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工場新設・設備投資が増加!2023年の製造業の動向とは ~半導体関連を筆頭にコロナ以降の国内生産拠点は転換点へ~

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、日頃より上場企業・非上場企業の開示資料・プレスリリースを定点観測し、日本企業による工場の立地動向を調査している。また、2024年6月7日には経済産業省より2023年版工場立地動向調査が発表された。

今回は、当社の保有するデータの分析結果と経済産業省などの公的機関による最新調査を照らし合わせることで、足元の日本の製造業の動向や工場立地のトレンドを確認するとともに、中期経営計画書から読み解く製造業の今後の動きについても分析する。

経済産業省の調査から見る2023年の工場立地動向の概要

経済産業省では毎年、工場立地の実態を把握し、工場立地の適正化及び土地利用の合理化に寄与することを目的として、「工場立地動向調査」を実施している。2024年6月7日に発表された「2023年工場立地動向調査」では業種・エリアごとに幅広い分析がなされた中で、大きな工場立地トレンド・製造業による設備投資動向として以下の2つのポイントを取り上げる。

参考:経済産業省「工場立地動向調査

ポイント➀ 立地件数は減少する中、半導体関連の大型工場の影響で工場は大規模化か


出所:経済産業省 2024年6月7日付「2023年工場立地動向調査」掲載数値よりククレブ総合研究所作成

2019年から2023年の直近5年間における、工場の立地件数及び立地面積を示したものが上記の2つのグラフである。2023年の動向としては、工場立地件数は前年比で19.2%の減少となっている中で、立地面積は13.4%増加している。単純計算では、2022年には1工場当たりの平均面積は約1,388㎡だったものの、2023年には1工場当たりの平均面積は約1,947㎡となっており、その規模は約1.4倍にまで拡大した。


出所:経済産業省 「工場立地動向調査」掲載数値よりククレブ総合研究所作成

実際に、過去20年間に同調査で集計された工場立地件数を工場立地面積で除した推移(=工場1拠点あたりの平均立地面積)を表したのが上記である。2023年はこの20年間で1工場当たりの立地面積が最大の年であったことが明らかである。

こうした動向の主要因は昨今、熊本をはじめとする九州地方、九州に比べるとやや先の見通しではあるものの千歳をはじめとする北海道地方で大型の半導体工場や関連工場の建設が相次いだことが真っ先に挙げられる。本調査により、半導体が属する電子・デバイス製品に関連する工場の立地件数・立地面積に絞って推移を確認すると、以下のグラフのようになる。


出所:経済産業省 「工場立地動向調査」掲載数値よりククレブ総合研究所作成

電子・デバイス関連工場の件数自体は過去5年間で微増傾向に留まる中で、立地面積は2023年には前年比で8倍近い規模まで大幅に拡大している。つまり、全業種での統計では1工場あたり約1.4倍に平均立地面積が増加してきた中で、電子・デバイス関連工場は更にその水準を大きく上回る規模での新規工場立地が進んでいる。

とはいうものの、電子・デバイス関連工場の立地件数は2023年実績で28件と、全業種の立地件数745件に占める割合は約3.75%とそれほど大きくはない。勿論、巨大な半導体工場の建設も一つ要因ではあるものの、後述記載の通り、コロナ禍が明けたことによる設備投資需要の高まり、土地価格や建築費の高騰に伴う開発コストの高止まりの煽りを受け、スケールメリットの享受しやすい工場規模の新設が進んだこともしくはそうせざるを得なかったことも、こうした工場の大規模化の一つの背景と考えられる。

ポイント② コロナ禍での投資控えの反動に伴う設備投資の回復


出所:経済産業省 「工場立地動向調査」掲載数値よりククレブ総合研究所作成

2014年から2023年の直近10年間における、設備投資額の推移を示したのが上記の図である。コロナ禍では多くの企業が新規の設備投資の見送っていた中で、足元2022年~2023年にかけてはこうした新規投資の抑圧への反動もあり、コロナ禍前に迫る水準まで設備投資額が積み上がってきている。

別の調査として、日本政策投資銀行が発表している「2023年度設備投資計画調査」(2023年8月3日公表)を見てみると、同じく2023年にはコロナ禍以前の2019年の水準には近い値まで設備投資額は回復している。一方で、本調査によると各社当初の設備投資計画自体は実績値よりより高い水準に目標を置いており、両者には大きな乖離が存在しているのが現状である。つまりコロナ禍が明け、一定程度設備投資が進んできたものの、まだまだ各企業の設備投資計画は未消化の部分が多く残っており、こうした投資計画の積み残しは2024年以降に持ち越され、設備投資拡大の基調は今後も継続するのではないかと想定される。

参考:株式会社日本政策投資銀行「全国設備投資計画調査(2023年6月)


出所:日本政策投資銀行「2023年度設備投資計画調査」(2023年8月3日公表)よりククレブ総合研究所作成

ククレブ総合研究所による工場立地動向調査と具体事例

これまでは、経済産業省が発表した「工場立地動向調査」(2024年6月7日公表)を基に、大まかな日本企業の工業立地動向を分析してきた。ククレブ総合研究所ではこうした公的機関による調査レポートの分析に加えて、日々上場企業・非上場企業のプレスリリースやIR資料を確認しており、2023年に新たに工場を新設・増設したリリースについて集計した。当社の集計によると、2023年に新たに工場を新設することや工場機能を増設することを発表したリリース・開示は、計366件確認された。

業種ごとの新規立ち上げ件数を集計した結果が以下の通り。

経済産業省の調査と同じく、半導体関連の製品が属する電気機器業の工場が割合として最も多い中で、その他の業種としては食料品や化学の分野での工場立地が目立っている。

食料品業界で工場立地が進んだ背景としては、コロナ禍の巣ごもり需要を捉え比較的業績好調であった企業が多く、資金面でゆとりのできたことで新規投資が進んだことや、近年ベンチャー企業やそれを育成する大手企業において将来的な食糧危機の解決策を模索するフードテック(Food×Technology)の研究開発・製造が進展しているのも理由に挙げられる。

化学工場の立地増加については、従来から日本の製造業の本丸的な存在ではあったものの、先述の半導体ニーズに伴い、半導体の原料となる素材・材料の製造にかかる工場が増加したことも大きな追い風となっていると考えられる。具体的な事例としては、信越化学工業のグループ会社である三益半導体工業が群馬県高崎市でシリコンウエハ専用工場を設立したことや、東京応化工業が熊本県菊池市において半導体製造に必要な高純度化学薬品の供給工場の開設を発表したことも記憶に新しい。先述の半導体関連のニーズは周辺業種の産業動向にも強く影響を及ぼしていることが印象的である。

ここまでは業種ごとに実際の事例を踏まえた動向を分析してきたが、続いて都道府県別に企業立地動向を確認する。

工場新設件数が多かった上位5つの都道府県を赤で囲んでいる。古くから自動車関連をはじめとした輸送用機器の生産が盛んな愛知県、中京工業地帯に続く製造品出荷額を誇る阪神工業地帯を形成する大阪府や兵庫県への工場新設が多いのは周知の通りである。その中で、立地件数第1位に熊本県、第3位に福岡県がランクインしていることは、やはり半導体関連のニーズが顕著であることを裏付けるものと言えるだろう。

上場企業による中期経営計画書から見る今後の工場立地トレンド

ここまでは、2023年の工場の立地動向を確認してきた。足元で大型工場の立地が相次ぎ、各企業による設備投資も堅調、今後の拡大も見込まれる中で、企業の経営方針がどのように示されているのかを確認する。当社では、今後の日本企業による工場立地の展望・見通しを分析するにあたって、2024年度の上場企業による中期経営計画書を分析する。

※2024年1月1日から本レポート執筆直前(6月1日)までの全上場企業における中計の公表件数は約700件程度であり、毎年ほぼこの時点でその年の中計の大半がアップデートされることから、速報性の観点からこの時点で分析を行った。なお、本レポートにおける中計の抽出条件は、当該ホットワードの言及企業数の昨年対比の比較(企業数増減率)にて行った。

上記が、当該期間における上場企業の中期経営計画書でのホットワード(頻出キーワード)をワードクラウド化したものである。

上記以外の経営トレンドについて知りたい方はこちら

【速報】2024年最新中期経営計画におけるホットワードは? ー 中計開示企業の1/3が新中期経営計画を公表!激動のビジネス環境における話題のホットワードは? ー

具体的なワードを確認すると、「工場拡張」「工場投資」といったワードがより多く言及される中で、その背景としては「省人化投資」により「機械化・自動化」を推進することで、「生産革新」を達成することを目的とし、「設備強化」「成長投資の推進」を掲げる企業が増えていると考えられる。

先述の通り、2023年には立地件数自体は昨対比で減少したものの、立地面積や設備投資は堅調であり、投資需要は旺盛である。その中で、こうした各社の最新の経営方針を踏まえると、各企業がより効率的な生産拠点を設立していく動きは、昨今の円安基調とも相まった製造業による国内生産体制強化の流れとも重なり、本年も続いていくだろう。

一方で、開発コストの側面から考えると不動産市場は引き続き好況であり、建築費についても部材価格の高止まり、建設業界における2024年問題に伴う人件費高騰・工期長期化の影響もあり、拠点新設を考える事業者としては依然苦しいマーケットが続いている。加えて、上場企業においては、資本効率向上が強く求められる中で、拠点新設や保有拠点の売却等の判断はB/SやP/Lにインパクトを与える観点で、一層重要性を帯びている。こうした経済情勢下においてだがそれに限らず、企業不動産戦略(=CRE戦略)は日頃から企業不動産の最適な保有・利用方針を経営戦略・財務戦略と合わせて準備・検討をしていくことが極めて重要である。

CRE戦略について知りたい方はこちら

CRE戦略とは?PBR1倍割れ企業が続出する現状におけるCRE戦略の重要性を専門家が簡単に解説!

ククレブ総合研究所では、こうした企業不動産に係る調査・レポート発信を定期的に行うとともに、筆者が代表を務める、ククレブ・アドバイザーズ株式会社でも、長年の企業不動産に携わった専門メンバーが、中立的な立場でCRE戦略に関するサポートを実施しておりますので、CRE戦略についてお悩みの際には、当社ウェブサイトよりお問い合わせ下さい。

 

免責事項

※当レポートに掲載した図表は企業の開示資料において固定資産の売却/譲渡に関するリリース文書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計しております。

※当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。