総研レポート・分析

2022年における上場企業の不動産(CRE)保有傾向に関する考察

帳簿価格の変動状況にみる上場企業のCRE戦略方針

昨年に続き、ククレブ・アドバイザーズが提供する固定資産情報取得ツール「CCReB PROP(ククレブプロップ)」により取得可能な直近7年分(2016年~2022年)の固定資産情報をもとに企業用不動産の動向を分析した。

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上場企業の事業活動に復調の兆し

上場企業 約3,850社(2022年11月1日時点)のうち、2,142社(※1)における2016年~2022年の不動産保有状況(※2)の推移を帳簿価格に着眼して調査したところ、コロナによる経営への影響が通期で反映された2021年は土地・建物ともに過去5年の中で最低の増加率の状況であり、土地においては直近5年の中で唯一となるマイナスの増加率(=土地の売却・譲渡等)が確認されていたが、2022年(2022年1月~3月決算企業分)に入ると急速に増加率が回復しており、土地においてはコロナ禍に入る前の2019年の水準を上回る結果となっている。

また、業種別(※3)での帳簿価格の増加率状況を調査したところ、2022年度は土地においては約5割、建物においては約3割の業種において2021年対比でマイナスとなっている。2021年(土地:約7割、建物:約4割)と比較すると2022年はコロナによる事業活動への影響が一旦落ち着き、主たる事業以外の安定収益を求めた収益不動産の取得、サプライチェーンの再構築など上場企業のCRE(Corporate Real Estate)戦略の方向転換が窺える。

※1.調査対象期間(2016年~2022年)を通して共通して存在する前年対比分析が可能な上場企業を選定。
※2.「固定資産情報ダウンロード機能」に格納されているデータは、有価証券報告書に掲載されている第一部_第3「設備の状況」_2「主要な設備の状況」に掲載されている情報を基としており、企業が保有する全ての固定資産情報を網羅しているものではない。
※3.東証33業種のうち、「電気・ガス業」においては2020年4月の電気事業法改正に伴い電力会社各社が送電事業子会社を吸収合併したことにより、子会社の主要な設備が2021年度有価証券報告書より計上されていることから比較調査対象外とし、32業種における調査を実施している。

 

停滞していた事業拡大、サプライチェーンの再編に伴う新規不動産の取得

前述の通り2022年は2021年と比べて帳簿価格増加率が回復している中で、2021年対比の帳簿価格増加率が大きい(7.5%以上)業種は「卸売業」、「機械」、「小売業」、「情報・通信業」の4業種が挙げられた。

【卸売業】
「卸売業」においては、土地帳簿価格増加率は前年比マイナスだが建物帳簿価格については前年比7.86%増加していた。
2022年時点の固定資産の内訳をみると工場・物流センター・販売設備の項目での帳簿価格増加(=建物の新規投資)が見受けられ、事業拡張とともにサプライチェーンの再構築に伴う投資活動が行われていたことが推測される。

【機械】
「機械」については、土地・建物帳簿価格増加率がそれぞれ2021年と比べてV字回復しており、それぞれ分析期間の中では過去最高の増加率である。
特に建物帳簿価格増加率については9.76%増加しており、内訳としてはほとんどが研究施設・工場への投資となっている。コロナウィルス・ウクライナ情勢等を原因とするサプライチェーンの混乱を色濃く受けた業界であるため、拠点の再編が急務となっていることが窺い知れる結果となった。

【小売業】
「小売業」については、土地帳簿価格増加率が2021年比14.18%、建物帳簿価格増加率が11.13%とそれぞれ業種別1位の増加率である。
緊急事態宣言等で新規の出店等が控えられていたが、2022年になってコロナの規制緩和の見通しがたってきたところで、事業拡大への動きが加速していると推測される。

 

以上、本レポートでは有価証券報告書に開示された上場企業の固定資産情報について業種別動向の調査を行った。2022年に入り「withコロナ」という新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を前提にした社会活動が日本においても活発化している通り、企業のCRE戦略においても昨年までの守りの姿勢から一転し、攻めの姿勢を見て取ることができた。

一方で今年2月よりロシアのウクライナ侵攻が始まり、円安・物価高と建設費が日に日に高騰する中で今後の企業のCRE投資にどのように影響してくるのか。今回は2022年3月決算企業までが調査対象であったことから、次回の調査における簿価の積み上がり動向に注目をしていきたい。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

 

免責事項
※当レポートに掲載した図表は企業の開示資料において固定資産の売却/譲渡に関するリリース文書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計しております。

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