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DX人材とは?5つの人型類型の役割や必要スキルリスト、企業事例を詳しく解説

DX人材とは、デジタル技術を活用してビジネスの変革を企画・推進できる人材のことです。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれて久しい中、DX人材の確保と育成は企業の競争力を左右する決定的要因となりつつあります。

本記事では、DX人材の定義やDX人材が担う具体的な役割や職種、必要とされるスキルや企業事例を詳しく解説します。

DX人材とは

DX人材とは、デジタル技術を活用してビジネスの変革を企画・推進できる人材のことです。単なるITスキル保有者ではなく、「変化を設計し、組織を導く力」を持った人材を指します。

経済産業省の定義では、DX人材は「企業のビジネスモデル変革をデジタル技術を活用して主導・実行する人材」とされています。

DX人材に求められる「DX推進スキル標準」とは?

DX人材に求められる「DX推進スキル標準」とは

「DX推進スキル標準」とは、企業がDXを推進する上で専門性を持った人材を確保・育成するための指針です。経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)が策定しています。

現在多くの日本企業は、DXの取り組みに後れをとっています。その大きな要因のひとつとして、「DXの素養や専門性を持った人材が不足している」ことが挙げられます。

こうした状況を受けて、経済産業省とIPAは、2022年12月に「デジタルスキル標準(DSS)」を公表。2024年7月には、生成AIの急速な進展に伴い、DXを推進する人材の役割と必要なスキルを定義した「デジタルスキル標準」を改訂したver1.2を公表しています。

「デジタルスキル標準」は、以下の2種類から構成されています。

DXリテラシー標準:全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルの標準
DX推進スキル標準:DXを推進する人材類型の役割や習得すべきスキルの標準

ここからは、最新版である「デジタルスキル標準ver.1.2」の「DX推進スキル標準」を参考に、DX人材に求められる役割やスキルについて解説していきます。

出典:デジタルスキル標準ver.1.2|経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

DX人材5つの人材類型の役割とロール

DX人材5つの人材類型の役割とロール

「DX推進スキル標準」では、以下の5つの人材類型と、その下位区分であるロール(類型を業務の違いによって区分したもの)が定義されています。

ビジネスアーキテクト

役割:DX推進において、目的を設定した上で、関係者をコーディネートし、協働関係の構築をリードしながら目的を実現する人材
  • 新規事業開発
  • 既存事業の高度化
  • 社内業務の高度化・効率化

デザイナー

役割:ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに 沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材
  • サービスデザイナー
  • UX/UIデザイナー
  • グラフィックデザイナー

データサイエンティスト

役割:DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの 設計・実装・運用を担う人材
  • データビジネスストラテジスト
  • データサイエンスプロフェッショナル
  • データエンジニア

ソフトウェアエンジニア

役割:DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用 を担う人材
  • フロントエンドエンジニア
  • バックエンドエンジニア
  • クラウドエンジニア/SRE
  • フィジカルコンピューティングエンジニア

サイバーセキュリティ

役割:業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材
  • サイバーセキュリティマネージャー
  • サイバーセキュリティエンジニア

出典:デジタルスキル標準ver.1.2|経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

DX人材に求められる共通スキルリスト

DXを推進する人材に求められるスキルは、「デジタルスキル標準ver.1.2」の中で「共通スキルリスト」として、5つのカテゴリー・12のサブカテゴリ―で以下の通りに整理されています。

カテゴリ サブカテゴリ 主なスキル項目(抜粋)
ビジネス変革 戦略・マネジメント・システム ビジネス戦略策定・実行、プロダクトマネジメント、変革マネジメント、システムズエンジニアリング
ビジネスモデル・プロセス ビジネスモデル設計、ビジネスアナリシス、マーケティング、検証(ビジネス視点)
デザイン 顧客理解、価値定義、プロダクト設計、ユーザー視点での検証
データ活用 データ・AIの戦略的活用 データ活用戦略、業務設計・事業実装、データ理解・活用
AI・データサイエンス 統計解析、機械学習、深層学習、データ可視化
データエンジニアリング データ基盤設計・実装・運用
テクノロジー ソフトウェア開発 ソフトウェア設計、フロント/バックエンド開発、クラウドインフラ、SRE
デジタルテクノロジー フィジカルコンピューティング、先端技術、テクノロジートレンド
セキュリティ セキュリティマネジメント セキュリティ体制構築、インシデント対応、プライバシー保護
セキュリティ技術 セキュア設計、セキュリティ監視・運用・保守
パーソナルスキル ヒューマンスキル リーダーシップ、コラボレーション
コンセプチュアルスキル 批判的思考、創造的問題解決、適応力、ゴール設定

参照:デジタルスキル標準ver.1.2|経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

DX人材の育成・獲得に取り組んでいる企業事例

最後に、DX人材の育成・獲得に取り組んでいる先進企業の事例をご紹介します。

三菱電機株式会社

大手総合電機メーカーである三菱電機は、2030年度までにグループ全体で2万人のDX人材を確保することを目標に掲げています。

同社は2025年4月にグループ内の従業員を対象とした体系的な育成機関「DX イノベーションアカデミー」を設立し、DX人材を育成する社内講座「DXイノベーションアカデミー」を2025年5月に開講。

講座では、DXマーケティングやデータエンジニアリングなど計7種類の学習コースが用意されており、各コースにはそれぞれ初級、中級、上級の3段階が設けられています。

全従業員を対象とした講座も設けることで、グループ一体となってDXを推進する風土醸成を目指しています。

参照:DX人財育成強化を目的とした「DX イノベーションアカデミー」を設立 |三菱電機株式会社

第一三共株式会社

大手製薬会社である第一三共は、全社DXを推進する風土醸成とDX人材の育成に力を入れています。

DX人材の育成においては、全社員の育成としてITパスポートやデータサイエンティスト検定、G検定取得を推奨するとともに、DX推進スキル、データ分析スキル向上プログラムを導入しています。また、各組織のDX推進に必要な人材育成計画を策定し推進しています。

これらの取り組みが評価され、同社は「DX銘柄*1」や「DX認定*2」を取得しています。

*1:「DX銘柄(デジタルトランスフォーメーション銘柄)」…上場企業のうち、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を経済産業省、東京証券取引所および独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が選定するもの

*2:「DX認定」…経済産業省が定める「デジタルガバナンス・コード」の認定要件を満たしてDX推進の準備が整っている事業者を「情報処理の促進に関する法律」に基づき経済産業大臣が認定する制度

参照:DX – データと先進デジタル技術の活用|第一三共株式会社

株式会社クボタ

農業機械部門で国内トップを誇る大手総合機械メーカークボタは、DX人材の育成に成功している企業の一つです。

同社は2022年にDXを加速させるための合弁会社「株式会社クボタデータグラウンド」をアクセンチュアと設立。2024年12月末までにDX人材を1,000人にする目標を掲げ、実際に1,200人の育成に成功しています。

さらに2025年3月からは、米マイクロソフトと提携し、AIの教育プログラムをスタートさせています。

対象は海外のグループ会社を含む全従業員約5万2,000人で、社内のIT部門が中心となって作成した教育プログラム「クボタAIアカデミー」を始め、社員向けのチャットボット「K-bot(ケーボット)」の開発や、新製品の開発期間の短縮に貢献するシステムの開発など、AI活用の基盤を整え、さらなる業務プロセスの効率化を目指しています。

参照:クボタとアクセンチュア、持続可能な社会の実現に向けた合弁会社を設立|株式会社クボタ
参照:クボタ、全社員5万人にAI教育 マイクロソフトと提携|日本経済新聞

DX人材の獲得・育成が、企業変革のカギを握る

DX人材とは、単にデジタルツールを使いこなせる人材ではありません。企業のミッションを達成するべく、データを活用して新たな価値創造と組織全体の変革を牽引できる人材を指します。

『DX白書2023』によれば、多くの日本企業がDX人材の量と質に深刻な課題を抱えています。この課題を克服するためには、外部からの採用活動と並行して、自社の事業を熟知した社員を「育てる」という長期的な視点が不可欠です。

経営者には、自社に必要なDX人材像を明確に定義し、挑戦を促す学習機会と実践の場を提供し、新しい価値創造を正当に評価する組織文化を醸成していくことが求められます。

参照:DX白書2023 エグゼクティブサマリー|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

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監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立し、2024年11月に創業から5年で東証グロース市場に上場。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。