総研レポート・分析

CRE入門 -CRE(企業不動産)戦略成功のポイント-

はじめに

CRE(企業不動産)とは?

CREはCorporate Real Estateの頭文字をとった造語で、そのまま日本語で表すと、「企業不動産」という意味となります。

企業が現に保有または賃貸・賃借しているあらゆる不動産、具体的には、営業活動の中心となる「オフィス」、生産活動を行っていれば「工場」、商品開発を行っていれば「研究所」、その他「社宅」や、「物流センター」など、企業が事業活動を行うために必要な資産を「企業不動産」と呼びます。

CREは国土交通省が「CRE戦略を実践するためのガイドライン」を発表した2008年以降に認知されるようになりました。

CRE戦略とは?

国土交通省の定義によると『企業不動産について、「企業価値向上」の観点から経営戦略的視点に立って見直しをおこない、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方』をCRE戦略と呼び、国土交通省作成の実務的な指針をまとめた「CRE戦略を実践するためのガイドライン」において、CRE戦略の特徴として以下4点を挙げています。

1.不動産を単なる財産ではなく企業価値を最大限向上させるための(経営)資源として捉え、企業価値にとって最適な選択を行おうということ

2.不動産に係わる経営形態そのものについても見直しを行い、必要な場合には組織や会社自体の再編も行うこと

3.ITを最大限活用していこうということ

4.従来の管財的視点と異なり全社的視点に立った「ガバナンス」、「マネジメント」を重視すること

参考 国土交通省「CRE戦略実践のためのガイドライン

企業を取り巻く環境が急速に変化する昨今、必要に迫られたタイミングで不動産を売買・賃貸するのではなく、企業不動産の最適な保有・利用方針を経営戦略・財務戦略と合わせて日頃から検討し、然るべきタイミングで戦略性を持って実行すること求められています。

なぜ今CRE戦略が注目されているのか?

近年、投資家の効率を重視する傾向を踏まえ、財務指標がより重要視される傾向が高まっており、企業経営においても財務指標の重要性が年々高まっています。

JPXプライム150指数やJPX日経インデックス400などの選定基準において、投資家が投下した資本に対し企業がどれだけの利益を上げているかを表すROE(自己資本利益率:Return On Equity)や、市場が評価した値段(時価総額)が純資産(株主資本)の何倍であるかを表すPBR(株価純資産倍率:Price Book-value Ratio)が取り入れられています。

また、2023年3月には東証が「プライム市場」「スタンダード市場」に上場する企業に対し「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」を発表し、自社の資本コストや資本収益性を把握し、改善に向けた計画を策定・開示するように要請を行いました。その背景としては現状、「プライム市場」「スタンダード市場」の過半を占める上場企業がROE8%未満、PBR1倍割れの状態であり、資本収益性を意識した経営への意識改革を求めています。

事実、当社のシンクタンク部門による調査によると、上場企業の発行する中期経営計画における各種財務指標の出現率は年々高まっており、財務指標=経営指標として企業経営において無視できないほどに存在感を増してきています。

(参考)ククレブ総合研究所「【定点観測レポート】経営指標(ROA・ROE・ROIC)動向~今話題のPBRとの牽連性にも着目~

財務指標の改善にあたり、バランスシート上の固定資産(=不動産)の最適化を図るCRE戦略は企業経営において重要なポジションを占める経営課題となっていると言えます。

(参考)ククレブ総合研究所「2022年度 上場企業の不動産売却・取得動向と 財務指標(ROE・ROA・ROIC・自己資本比率)に関する考察

CRE戦略導入のメリット

運営コスト削減

保有・賃借不動産の賃料や維持管理費、共益費、オフィス内の備品等のコストを不動産テック等を活用し、不動産の運用状況を単体ではなく包括的に把握し、企業内部の現状と照らし合わせて拠点の統廃合の検討も含めた最適化に向けたファシリティマネジメントの実行がが肝要です。

また、不動産に関するコストだけではなく、拠点の統廃合による物流コスト、社員の交通費、場所による人件費の差額などにも着目し、総合的な見直しを図ることで大幅なコスト削減に繋がり、これらの現状把握がCRE戦略を実行する上での第一歩です。

(参考)ククレブ総合研究所「【総務部必見】ファシリティマネジメントを学ぶおすすめの本•書籍10選!会社で導入する際のポイントがよく分かる

ESGの取組みによるブランド力向上

昨今、投資家の大きなトレンドになりつつあるESG投資。金融庁の「インパクト投資等に関する検討会報告書_2023年6月30日」によると2020年の世界のESG投資の残高は約3,700兆円(35兆米ドル)、日本の残高は約310兆円と、投資全体に占める割合でみても世界では36%、日本では24%と年々拡大しています。世界的な潮流となっているESGを無視した経営をすることは今後の資金調達を困難とすることが予想され、ESGを意識した企業経営の取組みと、その取組み状況の積極的な情報公開が求められることになります。

CRE戦略とESG投資は密接な関係性をもっていると言えます。

「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」や再生可能エネルギーの調達、省エネ対策のための設備投資等、中長期的な視点で見るとコストメリットが見込まれます。その投資の結果、従業員の就労環境の改善や遊休地の利活用による地域の居住環境の改善、地域の雇用創出といった社会貢献へと繋がり、将来的な環境変化のリスクや法改正・規制等の経営リスクの軽減にもなるでしょう。

ESGを配慮した経営を行うことにより、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がり、企業のブランドイメージを向上させます。

(参考)ククレブ総合研究所「ESGとは?意味やSDGs、CSRとの違い、メリット、企業事例を分かりやすく解説!」

遊休不動産の活用と再生

これまで注目されなかった遊休不動産において、売却や賃貸として活用・再生することでキャッシュフローの改善を行い企業体質を強化することが可能です。

活用方法として、遊休不動産を賃貸不動産として蘇らせることで新たな収益源を創出し、本業の収益が減った際に経営不振に陥らないようリスクを分散化し、いざという時は売却可能資産として企業存続のために活用することが可能です。

(有効活用事例)【ククレブ・アドバイザーズ】東証プライム上場大手陸運企業の土地有効活用に対するソリューション

また、目先の本業への資金投下、財務体質改善を目的として遊休不動産を売却することで資本効率を向上させることも可能です。

尚、これらの実行にあたっては一朝一夕にできるものではなく、経営戦略の1つとして実効性の高いCRE戦略を日頃から検討しておくことが必要です。

(参考)ククレブ総合研究所「CRE戦略とは?PBR1倍割れ企業が続出する現状におけるCRE戦略の重要性を専門家が簡単に解説!

まとめ

CRE戦略の取り組みを成功させるためのステップ

以上の通り、CRE戦略の実行に至るまでには解決したい経営課題を明確にした上で、戦略的にCRE施策を実行することが求められます。CRE戦略というと不動産の取得・売却をイメージされる方が多いかと思われますが、一口に不動産の取得・売却と言っても経営戦略、不動産の運用状況に応じて取り得る取引手法が多様に存在し、オフバランス開発やセールアンドリースバック、短期リースバック、ノンコア資産の売却、遊休資産の有効活用など、様々な手法が存在し、手法ごとのメリット/デメリット、注意点等、特性を十分に理解した上で取り組むことが求められます。

自社の不動産を活用して経営課題への取り組みを検討される場合、効果的な施策の創出にあたってはPDCAサイクルを効率的に回すことで、実効性の高い最適解を導くことが可能となります。

昨今、企業経営において不動産は保有するものから利用するもの、という不動産に対する概念が変化しています。不動産を保有したら終わり。ではなく大切な経営資源として日頃から企業の内部要因、不動産・金融マーケットの外部要因をリンクさせてCRE戦略の見直しを繰り返し、日々変化する経済環境・社会環境の変化をとらえ柔軟かつスピード感をもった対応をすることが企業の成長に繋がります。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。