総研レポート・分析

上場企業の中期経営計画策定傾向(2022年版)

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、上場企業が適時開示を行った中期経営計画の開示傾向についてグループで提供する情報支援ツール”CCReB Clip(ククレブクリップ)”の検索エンジンを活用し、調査を行った。

上場企業のうち中期経営計画を開示している企業は半数。うち約8%は計画期間切れも

2022年11月1日時点で上場企業約3,800社のうち、計画期間が定められている中期経営計画(以下「中計」)を開示している企業は1,945社となっており、そのうち調査日時点で計画期間が切れてしまっている(期間更新された中計の開示が確認されない)企業数は155社と中計開示企業のうち約8%の企業で更新を確認できなかった。

計画期間切れとなっている企業を業種別でみると「サービス業」「機械」「小売業」「電気機器」が突出した件数となった。これらの企業のうち、一部企業では新型コロナウィルスの感染拡大の影響や終息時期が不透明なことを理由に中計の取り下げや次期中計の開示差し控えのリリースが確認されており、未だ新型コロナウィルスの影響で先行き不透明な状態が続いている企業が存在していることが窺い知れる結果となった。

■33業種別_中計開示企業一覧

業種別の開示傾向をみると「銀行業」が約9割と、上場するほぼ全ての銀行が中計を開示している。続いて「鉱業」「石油・石炭製品」「空運業」「電気・ガス業」と会社設立年が一定程度経っている老舗の企業で構成される業種が上位を連ねている。

一方で、下位層に目を向けると「情報・通信業」「サービス業」といった会社設立年が比較的浅い企業が多く集まる業種が集中しており、これらの企業では期間を定めない定性的な中期経営方針を示すにとどめる企業も散見された。

こうした企業群は母数そのものも多く、開示件数としては相当数の件数ではあるが、変化が激しい昨今の経済情勢の中、中計に縛られず柔軟な経営を確保したいという声もあり、一定程度の経営の柔軟性を確保したいという表れだろうか。今後の各社の開示動向に注目したい。

 

中期経営計画の策定・開示傾向は市場区分で明確な差が

中計の開示企業を東証の新市場区分別で調査を行ったところ、プライム企業のうち約7割、スタンダード企業で約4割、グロース企業で約3割と市場区分の階層に倣った形で開示企業件数の割合が推移した。

なお、グロース企業117社のうち前段で触れた「情報・通信業」「サービス業」が占める割合が約6割となっており、これらの業種の新興企業の活況状況が見て取れる。

■市場区分別_中計開示企業数

中期経営計画の策定期間は「3年」がメジャー

中計の策定期間における傾向を調査すると、約7割の企業で3か年を、約2割の企業が5か年を採用していることが確認された。

激変する経済環境下で長期の経営計画を立てることが困難な状況な中、期間「3年」は投資家に対し一定の業績推移の予測を示すことができるという適切な期間として日本ではスタンダードになっており、この傾向は今後も変わらないものと思われる。

なお、長期の策定期間にて中計開示を行っている企業は主に安定した収益源を持つ企業や、インフラ企業などである。

■中計策定期間

以上、本レポートでは上場企業の開示する中計の策定傾向について調査を行った。2019年12月に新型コロナウィルス感染症が確認されて以降、世界的に経営活動が停滞し経営の先行きが不透明になったことから2020年に次期中計の開示タイミングを控えていた企業が相次いで中計の公表見送り・取下げを行っている(2021年4月21日付「2020年度通期企業経営動向に関する考察」参照)。

現時点でも中計公表企業のうち約8%の企業が中計の開示を差し控えているが、一方で2021年743社(全体の約38%)、2022年692社(全体の約36%。11月1日時点)とコロナ発生直後の2020年の292社(全体の約15%)と比較しても2倍超の開示率で進捗しており、withコロナを前提とした生活様式に世の中がシフトしている中、企業経営においても外部環境の変化に呼応した形での経営方針の提示が待った無しに求められていくものと考える。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

 


 

ククレブグループで提供している情報支援ツール”CCReB Clip(ククレブクリップ)”では、日々上場企業が開示する中計を蓄積しており、今回の調査に用いたような中計の開示企業情報の調査の他、中計の中で言及しているワードを任意に設定し、対象企業を調査する検索エンジンを保有している。

各種統計データを作成するにあたり、是非、当該サービスをご利用頂き、効率的・網羅的な情報収集・分析作業にお役立て頂きたい。


 

免責事項

※CCReB Clipで扱う中期経営計画はククレブ・アドバイザーズ株式会社にて独自に収集を行ったものであり、網羅性をお約束するものではございません。

※当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。