CSV経営とは?CSRとの違いや実践方法、メリット、企業事例を詳しく解説
CSV経営とは、企業の事業を通じて社会的な課題を解決することから生まれる「社会価値」と「企業価値」を両立させる経営手法のことです。
近年、SDGsやESG投資の拡大といった背景から、このCSV経営が注目を集めています。
今回は、CSV経営の定義やCSRとの違い、メリットや実践方法、企業事例を詳しく解説します。
CSV(Creating Shared Value)経営とは
まず「CSV(Creating Shared Value)」とは、企業の競争戦略を専門とする米国の経営学者マイケル・ポーター氏が提唱した考え方です。
日本語では「共有価値の創造」、「共通価値の創造」などと訳されます。
CSVの提唱者であるマイケル・ポーター氏は、2006年にマーク・クラマー氏と共著の論文『Strategy and Society』において、従来の「CSR」から「CSV」への転換について述べています。
また、その後2011年に発表したマーク・クラマー氏と共著の論文『Creating Shared Value』ではCSVのコンセプトについて述べ、注目が集まりました。
CSV経営の定義
CSV経営とは、企業の事業を通じて社会的な課題を解決することから生まれる「社会価値」と「企業価値」を両立させる経営フレームワークのことです。
CSVを提唱したマイケル・ポーター氏は、「企業が事業を営む地域社会や経済環境を改善しながら、自らの競争力を高める方針とその実行」と定義しています。
CSRとの違い
「CSV経営」を理解する上で、よく混同される「CSR」との違いを理解することは大変重要です。
「CSR」はCorporate Social Responsibilityの略で、日本語だと「企業としての責任」などと訳されます。
「社会的責任を果たす」という意味においてはCSRもCSVも共通していますが、明確な違いがあります。
CSRとCSVの最大の違いは、CSRは事業活動と社会課題の解決を分けて考えるのに対し、CSVは社会課題の解決が経済的な利益にも繋がると定義している点です。
CSV経営の提唱者であるマイケル・ポーター氏は、コストを踏まえた上で社会と経済双方の発展を実現しなければならないという前提の下、「社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的価値が創造されるべき」というアプローチを提唱しています。
例えば、事業で出た利益の一部を、植林ボランティア活動など自社事業とは関連性の低い分野の社会課題解決に充てるのはCSR活動と言えるでしょう。
それに対し、飲料メーカーがペットボトルを再利用できる手法を用いて、環境に配慮した取り組みを推進することはCSV活動だと言えます。
CSV経営の先進企業事例については、本記事の後半でも詳しくご紹介します。
CSV経営が注目される背景と理由
CSV経営は、近年注目を集めています。その背景と理由は次の3つです。
・社会課題の深刻化
・消費者の意識の高まり
・投資家の意識の高まり
それぞれ詳しく解説します。
社会課題の深刻化
現在、地球温暖化や海洋汚染といった環境問題や、人権問題、少子高齢化、食糧危機など、あらゆる社会課題が世界規模で深刻化しています。
社会課題の中には、強制労働、差別的な慣行、廃棄物管理、破壊的な漁業慣行、劣化した森林、動植物種の密猟および違法取引など、企業の経済活動が影響してきたものも少なくありません。
そのため、これまで企業は金銭寄付、製品・サービスの無償提供、ネットワークの無償提供、従業員ボランティア活動支援、企業財団活動支援といった「社会貢献活動(CSR活動)」を行ってきました。
しかし、事後的なリカバリー策では、企業の経済活動が負の影響をもたらしてしまっている社会課題の解決には至りません。
このような背景から、企業の経済活動自体が、地域社会や経済環境、社会課題を改善するものである「CSV経営」への関心が高まっていったのです。
消費者の意識の高まり
このような世界情勢を受けて、消費者の意識も高まりを見せています。
ボストンコンサルティンググループの2023年に実施した調査によると、「環境に負荷をかけない商品を買いたい」と回答した消費者は全体の約7割を占めていました。
また、「環境に負荷をかけない商品を買いたい」、「環境負荷の少ない商品を選んでいる」と回答した割合を年代別で見ると、10代がそれぞれ74%、37%と最も高い結果に。
10代の情報収集手段については「学校での接触」が31%と、昨今の環境教育の充実化が10代を中心とするZ世代の高い環境意識醸成に影響を与えているようです。
この世代が成長することで、ますます高い環境意識を持つ消費者は増えていくと考えられます。
参考:「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果」ボストンコンサルティンググループ(2023年9月)
投資家の意識の高まり
投資家の意識の高まりも、CSV経営が注目される理由の一つです。
SDGs*1の浸透やESG投資*2の拡大など、現在、「企業が適切に社会的責任を果たしているかどうか」は重要な投資判断基準の一つとなっています。
ステークホルダーからの理解なしに、企業が存続することはできません。
「事業が社会的責任を果たすものであるかどうか」という点が、企業の利益拡大や資金調達に大きく影響するようになったことにより、CSV経営がより注目されることとなりました。
*1 SDGs:2015年9月に国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指し、地球上の誰一人取り残さないことを誓っており、具体的には17のゴール(持続可能な開発目標)と、それぞれの目標を達成するための具体的な指標である169のターゲットが設定されている。
*2 ESG投資:環境(Environment)、社会(Social)に配慮した事業を行い、適切なガバナンスがなされている企業への投資。投資家たちの間では、中長期的な視点で企業価値を評価する際に、ESG要素を含む事業活動の持続可能性を考慮することが重要であるという認識が広まっている。
CSV経営が企業にもたらすメリット
CSV経営は、企業に多くのメリットをもたらします。具体的には次の3つです。
・SDGsの推進
・競合他社との差別化
・ダイベストメントの回避
それぞれ詳しく説明します。
SDGsの推進
SDGsとは、2015年9月に国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。
2030年までに持続可能でよりよい世界を目指し、地球上の誰一人取り残さないことを誓っており、具体的には17のゴール(持続可能な開発目標)と、それぞれの目標を達成するための具体的な指標である169のターゲットが設定されています。
このSDGsは、今や世界中の関心事であり、企業がSDGsに貢献しているかどうかは、企業の評価に大きな影響を及ぼします。
CSV経営も社会的課題の解決を目指す経営ですので、CSV経営を実践すればSDGsの達成にも寄与できることになります。結果として、社会的な信用を得ることができるでしょう。
競合他社との差別化
先述の通り、近年投資家や消費者といったステークホルダーの社会課題に対する意識は高まっています。
そのため、事業活動自体が社会課題に貢献するCSV経営に取り組むことは、自社ブランドの価値向上に繋がり、結果として、競合他社との差別化にも繋がるでしょう。
Z世代は、就職活動においても、社会課題への貢献に関心を高く寄せています。
就活サイト「あさがくナビ」を運営する株式会社学情の調査によると、就職活動において社会課題の解決に貢献できるかを意識する学生は7割を超えているそうです。
今後、少子高齢化の影響で人材の確保がますます難しくなってくる中、事業だけではなく採用活動においても、CSV経営への取り組みが大きく寄与しそうです。
参考:株式会社学情『2025年卒学生の就職意識調査(社会課題の解決) 2023年6月版』
ダイベストメントの回避
ダイベストメントとは、投資している金融資産を引き揚げることです。
先述の通り、投資判断において「ESG」を重視する考え方が広がっています。特に石炭や石油などの化石燃料、武器やたばこなど環境や社会、健康に負荷をかける事業をおこなっている企業への投資撤退や取引中止の動きは、欧米を中心に活発化しています。
社会的な課題の解決に繋がらない、利益追求のみを重視する経営のあり方は、投資家からも支持されないのです。
その点、CSV経営は、企業が持続可能なビジネスモデルを構築しながら、利益の最大化も目指す経営のあり方です。
ダイベストメントの回避に繋がるという点においても、CSV経営は取り組むメリットがあります。
CSV経営の実践方法・3つの共有価値
CSV経営の提唱者であるマイケル・ポーター氏は、CSV経営には次の3つのアプローチがあるとしています。
・製品と市場を見直す
・バリューチェーンの生産性を再定義する
・企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターをつくる
それぞれ詳しく解説します。
製品と市場を見直す
CSV経営では、自社の製品やサービス、事業を通して社会課題の解決に貢献することが求められます。
そのため、CSV経営を実践するためには、まず自社の既存事業や製品・サービスが、社会問題とどのように関係しているのか、また、どのように社会課題の解決に貢献していけるのかを理解することが重要です。
これは、既存の自社事業とは関係のない「環境に配慮した製品やサービスを新しく開発する」という意味ではありません。
まずは自社製品・サービスを見直しましょう。
製品の見直しをする過程で、競合他社が気づいていない社会的課題も見つかるかもしれません。結果として自社の強みを活かした新たな製品・サービスの開発や、市場の開拓に繋がるかもしれません。
バリューチェーンの生産性を再定義する
「バリューチェーン」とは、企業における各事業活動を価値創造のための一連の流れとして捉える考え方です。直訳すると「価値連鎖」となります。バリューチェーンも、マイケル・ポーター氏が提唱した概念です。
同じく製品やサービスが顧客に届くまでの企業の事業活動を指す言葉として「サプライチェーン」というものがあります。
どちらも同じ事業活動の範囲を指す言葉なのでややこしいのですが、焦点を当てるポイントが違います。
まず、サプライチェーンは、チェーンにおけるモノやお金の流れに着目します。それに対しバリューチェーンは、チェーンのどこでどのような価値が創造されているかに着目します。
このバリューチェーンの見直しが、「バリューチェーンの生産性を再定義する」に当たります。
自社のバリューチェーンを見直し、企業価値創造の最適化、増大化を図ることによって、自社の競争力を高めるとともに、社会的課題解決にも貢献し、共有価値をもたらすことができるというのがポーター氏の主張です。
企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターをつくる
3つめのアプローチは、「企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターをつくる」です。
これは、自社の企業価値を高めるために、生産性やイノベーションに影響を与えるクラスターを形成することで、社会的な課題の解決を図ろうとするアプローチです。
労働者が搾取されたり、サプライヤーに適正価格が支払われなかったりすると、生産性が悪化するため、クラスターの形成には公平かつオープンな市場が必要であるとポーター氏は述べています。
CSV経営の先進企業事例
ここからは、CSV経営に取り組む先進企業の事例を、日本企業と海外企業それぞれご紹介します。
・キリン株式会社
・ネスレ
キリン株式会社
キリン株式会社のCSV経営は、日本国内において最も有名な企業の一つです。
キリングループは、2013年にキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの国内飲料事業を統括するキリン株式会社を立ち上げ、その中に「CSV本部」を設置しました。
キリン株式会社では、これまでの事業の在り方を転換させるべく、「社会課題に対して、商品やサービス等を通じてアプローチしていくことが、結果として事業にもプラスの影響をもたらす」と定義し、以来CSV経営に積極的に取り組んでいます。
具体的には、飲酒運転による交通事故の多発という社会問題に対して、世界初のノンアルコールビール「キリンフリー」を開発しました。
また、物流における環境負担の軽減を図るために、集荷する商品をできるだけ集約するなどして、CO2排出削減とコスト削減の両立を可能にしたという実績もあります。
ネスレ
海外においては、ネスレの取り組みが有名です。ネスレは、2007年から2年ごとに世界規模で「共通価値の創造報告書」を発行するなど、CSV経営を積極的に実践している企業の一つです。
具体的には、プレミアムコーヒー用の豆の仕入先である、アフリカや中南米の貧困地域の零細農家に対する密な支援が挙げられます。
農法に関するアドバイスを提供したり、銀行融資に対する保証をしたりすることにより、高品質なコーヒー豆を安定して仕入れることを実現しています。
さらに、高品質な豆には価格を上乗せして、農家に直接支払うことで、栽培農家のモチベーションを高め、生産性の向上と農家の所得の増加をもたらしています。
社会価値と企業価値の両立を実現するCSV経営
今回は、CSV経営の定義やCSRとの違い、メリットや実践方法、企業事例などについて詳しく解説しました。
CSV経営の推進は、企業にとって大きなメリットをもたらします。SDGsやESG投資の広がりといった世界的な潮流を踏まえても、社会課題の解決を通じて経済的な利益も生み出すというCSV経営のあり方は、今後企業が存続する上で必須の取り組みと言えるのではないでしょうか。
本記事が、御社のCSV経営のあり方について考える際の参考になりましたら幸いです。
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監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。