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ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

ESGとは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を組み合わせた言葉です。

この3つに配慮した企業経営をESG経営といい、投資判断の基準として世界的に広まっています。

今回は、ESGの意味や、SDGsやCSRとの違い、ESG経営に取り組みメリットと注意点などをまとめました。

最後にESGに取り組む最新の企業事例もご紹介していますので、ESG経営に取り組もうとしている企業はぜひ参考にしてみてください。

ESGとは

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス/企業統治)の頭文字を組み合わせた言葉です。

現在、気候変動や人権問題など様々な課題が存在します。こうした事態を受けて、「企業はESG(環境、社会、ガバナンス)の3つの視点で企業経営や投資に取り組むべき」という考えが世界的に広まっています。

つまり「ESG」とは、環境、社会、ガバナンスに配慮した経営活動や投資活動のことを指す言葉です。

日本においては、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)に署名して以降、ESG投資、ESG経営などのESG活動が急速に広まりつつあります。

具体的なESG経営の取り組み事例としては、以下が挙げられます。

Environment(環境):再生エネルギーの使用、環境配慮製品認定制度の策定と運用など
Social(社会):DE&I(女性の採用比率や管理職比率の策定)など
Governance(ガバナンス):コンプライアンスの徹底など

ESG投資とは?ESG経営が注目される背景

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)に配慮した事業を行い、適切なガバナンスがなされている企業に投資をすることを指します。

投資家たちの間では、中長期的な視点で企業価値を評価する際に、ESG要素を含む事業活動の持続可能性を考慮することが重要であるという認識が広まってきています。

ESG投資が広まったきっかけのひとつは、2006年に国連が発表した「PRI:Principles for Responsible Investment(責任投資原則)」だと言っていいでしょう。

PRIでは、次の6つの原則が定められており、ESGの視点を取り入れることを投資原則とすることが求められています。

1.投資分析と意思決定のプロセスにESGの視点を組み入れる
2.株式の所有方針と所有慣習にESGの視点を組み入れる
3.投資対象に対し、ESGに関する情報開示を求める
4.資産運用業界において本原則が広まるよう、働きかけを行う
5.本原則の実施効果を高めるために協働する
6.本原則に関する活動状況や進捗状況を報告する

PRIに賛同している機関投資家は2006年の発足以来増加し続けており、2021年には署名数が4000を超えています。ちなみに日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も2015年に署名しています。

機関投資家が市場に与える影響は大きく、2018年には約3,400兆円だった世界における投資残高は、2020年には約4,093兆円にまでなっています。

ESG投資を重要視する流れが世界的に広がっているということは、ESGを無視した経営を続けている企業は、今後資金調達が難しくなってくるかもしれません。

企業活動を行う上で経営資金が必要な企業にとって、投資家に投資対象として選んでもらうことは必要不可欠です。

そのため特にここ数年は、上場企業各社がESGを意識した事業に取り組み、その状況を積極的に情報公開する動きが出てきています。

ESGとSDGsの違い

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

ESGと関連してよく使用される言葉に「SDGs」があります。

ESGとSDGsの違いは、ESGは企業が経営行う上で重視される要素であるのに対し、SDGsは国や企業などが持続可能な世界を実現するために掲げられている目標です。

企業がESGに配慮した経営を行えば、結果としてSDGsで定められている目標達成を実現できると考えられています。

そのため、企業がESG経営に取り組もうと思った場合、SDGsに対する取り組みとセットで行われる場合が多くあります。

投資家においても、ESG投資に取り組めば、投資家は間接的にSDGsへ貢献することができるということになります。

ESGとCSRの違い

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

ESGと関連してよく聞かれるのが、CSRです。

CSRとは、Corporate Social Responsibilityの頭文字を組み合わせた言葉で、企業が社会的存在として果たすべき責任のことを指します。日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。

ESGもCSRも社会貢献のイメージが強いことから、「ESGってCSRと何が違うの?」と違いが分からないという人もいるでしょう。

決定的な違いは、CSRは環境・社会課題の解決は企業にとって経営課題の中心ではないのに対し、ESGは環境・社会課題の解決が経営課題の中心に据えられている点です。

CSRは、「企業活動は環境や社会に負荷をかけてしまうものである」という前提のもと、文化活動や環境保護活動を通じて企業の利益の一部を社会に還元するものです。

これに対してESGは、「企業活動を通じて環境・社会課題を解決する」という前提のもと、課題解決と自社の利益の両立を目指しています。

「環境・社会課題が影響を与える様々なステークホルダーの利益を考慮し経営判断を行う」という意味においては共通点もありますが、ESGとCSRは根本的に異なるものなのです。

企業が ESG経営に取り組むメリット

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

企業がESG経営に取り組むメリットは、以下の4つです。

・ESG投資家から評価を得ることができる
・企業のブランドイメージの向上
・レピュテーション・リスクの軽減
・ビジネスチャンス開拓の機会

それぞれ詳しく解説していきます。

ESG投資家から評価を得ることができる

先述の通り、ESG投資額は年々増加の一途を辿っています。そのため、企業がESG経営を行うことにより、投資家たちからの評価を得やすくなるというメリットがあります。

投資家たちからの注目や評価を得ることは、新たな資金調達をしやすくなります。

企業のブランドイメージの向上

ESG経営とは、先述の通り環境・社会・ガバナンスにおける社会的な課題に取り組む経営を指します。

社会問題に取り組む姿勢は、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がり、企業のブランドイメージを向上させます。

企業のブランドイメージの向上によって、投資家からの評価が得られる(=資金調達がしやすくなる)だけではなく、消費者による商品・サービス利用の増加や、対外的なブランドイメージ向上による優秀な人材の獲得も可能になります。

これらの効果により、最終的には企業の業績向上にも繋がっていくでしょう。

レピュテーション・リスクの軽減

レピュテーションリスクとは、企業に関する悪い評価が広まった結果、企業の信用やブランド価値が低下してしまうリスクのことです。

SNSの普及により、社会的な認知がより売上やブランドに影響を与えるようになってきた今、このレピュテーション・リスク管理はとても重要だと言われています。

ESGは、企業のレピュテーションを大きく左右する要素の一つです。ESGのうち、特にガバナンス強化はリスク管理体制の整備とリスク発生の軽減に繋がります。

ビジネスチャンス開拓の機会

ESG経営を行うためには、自社の事業が環境問題や社会問題に対してどのような貢献ができるかを考えます。

従来の売上拡大や利益の追求といった観点ではなく、社会課題解決という観点で行う商品・サービスの開発は、新規事業の開発に繋がる可能性があります。

また、社会課題の解決に貢献できるような商品・サービスは、消費者からの共感を得やすいため、事業の拡大も期待できるでしょう。

ESG経営に取り組むための従来とは異なる視点が、新たなビジネスチャンスを掴むきっかけになるかもしれません。

企業がESG経営に取り組む際の問題点・注意点

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

企業がESG経営に取り組むメリットが複数ある一方で、問題点や注意点もあります。

ESG経営における注意点は、以下の3つです。

・短期間では成果が出にくい
・コストがかかる可能性がある
・統一された明確な評価基準がない

それぞれ詳しく解説していきます。

短期間では成果が出にくい

ESG経営で取り組む課題は、環境問題や社会問題など、一朝一夕には解決できないテーマばかりです。そのため、短期的に分かりやすい成果を出すことは難しいでしょう。

目標の規模が大きいため、中長期的な取り組みである事をしっかりと理解した上で腰を据えて取り組んでいく必要があります。

コストがかかる可能性がある

環境に配慮した設備の導入など、ESGに配慮した経営を行うためにはある程度の資金力が必要です。そのため、現在ESG経営に取り組んでいるのは大企業が中心となっているようです。

ESG経営を行っていくためには新たなコストがかかる可能性もあるということを認識した上で、中長期的に取り組める方法を考えましょう。

統一された明確な評価基準がない

ESGは歴史が浅く、現時点では統一された明確な評価基準がありません。

複数の調査会社が算出した評価指標はありますが、ESG指標自体が乱立しており、具体的な目標数値を定めにくい状況です。

この状況を理解した上で、自社の事業に合った取り組みを模索していく必要があります。

ESG経営に取り組む最新の企業事例4選

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

実際にESG経営に取り組んでいる企業は、どのような取り組みを行なっているのでしょうか?ここでは、ESG経営に取り組む先進企業の取り組み事例を、4社ご紹介します。

SOMPOホールディングス

SOMPOホールディングスは、気候変動による自然災害の増加は、保険金支払いの増加などで事業活動全般に大きな影響を受けると考えています。

そのため、環境負荷の削減に取り組むとともに、環境リスクを含むグループ内のあらゆるリスクを把握・評価し、取締役会で確認する体制を整えているそうです。

具体的な取り組みとしては、まず環境問題への配慮として、「損保ジャパンの森林」というものがあります。全国8カ所の各自治体と協定を結び、地域の人々、社員、代理店とともに、森林整備活動や環境教育を実施しているそうです。

また、社員食堂などでは、コーヒーのカップをプラスチック製から紙製へ、プラスチックストローは必要な人のみへの提供に変更するなど、社内における環境へ配慮した取り組みも行われています。

ダイバーシティや働きやすさといった面でも、同社は女性管理職比率は20.6パーセント、総労働時間は1817.0時間、男性育児休業取得率は52.8パーセントと高い水準を誇ります。

社会課題に対する活動もグローバルに行っており、インドの現地法人では、銀行が提供するマイクロファイナンスの活用を促進する農村・貧困層向けの小規模保険サービスを2008年から提供しています。

オムロン株式会社

オムロン株式会社は、ESG活動全体の責任者は取締役会議長の同社会長が務めています。これにより、事業活動と一体となった取り組みを推進しています。

同社は環境問題に対する取り組みの先進企業として知られており、具体的には、「オムロンカーボンゼロ」という、2050年度にスコープ1およびスコープ2の温室効果ガス排出ゼロを目指しています。

ガバナンス面のレベルも高く、グループ全体に適用される統合リスクマネジメントルールを制定されています。

本社を含むグローバルのメンバーによる企業倫理・リスクマネジメント委員会を年に4回開催しており、社内の課題を議論しているそうです。

国内外のグループ会社では、リスクマネジメントを推進するリスクマネジャーを選任しています。他にも、退職者からも内部通報を受けるなど、同社ならではの制度も多くあるそうです。

社会的課題に対する取り組みとしては、新興国で高血圧人口が拡大していることを受けて、インドや中国で血圧測定習慣の普及活動を展開しています。

アサヒグループホールディングス株式会社

アサヒグループホールディングスは、環境省が主催する「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」の環境サステナブル企業部門において金賞を受賞している企業のひとつです。

同社は2050年までにCO2排出量ゼロを目指す「アサヒカーボンゼロ」を2018年に設定しています。

その達成に向け、2030年の目標値を2回にわたって上方修正するとともに、バリューチェーンのあらゆる段階でステークホルダーと協働しながら、さまざまな取り組みを推進しています。

具体的には、再生可能エネルギーの導入・活用が挙げられます。同社は、2025年までに日本国内全生産拠点での購入電力の再生可能エネルギー化を目指すとともに、海外を含めた生産拠点全70工場のうち約9割となる62工場で再生可能エネルギー化を進める予定だといいます(2022年3月時点)。

先述の「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」では、サステナビリティ課題の財務影響に加え、リージョン別にブレークダウンした開示に取り組むことで、グループ全体の取り組みを分かりやすく説明するべく努めている点と、事業活動のサステナビリティを担保するために事業ごとに重要原料を定め、ステークホルダーを巻き込んで気候変動、水資源、生物多様性の3つの視点に基づいた環境リスク評価を行っている点が評価されています。

(参照:アサヒグループホールディングス株式会社 – サスティナビリティ

味の素グループ

味の素グループは、2030年までに「10億人の健康寿命の延伸」と「環境負荷の50パーセント削減」の実現を目指しています。

まずは、「10億人の健康寿命の延伸」について。日本食は世界的に健康食として知られていますが、「塩分が多い」という課題があります。

これを受けて、同社は2020年7月より「うま味やだしをきかせた“おいしい減塩”」の実践を幅広い年代へ訴求する「Smart Salt®(スマ塩®)」プロジェクトを開始。

シニア世代に加え、減塩意識が高まる妊産婦や、減塩を自分ごと化しづらい若い世代を対象に、オウンドメディア上で動画やレシピ等の情報を提供し、うま味調味料や風味調味料を活用したおいしい減塩を提案しているほか、行政や大学、他社等と連携した新たな減塩の取り組みを行っています。

「環境負荷の50パーセント削減」の実現に向けた具体的な取り組みは、まずスコープ1・2の目標を達成するための施策として、省エネルギー活動やGHG発生の少ない燃料への転換、バイオマスや太陽光等の再生可能エネルギー利用、エネルギー使用量を削減するプロセスの導入を進めています。

また、スコープ3については、製品ライフサイクル全体のGHG総排出量の約60%を原材料が占めていることから、原料サプライヤーへのGHG削減の働きかけや、アンモニアのオンサイト生産等の新技術導入に向けた検討を進めています。

これらの取り組みが評価され、味の素も環境省が主催する「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」の環境サステナブル企業部門において金賞を受賞しています。

強力なリーダーシップの下、サステナビリティの観点で企業価値向上を追求していく独自のガバナンス体制が敷かれており、各環境課題に対するリスク・機会が整理されているだけでなく、サプライチェーンの各プロセスが抱える問題を整理した上で課題解決に取り組んでいる点が高く評価されています。

また、環境負荷低減に向けスコープ別にアクションプランを明確にし、プラスチック使用量削減などに取り組んでいる点も評価されています。

(参照:味の素グループ – ESG・サスティナビリティ

【まとめ】ESGは企業の持続的成長に必要不可欠

ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!

ESGの意味や、ESG投資やESG経営が注目される背景、ESG経営に取り組む際のメリットと注意点や先進企業の事例をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

ESGの考え方は、今後ますます世界的に広がっていくと考えられます。企業が持続的に成長していくためにも、ESGに対する企業の取り組みは必須と言えるでしょう。

ぜひ企業事例なども参考にしながら、自社の事業規模や事業内容に適したものを検討してみてはいかがでしょうか。

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。