国内上場企業におけるエリア別の従業員数の動向(2021年)~市区町村編④(愛知県・岐阜県・三重県・静岡県)~
東海地方は各県の中心に関わらず製造業の集積するエリアに従業員数が集中
ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、2018年から2021年の間に提出された全上場企業の有価証券報告書に記載されている事業所毎の従業員等について集計を行い、その動向について分析を行った。(※有価証券報告書の記載例については本レポート末尾参照。)
2022年3月に公表したレポートでは、都道府県別に従業員数の動向を観察したところ、コロナ禍においても2021年時点では東京都や大阪府等の都市部の従業員数が増加し、地方都市においてはコロナ禍に限らない業界大手企業の移転・撤退による従業員数の減少が観察された。(ただし、小売業においては東京都の従業員数は大幅減少した。)
今回は市区町村シリーズ最終版として東海地方(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県)について取り上げるが、第1弾となる東京都編から始まり、第2弾の関東地方、第3弾の関西地方、そして今回の東海地方と、各都市の立地特性、産業構造が従業員数の変動状況に色濃く反映されている。是非、過去レポートと併せ読んで頂き、現在の日本の産業動向を考察する一助にして頂きたい。
都道府県別レポートはこちら
市区町村レポート①(東京都)はこちら
市区町村レポート②(神奈川県・埼玉県・千葉県)はこちら
市区町村レポート③(大阪府・京都府・奈良県・兵庫県)はこちら
愛知県
<輸送用機器業>
愛知県は、いうまでもなくトヨタ自動車を筆頭とする機械メーカーが集積している県となっており、トヨタ自動車の業績と地域の雇用への影響は大きく関連している。
実際、同県の業種別従業員数推移を調査したところ、輸送用機器業以外は2018年から2021年にかけて大きな変動は無かったが、輸送用機器業においてはトヨタ自動車の業績好調を背景に関連企業の所在するエリアでは新工場・研究所の開所や生産体制強化を背景に従業員数が増加している。安城市においてはトヨタ自動車グループのデンソーが自動車の電動化領域の開発と生産体制を強化するため2020年に安城製作所内に「電動開発センター」を開所したことにより1,500人超の大量の従業員が流入している。その他周辺地域においても岡崎市、西尾市、半田市においてトヨタ自動車グループ企業の工場における従業員数が伸長する結果となった。
岐阜県
<電気機器業>
電気機器業は大垣市に本社・工場を置くイビデン株式会社が世界的なデータ通信量の伸びを受けてデータサーバー向け半導体の需要拡大を背景に毎年増収・増益を示しており、工場への増産投資を行い供給力を高めている。大垣中央事業場においては2018年から2020年にかけて総額1300億円の設備投資を行っており、工場従業員数も2倍近い増員体制を取っている。その他、大垣市に所在する同社の複数工場においても2割近い従業員数の伸び率が確認された。
三重県
<化学業>
三重県の主な産業(輸送用機械、電子部品・デバイス、化学)のうち、化学業において四日市市での従業員数の増加が確認された。その中で注目すべきはJSR株式会社という化学素材メーカーである。同社は半導体系材料や液晶表示系材料などの情報電子材料に注力し収益を伸ばしている企業であり、2018年には四日市工場内に新規事業を生み出すための研究を目的とした新研究棟を建設している。また、2017年にはライフサイエンス分野を次代の収益の柱と位置付け慶応義塾大学と産・学・医療の連携拠点と位置付ける共同研究を目的とした「JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター」を信濃町キャンパス内に建設するなど、精力的な研究費への投資状況が窺える。
静岡県
<電気機器業>
静岡県は多くの電気機器メーカーの工場が集積しているが、今回はその中でも東芝グループに着目した。東芝キャリアは業務用エアコン、産業用の熱源機を中心に扱っており、富士市の富士事業所において新技術棟「e-Third」を2020年に開所し、世界で展開する技術開発の中枢に同技術棟を据えると好評しており、それに呼応するように同事業所の従業員数が増加した。
一方、同グループで、リテール、プリンティング事業を手掛ける東芝テックは伊豆の国市にある静岡事業所(大仁)において2019年3月期決算の有価証券報告書上で前年までの従業員数に対し80%程度少ない従業員数を報告している。同社の国内開発生産拠点は静岡事業所(三島)と静岡事業所(大仁)の2拠点となっており、業績不振のプリンティング事業は静岡事業所(三島)で行われているが20%程度の従業員数の減少に留まっている。同社のリリースでは関連ニュースは見受けられず、今後の動向に注視したい。
製造業の国内回帰の動きや、サプライチェーンの再構築などを反映する今後の従業員数の動向にも注目
今回のレポートで取り上げた東海エリア(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県)においては各県、製造業の工場が所在する立地に紐づく形で大きな従業員数の変動が見られたが、それ以外の業種においては一律として特筆して取り上げるような従業員数の変動は見られず、当該エリアの工場の操業方針如何による地域の雇用への影響度が垣間見える結果となった。
これまで関東、関西、東海とエリアを分けて市区町村レベルでの動向を追ったがエリア毎に特色が出る結果となっており、関西・東海では製造業の“工場”を中心とした局所的な動向、関東(神奈川県・埼玉県・千葉県)では「陸運業」「卸売業」「食料品」といった首都圏を中心とする”流通網”を構築する業種、東京都では「卸売業」の本社の移転集約や「情報・通信業」といった”オフィスワーク”を主体とする業種・部署の動向が認められ、2021年末の段階では日本の人口や経済の東京一極集中を改めて実感するような結果となっている。
昨今の急激な経済情勢の変化(物価高、円安…)に日本企業がどのような対応策をとっていくのか、コロナ禍を経て働き方・雇用形態の意識も少しずつであるが着実に変わってきたように思われる日本企業において、現状、一極集中となっている東京都における従業員数の動向と、製造業・流通業における拠点戦略、工場・倉庫の自動化、省力化による雇用への影響に今後も注視をしていきたい。
有価証券報告書の「設備の状況-主要な設備の状況」の項目には、事業所名とその所在地、事業所の使用用途、土地面積、土地・建物等の金額とその場所に勤務する従業員数が記載(下図)されており、今回のレポートは当該情報をもとに作成を行っています。当該データはククレブグループで提供しているTechシステムのサービスの一つである『CCReB PROP』をご利用頂く事で2016年以降、各年の上場企業の主要な設備の状況について、Excelリストとして一覧データを提供することが可能となっております。サービスの詳細は下部のリンクよりご確認ください。
固定資産情報取得ツール”CCReB PROP”
「CCReB AI」のAIエンジンを活用して、約3,800社(2022年2月1日現在)の上場企業が開示する有価証券報告書に掲載されている固定資産情報を抽出しリスト化するサービス