総研レポート・分析

農地活用の拡大と不動産価値の考察 ~多様化する農地活用と評価~

■農業分野への新規参入状況

 日本の農地及び採草放牧地(以下、「農地等」という。)については、永らく個人が所有・経営していたが、農業従事者の高齢化による後継者問題や、耕作放棄に起因する耕地面積の減少等の構造的な課題の解決に向け、農地法改正による新規参入促進が図られてきた。2009年(H21)の農地法改正では、株式会社等の賃借によるリース方式での参入が完全自由化となり、農業生産法人の要件を緩和し、食品関連企業等からの出資が2分の1未満まで可能となった[1]。2016年(H28)の農地法改正では、農業生産法人から呼称変更した「農地所有適格法人」について、農地を所有できる法人要件等が緩和された[2]。
 こうした規制緩和により、リース法人数は2009年の427法人から2020年は3,867法人と、改正前の約9倍となっている。農地所有適格法人は2016年の16,207法人から2021年の20,045法人まで増加している(図表1)。

図表1)農業法人数の推移

出典:農林水産省経済局 リース法人数は各年末データ、農地所有適格法人数は各年1月1日現在。

 

■農地利用の多様化

 法人(リース法人、農地所有適格法人)の農業への参入が増加したことで、農地の利用方法も多様化している。最近の例として、営農型太陽光発電と市民農園について紹介する。

ケース1. 営農型太陽光発電

 農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組である。作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入や発電電力の自家利用等による農業経営の更なる改善が期待できる。
 営農を適切に継続しながら上部で発電設備を設置するためには、農地法に基づく一時転用許可が必要になり、設備設置の許可件数は2019年までの累積で2,653件(図表2)、面積は742haとなっている。

図表2)営農型発電設備を設置するための農地転用許可件数

出典:農林水産省農村振興局「営農型太陽光発電設備設置状況詳細調査令和元年度末現在)調査結果について」

 

ケース2. 市民農園

 市民農園とは、レクリエーション、高齢者の生きがいづくり、生徒・児童の体験学習などの多様な目的で、農家以外の人々が小規模農地を利用して自家用の野菜や花を栽培する農園のことである。農林水産省農村振興局データによると2021年3月現在で全国に4,211の市民農園があり、立地は、都市的地域[3]が3,415と全体の約81%となっており、都市部近郊の農地活用として市民農園が選択されていることがわかる(図表3)。

図表3)市民農園の農業地域類型別開設状況

 

■農地の不動産価値の捉え方

 不動産鑑定評価では従来、農地を農地として鑑定評価することはできなかったが、2018年の農地の鑑定評価に関する実務指針[4]にて、農地を鑑定評価する際の実務指針が示された。
 不動産の鑑定評価は原価法、取引事例比較法、収益還元法の3手法を併用することとされており、農地においても同様となる。
 収益還元法については、収益価格は、農地等に帰属する純収益÷還元利回りとして求める。 農業経営に基づく評価のポイントとしては、以下の点が挙げられる。

【総収益】
・農業収入のほかに、営農型太陽光発電施設や市民農園を運営している場合はその利用料が加算される。
・営農型発電施設を有する農地(ソーラーシェアリング)では、ソーラーパネルの遮光により農作物が限定されることや、一定の減収が見込まれる場合がある。

【費用】
・総費用のうち物材費は種苗費、肥料費、農業薬剤費、光熱動力費、その他の諸材料費、貸借料、農機具費等、公租公課等であるが、近年では肥料費や光熱動力費の上昇が費用増加の要因となっており、留意する必要がある。
・労働費は、農業経営を行う場合に必要となる雇用量である。市民農園を運営する場合には、農業指導者への給与等となる。

【還元利回り】
・還元利回りは、自然環境条件の変化、経営規模、生産性、収益性等を考慮する。

 農地としての客観的な評価においては事業内容に沿う多様なデータの把握や事例の収集等においてノウハウが必要だが、これから市場でのデータを観測収集することで、より精度の高い価格アプローチが可能となり、長期的には企業の農業参入や、金融機関等の融資の後押しとなることが期待される。

 

■今後の農地活用の見通し

 2023年(R5)の農地法改正では、農地の取得後の下限面積要件が廃止になる。農地の権利移動(賃借を除く)には農地法3条の定める条件に基づいて、農業委員会の許可が必要となるが、経営面積が小さいと生産性が低く、農業経営が効率的かつ安定的に継続して行われないことが想定されるため、許可後に経営する農地面積が一定(都府県:50a、北海道:2ha)以上にならないと農業委員会の許可が下りないものであるが、制度上、地域の平均的な経営規模や遊休農地の状況などから、地域の実情に合わない場合には農業委員会の判断で下限面積を引き下げ、『別段の面積』を定めることができることになっている[5]。2023年(R5)4月1日から、この別段の面積(下限面積)が撤廃されるため、滞在型農園(週末のセカンドハウスと農地所有)等、小規模の事業で個人や企業等が参入しやすくなり、活用の多様化が促進されるものと考えられる。

 

[1] 農林水産省:改正農地法について/「農地法等の一部を改正する法律」について(平成21年12月15日施行)
[2] 農林水産省:平成27年農地法改正について
[3] 都市的地域とは、農林統計に用いる地域区分(農業地域類型)であり、次のいずれかを指す。
 ・可住地に占めるDID面積が5%以上で人口密度500人以上又はDID人口2万人以上の旧市区町村又は市町村。
 ・可住地に占める宅地等率が60%以上で、人口密度500人以上の旧市区町村又は市町村。ただし、林野率80%以上のものは除く。
[4] 「農地の鑑定評価に関する実務指針」2018年3月公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会
[5] 農地法第3条第2項第5号、農地法施行規則第17条第1項および第2項

 

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