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統合報告書とは?求められる背景やアニュアルレポートとの違い、作成時の項目や企業事例を解説

統合報告書とは、法的に開示が定められている財務情報(企業の売上や資産など)に加えて、非財務情報も一緒にまとめた報告書のことです。

投資家が企業の社会的責任を重要視することになったことから統合報告書の重要性は高まっており、2023年度の統合報告書発行企業数は1,019社にのぼりました。

今回は、統合報告書の概要、有価証券報告書やアニュアルレポートとの違い、求められている背景、企業が統合報告書を作成するメリット、統合報告書の主な項目や企業事例をわかりやすく解説します。

統合報告書とは

統合報告書

統合報告書とは、法的に開示が定められている財務情報(企業の売上や資産など)に加えて、非財務情報をまとめたものを指します。

非財務情報とは、財務情報以外の数値では測れない情報のことで、具体的にはESGやCSRに関する取り組みや活動状況、ガバナンス体制、サスティナビリティに対する取り組み、経営戦略や経営課題などが該当します。

この非財務情報は、海外機関投資家が投資の際に企業の社会的責任を重要視するようになったことで近年世界的に重要性が高まっています。

日本においても、2023年より上場企業に対して非財務情報の開示が義務付けられました。

このような背景から、財務情報と非財務情報を一冊にまとめた統合報告書を発行する企業が増えています。

有価証券報告書との違い

有価証券報告書とは、上場企業などが事業年度ごとに企業の概況、事業の状況、財務諸表などをまとめた資料のことです。

金融商品取引法の規定に基づき内閣総理大臣に提出され、金融庁のEDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)で開示されます。

有価証券報告書と統合報告書の大きな違いは、報告対象の範囲です。

統合報告書は、企業の持続可能な価値創造を中心に据えているため、財務情報だけではなくESG情報など非財務的な内容にも重きを置きます。

一方、有価証券報告書は金融商品取引法で定められている、投資家保護を念頭に置いた制度です。内容は企業の概況、事業の状況、財務諸表などで構成され、企業の財務的な透明性を報告するものになります。

アニュアルレポートとの違い

アニュアルレポートとは、企業が任意で発行する年次報告書のことです。経営内容について総合的にまとめ、株主や金融機関等のステークホルダーに年度末に配布します。

財務データだけでなく、企業理念や経営戦略など数字では表せない内容も載せられる点や、発行が義務化されていない点が統合報告書と似ていますが、アニュアルレポートと統合報告書の違いは対象期間です。

アニュアルレポートは1年間の経営状況をまとめたレポートになります。一方、統合報告書は中長期的なビジョンのもと作成されます。

統合報告書の作成が求められる背景

統合報告書

統合報告書の作成は現在義務化されてはいないものの、発行する企業数は年々増加傾向にあります。

株式会社宝印刷D&IR研究所 ESG/統合報告研究室の調査によると、2023年1月~2023年12月末時点の統合報告書発行企業数は1,019社にのぼりました。

昨年同時期と比べると147社増加しており、上場企業の3割弱が統合報告書を発行する状況になっています。

現在、ESG投資は世界的な広がりを見せています。世界持続可能投資連合(GSIA)が行った2023年11月の調査によると、世界における2022年のESG投資額は30.3兆ドルとなっています。

日本においてもESG投資は急拡大しており、2016年の0.47兆ドルだったところから、2022年には4.28兆ドルと、2016年と比較すると2022年は約10倍にまで拡大しています。

※日本や欧州はESG投資市場が伸びている一方で、米国に限っては2022年に初めて減少傾向となったことも併せて記載しておきます。原因としては、調査手法の厳格化や、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰等の影響による運用成績の悪化、米共和党系州当局を中心とする反ESG運動の影響や、グリーンウォッシュ対策の強化が影響していると言われています。

このような世界的潮流を受け、投資家からのESG情報の開示要請は高まっています。

さらに、サスティナビリティに関する感度は若い世代を中心に高まってきているため、事業拡大や人手不足時代における採用活動のためのブランディングという観点から見ても、ESGやサスティナビリティに関する情報開示はますます重要性を増していくと言えるでしょう。

また、日本では上場企業に対して、2023年3月期決算から人的資本情報の開示義務が適用されました。ESGのマテリアリティのSとGは人的資本に大きく関わる内容のため、こちらも統合報告書を作成する企業が増加している背景に大きく影響していると考えられます。

ESG投資については、こちらの記事内でも解説しています。

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

参考:「統合報告書発行状況調査2023」最終報告|株式会社宝印刷D&IR研究所 ESG/統合報告研究室

統合報告書を作成するメリット

統合報告書

統合報告書を作成することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここからは、企業が統合報告書を作成することで得られるメリットについて、次の3つをご紹介します。

・ステークホルダーとの関係強化
・サスティナビリティ経営の推進
・投資家とのコミュニケーションの質の向上

ステークホルダーとの関係強化

企業が統合報告書を作成するメリットの一つは、ステークホルダーとの関係強化に繋がる点です。

統合報告書は、有価証券報告書やアニュアルレポートとは異なり、中長期的なビジョンに基づき、持続可能な成長や社会的責任について深く掘り下げます。

企業の長期的な価値創造プロセスを明確に示し、理解してもらうことができるため、ステークホルダーとの関係強化に繋げていくことができます。

サスティナビリティ経営の推進

サステナビリティ経営とは、企業が「企業の社会的責任」と「ビジネスの持続可能性」を両立させるための戦略的な経営手法のことです。

SDGsやESGの取り組みが加速する近年において、このサスティナビリティ経営をいかに実現するか(企業の社会的責任とビジネスの持続可能性をどう両立させるか)は、重要な経営課題となっています。

統合報告書を作成するプロセスは、企業が自社の経営戦略や、リスクなどを総合的に評価する機会となります。

つまり、企業は統合報告書を作成することで、サスティナビリティ経営の実現のための戦略や課題、実現に向けた取り組みを改めて明確にした上で示すことができるのです。

投資家とのコミュニケーションの質の向上

統合報告書は、投資家や株主に対して、企業の長期的な価値創造プロセスやリスク管理の取り組みを詳細に伝えることができます。

そのため、投資家や株主とのコミュニケーションの質が向上し、企業の株価の安定や資金調達の効率化に寄与することが期待できます。

統合報告書の主な項目

統合報告書

統合報告書に記載する項目は、経済産業省の「価値協創ガイダンス 2.0」のフレームワークを参考にするのがおすすめです。

なぜなら、企業の価値観、ビジネスモデルなど、ステークホルダーに伝えるべき内容が体系的・統合的に整理されているからです。

ここでは、統合報告書への記載が推奨されている6つの項目を「価値協創ガイダンス 2.0」のフレームワークに沿って解説します。

1.価値観
2.長期戦略
2-1.長期ビジョン
2-2.ビジネスモデル
2-3.リスクと機会
3.実行戦略(中期経営戦略など)
4. 成果(パフォーマンス)と重要な成果指標(KPI)
5.ガバナンス

1.価値観

価値観とは、企業理念やコア・バリューなどを指します。ガイダンスでは、『社会の課題解決に対して企業及び社員一人一人が取るべき行動の判断軸、または判断の拠り所となるもの』と定義されています。

企業は、自社固有の価値観を示しましょう。そして、その価値観に基づいて、どのような社会課題を自社の長期的かつ持続的な価値創造の中で解決する「重要課題」として捉えるのかを検討することが重要です。

2.長期戦略

長期戦略は、産業構造や事業環境の変化に対応した持続的な価値創造のあり方を示すべく、リスクと機会の把握・分析をした上で構築します。

自社の価値観に基づき、重要課題と統合的に長期戦略を構築することが望ましいとされています。

2-1.長期ビジョン

長期ビジョンとは、企業の目指す姿であり、特定の長期の期間においてどのように社会に価値を提供し、長期的かつ持続的に企業価値を向上していくか、共有可能なビジョンのことを指します。

企業は、価値観・重要課題と整合的で、自社で働く一人一人の目標ともなる長期ビジョンを策定することが望ましいとされています。

2-2.ビジネスモデル

「ビジネスモデル」は、長期的かつ持続的な価値創造の基盤となる設計図であり、企業が有形・無形の経営資源を投入し、競争優位性のある事業を運営することで顧客や社会に価値を提供し、長期的かつ持続的な企業価値向上へとつなげていく仕組みのことを指します。

企業は、長期ビジョンに基づき、長期的かつ持続的な価値創造の基盤となるようビジネスモデルを構築するとともに、必要に応じて変革することが重要です。

2-3.リスクと機会

「リスクと機会」とは、企業が長期的かつ持続的な価値創造を実現する上で、分析することが必要な外的・内的な要因のことを指します。

企業は、長期的なリスク要因や事業機会となり得る要因を把握・分析するとともに、長期ビジョン、ビジネスモデル、実行戦略に分析結果を反映することが求められます。

3.実行戦略(中期経営戦略など)

「実行戦略(中期経営戦略など)」は、企業が有する経営資源やステークホルダーとの関係を維持・強化し、長期戦略を具体化・実現するために、足下及び中長期的に取り組む戦略のことを指します。

企業は、足下の財政状態・経営成績の分析・評価や、長期的なリスクと機会の分析を踏まえつつ、 長期戦略の具体化に向けた戦略を策定・実行することが求められます。

4.成果(パフォーマンス)と重要な成果指標(KPI)

「成果(パフォーマンス)と重要な成果指標(KPI)」は、価値観を踏まえた長期戦略や実行戦略によって、これまでどのぐらい価値を創出してきたか、それを経営者がどのように分析・評価しているかを示す指標のことです。

企業は、KPI による長期戦略等の進捗管理・成果評価を通じて、長期戦略等の精緻化・高度化・必要に応じた見直しを行うことが重要です。

5.ガバナンス

「ガバナンス」とは、長期戦略や実行戦略の策定・推進・検証を着実に行い、長期的かつ持続的に企業価値を高める方向に企業を規律付ける仕組み・機能のことです。

企業には、長期戦略等の企業行動を規律するガバナンスの仕組みを、実効的かつ持続可能なものとなるように整備することが求められます。

参照:価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス 2.0(価値協創ガイダンス 2.0)|経済産業省

統合報告書の企業事例

統合報告書

最後に、実際に企業が発行している統合報告書の事例をご紹介します。

今回は、日本経済新聞社が開催している2023年度の「日経統合報告書アワード」(参加社数は475社・団体)でグランプリを受賞した3社をご紹介します。

参照:日経統合報告書アワード|日本経済新聞社

※参照リンクはアワードに提出された統合報告書(2023年度版、2022年度版)になります。最新版をご覧になりたい方は各社HPをご参照ください。

コンコルディア・フィナンシャルグループ

横浜銀行・東日本銀行の持株会社であるコンコルディア・フィナンシャルグループ。

地方銀行の中で、預金残高、貸出残高ともに、トップクラスの地位を確保している同社は、2023年度の日経統合報告書アワードでグランプリを受賞しています。

統合報告書は「ROE向上」「資本コスト抑制」に営業戦略と人財戦略の説明がしっかりと結びついており、『地方金融機関ひいてはPBR課題に取り組む企業の手本となる圧巻の内容』と評されています。

参照:2023年版 統合報告書 本編|コンコルディア・フィナンシャルグループ

東京応化工業株式会社

主力製品の半導体材料「フォトレジスト」が世界トップシェアを誇る東京応化工業株式会社。同社も2023年度の日経統合報告書アワードでグランプリを受賞しています。

統合報告書では、競争優位性とビジネスモデルなど、投資家が知りたい情報が網羅的かつ施策も含め具体的に開示されています。

アワードでは『社長メッセージで企業価値向上策が明確に示され、CFOが非財務資本の長期的資産化に言及するなど統合思考が見事に結実した報告書』と評価されています。

参照:統合レポート2022 全ページ/ A3見開き版 |東京応化工業株式会社

株式会社野村総合研究所

民間企業・官公庁へのコンサルティングや、金融や流通を顧客とするシステム構築・運用に強みを持つ株式会社野村総合研究所。

日本を代表する5大シンクタンクの一つである同社も、2023年度の日経統合報告書アワードでグランプリを受賞しています。

統合報告書では、一貫性のあるDX3.0に挑戦する成長ストーリーが明示されており、気候変動対応や人材戦略は経営戦略と連動しています。

アワードでは『トップメッセージからはビジネスモデルの進化と強みが熱意とともに伝わる。事業を通じた社会課題解決への提言は目標が高い。ESGマテリアリティの特定プロセス開示も秀逸』と評価されています。

参照:NRI統合レポート2023|株式会社野村総合研究所

今後企業にとって統合報告書などによる情報開示は重要に

統合報告書

今回は、統合報告書の概要、有価証券報告書やアニュアルレポートとの違い、求められている背景、企業が統合報告書を作成するメリット、統合報告書の主な項目や企業事例を解説しました。

これからの時代において、企業のESGやサスティナビリティに関する情報開示はますます重要になってくると言えるでしょう。

本記事が、御社の統合報告書を作成する際の一助になれたら幸いです。

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監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。