ウェルビーイング経営とは?メリットや取り組み方、企業の成功事例などを詳しく解説
近年、ウェルビーイング(Well-being)経営が世界的に注目を集めています。
ウェルビーイング経営とは、社員が身体的、精神的、社会的に満たされるように組織の環境を整えていく経営手法のことです。
今回は、ウェルビーイング経営の基本的な概要や、企業が取り組むメリット、具体的な施策事例や、企業の成功事例を解説します。
ウェルビーイング経営に興味のある企業の経営者や人事・人材育成部門の方、マネジメント層の方はぜひ参考にしてください。
ウェルビーイング経営とは
ウェルビーイング経営とは、社員が身体的、精神的、社会的に満たされるように組織の環境を整えていく経営手法のことを指します。
従業員や組織全体だけではなく、取引先、消費者、地域社会といった「全てのステークホルダーの幸福を追求するための経営手法」という広義の意味で使用されることもあります。
ククレブ総合研究所によると、「ウェルビーイング」は2023年度の経営において注目キーワード*の一つとなっており、経営戦略としても注目されていることが窺えます。
*ホットワードの算出方法:2023年度の経営トレンドについて考察を行うことを目的に、CCReB GATEWAYのホットワード分析機能を利用。詳しくは以下の記事をご覧ください
ウェルビーイング(Well-being)とは
ウェルビーイング経営について理解を深めるために、「そもそもウェルビーイング(Well-being)とは何なのか」について解説します。
ウェルビーイング(well-being)とは、心身ともに健康で、かつ社会的にも満たされている状態のことを指す言葉です。
この言葉の定義は、1946年、WHO設立の際に考案された「世界保健機関(WHO)憲章」前文における、以下の「健康」の定義がベースとなっています。
『健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、單(ひとえ)に疾病又は病弱の存在しないことではない』
(参考:『世界保健機関憲章』|外務省)
つまり、病気などのない身体的な健康だけではなく、心も健康で、かつ幸せな気持ちで満たされている状態が「ウェルビーイング(well-being)」です。
ウェルビーイング経営が求められる背景
では、なぜウェルビーイング経営が注目を集めているのでしょうか。
ここでは、日本においてウェルビーイング経営が求められるようになった背景を以下の流れで詳しく解説していきます。
・職場のメンタルヘルスが社会問題に
・メンタルヘルス対策推進
・多くの企業が対策に取り組むも、解決には至らず
・ウェルビーイングへの関心が高まる
職場のメンタルヘルスが社会問題に
1984年、民間企業でのうつ病の労災認定や、自殺者数の増加、2000年の過労自殺の最高裁判決などにより、職場におけるメンタルヘルス問題は社会問題として認識されるようになりました。
2000年代以降はメンタルヘルス不調による離職や休職が急増し、企業はメンタルヘルス対策が緊急かつ重要な課題となっていきました。
メンタルヘルス対策推進
これを受けて、50名以上の事業場でのストレスチェック制度実施義務化(2015年)、パワーハラスメント防止措置義務化(2020年)など、行政主導でメンタルヘルス対策推進の動きは強化されていきました。
この流れに合わせて、企業側でも長時間労働対策といったメンタルヘルス対策が推進されていくようになります。
多くの企業が対策に取り組むも、解決には至らず
公益財団法人日本生産性本部の調査によると、メンタルヘルス対策を行う企業の割合は増加し、令和2年には6割を超えたといいます。特に、50名以上の企業においては9割を超えるまでになりました。
しかし、残念ながら解決には至っていません。
公益財団法人日本生産性本部 メンタル・ヘルス研究所のメンタルヘルスの取り組みに関する企業アンケートによると、「心の病」の増減は「横ばい」と回答する企業が最多を占め、減少には至っていません。
また、精神障害等に起因する労災請求件数も増加傾向にあります。
これまでのアプローチだけでは、職場のメンタルヘルスに大きな変化は生み出すことは難しいことが分かりました。
ウェルビーイングへの関心が高まる
そんな中、これまでとは異なるアプローチ方法が見出されるようになります。それが、ウェルビーイングです。
これにより、職場のメンタルヘルス対策は、疾病対策にとどまらず、活気やウェルビーイングまで見据えた活動と捉えられるようになっていきました。
加えて、2015年には「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されました。
SDGsの8番目の目標には、「働きがいも、経済成長も」とあります。これにより、企業は、従業員が精神的にも豊かな状態でいられるような環境を作ることが求められるようになりました。
このような世界的な潮流や、労働人口の減少といった社会課題も後押しとなり、人々が心身ともに健康に働き続けることのできる環境を整えるためのウェルビーイング経営に注目が集まるようになったのです。
ウェルビーイング経営と健康経営の違い
ウェイルビーイング経営と似た言葉として、健康経営という言葉があります。
健康経営とは、経済産業省によると「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されています。
どちらも「従業員の心身の健康を大切にする」という点においては共通していますが、最大の違いは、「誰の視点に立って施策を検討するのか」という点です。
ウェルビーイング経営は従業員の視点に立ち施策を検討します。一方、健康経営は企業の視点で施策を検討します。
参考:経済産業省|健康経営
ウェルビーイング経営の5つのメリット
ウェルビーイング経営は、企業に大きなメリットをもたらします。ウェルビーイング経営のメリットは次の5つです。
・生産性の向上
・社員のエンゲージメント、モチベーションの向上
・離職率低下
・採用力強化
・人的資本経営やSDGsの推進に繋がる
それぞれ詳しく解説します。
ウェルビーイング経営のメリット①生産性の向上
ウェルビーイング経営に取り組むということは、社員が心身ともに健康で満たされている状態を目指すということですから、取り組みがうまくいけば社員にとって「より働きやすい職場」となります。
働きやすい職場であれば、社員のストレスは軽減され、生産性も高まるでしょう。
実際に、ウェルビーイングが高い人は、低い人と比較して、売上は37%、生産性は31%、創造性は300%も高い傾向にあるというデータがあります。
ウェルビーイング経営のメリット②社員のエンゲージメント、モチベーションの向上
ウェルビーイング経営に取り組み、社員が心身ともに健康で満たされている状態で働くことができるようになれば、仕事に対するモチベーションや、エンゲージメントの向上が見込めます。
ウェルビーイング経営のメリット③離職率低下
少子高齢化により労働人口の減少が社会問題となっていますが、そんな中、人材の確保をし続けることは企業にとって重要な経営課題です。
ウェルビーイング経営の推進により、社員にとってより「働きやすい職場」を作ることができれば、離職率の低下にも繋がります。
ウェルビーイング経営のメリット④採用力強化
「働きやすい職場」は求職者にとって魅力的な環境です。自社のブランド価値が向上し、採用力の強化に繋がるでしょう。
また、自社で働く社員の満足度が高ければ、リファラル採用の強化にも繋がります。そうすれば、より低コストで優秀な人材の獲得が可能になります。
ウェルビーイング経営のメリット⑤人的資本経営やSDGsの推進
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
近年、ESG投資に対する関心の高まりなどを受けて、この経営のあり方が世界的に主流になってきています。
この人的資本経営とウェルビーイングは関連性が高く、経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書である「人材版伊藤レポート2.0」では、「心身の健康、熱意や活 力をもって働くことを実現する社員のWell-being視点は重要」と述べられています。
また、SDGsにおいては先述の通り目標8に「働きがいも、経済成長も」と掲げられており、ウェルビーイング経営の推進は、人的資本経営やSDGsの推進にも大きく寄与します。
ウェルビーイング経営を成功させるポイント
ウェルビーイング経営を成功させるために、参考となる2つの要素をご紹介します。この2つの要素を理解すると、ウェルビーイングに対する理解が深まります。
・マーティン・セリグマン氏の「PERMA(パーマ)の法則」
・Gallup社のモデル
ウェルビーイングに影響を与える「PERMA(パーマ)の法則」
「ポジティブ心理学」の創始者であるマーティン・セリグマン氏は、持続的幸福を感じるために必要な5つの要素として「PERMA(パーマ)の法則」を提唱しています。
そして、この「PERMA(パーマ)の法則」が、ウェルビーイングに良い影響をもたらすことを実証しています。
PERMA(パーマ)の法則は次のとおりです。
<持続的幸福を感じるために必要な5つの要素(PERMA(パーマ)の法則)>
① Positive emotion:ポジティブな感情を持っていること
② Engagement:何事に対しても積極的に関わっていること
③ Relationship:他者と肯定的で良質な関係性を築いていること
④ Meaning:人生に意味・意義を見出し、自覚していること
⑤ Accomplishment:達成感を感じていること
Gallup(ギャラップ)社のモデル
米国で世論調査などを手掛けるGallup(ギャラップ)社では、国や地域、文化・宗教的な背景を問わず、幸福と感じるには以下の5つの要素が重要だと提唱しています。
①Career Well-being(キャリア ウェルビーイング)
自身のキャリア・仕事に取り組み、納得感を得る幸福
②Social Well-being(ソーシャル ウェルビーイング)
信頼や愛情に満ちた人間関係を構築する幸福
③Financial Well-being(ファイナンシャル ウェルビーイング)
報酬を得て、自分の資産を管理・運用することによる幸福
④Physical well-being(フィジカル ウェルビーイング)
身体的・精神的に健康である幸福
⑤Community well-being(コミュニティ ウェルビーイング)
家族や地域といったコミュニティに所属することで得る幸福
ウェルビーイング経営の取り組み方
ここからは、ウェルビーイング経営を推進する上で取り組みたい具体的な施策について紹介していきます。
大きくは次の3つです。
・労働環境の改善
・社員のヘルスケアサポート
・社内コミュニケーションの活性化
それぞれ詳しく解説します。
労働環境の改善
まず取り組むべきは、労働環境の改善です。
具体的には、過度な労働時間(残業)や休日出勤を減らす、在宅勤務制度やフレックスタイム制の導入などが挙げられます。
そのためも、まずは実態把握をすることが大切になります。
その上で、業務分担の見直しや、業務効率化のための取り組み、休暇申請をしやすい組織風土づくりなど、自社に必要な労働環境の改善に向けた取り組みを進めていきましょう。
社員のヘルスケアサポート
社員の心身の状態を把握し、適切なサポートを実施していくこともウェルビーイング経営に必要な取り組みです。
具体的には、定期的な産業医面談の実施、健康診断の実施、ストレスチェックの実施などが挙げられます。
また、メンタルヘルス不調を抱える社員に対するサポート体制の構築も重要です。
社内コミュニケーションの活性化
離職の理由として一番多いのが、「社内の人間関係」です。
2022年10月にエン・ジャパン株式会社が求人サイトのユーザー1万人に対して行ったアンケート調査『「本当の退職理由」実態調査』によると、「職場の人間関係が悪い」と回答した人が35パーセントと最も多くを占めていました。
社員全員が心身ともに健康で、かつ満たされた状態で働き続けるためには、職場の人間関係や雰囲気が極めて重要なことが分かります。
そのためにも、社会コミュニケーション活性化のための取り組みはウェルビーイング経営を推進する上で必須と言えるでしょう。
具体的には、メンター制度の導入、懇親会など費用の補助、社員専用の社内SNSの導入などが挙げられます。
社員同士がコミュニケーションを取りやすい環境を整え、職場の風通しを良くしていくことが大切です。
ウェルビーイング経営に成功している企業事例
最後に、ウェルビーイング経営に成功している企業の事例をご紹介します。今回紹介する企業事例は、次の2社です。
・丸井グループ
・楽天グループ
丸井グループ
丸井グループは、ウェルビーイング経営に取り組んできた企業のひとつです。
同社のミッションである「すべての人がしあわせを感じられるインクルーシブな社会を共に創る」ことを、ウェルビーイングの視点を通じて実現することを目指しています。
推進体制としては、グループ横断のプロジェクト「Well-being推進プロジェクト」のメンバーと、サポートする役割の管理職メンバーが主体となり、さまざまなウェルビーイング活動を企画・実行しているとのことです。
具体的には、組織への影響力が大きい役員、部長、課長層を対象に、1期1年間の「レジリエンスプログラム」の実施や、自己診療の禁煙外来を受診した社員に対して、禁煙治療に要した費用の7割を補助、ライフステージ別の女性特有の健康課題への理解浸透を図るために「女性の健康検定」の受検を推進するなど、様々な取り組みを実施。
同社の取り組みは、「健康経営銘柄」に6年連続で選定、経済産業省による「健康経営優良法人(ホワイト500)」に7年連続で選定、「DBJ健康経営格付」の最高ランクを獲得するなど、社外からも評価を得ています。
参考:丸井グループウェブサイト|人と社会のしあわせを共に創る「Well-being経営」
楽天グループ
楽天は、「コレクティブ・ウェルビーイング」と称したガイドラインを作成してウェルビーイング経営に取り組んでいます。
具体的には、
・創業時より実施している全社会議の「朝会」をオンラインで毎週開催
・新入社員向けに三木谷代表によるオンラインでの朗読会を実施
・遠隔でも仲間の仕事の状況やコンディションを把握するために、朝や夕方にチームでハドルミーティングを実施
といった取り組みがなされています。
働き方が多様化しているからこそ、離れて働いていても社内コミュニケーションが枯渇しないような取り組みを意識的に実施していることが伺えます。
参考:楽天グループ株式会社 公式コーポレートブログ『多様な働き方が進む、今こそ意識すべき「コレクティブ・ウェルビーイング」~持続可能なチームに必要な「三間(さんま)と余白」とは?~』
ウェルビーイング経営の推進で企業価値向上を目指す
今回は、ウェルビーイング経営のメリットや注目される背景、具体的な取り組み施策の事例や企業の成功事例などをご紹介しました。
ウェルビーイング経営は、社員が心身ともに健康に、そして幸せに働き続けられるというだけではなく、生産性の向上や、自社のブランド価値の向上、それによる採用力の強化や、人的資本経営、SDGsの推進など、たくさんのメリットを自社にもたらします。
本記事でご紹介した取り組み施策の具体例や企業の成功事例などを参考に、ウェルビーイング経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。