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人手不足を解消する10個の解決策。人手不足の原因と背景、企業の成功事例も詳しく解説

近年、慢性的な人手不足は多くの日本企業において喫緊の課題となっています。

帝国データバンクの調査によると、2024年度の業績の下振れ要因として最も多かったのが「人手不足の深刻化」だといいます。実際に、2023年度の人手不足に起因する倒産件数は313件となり、過去最多を記録しました。

そこで本記事では、日本における人手不足の原因や背景、解決策を詳しく紹介します。

人手不足の課題を解決した企業の取り組みも紹介しているので、人手不足を解消したい経営者や担当者の方はぜひ参考にしてください。

人手不足が起こる社会的要因

人手不足が起こる原因

人手不足に陥る企業の割合は年々増加傾向にあります。帝国データバンクの調査によると、正社員が不足していると回答した企業の割合は51.0%と、高止まりが続いています。

なぜ、これだけ慢性的な人手不足が起こってしまっているのでしょうか。人材不足に大きな影響を与えている原因と背景は次の4つです。

  • 少子高齢化
  • AIへの対応など高いスキルを持つ人材を確保できない
  • 採用コストの高騰
  • 社内体制の問題

それぞれ詳しく解説します。

参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024 年 4 月)」

原因①:少子高齢化

人手不足解消
出典:厚生労働省 我が国の人口について

日本企業の人手不足には、「少子高齢化」が大きく関係しています。

日本の人口は減少を続けており、厚生労働省によると2070年には総人口が9,000万人を切り、高齢化率は39%の水準になると推計されています。

また、団塊の世代が全て75歳以上となる2025年には、75歳以上の人口が全人口の約18%を占め、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%をも占めると推計されています。

こうした人口減少、特に働き盛りの若い世代の減少は、人手不足に大きく影響をもたらしています。

少子高齢化は今後も深刻化すると言われており、それに伴って人手不足に悩まされる企業も増加すると見られています。

原因②:AIへの対応など高いスキルを持つ人材を確保できない

近年の急速なデジタル化に伴い、求職者には高いスキルが求められるようになりました。

一方で、現在AIやIoTのような最先端技術のスキルを持った人材は少なく、必要な人数を確保できている企業は多くありません。

このような高いスキルを持つ人材は好条件で大手企業に採用されやすく、中小企業が優秀な人材を集めることは難しい場合が多いです。

これからの社会に対応できる高いスキルを持った人材が少ないことも人手不足の原因です。

原因③:採用コストの高騰

企業が積極的に採用活動を行う場合、広告宣伝費や人材紹介料に多くのコストがかかります。

広告宣伝費や人材紹介料は年々増加傾向にあるため、事業規模が小さい企業であればそれだけ採用に予算をかけることができず、優秀な人材の確保が難しくなります。

つまり、採用コストの高騰により採用活動が思うようにいかず、人手不足に悩まされる企業が増えるのです。

原因④:働き方や生活様式の多様化

働き方改革の推進や新型コロナウイルスの感染拡大以降の生活様式の大きな変化、終身雇用という考え方の希薄化など、近年は働き方や生活様式が多様化しています。

そのため、多様な働き方に対応した職場環境を整備することができなければ、人材採用はもちろんのこと、社員の定着率も下がってしまいます。

テレワークやハイブリッドワークの導入など、ライフスタイルに合わせた働き方を可能にしたり、妊娠・出産・育児などのライフイベントを経てもキャリアの停滞が起こらないような評価制度の見直しなど、「働き続けたい」と思える職場環境を整えることが人材確保には求められます。

人手不足が顕著な業界

人手不足が目立つ業界
出典:厚生労働省 人手不足の現状把握について

企業の人手不足は、企業の事業規模だけでなく業界によってもばらつきがあります。

厚生労働省によると、人手不足は産業別・企業規模別に大きな差があることが報告されています。

各業界の中でも、特に人手不足が深刻化している業界は以下のとおりです。

  • 運輸業・郵便業
  • サービス業
  • 医療・福祉
  • 宿泊業・飲食サービス業
  • 建設業

人手不足は多くの企業が抱える問題ですが、特に建設業やサービス業などの「肉体労働」を行っている業界では人手不足の問題が顕著に現れています。

このような業界では、「肉体労働で仕事がきつい」「夜勤の勤務がある」「給与水準が低い」ことが課題となり、人手不足の問題が深刻化しています。

人手不足が企業に与える影響

人手不足が企業に与える影響

企業が人手不足に陥ると、経営面に関する様々なデメリットが発生します。

人手不足が企業経営に与える具体的な悪影響は以下の2つです。

  • 影響①:労働環境の悪化
  • 影響②:生産性の低下

それぞれ確認します。

影響①:労働環境の悪化

企業が人手不足に陥ると、社内の労働環境が悪化します。企業内で対応すべき業務が一定量ある場合、それらの業務が現在勤めている従業員に分散されます。

一人あたりに割り振られた仕事量が多い場合、残業が発生します。

長時間労働は社員に多くのストレスがかかるため、社内の雰囲気が悪くなることが懸念されます。その結果、社員の退職につながるといった悪循環が発生します。

影響②:生産性の低下

企業の人手不足は会社全体の生産性を低下させる可能性があります。

例えば、10人で取り組めば100%の利益を出せる案件があったとします。

しかしながら人材が3人のみであれば、それぞれが本来の3倍以上の力を発揮しなければ100%の利益を生み出せません。一人一人が3倍以上の力を発揮するのは現実的ではないでしょう。

このように、人手不足になると、一人一人の業務だけでは対応できなくなり、会社全体の生産性の低下につながります。

その結果、本来であれば得られるはずの利益を取りこぼしてしまうことになります。

企業が人手不足を解消するには?具体的な方法10選

企業が人手不足を解消するには?具体的な方法10選

企業が人手不足を解消するためには、様々な工夫が必要です。

企業における人手不足解消のための具体的な方法は以下の10個です。

  • IT化の促進
  • アウトソーシングの活用
  • 外国人労働者の採用
  • 労働条件の改善
  • 職場環境の改善
  • 障害者の積極採用
  • シニア世代の再雇用
  • 教育環境の整備
  • 業務プロセスの見直し
  • フリーランスなどリモートワークの採用

1つずつ確認します。

方法①:IT化の促進

企業が人手不足を解消するためには、社内のIT化を進めることが有効です。

社内でIT化を促進させることで、人手不足により各従業員が分担していた業務を効率化することができます。

また、社内でコミュニケーションツールを上手に活用することで情報共有にかけるコストを減らし、事業をより円滑に進めることが可能です。

方法②:アウトソーシングの活用

企業の人手不足による従業員の労働負荷を減らすためには、アウトソーシングの活用が有効です。

アウトソーシングとは従来組織内部で行なっていた業務を外部に委託することです。

アウトソーシングを活用することで事務処理や経理業務などを外部に任せることができ、余った労働力を本来企業として取り組むべき事業の人手にあてることができます。

方法③:外国人労働者の採用

日本では少子高齢化が進んでおり、国内の労働人口は今後も減少し続けることが予測されます。

そのため、企業が国内人材に対する採用活動を行なったとしても、日本全体で雇用できる労働人口には限りがあります。

企業が人手不足を解消するためには国内の人材だけでなく、外国人労働者の採用にも目を向けることが重要です。

新型コロナウイルスの感染拡大以前は、日本へ出稼ぎに来る外国人労働者は増加傾向にありました。

状況が収まり次第、再度増加傾向になると想定できます。

外国人労働者を雇用するためには、寮を完備するなど待遇面を充実させることで効率的な人材獲得につなげることができます。

方法④:労働条件の改善

企業が人材不足を解消するためには、労働条件の改善が重要です。

給料が安い会社や労働時間が長い企業には、良い人材は集まりません。

労働者の待遇面の充実やテレワークのような働きやすい制度を導入することで人材を採用しやすくなります。

方法⑤:職場環境の改善

人材の離職率が高いことで人手不足に陥る会社は、職場環境を改善する必要があります。

パワハラやセクハラが日常的に発生する職場では、人材が定着しません。

風通しの良い職場環境を作れるように、社内のガバナンスを徹底することが重要です。

方法⑥:障害者の積極採用

障害者を積極的に採用することで、企業の人手不足の解消につながります。

採用する人材は、健常者でなければならないわけではありません。

雇用の条件を広げて障害者でも取り組める業務を任せることで、人手不足を解消できます。

また、障害者の雇用は人手不足を解決するだけでなく企業イメージの向上にもつながるため、ぜひ導入を検討してみてください。

方法⑦:シニア世代の再雇用

シニア世代の再雇用は、企業の人手不足解消に効果的です。

多くの企業では労働者が60歳〜65歳で定年を迎え退職します。

シニア世代の再雇用

 

出典:総務省統計局「人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)

人数が多いシニア世代を再雇用することで企業の人手不足解消につながります。

方法⑧:教育環境の整備

企業が人手不足を解消するためには、従業員のスキルを高める環境を整備することが重要です。

AIやIoTのような高度なスキルの人材を採用するのは難易度が高いです。

社内の教育環境を整備し、現在いる従業員のスキルを高めることで、今後の会社にとって必要なスキルを持つ人材を確保することができます。

方法⑨:業務プロセスの見直し

企業が人材不足を解消するためには、採用面だけでなく業務プロセスの見直しが重要です。

業務の中で無駄な仕事や業務プロセスの中で非効率な業務を改善することで、最小限の人材で既存の業務に対応することができます。

また、業務プロセスを見直してマニュアル化することができればさらなる業務の効率化につながるのでおすすめです。

方法⑩:フリーランスの採用

人材不足に悩んでいる企業は、フリーランスを活用することがおすすめです。

IT技術の発達により、会社内で直接雇用しなくともWeb周りの仕事や事務作業に関する仕事をフリーランスに委託することができます。

フリーランスは正社員の雇用形態とは違うので、必要な業務を必要なタイミングで対応することができ、長期的な支出にならないような契約を締結することもできるでしょう。

フリーランスに仕事を任せることで、従業員が本来取り組むべき仕事に集中することができ、人手不足の解消にもつながります。

人材不足を解消した企業の事例

人材不足を解消した企業の事例

人手不足を効率的に解消するためには、これまで人手不足解消に成功した企業の成功事例を参考にすることがおすすめです。

人材不足解消による前例を持った企業は以下の通りです。

  • 株式会社エンファクトリー
  • 東洋システム開発株式会社
  • 株式会社レキサス
  • 兵庫ベンダ工業株式会社

それぞれ確認します。

事例①:株式会社エンファクトリー

株式会社エンファクトリーは、東京都でショッピング事業やマッチング事業を展開している会社です。

株式会社エンファクトリーでは、従業員のスキルを向上させるために専業を禁止して副業を推奨しました。

従業員が副業の時間を確保するために業務の効率化を考えるようになったため、結果的に効率の良い業務・人手不足の解消につながりました。

事例②:東洋システム開発株式会社

東洋システム開発株式会社は、東京でソフトウェア開発事業を展開しています。東洋システム開発株式会社では、人手不足を解消するために外国人労働者の雇用に力を入れました。

外国人労働者に安心して働いてもらうために外国人労働者向けの寮を完備し、給与形態を国籍によって区分しないなどの前向きな取り組みを行いました。

企業が人手不足を解消するための1つの手段として、「外国人労働者の雇用」が有効です。

事例③:株式会社レキサス

株式会社レキサスは、沖縄で情報通信業を営む企業です。レキサスでは、成長意欲の高い人材が都市部へ流出してしまうため、優秀な人材を確保できないことに悩んでいました。

レキサスは、この現状を打破するために社内体制や待遇を見直すことで、人手不足の問題に取り組みました。

具体的には、1ヶ月に32時間まで利用できるテレワーク勤務制度やフレックス制度を導入し、個人のライフスタイルを尊重する労働環境を整備しました。

個人のライフスタイルを尊重する環境を整備したことで県内の優秀な人材の確保につながり、定着率の向上や女性社員の増加につながりました。

事例④:兵庫ベンダ工業株式会社

兵庫ベンダ工業株式会社は、兵庫県で製造業を営む企業です。兵庫ベンダ工業では、会社が地方にあるため優秀な人材を採用できないことを課題に感じていました。

また、採用したとしても3年程度で約半数の従業員がやめてしまうという現状から、深刻な人手不足に悩んでいました。

優秀な人材を確保するため、兵庫ベンダ工業では、労働者が働きやすいよう雇用条件の改善に取り組みました。

具体的には、子育てや介護による離職を防ぐための「テレワーク制度」や「育児教育手当制度」などを導入しました。

その結果、従業員の満足度は向上し離職率は大きく低下しました。また、雇用条件を改善することで都市圏の優秀な人材の確保にもつながりました。

人手不足に悩む企業は雇用条件の見直しやテレワーク制度の導入など、労働者が働きやすい環境を整備することが大切です。

優秀な人材を確保してより良い企業経営につなげよう

今回は、日本における人手不足の原因や背景、解決策、人手不足解消に成功した企業事例についてご紹介しました。

日本の企業は少子高齢化や採用コストの高騰により、今後さらなる人手不足が予想されます。人材不足に課題を感じている企業は、優秀な人材を確保して、より良い企業経営につなげましょう。

本記事が、御社の人材不足解消のためのヒントになりましたら幸いです。

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監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

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