総研レポート・分析

【資本効率向上】東京証券取引所の要請後における上場企業の経営戦略について

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、東京証券取引所(東証)が、「プライム市場」と「スタンダード市場」に上場する約3,300社に対し、株価水準を分析して改善するための具体策の公表を要請したことを受け、上場企業の経営戦略について最近のトレンドを調査した。

参考:「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html

 

資本系ワードの出現率が急上昇

東証が上場企業に対し要請を行ったのが2023年3月31日であったことから、それ以降において企業が公表した中期経営計画(中計)を当社が展開する不動産テックシステム“CCReB AI”とB2Bポータルサイト”CCReB GATEWAY”のホットワード機能を活用して分析を行ったところ、まず2023年4月1日から9月30日までに中計を公表した社数は約550社であり、そのうち資本系ワード(資本コスト・資本効率・資本収益性)を経営課題として言及した社数は166社と公表全体の約30%に上り、株式市場との対話を重視する東証の要請に沿った形となっている。

さらに直球となるが、「PBR1倍割れ」という言葉を最近よく耳にするようになったが、このPBRワード(PBR向上・PBR1倍割れ)を経営課題として言及した社数は64社と全体の約12%に上った。このような流れからも分かるように、企業側も株価向上にむけた戦略を具体的に迫られ、中計において経営戦略の強いメッセージを発信している模様である。

なお、同様にROEの向上に関しての言及も多くの企業で見られるが、こちらについてはこれまでも当総研レポートにおいて触れてきているため下記リンクを参照されたい。

ROICとは?2023年注目の経営指標(2022年総括)~ROIC達成のカギはオフバランスにあり?~

 

発信方法について

東証の要請を受け具体策を公表する流れの中、多くの企業は中計においてその対策に触れているのがほとんどであるが、中計とは別の形で個別にリリースを行っているケースもある。CCReB GATEWAYのIRストレージ機能※を活用して、企業の発信方法を調査したところ、プレスリリースのタイトルとしては、

「資本収益性向上に向けた取り組み状況について」
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」

というタイトルで中計とは別(具体策の中身は中計を参照という形態が多いが)にプレスリリースを行っていることが確認できた。東証の要請以後のリリース本数として、本レポート執筆時点において28件確認できており、東証要請前には当然ながらこのタイトルでのリリースは行われていないことから、東証の要請を受けた具体策の公表という意味合いと言える。

 

※東証が展開するTDNETとAPI連携により開示資料のほぼすべてを取り込み、リリースを分類することで検索し易い形で提供。会員登録(無料)頂ければ日々企業から開示されるプレスリリースをチェックすることが可能です。また、お気に入り登録をすれば登録企業からリリースが出た際に自身の登録メールに新着通知を受け取ることも可能です。
IRストレージ | CCReB GATEWAY(ククレブ・ゲートウェイ) (ccreb-gateway.jp)

 

リリースの中身について

公表されているリリースの中身については、大きく、

①KPI目標(売上、営業利益率、ROIC、ROE、PBR等)
②当期純利益率の改善、総資産回転率の改善、株主還元の強化

この2つから構成されているリリースが多い印象である。これは、PBRの分解式が、

PBR(株価純資産倍率)= ROE(自己資本利益率)× PER(株価収益率)

となり、今経営課題となっているPBRを向上するためには、ROEを向上させなければならず、そのROEをさらに分解すると、

ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

となることから、ROEを向上させるための施策を分解してKPIとして目標を掲げ、各構成要素に関し具体的な戦略を策定しており、結論、資本収益性を向上させることが、結果PBRの向上につながると言える。

総資産回転率の改善などでは、サプライチェーンの見直しや、部材費が高騰する中、仕様を標準化し必要なパーツの数を削減するなど、徹底した見直しを具体策に掲げる企業(株式会社小田原機器(輸送用機器))や、ROEの向上に資する経営戦略の観点から、財務・資本戦略として、現預金の活用、保有資産の売却、株主還元の強化や、PERの向上に資する経営戦略の観点から、IRの強化、情報開示の充実などを具体策に掲げる企業(立川ブラインド工業株式会社(金属製品))など、各社具体的な施策を立てている。

詳しくはCCReB GATEWAYのIRストレージの条件検索機能から、キーワード「資本コスト」と入力し、各社のリリースをご確認頂きたい。

なお、サプライチェーンの見直しや保有資産の売却などは、不動産戦略(CRE戦略)の一環であり、ROE向上の鍵となる総資産回転率にダイレクトに影響する戦略であることから、今後各企業において具体的な戦略実行が増加するものと思われる。

CRE戦略とは?PBR1倍割れ企業が続出する現状におけるCRE戦略の重要性を専門家が簡単に解説!

 

最後に

以上、2023年3月の東証の資本コスト改善の要請に関しての企業側の対応を見てきた。今回の東証のメッセージにより企業側が具体的なアクションを取り始めているのは事実であり、その結果PBR1倍割れ銘柄は4月以降、徐々に減少している模様である。

もちろん全てが施策の結果とは言えないと思われるが、企業がPBR1倍割れという「企業価値棄損」状態から「企業価値を創造」する経営戦略を実行し続けることが重要であり、当社としても今後も各企業の状況をウォッチするとともに、定期的に発信することで企業価値創造のソリューションを提供していきたいと考える。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。