総研レポート・分析

2023年における上場企業の不動産(CRE)保有傾向に関する考察

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、ククレブグループが提供する固定資産情報取得ツール「CCReB PROP」を用いて、2016年~2023年の8年間における上場企業の固定資産の推移を調査した。

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上場企業の事業投資は平常時に回復

国内上場企業のうち、2,310社(※1)における2016年~2023年の不動産保有状況(※2)の推移を帳簿価格に着眼して調査したところ、コロナにより抑制されていた投資の反動が顕著に確認された2022年よりは増加率は落ち着いたものの、2023年は昨年対比で土地0.62%、建物2.51%と堅調に推移する結果となっている。


「CCReB PROP」抽出データよりククレブ総合研究所にて作成

また、業種別(※3)での帳簿価格の増加率状況を調査したところ、2023年は2022年同様に土地においては約5割、建物においては約3割の業種において前年対比でマイナスとなっており、業種毎に不動産保有による事業方針の傾向が定着化している様子がうかがえる。

※1.調査対象期間(2016年~2023年)を通して共通して存在する前年対比分析が可能な上場企業を選定。
※2.「固定資産情報ダウンロード機能」に格納されているデータは、有価証券報告書に掲載されている第一部_第3「設備の状況」_2「主要な設備の状況」に掲載されている情報を基としており、企業が保有する全ての固定資産情報を網羅しているものではない。
※3.東証33業種のうち、「電気・ガス業」においては2020年4月の電気事業法改正に伴い電力会社各社が送電事業子会社を吸収合併したことにより、子会社の主要な設備が2021年度有価証券報告書より計上されていることから比較調査対象外とし、32業種における調査を実施している。

 

国内不動産への積極的な投資業種と、拠点整理による投資抑制業種の2極化傾向に

【情報・通信業】


「CCReB PROP」抽出データよりククレブ総合研究所にて作成

「情報・通信業」において、土地においては2020年に一時的に落ち込みは見せたものの、2020年を除けば毎年着実に積み上げており、2022年から2023年にかけて急激な増加を見せた。内訳をみると、本社や研究開発施設、データセンターといった事業の基幹施設に対する国内投資が確認され、世界的にも巨大市場となっているICT分野への積極的な姿勢の表れであるといえる。

 

【電気機器】


「CCReB PROP」抽出データよりククレブ総合研究所にて作成

「情報・通信業」においても2019年に一時落ち込むも、世界的な半導体不足を背景に半導体工場をはじめとする日本国内での製造施設の建設が相次ぎ、2023年において土地・建物ともにククレブ総合研究所にて計測開始以降、最高の簿価額が確認され、日本への国内回帰の様相が見て取れる結果となった。

 

【輸送用機器】


「CCReB PROP」抽出データよりククレブ総合研究所にて作成

コロナ禍による経済の停滞で直接的な影響を受けた「輸送用機器」において、2020年は先行き不透明な中でのキャッシュニーズも相まって不動産売却により簿価が一時的に減少したが、2021年移行は持ち直してきており、土地簿価は2019年対比で98%まで回復を見せている。

 

【銀行業】


「CCReB PROP」抽出データよりククレブ総合研究所にて作成

33業種の中でも計画的な簿価の減少が見て取れるのが「銀行業」である。一時はユーザーの利便性を追い求め各社競うように拠点を拡大していたが、昨今はスマホ決済、キャッシュレス等のIT技術の進化、人材不足といった様々な要因により拠点統廃合が進んでおり、2017年対比で土地・建物ともに約90%の簿価額となっており、土地簿価は例年、前年対比例▲1.0%前後で推移していたが2023年においては▲6.4%と大幅な減少をみせたのが特徴である。

 

【非鉄金属】


「CCReB PROP」抽出データよりククレブ総合研究所にて作成

 

「銀行」業に続き、継続的に減少傾向を続けているのが「非鉄金属」業である。施設の老朽化、また、企業の統廃合による拠点再編が進んでいることが背景にあると推察される。

 

 

以上、本レポートでは有価証券報告書に開示された上場企業の固定資産情報について業種別動向の調査を行ったが、昨年から今年にかけて、経済が平常時に回復してきたことに伴い、各業界の事業戦略が明確に不動産簿価推移に現れる結果となっている。

企業不動産(CRE)といえば、今年3月に東京証券取引所が「プライム」「スタンダード」企業に対し資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を求めたことに呼応し、上場企業各社は“資本収益性向上に向けた取り組み”を検討し、開示情報としてリリースを順次行っている状況である。この“資本収益性向上”に対し、各社がCREをどのように経営資源と捉え、活用していくのか。今後、“資本収益性向上に向けた取り組み”の具体的な実行推移を、ククレブ総合研究所として追っていくこととする。

 

 

免責事項

※当レポートに掲載した図表は企業の開示資料において固定資産の売却/譲渡に関するリリース文書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計しております。

※当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。