IT業は何を経営リスクと見ているのか?有価証券報告書から読み解く、IT業界のリスク認識の変化
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IT業は何を経営リスクと見ているのか?有価証券報告書から読み解く、IT業界のリスク認識の変化

企業を取り巻くテクノロジー環境は、この数年で大きく変化している。生成AIの急速な普及、サイバーセキュリティへの対応、DXの進展に加え、地政学・通商環境や人的資本をめぐる課題など、IT企業が向き合う経営テーマは広がり続けている。

本記事では、CCReB GATEWAYのホットワード分析を用いて、IT業(情報・通信業)の有価証券報告書「事業等のリスク」を対象に、2022〜2025年に前年から言及が増えたキーワードを分析。その結果、IT業のリスク認識には、「気候変動・サステナビリティ」「人的資本・ガバナンス」「AI・生成AI」「地政学・通商」「新規事業領域の拡大」という5つのテーマが見えてきた。なかでも特徴的なのが、2024年に「生成AI」が急増している点である。
 

この記事でわかること
  • IT業のリスク認識が2022〜2025年でどのように変化してきたか
  • 2024年に「生成AI」の言及が急増した背景と、その後の変化
  • IT業のリスク認識に見られる2つの特徴
  • 自社の有価証券報告書のリスク項目を見直す際のポイント

 

IT業の経営リスクを構成する5つのテーマ

IT業界の経営リスク

2022〜2025年の4年間にIT業で言及が増えたキーワード(ホットワード)を俯瞰すると、大きく「気候変動・サステナビリティ」「人的資本・ガバナンス」「生成AI」「地政学・通商」「新規事業領域の拡大」の5つのテーマに整理できる。

リスクテーマ 主なキーワード
気候変動・サステナビリティ 「TCFD」「気候関連財務情報開示」など
人的資本・ガバナンス 「企業統治」「人的資本」「コンプライアンス委員会の設置」など
生成AI 「生成AI」「AIの利用」「人工知能(AI)」など
地政学・通商 「ロシア」「関税政策」など
新規事業領域の拡大 「越境EC」「DX推進事業」「EdTech」「ヘルスケア分野」など

※本記事の「ホットワード(急増キーワード)」は、各年の有価証券報告書における事業等のリスクに関する記載を対象に、前年から登場件数または記載企業数が増加した表現を、上位20語まで抽出したものである。急増キーワードとして上位に入ったことは、リスクの重要度や発生可能性を示すものではない。

2022年には他業種と同様、TCFDや気候関連財務情報開示など、サステナビリティに関する表現が目立った。その後、人的資本やガバナンス、生成AI、地政学・通商、新規事業領域などへとテーマが広がっている。

なかでも2024年の「生成AI」の急増は、IT業のリスク認識の変化を象徴する動きである。次章で詳しく見ていく。

2024年、「生成AI」の言及が突出して増加

IT業では、2024年以降生成AIの言及が増加

IT業では、2024年に「生成AI」が58件・26社で確認され、同年の急増キーワードの中で最多となった。2025年にも「AIの利用」「人工知能(AI)」などの関連表現が現れており、生成AIという新しい技術そのものへの言及から、AIの利用を含めた経営上の論点へとリスク認識が広がっていることがうかがえる。

生成AIは2022年11月のChatGPT公開以降、企業活動へ急速に浸透した。文章や画像、プログラムコードなどを生成できる技術として業務効率化や新規サービスへの活用が期待される一方、情報管理、著作権、生成物の正確性など、新たな論点も加わった。こうした急速な環境変化が、IT企業の有価証券報告書におけるリスク記載にも表れたと考えられる。

重要なのは、「生成AI」という単語が一時的に登場しただけではない点である。

2025年にも「AIの利用」「人工知能(AI)」といったAI関連の表現がホットワードに現れている。2024年に「生成AI」という新しい技術そのものへの言及が急増し、翌2025年にはAIの「利用」も含む表現が見られるようになった。このことから、AIを新たに登場した技術として捉える段階から、その利用を含めて経営上の論点として捉える段階へリスク認識が広がっていることがうかがえる。

IT業のリスク認識に見られる2つの特徴

IT業のリスク認識に見られる2つの特徴
2022〜2025年のホットワードを分析すると、IT業では特に「AIをはじめとする技術トレンドが短期間でリスク開示に表れる」「新たな事業機会とリスクが近接している」という2つの特徴が見えてくる。

①AI・技術トレンドへの反応

IT業の特徴を最も端的に表しているのが、AIをはじめとする技術トレンドへの反応である。

特に2024年には「生成AI」が58件・26社で確認され、同年の急増キーワードの中で最多となった。新しい技術テーマが短期間で複数企業のリスク記載に入り込んだ点は、IT業のリスク認識を考えるうえで象徴的な動きといえる。

生成AIは、IT企業にとって単なる外部環境の変化ではない。自社サービスへの実装や業務効率化といった機会になる一方、既存サービスの競争力、情報管理、知的財産など、事業そのものに影響し得るテーマでもある。

さらに2025年にも「AIの利用」「人工知能(AI)」といった関連表現がホットワードに現れている。こうした変化からは、IT業では新しい技術が経営上の論点として認識され、短期間のうちにリスク開示にも反映されている様子がうかがえる。

②新たな事業機会とリスクの近接

もう一つ特徴的なのが、「事業等のリスク」を分析しているにもかかわらず、事業拡大を連想させるキーワードが複数現れていることである。

たとえば、「越境EC」「DX推進事業」「EdTech」「ヘルスケア分野」などである。これらは、それ自体がリスクを表す言葉ではない。新しい市場や事業領域への参入・拡大について説明するなかで、それに伴う不確実性や競争環境、投資負担などがリスクとして記載されている可能性がある。

IT業では、技術革新によって新たな市場やサービスが生まれる一方、そこへ事業を広げることで新たなリスクも生じる。つまり、新しい事業機会を取りにいくことと、新しいリスクを引き受けることが近接していると捉えることができる。

そのためIT業の「事業等のリスク」は、企業が何を警戒しているかだけでなく、どの技術や市場を成長領域として捉え、どこへ事業を広げようとしているのかを読み解く材料にもなり得る。

自社の有価証券報告書を見直す3つの視点

IT業のリスク開示を見る3つの視点

IT業のリスク開示を見直す際には、「技術変化への対応」「リスクと事業機会の両面」「自社固有の影響」という3つの視点が重要である。

①新しい技術テーマが自社にどう影響するかを確認する

2024年の生成AIの急増が示すように、IT業では新しい技術が短期間で経営上の論点となることがある。ただし、「生成AI」「AI」と記載するだけでは、自社にとって何がリスクなのかは伝わりにくい。

既存サービスの競争力に影響するのか、情報管理上の問題が生じるのか、開発体制や人材戦略に影響するのかなど、技術変化と自社の事業構造との接点まで確認することが重要である。

②リスクだけでなく事業機会との関係を見る

IT業では、新しい技術や市場がリスクであると同時に、成長機会にもなり得る。

生成AI、DX、越境EC、EdTech、ヘルスケアなど、新しい領域へ事業を広げるほど、競争環境や投資回収、人材確保など新たなリスクも生じる。

そのため有価証券報告書を見直す際には、「何が危険か」だけではなく、どの成長戦略に伴ってそのリスクが発生しているのかという視点から確認することも有効である。

③同じキーワードでも自社固有の影響まで掘り下げる

AI、サイバーセキュリティ、人的資本などは、多くのIT企業に共通するテーマである。しかし、その影響は企業によって異なる。

たとえばAIであっても、自社サービスを代替されるリスクと、自社サービスへAIを組み込む際のリスクでは意味が異なる。

同業他社と比較する際も、単に同じ単語が記載されているかを見るのではなく、そのテーマが事業や収益、競争力にどう影響するものとして説明されているかまで読み解く必要がある。

まとめ:IT業のリスク開示は「技術変化」と「成長機会」を映す

IT業の有価証券報告書における急増キーワードを分析すると、リスク認識は「気候変動・サステナビリティ」「人的資本・ガバナンス」「AI・生成AI」「地政学・通商」「新規事業領域の拡大」という複数のテーマに広がっていることがわかった。

なかでも象徴的なのが、2024年の「生成AI」の急増である。約650社*という業種の規模を踏まえれば26社という数字は一部にとどまるが、同じ年の急増キーワードの中では最多であり、新しい技術が登場すると、その技術そのものだけでなく、既存事業への影響、利用に伴う課題、新たな事業機会など、複数の経営テーマが生まれることを示している。

また、「越境EC」「DX推進事業」「EdTech」「ヘルスケア分野」といったキーワードが見られる点も興味深い。IT業では、新たな市場や技術への挑戦が事業機会となる一方、それ自体が新しい経営リスクを生む。その意味でIT業の「事業等のリスク」は、企業が何を警戒しているかだけではなく、どの技術や市場に向き合い、どこに事業を広げようとしているのかを読み解く材料にもなり得る。

有価証券報告書を比較・分析する際には、個々のキーワードの増減だけでなく、その背景にある技術変化や制度・社会環境、さらに企業の事業戦略との関係まで含めて読み解くことが重要である。

ホットワード分析は、こうしたIT業の経営テーマの変化を定点観測する手法としても活用できるだろう。

最新の経営トレンドに特化したビジネス情報メディアCCReB GATEWAY(ククレブ・ゲートウェイ)では、本記事で分析に使用した「ホットワード分析」など、ビジネスに役立つ情報を収集できるコンテンツを多数ご用意しています。会員登録(無料)をするだけですぐにご利用いただけますので、ぜひご活用ください。

*参照:J-LiC上場企業サーチ「情報・通信業の上場企業一覧」(2026年8月27日時点) 

IT業の経営リスクに関してよくある質問(Q&A)

Q1. IT企業にはどのような経営リスクがありますか?

A.IT企業では、AI・生成AIなどの技術変化、サイバー・情報管理、人材、ガバナンス、地政学、新規事業など、幅広い経営リスクが想定される。

2022〜2025年の情報・通信業の有価証券報告書を分析すると、「気候変動・サステナビリティ」「人的資本・ガバナンス」「AI・生成AI」「地政学・通商」「新規事業領域の拡大」といったテーマで言及の増加が見られた。特にIT業では、新しい技術や市場の登場が既存事業の競争力や事業戦略そのものに影響しやすい点が特徴である。

Q2. 生成AIの利用にはどのような企業リスクがありますか?

A.生成AIの利用には、情報漏洩、知的財産、生成内容の正確性、サービス品質、既存事業への影響など、複数の経営リスクが考えられる。

生成AIは業務効率化や新規サービス開発に活用できる一方、機密情報の取り扱い、生成物の著作権、誤情報の出力など新たな課題も生じる。またIT企業では、AIによる既存サービスの代替や競争環境の変化など、事業そのものへの影響も考慮する必要がある。

Q3. 生成AIは有価証券報告書でどのようにリスクとして開示されていますか?

A.情報・通信業では、2024年に「生成AI」が58件・26社で確認され、前年から言及が増えた。

2025年にも「AIの利用」「人工知能(AI)」などの表現がホットワードに現れている。こうした変化からは、生成AIという新しい技術そのものへの言及から、AIの利用を含めた経営上の論点へとリスク認識が広がっていることがうかがえる。

Q4. 生成AIはIT企業にとってリスクですか、それとも事業機会ですか?

A.生成AIは、IT企業にとってリスクであると同時に、新規サービスや業務効率化につながる事業機会でもある。

既存サービスの競争力低下や情報管理、知的財産などのリスクがある一方、自社サービスへのAI実装や業務効率化、新規サービス開発などの機会にもなり得る。そのため、生成AIを単独の「技術リスク」として捉えるのではなく、事業戦略との関係まで含めて検討することが重要である。

Q5. IT企業は生成AIリスクにどう対応すべきですか?

A.生成AIリスクへの対応では、利用ルールの整備だけでなく、自社の事業・情報・人材・サービス品質への影響を具体的に整理することが重要である。

例えば、どの業務でAIを利用するのか、入力してよい情報は何か、生成物をどのように確認するのか、知的財産や顧客情報をどう管理するのかなど、利用場面に応じた対応が求められる。また、AIによる競争環境の変化が自社サービスに与える影響も継続的に確認する必要がある。

※本レポートはCCReB GATEWAYのホットワード分析機能を用いた独自集計・分析に基づき作成しています。掲載内容は企業の開示動向やトレンドを把握することを目的としており、その正確性・完全性を保証するものではありません。

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監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立し、2024年11月に創業から5年で東証グロース市場に上場。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

 

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