差別化戦略とは?メリット・デメリットや実践方法、企業の成功事例などを分かりやすく解説
企業価値創造を考える上で、差別化戦略の構築は必要不可欠です。
本記事では、マイケル・ポーター氏が「競争優位の戦略」の一つとして提唱した「差別化戦略」の概要と、企業が導入するメリット・デメリット、実践方法や役立つフレームワーク、押さえるべきポイントや注意点を詳しく解説します。
最後に差別化戦略を活用した企業の成功事例も紹介していますので、差別化戦略について詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
差別化戦略とは
差別化戦略とは、付加価値の高い商品・サービスを提供することで、他社との差別化を図る戦略です。
アメリカの経営学者マイケル・ポーター氏が「競争優位の戦略」のひとつとして提唱した理論になります。
このマイケル・ポーター氏が提唱した「競争優位の戦略」では、次の3つを企業の基本戦略としています。
・コストリーダーシップ戦略
・差別化戦略
・集中戦略
それぞれ詳しく説明します。
マイケル・ポーターの3つの基本戦略とは?
差別化戦略を含む、マイケル・ポーター氏が提唱した企業が競争に勝つための3つの基本戦略、「コストリーダーシップ戦略」、「差別化戦略」、「集中戦略」について解説します。
コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略とは、競合他社と比べてコストを低く抑えることで、競争における優位性を確保する戦略です。
コストを他社よりも低く抑えられると、市場価格を下げても収益を担保することができます。そうすることで、市場価格の下落によって収益を担保できなくなった他社は市場から撤退していきます。
単なる安売り(低価格戦略)とは異なる点がポイントです。
コストリーダーシップ戦略については、こちらの記事でも詳しく解説いていますので合わせてご覧ください。
差別化戦略
差別化戦略とは、付加価値の高い商品・サービスを提供することで、他社との差別化を図る戦略です。
商品の機能性、品質、技術力、ブランドイメージ、顧客対応など、競合他社にはない、自社独自の特徴や特異性を強みに差別化を図ります。
差別化戦略については、本記事でより詳しく解説していきます。
集中戦略
集中戦略とは、ターゲットや事業領域を特定の狭い範囲に絞り込み、自社の経営資源を集中的に投資していく戦略です。
特定のターゲットや領域に集中して経営を行うことで、限られた経営資源でも大きなリターンを得ることができます。
そのため、中小企業など経営資源が少ない企業の場合でも、特定の層に需要がある商材や、得意とする市場がある場合は非常に有効で、資本や規模が小さい企業であっても大企業に対抗できる戦略の一つとして知られています。
差別化戦略を企業が導入する5つのメリット
差別化戦略によって、主に以下の5つのメリットが得られます。
・自社の強みの明確化
・価格競争からの脱却
・利益率向上
・ブランド力向上
・市場へ他社が新規参入することへの抑制
それぞれ詳しく解説していきます。
自社の強みの明確化
差別化戦略を成功させるためには、客観的な視点で市場分析を行う必要があります。
担当者や担当部署が感覚的、主観的に把握している自社の強みや課題は、実際の状況とずれている可能性もあります。
様々なフレームワークを活用しながら自社の強みや、市場におけるポジションを客観的に分析し把握することで、より効果的な戦略を練ることができるようになります。
価格競争からの脱却
差別化戦略とは、競合他社にはない、自社独自の特徴や特異性を強みに差別化を図る戦略です。
つまり、差別化戦略が成功している状態とは、競合他社と製品の基本機能やサービス内容などが似ていたとしても、顧客からは自社にしかない付加価値が認められている状態を指します。
そのため、顧客は価格ではなく付加価値を理由に自社製品・サービスを購入するので、競合他社との価格競争に巻き込まれにくくなります。
利益率向上
差別化戦略に成功すると、先述の「価格競争からの脱却」でも説明したように、顧客からは、「価格」ではなく「付加価値」を理由に支持を得ることができます。
そのため、価格競争や低価格戦略から脱却することができ、利益率の向上に繋がります。
ブランド力向上
差別化戦略とは、自社にしかない特徴や特異性をアピールし、顧客に価値を感じてもらうことで差別化を図る戦略です。
自社製品やサービスの付加価値が上がることで、自社のブランド力向上に繋がります。
自社のブランド力向上は、マーケティングだけではなく、採用や広報においても大きな効果を発揮します。
市場へ他社が新規参入することへの抑制
先述の「ブランド力向上」の部分でも述べた通り、差別化戦略は自社のブランド力向上に繋がります。
これにより、自社製品・ブランドが市場内で確固たる地位を築くことができると、他社が新規参入してくるのを抑制することにも繋がります。
差別化戦略を企業が導入する3つのデメリット
差別化戦略には企業にもたらすメリットがいくつもある一方で、注意点もあります。具体的には、以下の3つです。
・既存顧客が離れる可能性がある
・競合他社への顧客流出
・実施までのリサーチにある程度のリソースが必要
それぞれ詳しく解説します。
既存顧客が離れる可能性がある
大好きなブランドがリブランディングを行い、「前のイメージの方が好きだったのに……」と感じたことはありませんか?
このように、差別化戦略は失敗すると既存顧客を失ってしまう可能性があります。
このような失敗を防ぐためにも、市場環境の調査や、自社が支持されている理由、顧客が自社に価値を感じているポイントなどを、正しく分析・把握する必要があります。
競合他社への顧客流出
差別化戦略として実施した差別化の付加価値を顧客が感じられなかった、あるいは受け入れられなかった場合、「ただ価格が高くなってしまった」と捉えられかねません。
そうすると、価格設定が安い競合他社へと流れてしまいます。結果として、市場シェアを失うことに繋がりかねません。
実施前のリサーチにある程度のリソースが必要
先述の「既存顧客が離れる可能性がある」、「競合他社への顧客流出」というデメリット2つを避けるためには、綿密な事前リサーチが必要になります。
差別化戦略に限らず、企業が戦略や変革を実行する際にはリサーチや分析が必要不可欠です。
自社にとって効果的な戦略は何なのか、正しく判断するためにも、客観的かつ多角的な視点で市場環境や自社の強みや課題を把握・分析する必要があるため、ある程度のリソースが必要であることは認識しておきましょう。
差別化戦略に役立つフレームワーク
ここまで、「差別化戦略を成功させるためには事前のリサーチが重要」だとお伝えしてきました。
そこで、差別化戦略を推進する際の事前リサーチや分析に役立つフレームワークとして、「3C分析」と「VRIO分析」の2つをご紹介します。
3C分析
3C分析とは、経営における課題の発見やマーケティング戦略を考えるときに重要なフレームワークです。
「Customer (顧客、市場)」、「Competitor (競合)」、「Company (自社)」、それぞれの頭文字をとって「3C分析」と呼ばれており、対象を顧客、競合、自社に分けて内部環境と外部環境を分析します。
対象となるのは、営業とマーケティング部門。「事業の成功要因」を見つけ出すための事前分析ツールとなります。
ちなみに、これら3Cに「Channel (チャネル) 」を加えた「4C分析」というフレームワークも存在します。
以下の関連記事もあわせて参考にしてみてください。
VRIO分析
VRIO分析とは、企業の強みや弱み(課題)を把握し、今後どこに力を入れたら良いのかが分かるフレームワークです。
企業の経営資源を「Value(経済的な価値)」、「Rareness(希少性)」、「Imitability(模倣可能性)」、「Organization(組織)」の4つに分類し、それぞれの要素を分析します。
VRIO分析をすることにより、企業の競争優位性を確保したり、内部環境の調整や改善をしたりすることができます。
差別化戦略の実践方法とパターン
それでは、差別化戦略の実践方法について解説していきます。
差別化戦略を成功させるためには、代表的なもので次の5つのパターンがあります。
・世界観
・独自性のある製品やサービス
・高いクオリティの製品・サービス
・チャネル戦略
・価格設定
それぞれ詳しく解説していきます。
世界観
扱う製品によっては、品質(クオリティ)や性能面での差別化が難しいケースもあるでしょう。その場合、ブランドとしての「世界観」を作り込むことで差別化を図ることができます。
例えば店舗ビジネスの場合、競合他社では味わえない、オシャレで高級感のある心地の良い店舗づくりをしてブランド独自の世界観を築き上げる、などです。
ブランドの世界観が顧客にとっての付加価値となった場合、競合他社とは違う顧客層の獲得にも繋がるでしょう。
独自性のある製品・サービス
競合他社にはない、独自性の高い唯一無二の製品・サービスを開発することも差別化戦略のひとつです。
他社では買うことのできない製品やサービスを開発することができれば、価格設定が多少高かったとしても、安定した利益を生み出すことができます。
高いクオリティの製品・サービス
クオリティの高い製品やサービスを提供することも差別化に繋がります。
製造業においては、高い品質を維持し続けるための技術力が、サービス業においては、高いクオリティのサービスを提供し続けるための採用、教育、マネジメント、仕組みづくりなどが重要となるでしょう。
チャネル戦略
チャネル戦略とは、製品の流通に関する戦略のことです。コミュニケーションチャネル、販売チャネル、流通チャネルなど、あらゆるチャネルを駆使して競合他社との差別化を図ります。
たとえばアパレルメーカーで言えば、実店舗での販売のほか、オンラインストアやアプリでの販売対応や、アプリのプッシュ通知を活用した顧客との接点の増加(エンゲージメント向上、リピート率向上の促進)などが挙げられます。
価格設定
価格設定を、あえて競合他社よりも高くするのも差別化戦略のひとつです。「高級ブランド」というブランディングの強化に繋がり、また利益率の向上にも繋げることができます。
もちろん、価格に見合った品質の高さを提供することが重要です。
差別化戦略で押さえるべきポイントや注意点
差別化戦略を成功させるためには、押さえておくべきポイントや注意点がいくつかあります。具体的には、以下の4つです。
・顧客ニーズの分析と把握
・ストーリーを設定する
・競合他社のリサーチ
・自社の強みを明確にする
それぞれ詳しく解説していきます。
顧客ニーズの分析と把握
ターゲットである顧客のニーズを正しく理解しなければ、有効な差別化戦略を描くことはできません。
顧客を取り巻く環境はどのように変化していってるのか、その中で顧客は今どんなモノやコト、サービスを求めているのか、自社が属している業界に求めている価値観や考え方はどんなものなのかなどを分析しましょう。
ストーリーを設定する
製品・サービスや、それを提供する企業の歴史やエピソード(ストーリー)が商品価値を高め、それに対する対価を払う消費行動を「ストーリー消費」と言います。
製品やサービスのクオリティや機能をPRするよりも、開発秘話や担当者の思い、歴史などを伝えた方が、購買意欲を喚起できることもあるのです。
特に差別化戦略においては、「世界観」や「こだわり」が伝わるようなストーリー設定が重要になります。
競合他社のリサーチ
自社製品やサービスの強みを客観的に把握するためにも、競合他社との比較は重要です。
競合他社製品の強みと弱みを分析した上で、自社はどのような付加価値を提供することができれば、差別化が図れるのかを考えましょう。
製品やサービスのみに注目するのではなく、顧客の購買までのフローを意識することがポイントです。
自社の強みを明確にする
差別化戦略を成功させるためには、自社の強みを客観的に把握していることが重要です。
自社だけが顧客に対して提供することのできる付加価値とは何なのか。自社製品やサービスの強みを洗い出し、独自のセールスポイントを見つけましょう。
差別化戦略を活用した企業の成功事例
最後に、差別化戦略を活用した企業の成功事例をご紹介します。
「具体的に、どのように差別化戦略を実践していったらいいのか分からない」といった方はぜひ参考にしてみてください。
株式会社モスフードサービス(モスバーガー)の差別化戦略
モスバーガーは、差別化戦略の成功事例としてよく用いられる企業の一つです。マクドナルドとの差別化を推進したことで成功をおさめています。
マクドナルドは、コストをできる限り抑えたメニューで構成されており、効率を重視してメニューの数自体も少なめとなっています。店舗ディスプレイは、とくに駅前などの店舗においては顧客の回転率を上げることを狙ったものになっているといいます。
一方、モスバーガーは商品にコストをかけて、味を徹底追求することにこだわってきました。店舗ディスプレイにおいても、自然な色合いを使用したり、観葉植物を設置したりと、居心地が良く、長時間滞在してもくつろげる店舗づくりになっています。
このように、マクドナルドが「安い、早い、手軽」といったメリットで顧客から支持されているのに対し、モスバーガーは差別化戦略を推進したことによって「高価格帯、高品質」という独自のポジションを築くことに成功したのです。
自社に合った差別化戦略を推進できるかどうかが成否を分けるポイント
今回は、差別化戦略の概要と企業が導入するメリット・デメリット、実践方法や役立つフレームワーク、押さえるべきポイントや注意点、差別化戦略に成功した企業事例を詳しく解説しました。
差別化戦略とは、付加価値の高い商品・サービスを提供することで、他社との差別化を図る戦略です。
成功させるためには、顧客ニーズの把握や、自社・競合他社の分析、市場環境の調査など、綿密なリサーチが欠かせません。
今回ご紹介した成功パターンや企業事例、実践方法などを参考にしながら、自社に合った差別化戦略とは何か検討してみてはいかがでしょうか。
監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。