総研レポート・分析

STOとは?不動産STOの意味や仕組み、メリット・デメリットを初心者向けに解説

新たな資金調達の手法として、STO(Security Token Offering)が注目されています。

STOとは、ブロックチェーン技術を活用した資金調達手段のことです。

本記事では、STOの仕組みや注目される背景、企業がSTOを活用するメリットやデメリット、企業事例などを分かりやすく解説します。

STOとは?

STOとは?

STOの定義

STOとは「Security Token Offering」の略称で、一般的にはブロックチェーン上でデジタル有価証券の取引を通して資金調達を行う手法のことを指します。

STOは、企業が取り扱う資産(株式、社債、不動産、特許など)をデジタル化することにより、ブロックチェーン上でセキュリティ・トークン(ST)として取引される点が特徴です。

ブロックチェーンとは、元々はビットコインの記録・取引管理の基盤技術として開発されたもので、一定期間内の取引データが一つの「ブロック」にまとめられ、そのブロックがチェーン上に連なり取引記録として維持されます。

「ブロックチェーン」や「トークン」と聞くと暗号資産(仮想通貨)取引を想起するかもしれませんが、こちらとは「法的に有価証券として認められている」という点において異なります。

具体的には、2019年5月に改正された金融商品取引法において、「電子記録移転権利・電子記録移転有価証券表示権利等」として定義がされています。そのため取引は法的な規制の中で行われます。

つまり、法律や規制で守られた信頼性の高いデジタル取引によって資金調達を行えるのがSTOです。

不動産STOとは

不動産STOとは、不動産の資産をデジタル証券化して取引を行うことを指します。

従来の不動産投資では、複雑な契約形態や手続きに時間がかかる点がデメリットとして挙げられていました。

ブロックチェーンは自立・分散型のシステムのため、改ざんが困難、システムダウンが生じ得ない、スマート・コントラクト(契約の自動化)といったメリットがあります。

そのため、不動産STOを活用することで、不動産の資産をデジタル証券化させ、契約プロセスの自動化や、不動産所有権利売買の簡略化などが可能になります。

日本においては、国内最大級の不動産アセットマネジメント会社であるケネディクス株式会社が、2021年8月に日本で初めて不動産STOを活用して資金調達を行いました。

調達額は約70億円と世界的に見ても大型で、今後は日本の不動産市場においても不動産STOが広がっていくことが予想されています。

STOが注目される背景

STO

STOに関する制度整備がなされた背景には、ICO(Initial Coin Offering)が関係しています。

ICOとはSTOの前身で、STOと同様、ブロックチェーン技術を活用した資金調達方法です。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)が広まったことにより、デジタル証券の取引においてもブロックチェーン技術の活用が拡大したことにより生まれました。

2017〜2018年にかけて米国を中心に増加したICOですが、いくつか問題点がありました。裏付け資産がないことや、規制がほとんどなかったことにより、詐欺的なプロジェクトや事業計画がずさんなプロジェクトが横行してしまったのです。

これにより、ICOで発生した様々な問題を解決する一つのアプローチとして、暗号資産(仮想通貨)などで培った技術的なノウハウは活用しつつ、厳しい規制の元、裏付け資産を持つデジタル有価証券としてSTOが誕生しました。

ICOの技術的な先進性に加え、法律や規制による投資家保護・ガバナンスというメリットも加わっている点が特徴です。

STOの仕組み

STO

STOとは、ブロックチェーン技術を活用した資金調達手段のことですが、ブロックチェーンにはいくつかの類型が存在します。

ST(セキュリティ・トークン)は有価証券という性質を考慮し、コンソーシアム・プライベートと呼ばれる類型のブロックチェーン基盤が用いられているケースが多いようです。

コンソーシアム・プライベートチェーンは、特定の関係者のみアクセスを許容するネットワークです。金融取引において、取引に関係のないユーザーがアクセスできる環境は好ましくなく、かつ取引を行う両者が相互に確認ができる状態が求められるため、この類型が利用される傾向にあります。

企業がSTOを活用するメリット

企業がSTOを活用するメリット

企業がSTOを活用する代表的なメリットや特徴は、次の4つです。

・データの改ざんができないため安全性が高い
・24時間取引ができる
・低コストでの資金調達が可能
・少額投資が可能

STOのメリット①:データの改ざんができないため安全性が高い

STOの取引は先述の通り、全てブロックチェーン上で行われます。ブロックチェーンでは利用者全ての取引がコピーされ、取引履歴の修正は行うことはできません。

つまり、データの改ざんが不可能なため、安全性が高い点がメリットです。

STOのメリット②:24時間取引ができる

従来の証券取引所は、取引できる時間帯は平日の9時〜15時までに制限されています。

一方、STOは24時間いつでもデジタル証券の取引を行うことができます。ブロックチェーンを活用しているため、即時決済が可能です。

投資家が都合の良い時間帯に簡単に取引ができるという利便性は大きなメリットであり、企業にとってもスムーズな資金調達につながるでしょう。

STOのメリット③:低コストで資金の調達ができる

STOは、クライアントサーバーを介さず全ての端末がP2P(Peer-to-Peerの略称)で繋がっているため、取引処理の多くが自動化されます。

従来の取引では、取引に多くの時間を要し、仲介業者が必要なため手数料の支払いなどもあります。

STOでは仲介業者が必要なく、ネット上で手続きが完結するため、他の証券取引よりも低コストでの資金調達が可能になります。

STOのメリット④:少額投資が可能

STOは、株式はもちろんのこと、従来の方法では難しかった土地や著作権といった資産も小口化することができます。

資産の小口化により、少額投資が可能になるため、企業にとっては資金調達の機会が広がるという大きなメリットがあります。

企業がSTOを活用するデメリット

企業がSTOを活用するデメリット

STOを活用するメリットがある一方、デメリットも存在します。企業がSTOを活用するデメリットは次の2つです。

・STOの市場規模
・セカンダリー市場における課題

STOのデメリット①:STOの市場規模

日本でSTOを活用したデジタル証券の取引は始まったばかりであるため、取引が限定的なものになってしまっています。

従来の取引方法では行えなかったSTOだからこそできるプロジェクトの立案など、投資家に対する認知度を上げたり、流動性を高めたりするための取り組みが求められます。

デメリット②:セカンダリー市場における課題

STOが活性化するためには、株式などと同様にプライマリー市場で購入したST(セキュリティ・トークン)を売買できるセカンダリー市場の発展が不可欠です。

日本では、2023年12月よりSBIグループなどの大手金融機関の共同出資によって設立された大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が、国内初のセカンダリー市場となる取引システム「START(スタート)」を開業しました。

代表の朏仁雄氏は、2024年に「この先2年くらいで取扱時価総額1000億円を目指す」と述べており、今後ST市場の成長を後押しすることが期待されています。

STOに対する金融庁の動き

STO

STOなど、金融のデジタル化が加速する中、民間のイノベーションを促進しつつ、利用者保護などを適切に確保するために、金融庁は「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」を設置しています。

研究会では、金融のデジタル化への対応のあり方について検討が進められています。

会議は、技術系を含めた学者や金融実務家などがメンバーとして構成されており、金融庁が事務局を務めています。

2024年7月現在、これまでに12回の研究会が開催され、整備に向けた動きを加速させています。

参考:デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会|金融庁

STOの自主規制

STO

金融商品は、それぞれ自主規制団体が定められています。株や債権などの一項有価証券は日本証券業協会が、ファンドなどの二項有価証券の場合は第二種金融商品取引業協会がそれぞれ自主規制を担当しています。

STOの自主規制は、「一般社団法人STO協会」が担っています。

一般社団法人STO協会は、2019年10月に法人設立し、2020年4月に金融庁から認定を受けました。

今後より多くの金融機関が参加していくことが見込まれていますが、各種取引のルールを整備することで、より良い市場の構築が期待されます。

STOに関する国内企業の取り組み事例

STOに関する国内企業の取り組み事例

日本では様々な企業がSTOのさらなる普及を目指して取り組みを進めています。

STOに関する取り組みを進める代表的な企業は以下の3社です。

  • SBIグループ&SMBCグループ
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ
  • 野村證券グループ

STOの事例①:SBI PTSグループ&SMBCグループ

日本では、2023年12月よりSBI PTSホールディングス株式会社、株式会社三井住友フィナンシャルグループなどの大手金融機関の共同出資によって設立された大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が、国内初のセカンダリー市場となる取引システム「START(スタート)」を開業しました。

代表の朏仁雄氏は、2024年に「この先2年くらいで取扱時価総額1000億円を目指す」と述べており、今後ST市場の成長を後押しすることが期待されています。

参考:デジタル証券の普及を後押し、大阪デジタルエクスチェンジが二次流通市場を開業|日経クロステック

事例②:三菱UFJフィナンシャル・グループ(現在はProgmat, Inc.)

三菱UFJ信託銀行の社内新規事業として開発されたセキュリティトークンシステム、「Progmat(プログマ)」。

Progmatでは、「Programmable Money(プログラマブルマネー)」と呼ばれる決済手段を連携させることで365日、24時間いつでもデジタル証券の取引が行えるシステムを構築しています。

2023年10月には「Progmat, Inc.」として独立会社化。三菱UFJ信託銀行だけでなく、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループといった大手金融機関が系列の枠を超えて資本参加している点が大きな特徴です。

参照:What is Progmat(プログマって、なに)?(Progmat代表 齊藤 達哉氏note)

事例③:野村證券グループ

野村證券グループは、「ibet(アイベット)」と呼ばれるセキュリティトークンの発行・管理システムを提供しています。

2022年12月現在では、「ibet」を利用して不動産アセットマネジメント会社であるケネディクス株式会社が不動産関連資産を裏付けとしたセキュリティトークンを発行しています。

参照:Ibet for Finコンソーシアム
参照:ブロックチェーン技術を活⽤した「デジタル証券」の発⾏について

新しい資金調達方法として世界的に注目を集めるSTO

今回は、STOの仕組みや注目される背景、企業がSTOを活用するメリットやデメリット、企業事例などについて解説しました。

STOは、ICOの問題点を解消する新しい資金調達方法として世界的に期待が高まっています。今後の動向にも要注目です。

また、CCReB GATEWAY(ククレブ・ゲートウェイ)のホットワード分析では、今回解説したSTOやトークンなど、変化の激しいビジネス環境においてビジネスパーソンとして押さえておきたい重要なキーワードを効率よくチェックすることができます。

CCReB GATEWAY(ククレブ・ゲートウェイ)のホットワード分析

会員登録(無料)をするだけですぐにご利用いただけますので、ぜひご活用ください。

ビジネスに役立つ情報を無料で収集可能!
会員登録(無料)

ホットワード分析を体験したい方はコチラ
CCReB GATEWAY(ククレブ・ゲートウェイ)ホットワード分析

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。