【2024年版】上場企業の企業不動産(CRE)保有傾向に関する考察
ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、ククレブグループが提供する固定資産情報取得ツール「CCReB PROP」を用いて、2016年~2024年の9年間における上場企業の固定資産の推移を調査した。
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上場企業における生産拠点の国内回帰
国内上場企業のうち、2,187社(※1)における2016年~2024年の不動産保有状況(※2)の推移を帳簿価格に着眼して調査した。土地帳簿価格について2021年までは大きな増減傾向は見受けられず年平均約+0.6%の増加率であったが、2022年以降、毎年、年平均約+2.0%で帳簿価格が積み上がっており、上場企業による事業用地の取得に積極的な姿勢がみてとれ、製造業を中心とした生産拠点の国内回帰の動きがこの数年で活性化している状況が伺える結果となっている。
「CCReB PROP」抽出データよりククレブ総合研究所にて作成(以下、同様)
※1.調査対象期間(2016年~2024年)を通して共通して存在する対比分析が可能な上場企業を選定。
※2.有価証券報告書に掲載されている第一部_第3「設備の状況」_2「主要な設備の状況」に掲載されている情報を基としており、企業が保有する全ての固定資産情報を網羅しているものではない。
2024年に特徴的な動きを示した4業種
サービス業
「サービス業」において2021年以前は土地簿価が大きく動くことが無かったが、2022年より土地簿価の積上げが活発化しており、比例して建物簿価もつり上がる傾向にある(2024年増加率土地約+5.8%、建物+6.1%)。2021年以降、不動産簿価の動きが顕著に動いているが、コロナ禍の終焉による国内インバウドの回復にともなうホテルの建設ラッシュが大きく働いている。また、その他の動きとしてククレブ総研では固定資産に関するプレスリリースの動向も集計を行っており、「サービス業」における不動産取得に関するリリースは2023年に過去最高件数を更新している。近年の同業種における特徴的な動きとしては、2020年頃より老人福祉関連施設への不動産投資が活況を呈しており、国内の高齢化率の上昇を背景に今後も継続した動きとなることが予想され注目である。
精密機器
「精密機器」においては毎年堅調な不動産投資の動きが見られ、2024年増加率約+13%と積極的な姿勢がうかがえる。2024年に入ってから株式会社A&Dホロンホールディングスの子会社である株式会社ホロンが半導体の堅調な需要動向を背景とし生産体制強化のため半導体関連の新工場建設を決定し、株式会社シードはコンタクトレンズの生産体制強化のための工場建設を決定するなど、2025年以降も同業種における生産拠点への積極的な投資姿勢は継続するものと予想される。
輸送用機器
コロナ禍による一時的な低迷を見せた「輸送用機器」であるが、2021年以降、回復傾向をみせ、2024年は土地・建物において過去最高の増加率を示した。建物簿価においては増加率約+5.3%となっており、旅行業界の回復、2020年前後の投資抑制の反動、脱炭素やEV化、自動運転技術の開発等の技術革新に伴う新規投資による輸送用機器メーカーの持続的成長を企図した動きをみせている。
パルプ・紙
「パルプ・紙」の特徴的な動きとして、建物簿価が2021年以降、年平均約+4.3%で毎年増加しており土地簿価を2023年より土地簿価を上回る建物投資を行っている。当該動きの背景として、既存建物・設備の老朽化、また市場規模の縮小を見据えた省人化・業務効率化を狙った工場敷地内での建替えやリニューアル工事が積極的に行われていることが背景にみてとれる。
投資抑制の動きを示す3業種
調査を行った32業種※の多くの業種において、土地・建物簿価においては調査開始以降、総じて増加傾向にあるが、「ゴム製品」「空運業」「銀行業」の3業種は土地・建物簿価が横ばい、または減少となり異なる動きを見せている。
ゴム製品
土地・建物簿価ともに毎年微増微減での推移となっているが、ゴム製品メーカーの国内市場規模は減少していくとの市場予想も出ている。同業種における不動産の動きとしては、今後、市場規模の減少を背景に生産施設の老朽化・生産効率化を企図した拠点再編・工場建替えの動きがみられるか注目したい。
空運業
平時の経済活動を取り戻し、航空需要は回復とともに業績も上方基調を辿り、各社新機材の導入やITの活用によるサービス品質向上等の設備投資に意欲的な状況である。一方、不動産投資に目を向けると、本社、各支店、メンテナンスセンター等を保有しているが、空運業の特性上、新たな営業所やメンテナンスセンターの増設を積極的に行うものでもなく、建物のリニューアル等で建物簿価での若干の動きが生じるとは思われるが、今後も、大きな変動はないものと予想される。
銀行業
銀行業は支店の統廃合とともに土地・建物簿価ともに継続的な減少となっているが、2024年は前年対比での減少率が緩やかとなり、統廃合の対応も終盤戦を迎え、積極的な不動産投資が発生することも市場環境を鑑みても予想しづらく、2025年以降は横ばいに推移していくものと予想される。
※3.東証33業種のうち、「電気・ガス業」においては2020年4月の電気事業法改正に伴い電力会社各社が送電事業子会社を吸収合併したことにより、子会社の主要な設備が2021年度有価証券報告書より計上されていることから比較調査対象外とし、32業種における調査を実施している。
以上、本レポートでは有価証券報告書に開示された上場企業の固定資産情報について業種別動向の調査を行った。全体感としては毎年不動産簿価が増加で推移し、上場企業の持続的成長に向けた戦略投資の動きがみてとれる一方で、投資家からは年々、持続的成長への投資結果としての資本収益性の向上結果を示すことを強く求められている。
企業価値と保有する企業不動産(CRE)の連動性を意識した投資活動を、企業がどのように捉え、実行していくのか、今後も注目していきたい。
免責事項
※当レポートに掲載した図表は上場企業の開示する有価証券報告書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計しております。
※当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。
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