注視される再生可能エネルギー発電施設の遵法性~法的観点からのリスクヘッジの意義~
はじめに
再生可能エネルギー※1は第7次エネルギー基本計画※2において我が国の主力電源として位置付けられ、社会インフラとしての重要度が高まるなかで、再生可能エネルギー発電施設に対する遵法性がより注視されるようになっている。
FIT制度(固定価格買取制度)※3が開始されて以降の再生可能エネルギー市場を振り返ると、同制度の実施により再生可能エネルギー発電事業をビジネスチャンスと捉えた民間による事業参入が活発化した一方で、自然環境や周辺住民への配慮を欠いた再生可能エネルギー発電施設(特に太陽光発電施設)の乱開発が一部でみられるようになった。これに対して、国は2016年の法改正※4により再生可能エネルギー発電事業計画認定制度を制定し、その翌年には事業計画策定ガイドラインの策定を行い、事業者に対して事業実施中及び終了後において法令を遵守した適切な対応を要請した。また2024年の法改正ではその要請を厳格化し、再生可能エネルギー発電施設の建設等の遵法性などについての周辺住民への説明会の実施をFIT・FIP※5認定要件とし、発電事業譲渡の際にも説明会の実施による周知を徹底するよう求めるほか、重大な法令違反が認められる事業者には交付金の一時停止・返還命令措置を講じることができるようになった。こうした措置により、遵法性を欠いた事業はその継続性の確保が困難になる可能性があるため、当社においても再生可能エネルギー発電施設の法的観点からのデューデリジェンスを受託する機会が増加している。
本レポートでは、近年の電源別再生可能エネルギー発電量の推移と再生可能エネルギー発電事業に対する自治体の動きを確認し、交付金が一時的に停止された重大違反の事例や過去に当社の調査で発覚した法的瑕疵の事例を交えながら、法的観点からのリスクヘッジの重要性について述べる。
一次エネルギー発電電力量の推移
【図表1】は過去の一次エネルギーによる発電電力量の構成の推移を表している。
現在も石炭、石油、天然ガスといった化石燃料が主体であることに変わりはない。しかし、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法が施行された2012年の翌年以降、再生可能エネルギーの発電電力量は増加の一途を辿っており、特に太陽光による発電電力量の増加は著しく、2012年度の66億kWhから2023年度は965億kWhとその増加幅は実に約14.6倍に至っている。また再生可能エネルギー発電電力量の構成比も2012年度の10.0%から2023年度は22.9%と大きく上昇していることからも、国による再生可能エネルギー推進のための法整備の効果がうかがえる。そのほかにも、国は2022年にGX(温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立を目指す社会変革の取り組み)実現に向けた基本方針を打ち出し、直近では第7次エネルギー基本計画の中で、2040年度の温室効果ガスの削減割合目標を2013年度比で73%(2022年度実績では22.9%)と設定した上で、再生可能エネルギーの電源構成比が4~5割程度となる見通しを立てている。これにより、再生可能エネルギーは火力発電を上回る最大電源となり、今後も国による導入を促進させるための支援が期待できる状況にあると考えられる。
再生可能エネルギー発電設備の設置・規制に関する条例の制定状況
前述の通り、再生可能エネルギーによる発電電力量は増加傾向にある一方、自然環境への悪影響や防災・住環境面での周辺住民に対する配慮不足が懸念され始めた。これに対して先にも述べた通り、国は2017年に再生可能エネルギー発電事業計画策定に関するガイドラインを策定したが、自治体単位でも、特に自然環境や周辺住民への影響が懸念された太陽光発電設備の設置・規制に関する条例を独自に制定する動きが強まった。
【図表2】は2014年以降の各年で制定された太陽光発電設備の設置・規制に関する条例数の推移を表している。2014年は1年間で2個(2市)のみの制定であったが、ピークの2022年には1年間に48(48市町村)もの条例が制定されている。なお、現在条例を制定した市区町村が最も多い都道府県は長野県(34市町村)である。また、条例という形式だけでなくそのほかガイドラインや指導要綱の策定で対応している自治体も見受けられる。
これら条例やガイドラインは、設置されている太陽光発電設備の場所や規模等を自治体が正確に把握した上で、設置に関わる行政関連部署との協議や手続きを適切に行っているかをチェックする機能を有している。なかには、太陽光発電設備の設置を禁止する区域を設定し、設置の際には都道府県知事または市区町村長の許可を必要とすることを規定した条例やガイドラインもあり、規制内容は自治体によってさまざまであることから、個別に確認する必要がある。
このように、国だけでなく自治体も再生可能エネルギー発電事業の安全性や遵法性について敏感になっており、現在再生可能エネルギー発電設備の設置に関する条例やガイドラインが制定されていない自治体であっても、今後の動向に留意すべきである。
国による交付金の一時停止命令を伴った法令違反事例
先にも述べたが、2024年の法改正により重大な法令違反が認められる発電施設の事業者に対して、その違反行為の早期是正を促すことを目的として、交付金の一時停止等命令の罰則を課すことができるようになった。当然ながら、それ以前にも甚大な災害を引き起こしかねない法令に違反した発電施設(事業者)は存在したが、具体的な罰則規定がなかったため国や自治体の対応は行政指導にとどまっていた。今回の法改正はそのような状況を転換するための対応であったといえる。
【図表3】は今年度実施された交付金一時停止措置の事例であり、①⑤は森林法、②③⑥⑦は農地法(うち、②⑥⑦は営農型)、④は宅地造成及び特定盛土等規制法(通称「盛土規制法」、旧宅地造成等規制法)に基づくものである。森林法に関連した①⑤のなかには、林地開発許可を受けずに土地開発が行われていた事例もあり、これは開発に伴う大規模な土砂災害等の危険性を顧みない極めて悪質な法令違反事例である。②⑥⑦の営農型とは土地を農地として利用し、その上部空間にパネルを設置することで、太陽光を農業生産と発電で共有する仕組みであり、この場合パネルを支える柱接地箇所についての農地一時転用許可が必要となる。今回措置の対象となった事例は、この一時転用許可の期間終了後も更新申請を行わずに発電事業を継続していた事例や農地としての適切な利用が確認できなかった事例などである。なお、①のうち2件については違反状態の解消が確認されたことから、交付金一時停止措置を解除している。
早期の違反是正を目的とした一時的な措置とはいえ、このような事案が発生すれば、その後の発電事業運営に支障をきたすことはいうまでもない。
当社の指摘により是正された事例
当社では主に太陽光発電施設に係る法令等調査を行ってきた。具体的に法令等調査とは、既に発電事業を開始している施設については、新設時に抵触していた可能性のある法令等を洗い出し、当時の発電事業者(EPC事業者)により適切な対応を行っていたかを精査する。建設予定の施設については、今後必要となる行政上の手続きについて調査依頼者や役所へのヒアリングを行い明確化する。【図表4】では、一部ではあるが既存の施設について発覚した法的瑕疵が当社の指摘により是正された事例を紹介する。【図表3】と比較すれば軽微な違反事例ではあるが、昨今の風潮から、たとえ軽微な違反事例であってもその是正を促すため、今後行政により発電事業運営に支障をきたすような罰則を課される可能性があることは否定できない。
おわりに
FIT制度(固定価格買取制度)の後押しがあり、収益の中長期的な安定性が見込まれるようになった再生可能エネルギー発電事業に対してJ-REITや不動産プライベートファンドと同類型の投資ストラクチャーが確立されてきたことで、レンダーやエクイティ投資家など再生可能エネルギー発電事業の利害関係者は広範囲に渡るようになり、セカンダリーマーケットも拡大しつつある。
こうしたなかで再生可能エネルギー発電事業のリスクとして、天候不順や出力制御による売電収入の不確実性が認識されつつある一方で、最近ではこういったリスクを抑制・回避できる蓄電所(系統用蓄電池事業)への投資が活況を迎えつつあるように感じる。しかしながら、蓄電所(系統用蓄電池事業)も含めてすべての再生可能エネルギー発電施設において遵法性の確保は必須であり、たとえ軽微な違反事象であってもこれを排除することが健全な事業計画の遂行につながる。つまるところ施設周辺の自然環境や住民への配慮というだけでなく、利害関係者の利益の保護につながるといえる。
そのためにも、取得や出資を検討している再生可能エネルギー発電施設の法的瑕疵の有無について事前に調査し、それを受けて適切な対応を取ることは、事業の発展継続性において非常に重要であると考える。
※1 太陽光・風力・地熱・水力・バイオマスといった自然界に常に存在するエネルギー。
※2 エネルギー政策基本法(2002年施行)に基づき、エネルギーの安定供給の確保や今後のカーボンニュートラル実現に向けた政策課題や方向性についてまとめたものであり、2025年2月に閣議決定された。
※3 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(2012年施行)に基づき、再生可能エネルギーで発電した電気を国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付けた制度。
※4 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法
※5 卸電力市場で売電する際に、その売電価格に対して一定のプレミアムを上乗せする制度。
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