系統用蓄電池の市場動向と不動産Valuation~接続検討段階から運用開始後までの権利価値分析~
系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力需給を支える重要インフラとして市場拡大が本格化しつつある。近年では接続検討段階から用地に権利価値を見込んだ取引やファイナンス事例も増加しており、不動産Valuationやデューデリジェンスの重要性が高まっている。本稿では系統用蓄電所[1]の開発・運用プロセスに応じた不動産Valuationの論点を整理する。
[1] 系統用蓄電所:系統用蓄電池が設置され発電事業を行う施設を指す。
1.系統用蓄電池の市場動向
系統用蓄電池の普及状況について、政府は2040年に向け、数万MW規模の蓄電池導入を想定しているが、資源エネルギー庁によると2025年12月末で「連系済み」[2] は640MWにとどまる。
【図表1】発電等設備の系統アクセス手続きプロセス
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【図表2】系統用蓄電池の接続検討、契約申込み、連系済みの推移
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図表2より、系統用蓄電池の接続検討は2023年12月以降は増加傾向で推移しており、2025年12月末時点で接続検討172,000MW、そのうち契約申込みは30,000MWとなっている [3]。
契約申込みは工事費負担金入金後に連系済みとなるため、今後は一定のタイムラグをもって連系済みが増加していくと予想される。
このように接続検討件数が急増する中で、系統用蓄電池事業には発電事業者のみならず、不動産会社、金融機関、アセットマネジメント会社など多様なプレイヤーの参入が進んでいる。
[2] 系統用蓄電池の手続きは、大きく接続検討、契約済み、連系済みに区分される。図1は、資源エネルギー庁「系統用蓄電池の迅速な系統連系に向けて」(2025.9.24)記載の発電所設備の系統アクセス手続きに基づき当社作成。
[3] 資源エネルギー庁「系統用蓄電池をはじめとする発電等設備の迅速な系統連系に向けた対応について」(2026.3.27)を参考に当社作成。
2.市場参加者の多様化(ケース紹介)
系統用蓄電所の開発・運用では、用地選定から接続検討、契約申込み、連系、運用開始まで複数のプロセスを経るため、事業化まで長期間を要する。こうした中で、不動産デベロッパー、発電事業者、アグリゲーターなど各プレイヤーがそれぞれの役割を担っている。
以下では、市場参加者のケースを紹介する。
ケース1)金融スキーム型(ファンド組成):株式会社ウエストホールディングスではGK-TKスキームを活用して約70億円規模のファンドとして2026年2月27日に系統用蓄電所ファンドを設立した。当ファンドによって資金調達の多様化を行っており、TK出資者は三井住友トラスト・パナソニックファイナンス株式会社他7社となっている。ファンドの裏付け資産は蓄電池設備と土地(借地)で構成されている。
ケース2)不動産活用型(物流施設遊休地活用):物流施設の所有・運営・開発を行う株式会社プロロジスは、千葉市で運用中の賃貸用物流施設「プロロジスパーク千葉1」の敷地内に設置した系統用蓄電池の稼働を2026年4月1日より開始した。この系統用蓄電池の出力は2MW、蓄電容量は6MWhである。設置場所は敷地内駐車場の未利用スペース23台相当を活用している。
ケース3)固定収益型(トーリング契約):MIRARTHアセットマネジメント株式会社(以下MAM)は株式会社パワーエックスと共同で、神奈川県愛甲郡愛川町に整備した系統用蓄電所の運転を2025年9月1日に開始した。本事業ではMAMとパワーエックスとの蓄電所賃貸借契約に基づき、パワーエックスが調整力の対価を固定価格で支払うスキームである。当スキームによりMAMは固定収入を得ることとなり、蓄電所事業のキャッシュフローの見通しが立てやすくなる。
3.不動産Valuationの論点
系統用蓄電池事業では、開発段階によって事業リスクや権利性が大きく異なるため、不動産Valuationにおいても段階別の評価整理が重要となる。
| 段階 | 状態 | 価値の考え方 | リスク |
| 指針1 | 接続検討前 | 山林素地価格 | - |
| 指針2 | 接続検討回答後 | 権利価値加算 | 高い |
| 指針3 | 工事契約後 | 開発蓋然性上昇 | 中程度 |
| 指針4 | 蓄電所の運用開始後 | DCF評価 | 安定化 |
系統用蓄電池事業では、開発初期段階において事業リスクや権利性が流動的であり、不動産鑑定評価基準に基づく正式鑑定評価では対応が難しいケースも多い。このため、実務上は価格調査報告書等による柔軟な分析・評価対応が重要となる。
(指針1)接続検討前で、系統接続の実現可能性が不明であるため、不動産Valuationは山林素地価格に近くなる。山林素地価格は、土地の形状や規模、地勢等により異なるが、全国都道府県地価調査での林地の価格が参考になる。山林素地価格のエリア別の平均値[4]は関東では495円/㎡で最も高く、北海道、東北、九州は100円/㎡を下回る(図表3参照)。
[4] 令和7年地価調査基準地のエリア別の地価の単純平均値。
【図表3】R7年都道府県地価調査の山林素地価格
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(指針2)接続検討回答書の開発計画に基づいて、系統用蓄電池の権利価値付き土地価格を算定する。
接続検討回答書では、工事費負担金、所要工期、申込者に必要な対策等が示されるが、この段階では電力会社への工事契約前である。開発期間中は所要工期の変動や造成費用及び蓄電池設備コスト等も変動するため、当期間中の割引率(リスク)は高い水準になると考えられる。一方で、市場の過熱感から実際には低い水準での取引も散見される。
(指針3)電力会社との契約・工事費負担金の支払後では、蓄電池設備開発の蓋然性が高くなり運用開始時期が近づくことで、開発期間中のリスクは、(指針2)よりも低くなる。
なお、(指針2)と(指針3)ともに、蓄電所の運用期間中のリスクは後述(指針4)のとおり4%~5%程度と安定化する。
【図表4】Valuationの指針2と指針3のイメージ図
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(指針4)系統用蓄電所の運用を前提とする20年間のキャッシュフローに基づいて事業評価を行う。期中キャッシュフローの割引率は、上場インフラファンドのWACC[5]は、2%台中盤から3%台前半程度と推定されるところ、太陽光発電施設の期待利回りは3%~4%である。
一方、系統用蓄電所運用はケースによっては期中キャッシュフローのボラティリティが大きく、連系済みの運用件数も少なく市場としては未成熟であることから、現段階では太陽光発電施設の期待利回りに加算する方法で4%~5%程度と考えられる。
[5] WACCについては一定のLTV、マーケットリスクプレミアム、β、借入コスト等を前提とした場合の推定値であることに留意。
4.不動産デューデリジェンスの重要性と市場成熟への期待
系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの普及拡大を支える次世代インフラとして、今後さらなる市場拡大が見込まれる。一方で、系統接続、開発許認可、工事費負担金、運用収益の変動など、不確実性を伴う要素も多く、各段階に応じた適切な不動産Valuationとリスク分析が不可欠となる。特に、開発初期段階における権利価値評価やリスク分析については、不動産・インフラ・電力市場を横断した専門的な知見が求められる局面が増えていくと考えられる。
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