総研レポート・分析

国内上場企業における都道府県別の従業員数の動向(2021年)

コロナ禍においても東京都の上場企業従業員数は増加するも、小売業においては大幅減

 ククレブグループのシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、2020年および2021年に提出された全上場企業の有価証券報告書に記載されている事業所毎の従業員等について集計を行い、都道府県毎にその動向について分析を行った。(※有価証券報告書の記載例については本レポート末尾参照。)

上場企業全業種合計では東京都・大阪府の従業員数は増加傾向

 都道府県別の従業員数について2020年と2021年を比較したところ、最も従業員数が増加したのは東京都(3.7万人増加)、続いて大阪府(2.9万人増加)となった。コロナ禍において、東京都の人口減少、転出超過などのニュースが話題となっているが、労働者人口についてはコロナ禍においても増加したという結果になった。ただし、東京都について更にそれ以前の年と比較すると、2018年との比較では18万人の増加、2019年との比較では13万人の増加となっているため、増加のペースはやや緩やかになったと言える。企業の事業所の移転には一定の時間がかかることから、コロナ禍による影響が数値として現れるまでに一定の期間を要することも推測されるため、2022年以降に提出される有価証券報告書からどういった動向を読み取ることができるか引き続き分析を続けたい。
 また、従業員数の増減ワースト5の都道府県は、栃木県、愛知県、静岡県、福岡県、兵庫県の順に減少が大きかった。更に2018年、2019年と比較すると、これらの県に加えて、茨城県、宮城県、大分県等が減少の大きい都道府県としてランクインした。

 東京都・⼤阪府・新潟県・神奈川県(ピンク)で特に増加、栃⽊県、愛知県、静岡県、福岡県、兵庫県で特に減少(⽔⾊)している。

 上場企業全体の動向としては上記の通りであるが、個別業種毎では異なる推移を⽰す業種もあったことから、ここからは特徴のある業種を抜粋して考察する。

輸送⽤機器 - 東京都の従業員数等が増加し、栃⽊県の従業員数等が減少

 従業員数の増加トップ5 は、順に東京都、福岡県、愛知県、群⾺県、⼤阪府となり、減少ワースト5 は順に栃⽊県、岡⼭県、静岡県、宮城県、⼭⼝県となった。特に栃⽊の落ち込みは⼤きかった。
 全業種の総数でも栃⽊県は従業員数が最も減少したエリアであったが、個別の業種で観察すると、輸送⽤機器での落ち込みが⼤きく影響していた。栃⽊県での従業員数等の減少に関して個別企業の影響を深堀りして観察すると、本⽥技研⼯業株式会社での減少が⼤きく影響している。また、2018 年と2021 年の⽐較では、減少の⼤きかった県として宮城県が挙げられるが、こちらはトヨタ⾃動⾞株式会社の従業員数の減少が影響していた。

鉄鋼 – 福岡県、広島県、茨城県等で従業員数が減少

 2020 年と2021 年の⽐較では千葉県が増加し、福岡県が特に減少した。また、2018 年と2021 年の⽐較では、広島県、茨城県の減少が顕著に⾒られた。個々の企業を観察すると、減少傾向にある福岡県、広島県、茨城県いずれも⽇本製鉄株式会社の従業員の減少が⽬⽴ち、広島県においては株式会社神⼾製鋼所の減少も⽬⽴った。

⼩売業 – ⼩売業については東京都における従業員数が減少

 東京都における業種別の従業員数の増減は、33 業種中21 業種で増加、12 業種で減少となっているが、減少した業種の中でも⼩売業は唯⼀1 万⼈を超えて4.6 万⼈という⼤幅な減少であった。2020 年の東京都・⼩売業における全従業員数は約24 万⼈であったことから約2 割の減少となっており、また、隣接する神奈川県でも約1 万⼈の減少であったことからも、特に⾸都圏における⼩売業に対するコロナ禍の影響が⼤きかったことがうかがえる。

引き続き2022 年の上場企業の従業員数動向に注⽬するとともに、市区町村単位等のより詳細な分析を予定

 本レポートでは国内上場企業における従業員の推移について都道府県別に分析を⾏い、特徴的な動向のあった業種について考察を⾏ったが、東京都の⼩売業等、⼀部のエリア・業種を除いてコロナ禍による従業員数への影響を顕著に⾒て取ることはできなかった。これは、企業の事業所の移転には⼀定の時間がかかり、コロナ禍による影響が数値として現れるまでに⼀定の期間を要するためである可能性も考えられることから、2022 年以降に提出される有価証券報告書についても引き続き分析を続けたい。
 また、今回輸送⽤機器や鉄鋼業に⾒られた様に、業種やエリア毎の従業員数の動向はコロナ禍に限らない、より⼤きな経済環境の変化の影響を受けることが考えられるため、今後は都道府県別のスコープから市区町村別のスコープに軸を移して、その動向を追っていきたい。

 

※有価証券報告書の記載例
有価証券報告書の「設備の状況-主要な設備の状況」の項⽬には、事業所名とその所在地、事業所の使⽤⽤途、⼟地⾯積、⼟地・建物等の⾦額とその場所に勤務する従業員数が記載(下図)されている。ククレブ・アドバイザーズ株式会社では、2016 年以降、各年の上場企業の主要な設備の状況について、Excel リストとして⼀覧データを提供するサービスを提供している。詳細はサービス紹介ページをご参照のこと。

 


 

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