CRE)戦略が今後、重要な経営戦略の一翼を担うものと思われ、当社が先日発行した以下レポートも参考にしていただきたい。

CRE戦略とは?PBR1倍割れ企業が続出する現状におけるCRE戦略の重要性を専門家が簡単に解説!

 

なお、各企業の中計上での経営戦略、適時開示資料による資本コストや株価を意識した経営方針に関するリリースは、CCReB GATEWAYの「ホットワード分析」や「IRストレージ」にて簡単にご確認を頂けます。

会員登録無料でご利用可能ですので、業界・企業分析にご活用ください。

 


 

免責事項

当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。