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自社株買いとは?企業の狙いと株価への影響、リスクについて分かりやすく解説

近年、上場企業の自社株買いが急増しています。2024年1〜5月に設定された取得枠は約9兆円と、過去最高だった2023年の前年同期比より6割も増加しています。

そこで今回は、上場企業における自社株買いの概要について分かりやすく解説します。自社株買いの意味や目的、どのようにして株価へ影響するのか、懸念されるリスクや実際に自社株買いを発表した企業などについて解説していますので、自社株買いについて理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。

自社株買いとは

自社株買い

自社株買いとは、 企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことです。

一般的には、株式会社が株主に対する利益還元やストックオプション(従業員持ち株制度)等に利用することを目的に行います。

買い戻した株は、消却することで発行済み株式数を減らすことができます。1株あたりの利益や資産価値を向上させることになるため、利益指標を良くすることができます。

このように、買い戻した自社株を再放出することなく、自社株買いの効果を利益指標に反映させる企業が多いことから、日経平均株価などを算出する日本経済新聞は、2015年1月より「自社株を除いた発行済み株式数ベース」で予想1株利益を算出する方式を採用しています。

上記の理由から、自社株買いの発表は投資家にポジティブに受け取られることが多いですが、企業によっては買い戻したあとに株の消却を行わず、「金庫株」として保管する場合もあります。

自社株買いを行う目的

自社株買い

自社株買いを行う目的は、主に次の4つです。

① 株主に対する利益還元
② 利益指標改善による投資家へのアピール
③ ストックオプションへの活用
④ 敵対買収に備えるためのリスク対策

それぞれ詳しく解説します。

自社株買いの目的①株主に対する利益還元

自社株会を行う目的のひとつに、株主に対する利益還元があります。なぜ、自社株買いが株主還元になるのでしょうか。

繰り返しになりますが、自社株買いとは企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことを指します。そして、買い戻した株は消却することができます。この消却を行うことで、株式数は減りますから、1株あたりの純利益(EPS)は高まることになります。つまり、自社株買いを行うことで、株価上昇に繋げることができるのです。

また、配当性向を表明している企業においては、EPSが高くなれば配当金も増えることになります。

自社株買いの目的②利益指標改善による投資家へのアピール

自社株会を行う目的のひとつとして、利益指標改善による投資家へのアピールも挙げられます。

利益指標とは、具体的には株価収益率(PER)や自己資本利益率(ROE)を指します。

自社株買いを行い、EPS(1株あたりの純利益)が上がると、PER(株価収益率)は下がります。PERとは、企業の利益に対して何倍まで株価が買われているかを示すものなのです。つまり、PERが下がれば割安と判断されるので、株価上昇に繋げていくことができます。

また、自社株買いはROE(自己資本利益得立)を上げる効果もあります。なぜなら、ROEは当期純利益を自己資本で割って算出するものですが、自社株買いは自己資本から除外されるからです。ROEが上がると、「収益性が高まった」と見られるため、株価上昇に繋げていくことができます。

このような効果から、自社株買いは利益指標改善による投資家へのアピールとして行われることもあります。

自社株買いの目的③ストックオプションへの活用

自社株買いの3つ目の目的は、ストックオプション(従業員持ち株制度)への活用です。

ストックオプションとは、社内の関係者が自社株をあらかじめ決められた価格で取得できる「権利」のことを指します。

従業員にストックオプションを付与するメリットは、自社の株価が成長したときに自社株を割安で買い、高値で売ることができる点にあります。

買い戻された自社株は、消却できると触れましたが、それ以外にも「金庫株」として保管することもできます。そのため、従業員などに付与するストックオプションとして保管しておくこともできるのです。

自社株買いの目的④敵対的買収に備えるためのリスク対策

敵対的買収を防ぐために自社株買いを行うケースも存在します。

日本企業における買収は「友好的買収」であることがほとんどですが、まれに「敵対的買収」が行われることもあります。敵対的買収とは、経営者の合意なしに株式を過半数取得し、強制的に経営権を奪う手法です。

自社株買いを行い自社株の持ち株比率を高めれば、敵対的買収をされる可能性を低くすることができます。また、自社株買いによって株価が上昇すれば、買収相手は経営権を獲得するためにより多額の資金が必要になるため、リスクを下げることに繋がります。

上記の理由から、自社株買いは敵対的買収というリスク対策にもなるのです。

自社株買いによるリスク

自社株買い

株主還元や、投資家へのアピール、リスク対策などメリットの多いように思える自社株買いですが、リスクも存在します。

ここからは、自社株買いをすることにより考えられるリスクについて詳しく解説します。

自社株買いによるリスク①自己資本比率の低下

自社株買いは、会社の資本を用います。そのため、当然ですが自己資本比率が低下します。

自己資本比率の低下は、投資家や株主から財務リスクがあると受け取られる可能性もあります。株主や投資家に「財務状況が悪化した」と受け取られないよう、自社株買いは自己資本比率が高い状態で臨むのが良いでしょう。

自社株買いによるリスク②企業成長の阻害

自社株買いは、計画をするにも、実行するにも、多くの時間や多額の資金を含む経営リソースが必要です。

自社の成長に欠かせない設備投資や研究開発など、自社の経営計画に沿った事業活動に支障をきたすことがないかどうか、しっかりと確認をした上で検討を進めましょう。

自社株買いを発表した企業事例

自社株買い

冒頭でも触れましたが、上場企業の自社株買いが近年急増しています。2024年は、5割を超える日本の上場企業が過去最高ペースで自社株買いと増配を実施する方針を示しています。

そこで、ここからは直近2ヶ月以内(2024年6月現在)に自社株買いを発表した企業をいくつかご紹介します。

早稲田アカデミー(4718)

発表日:2024年5月27日
発行済株式総数に対する割合:2.5%
取得期間:5月28日

伊藤園(2593)

発表日:2024年5月30日
発行済株式総数に対する割合:1.13%
取得期間:6月4日〜6月28日

東洋水産(2875)

発表日:2024年6月4日
発行済株式総数に対する割合:2.45%
取得期間:6月4日〜6月5日

日本ガス(8174)

発表日:2024年6月25日
発行済株式総数に対する割合:1.3%
取得期間:6月26日〜12月31日

サワイグループHD(4887)

発表日:2024年6月25日
発行済株式総数に対する割合:15.8%
取得期間:7月1日〜3月31日

自社株買いは過去最高ペースで実施を発表

自社株買い

今回は、自社株買いの意味や目的、懸念されるリスクや実際に自社株買いを発表した企業などについて詳しくご紹介しました。

メリットの多い自社株買いは、現在多くの上場企業が過去最高ペースで実施しています。実行を検討する際には、目的を明確にした上で、本記事で触れたようなリスクも考慮しつつ進めてみてください。

 

なお、自社株買い(自己株式の取得)については2024年に上場企業が開示した中期経営計画上でもホットワードとして出現率が上昇した注目ワードとなっております。

【速報】2024年最新中期経営計画におけるホットワードは? ー 中計開示企業の1/3が新中期経営計画を公表!激動のビジネス環境における話題のホットワードは? ー

 

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監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。