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2023年最新中期経営計画ホットワードからみる企業経営トレンドの考察

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、多くの3月決算企業が決算発表と同時に新中期経営計画(中計)の公表を行うタイミングで昨年同様“CCReB GATEWAY”のホットワード分析機能を利用し2023年度の経営トレンドについて考察を行った。

※2023年1月1日から本レポート執筆時点(6月3日)までの全上場企業における中計の公表件数は約500件程度であり、毎年ほぼこの時点でその年の中計のほとんどがアップデートされることから、速報性の観点からこの時点で分析を行う。なお、本レポートにおける中計の抽出条件は、当該ホットワードの言及企業数の昨年対比の比較(企業数増減率)にて行った。

 

2023年の中計ホットワード

昨年もこの時期に同様の分析を行ったが昨年は「サプライチェーンの混乱」「価格の高騰」などのワードが経営ホットワードを賑わせていた。それに対し2023年は、大きなトレンドとして、引き続き「物価高騰」が中心であるものの、その他、「資産入替」「電力市場」「スキルの向上」「人々の健康」と、昨年とは異なる新たなトレンドが確認できた。以下詳しく見ていくものとする。

昨年のトレンドを見たい方はこちら

2022年最新中計からみる上半期のホットワード分析

 

資産入替がトレンドワードに急上昇

すでに全世界的なトレンドとなっている物価高騰についてはもはや触れる必要もないが、2023年の中計のホットワードとして、「資産入替」「ポートフォリオ見直し」が急上昇した。

「資産入替」を中計で言及したのは、東京瓦斯株式会社(電気・ガス業)、株式会社武蔵野銀行(銀行業)、山陽電気鉄道株式会社(陸運業)、東京センチュリー株式会社(その他金融業)などであるが、いずれの中計においても、ノンコア資産の見極めと売却・撤退、当該資金を活用したコア事業への注力など、資産効率・資本効率を意識した戦略が目立つ

この背景にあるのは、東京証券取引所が2023年3月末に上場企業に通知・要請を行った、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が影響しているものと思料され、2023年の中計では、PBR1倍割れに対する各企業の考え、今後の経営戦略に関する記述が増えていることが確認できた。

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エネルギー関連のホットワードが多数出現

続いて急増したホットワードはエネルギー関連のワードである。具体的には「電力市場」「蓄エネ」「PPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)」「再エネ利用」などがホットワードとして出現した。

「PPA」について言及している企業は29社にのぼり、株式会社安藤・間(建設業)、株式会社エンバイオ・ホールディングス(サービス業)、三菱マテリアル株式会社(非鉄金属)など、他業種に亘り言及を確認できた。

再生エネルギーに関しては、カーボンニュートラルの流れからより一層各企業の意識が高まっている中、蓄エネ機器の導入(株式会社オカムラ)などの取り組みを経営計画などに盛り込み、事業を通じた社会課題への取り組みを経営戦略とする動きも見られる。

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健康経営も経営戦略の一環に

こちらも急上昇したのが、従業員等の健康管理を経営的視点で考える「健康経営」に関連するワードである。具体的には「人々の健康」「ウェルビーイング向上」「人材確保」などの関連キーワードがホットワードとして出現した。

株式会社清水銀行(銀行業)、昭和産業株式会社(食料品)その他の業種では「ウェルビーイング向上」を掲げており、育児、介護等の多様なライフスタイルへの対応など、人材確保や従業員のモチベーション向上を狙った取り組みがなされている。これらの取り組みは「ウェルビーイング経営」と呼ばれる経営手法であり、次のテーマでも触れる全従業員を資本と捉える、いわゆる「人的資本経営」にもつながる最近のビジネストレンドと言える。

今後労働生産人口が確実に減少していく中、企業側も人材の確保は経営戦略の要と言え、健康経営はより一層重要な経営戦略となっていくものと思料する。

 

※健康経営とウェルビーイング経営の違いについては以下の記事で詳しく解説をしている

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人的資本・リスキリングはやはり2023年のホットワードに

ククレブ総合研究所では、昨年来2023年のホットワードとして「人的資本」「リスキリング」を予想していたが、2023年の新中計では、当該ワードを含んだ「スキルの向上」というワードが急上昇した。

このワードに言及している企業は、カシオ計算機株式会社(電気機器)、三菱HCキャピタル株式会社(その他金融業)、株式会社西日本フィナンシャルホールディングス(銀行業)、株式会社船井総研ホールディングスなど、他業種で確認ができた。こうした企業では、DXスキルの向上(カシオ計算機)や、人的資本・知的資本としてのノウハウ・スキルの向上(三菱HCキャピタル)として中計に経営戦略として盛り込まれており、その他ITや経営系の資格取得に補助を行うなど、「リスキリング」のよる人財力の強化が各企業の経営課題となっているものと思料する。

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デジタルトランスフォーメーション(DX)もホットワードとして定着

DX関連のワードも数多くの出現が確認できた。具体的には「全社DX」「デジタルツールを活用」「データマネジメント」「タレントマネジメントシステム」などのワードが出現した。

「全社DX」というワードでは、住友大阪セメント株式会社(ガラス・土石製品)、東邦チタニウム株式会社(非鉄金属)、ENEOSホールディングス株式会社(石油・石炭製品)などで出現が確認でき、こうした企業では、中計期間における投資計画として何百億円の予算を組んでおり、デジタル化を急いでいる様子が伺える。

また、「デジタルツールを活用」というワードでは、DXの進展によるサービスの多様化として、IT・デジタルツールを活用した対面サービスの拡充(株式会社清水銀行)など、今後デジタルツールを積極的に活用することがビジネストレンドになっていくものと思料する。

なお、タレントマネジメントシステム(社員の人材データの一元管理を行い、人事配置などに活用するシステム)なども人事DXの代表的なサービスであるが、こうしたサービスの利用を経営戦略として盛り込む企業も増えており、デジタルの力を活用してこれまで属人的であった人事戦略などを大量のデータを活用して効率化かつ可視化していく動きが今後も増加していくものと予想する。

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最後に

ここまで2023年の急上昇ワードをピックアップしていったが、その他の急上昇ワードとしては、「観光需要」「老朽インフラ」「人口構造」などにも着目したい。

「観光需要」に関しては、我が国の水際対策の緩和により外国人観光客の来日数が急回復していることからも、コロナ前にホットワードとなった「インバウンド」を狙った各社の経営戦略として急回復したワードである。

その他、「老朽インフラ」と「人口構造」などは我が国の大きな社会問題であるが、それぞれの企業が属する企業においてこれをビジネスチャンスとして捉え、経営戦略に盛り込む動きが確認できた。

「老朽インフラ」というワードでは、オリエンタル白石株式会社(建設業)、山九株式会社(陸運業)、東洋建設株式会社(建設業)、株式会社建築技術研究所(サービス業)その他多くの建設業やガラス・土石製品などの業種で出現が確認できた。こうした企業では、社会的要請として社会インフラの老朽化という問題をメンテナンス・更新のチャンスとして捉えていると考えられる。最近では首都高羽田線の工事などのニュースもあったが、その他高速道路でのリニューアル工事なども各地で行われており、社会基盤を支えるインフラとそれを維持していく企業などの動向にも着目したい。

また、「人口構造」も同じく社会環境の変化に企業がどのように対応していくか、生産人口の減少などにどのように対応していくか、これまでホットワードとして触れてきた労働者のモチベーションアップという意味で「健康経営」がトレンドとなり、業務効率化という意味では「DX化」が同じくトレンドとなり、本業における経営戦略という意味では、カーボンニュートラルという全世界共通の課題を乗り越えながら、投資家を意識して「資産入替」などにより資本効率を上げながら経営を行うという、各ホットワードが経営トレンドとして複雑に絡み合っていることが改めて確認できた。

なお、本レポートで行った分析は、CCReB GATEWAYに会員登録(無料)頂ければ、ご自身で様々な分析を行うことが可能となりますで、ぜひトップページより会員登録をお願いいたします。

(ご参考)
「ホットワード分析」トップページ検索機能のご紹介

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。