総研レポート・分析

2022年度 上場企業による企業不動産(CRE)売却動向に関する分析

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、上場企業が適時開示を行った不動産売買等に関するプレスリリースをもとに、2022年度(2022年4月~2023年3月)の企業不動産(CRE)売却傾向を5年前の2018年まで遡り傾向調査を行った。(※)。

 

「輸送用機器」「陸運業」のCRE戦略が活発化

2018年度以降の上場企業が公表した不動産売却に関するプレスリリースについて独自に集計を行った結果、2022年度は売却不動産件数190件、売却企業件数142社とコロナ禍前の2018・2019年度と比較すると年々、企業不動産の持たざる経営へのシフトが進行・定着化していることが見て取れる(下図参照)。

不動産売却を行った企業を業種別に分類し2018年以降の推移を追うと、2022年度の特徴としてこれまでCREの動きが乏しかった「輸送用機器」(過去4年対比320%増)、「陸運業」(過去4年対比189.5%増)の売却件数が大きく増加した点に注目したい。

個別企業で見てみると、「輸送用機器」では自動車部品製造の株式会社タチエスがノンコア資産の賃貸不動産、河西工業株式会社が生産拠点集約に伴う工場の売却と、自動車メーカーである日野自動車株式会社も工場の一部売却と戦略的なCREを進めている。

また「陸運業」ではコロナ禍を契機とした本業への資金投下を目的としたCREの動きが顕著であり、株式会社西武ホールディングスの31件に亘るホテル・レジャー事業関連不動産のオフバランスは所有と運営の切り離し(持たざる経営)の象徴的な事例と言える。

<2018-2022年度 業種別不動産売却企業件数>

 

インダストリアル・リテール系アセットは2020年度を境に顕著な売却傾向に

2018年度以降、インタストリアル、オフィス、リテール、ホテル、レジデンス等、代表的なアセットタイプ毎に不動産売却件数の動向を追ったところ、インダストリアル・リテール系アセットにおいて、コロナ禍の影響が業績に顕著に反映されることとなった2020年度を境により活発な売却傾向が確認された。

インダストリアル系不動産の売却背景としてはセントラル硝子株式会社(化学)の賃貸不動産の売却の他、光村印刷株式会社(その他製品)の老朽化に伴う拠点再編の様にコスト削減、老朽化を契機とした拠点再編事例が年々増加傾向にある。

また、リテール系不動産は賃貸用資産の売却が過半を占めており、具体な売却企業としては昭和産業株式会社(食料品)や品川リフラクトリーズ株式会社(ガラス・土石製品)といったノンコア資産を依然として保有している業種において売却の動きが見られた。

東京証券取引所が「プライム市場」と「スタンダード市場」に上場する約3,300社に対し、株価水準を分析して改善するための具体策を公表するように要請を行っていることも追い風となり今後ますますCRE戦略が見直されると予想されることからも、今年度の「プライム市場」「スタンダード市場」のCREの動向に注目したい。

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以上、本レポートでは上場企業の開示する不動産売買に関するプレスリリースを元に分析を行ったが、ククレブグループで提供しているB2Bポータルサイト「CCReB GATEWAY」のサービスの1つである『IRストレージ』では、日々上場企業が開示する適時開示資料を自動的にカテゴリ別に仕分けを行っており、カテゴリの1つに「固定資産譲渡」がある。日々の企業動向の把握にあたり、是非、当該サービスを活用頂き、時々刻々と変化する企業用不動産の動向をタイムリーに効率的に把握する手段として活用頂きたい。

※当該レポートに掲載した図表は企業の開示資料において固定資産の譲渡/取得に関するリリース文書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計しております(上場REITは集計対象外)。
※出典の記載無き無断転載を禁じます。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。