ファイブフォース(5フォース)分析とは?方法や有効な活用事例をわかりやすく解説
ファイブフォース(5フォース)分析とは、業界の収益性を決める5つの競争要因から、業界の構造分析を行うフレームワークです。
2025年に注目される経営ワードに「新規事業の育成」がランクインしました(ククレブ総合研究所調べ)。今年は新規事業の創出や育成に注力する企業が増加することが見込まれます。
本記事では、業界への新規参入や経営資源投入の優先順位を決める際に有効なファイブフォース(5フォース)分析の概要や、分析手順、ポイントや注意点、有効な活用事例をわかりやすく解説します。
ファイブフォース(5フォース)分析とは
ファイブフォース(5フォース)分析とは、業界の収益性を決める5つの競争要因から、業界の構造分析を行うフレームワークです。業界を5つの競争要因(five force)でモデル化し、その5つの要因について分析することでその業界の収益性や魅力度を明らかにします。
ハーバード・ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授によって開発されたもので、『競争の戦略』(日本語訳版は1995年3月初版)で広く学会やビジネス会に広まりました。
経営資源投入の優先順位を決める際や、業界への新規参入の是非を判断する際に有効で、企業に直接的に関係するミクロ環境を分析するフレームワークといえます。
5つの競争要因
ファイブフォース分析では、業界の構造分析を行うために、業界の収益性を決める競争要因を次の5つで捉えます。
①新規参入の脅威
②同業他社との競合
③代替品の脅威
④売り手の交渉力
⑤買い手の交渉力
それぞれ、以下で詳しく見ていきましょう。
①新規参入の脅威
新規参入の脅威の大きさは、その業界への参入障壁の高さを示します。参入障壁が低い場合は、業界内のプレイヤーが多くなり、競争が激化し、企業の収益性が低下する可能性が高くなります。
参入障壁には、ブランド力や規模の経済性の有無、技術力、スイッチングコストの高さ、免許や許認可といった法規制などが挙げられます。
②同業他社との競合
競合との敵対関係が強いほど、自社の収益性が低下する可能性は高くなります。敵対関係の強さは、業界内の規制の有無や、競合相手の数などの要因により決定します。
同業他社との競合については、コトラーの4つの競争地位のフレームワークを活用して戦略の方向性を分析すると良いでしょう。
③代替品の脅威
代替品の脅威とは、既存の商品・サービスが価格性能比に優れた代替品により市場が奪われる可能性を指します。
例えば、パソコンに対するスマートフォンなどのスマートデバイス、飲食店に対するスーパーの惣菜、コンビニ弁当などが代替品の脅威となります。
代替品の脅威に対しては、代替品を避けることのできない脅威として考え、「代替品との相違点を活かす」、または「代替品に真っ向から対抗していく」の2つの戦略が考えられます。
④売り手の交渉力
売り手とは、商品やサービスを提供するサプライヤーを指します。売り手の交渉力が強くなると、仕入れコストが高くなる要因となり、企業の収益性が低下する可能性が高くなります。
売り手の交渉力の大きさは、自社の課題や重要性、スイッチングコスト、供給品の差別化の程度といった要因により決まります。
⑤買い手の交渉力
買い手の交渉力とは、顧客との力関係のことです。自社商品の価格や品質などを左右するため、自社の収益性に大きく影響します。
買い手の交渉力は、買い手の寡占度、スイッチングコスト、ブランド力、情報力といった要因により決定します。
ファイブフォース(5フォース)分析の手順
ここからは、ファイブフォース(5フォース)分析の手順について解説します。
主なステップは以下の通りです。
①5つの要因を分析する
②分析結果を評価する
③事業戦略に落とし込む
④定期的な見直しと更新
それぞれ以下で詳しく解説していきます。
①5つの要因を分析する
一つ前の見出しで解説した5つの要因、「①新規参入の脅威」「②同業他社との競合」「③代替品の脅威」「④売り手の交渉力」「⑤買い手の交渉力」について情報を集め、分析します。
分析に利用するデータや情報は、客観的な信用できるデータを用いることが重要です。経済産業省など国が公表している調査報告書や統計データ、特許庁が公開している特許情報などを参照しましょう。
②分析結果を評価する
次に、分析結果の評価を行います。ファイブフォース(5フォース)分析では、業界内の要因を横軸、業界外の要因を縦軸として、その図に表して評価します。
これにより、業界内でどれだけ利益を上げやすいかが確認できます。また、業界の中で自社はどれくらい利益を確保できるのかも確認することができます。
なお、ファイブフォース分析後は、PEST分析やSWOT分析を併用し、「自社の強み」「弱点」「機会」「脅威」を見つけることも非常に有効です。より効果的な戦略の検討・策定に繋がります。
③事業戦略に落とし込む
分析結果と評価結果をもとに、自社の事業戦略の策定をします。アクションプランを作成し、実行可能な形で事業部に落とし込んでいきましょう。
④定期的な見直しと更新
市場環境はたえず変化しています。「事業戦略を立案し、実行に移したから終わり」ではなく、新たな機械や脅威が生じていないか定期的に見直しと更新をすることが大切です。
外部環境分析での活用事例
ここからは、活用事例をご紹介していきます。まずは、外部環境分析での活用事例です。
自社を「自社工場と都内に数店の店舗を持つクリーニング店」と仮定し、経営戦略を立てるために外部環境分析としてファイブフォースのフレームワークを活用方法します。
以下が、ファイブフォースのフレームワークを活用してクリーニング店を取り巻く影響要因となる外部環境を明確化したものになります(あくまで一例です)。
①新規参入の脅威
物流業者(倉庫での衣類保管、宅配と組み合わせてクリーニング業へ参入することを想定)
→工場の先行設備投資が必要であり、参入障壁はそれほど低くない。脅威ではなく、パートナーとなりうる可能性もあり
②同業他社との競合
安価を武器とする競合店、集客力のあるスーパー内の競合店、顧客のライフスタイルの多様化に対応する24時間受付の競合店など、同業他社との競争圧力は強い
→同業他社と差別化するのか、同業他社に対抗していくのか、内部環境分析と組み合わせて競合点との対応戦略を検討する
③代替品の脅威
・全自動洗濯機の性能向上などによる家庭内洗濯技術の向上
・24時間気軽に洗濯ができるコインランドリーの存在
・形状記憶シャツやノンアイロンシャツなど高性能製品の存在
・衣料品の低価格化によるクリーニングニーズの減少
→取扱商品により脅威の強弱がみられる。Yシャツ、ニットなどは代替品の脅威が強く、スーツやコート、革製品、布団などは代替品の脅威が弱い。ニーズの多いYシャツなどは低価格化で代替品に対抗していく。また、シミ抜きやボタン付けなど、代替品にないサービスで対応していくなどの戦略を検討する
④売り手の交渉力
原材料となる原油価格上昇により、クリーニングで必需となる溶剤が高騰し、売り手の交渉力は強い。
→代替品となる溶剤はないか、現在より安く仕入れられる仕入れ先はないかなどを検討する
⑤買い手の交渉力
個人・家庭ニーズともに販売チャネルは多く存在しており、買い手の交渉力は強い。
→同業他社とどのように差別化を図り、買い手に自社を選んでもらうか、内部環境分析と組み合わせて戦略を検討する
業界への新規参入検討時の活用事例
次に、業界への新規参入検討時の活用事例を見ていきましょう。
先ほどのクリーニング企業はすでにその業界に入っている視点で分析しましたが、今回は物流業者がクリーニング業に新規参入しようとした場合を事例に考えてみます。
ファイブフォースの項目を、新規参入時の視点で脅威や圧力、競争の度合いで強弱をつけて整理していきます。
①新規参入の脅威
中(工場の設備投資と、資格取得が必要)
②同業他社との競合
強い(すでに飽和状態)
③代替品の脅威
中(商品による)
④売り手の交渉力
中(原油価格高騰のシアは直撃)
⑤買い手の交渉力
強い(販売チャネルが多い)
以上の分析結果から、物流業者のクリーニング業への新規参入は、メリットが少ないと言えるでしょう。もちろん、自社の体力や市場全体の成長率に左右される場合もありますので、実際の分析の際にはこれらも判断材料として揃える必要があります。
ファイブフォース(5フォース)分析のポイントや注意点
最後に、ファイブフォース(5フォース)分析を行う際のポイントと注意点を解説します。
まず、外部環境分析は主観的になりやすいため、客観的なデータを用いたり、複数人で分析したりすることが大切です。そのため、ファイブフォースのフレームワークを活用して、チームメンバーとブレーンストーミングで思いつく要因を出し合うところからスタートするのがおすすめです。1人では考えもつかない影響度の大きい要因の気づきに繋がります。
また、新規参入の脅威について分析する際は、「参入障壁の低い業界への海外企業の参入」「規模が大きくなった市場への大手企業の参入」「規制の緩和された業界への異業種企業の参入」といったケースは特に注意が必要です。
そして、代替品の脅威は常に出てくるものと考えましょう。柔軟な発想や想像力で、消費者の求めているニーズがどこにあるのかを見出していくことが重要です。
最後に、売り手や買い手の脅威においては需要と供給のバランスに左右される部分が大きくなります。希少性の有無も意識すると良いでしょう。
ファイブフォース分析を新規事業の創出や育成に活かす
今回は、ファイブフォース(5フォース)分析の概要や活用事例、分析のポイントについて解説しました。
ファイブフォース分析の有効な点は、業界における企業のライバルが、単に同業他社だけではないことに気づかせてくれる点にあります。企業を取り巻く外部環境を5つの影響要因に分けて捉えることで、近視眼的な外部環境分析となってしまうことを防ぐことができます。
冒頭でも述べましたが、2025年に注目される経営ワードに「新規事業の育成」がランクインしました(ククレブ総合研究所調べ)。今年は新規事業の創出や育成に注力する企業が増加することが見込まれます。
本記事が、御社の新規参入や事業創出のヒントになりましたら幸いです。
参考記事:『2025年経営ホットワードを占う!~2024年の新登場ワードから2025年を予想~』
関連記事:『PPM分析とは?やり方やメリット、企業のPPM分析事例などをわかりやすく解説』
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監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。