アジアにおける不動産テックとは?韓国における不動産テックの動向について
ククレブ・アドバイザーズ株式会社(以下「当社」)では、Sustainabilityを重視する経営方針の中で、Diversity経営を推進し、社内に多様なバックグラウンド、国籍をもつ従業員が日々業務を遂行している。
ククレブ総合研究所における海外レポートシリーズにおいて、前回レポート(アジアにおける不動産テックの動向について(香港))では、香港における不動産テックの動向についてレポートしたが、今回はその第二弾として韓国における不動産テックの動向についてお伝えする。
1.はじめに
日本および前回レポートの香港と同様に、韓国においてもコロナ禍の影響を受けて、場所や時間に拘束されないオンラインサービスの需要が増加しており、非対面サービス、遠隔システムへの関心が非常に高まっている。不動産業界においても多くの不動産テック企業による活発な活動が行われているが、今、韓国で注目されているプラットフォーム型の不動産テック企業2社について調べてみたい。
2.韓国の特徴
韓国は人口5,000万人と日本のほぼ半分の人口に対して、面積は100,200km²と北海道をやや上回る程度の大きさであり香港と同様に人口密度が高い国である。特に首都圏のソウル市と京畿道に人口の約半分が居住している首都中心型社会で、高い人口密度とともに激しい競争社会や、スピードを重視する国民性が要因となり、韓国では2000年代に入って以来、日本と比較してIT産業が発達するようになったと言われている。
3.韓国における不動産テックの動向
不動産テック事例①:住宅売買プラットフォームHogangNoNo(https://hogangnono.com)
韓国は住宅不動産への投資意欲が高い国の一つである。従来は、住宅の購入・投資に向けた情報を収集するためには、直接不動産会社を訪問し、また複数の物件を巡って時間を掛けて収集しなければならなかった。ネット上で物件の概要情報は得られるとしても、物件が所在するエリアの特性や人口動態などは実際に現地や不動産会社に足を運んで収集せざるを得ず、また不動産会社ごとに持っている情報にも差があるので、やはり複数の店舗を歩き回って確認するしかなかった。これに対して、IT産業の発展に加えて非対面サービスが成長したことにより、近年では住宅投資に必要となるより幅広い情報をオンラインで簡単に取得できるようになった。
2016年ローンチした韓国オンライン不動産プラットフォームHogangNoNoは、月間最大利用者数300万人という記録とともにプロップテックユニコーンスタートアップ企業として登場した。同社が提供するサービスでは、スマートフォンアプリやPCから地図ベースのUIで住宅不動産に関する様々な情報が閲覧可能であり、何よりも操作が簡単で非常に直感的なのが大きな特徴だ。
以下は、商業地域をその集積度に応じて色別に分けて表示したものである。定量的な店舗数も表示されることから、どこに、どのような商業エリアが、どの程度密集しているのかが分かりやすいインターフェースとなっている。
また、以下は対象地を中心とした移動時間について色分けして示した地図である。ポイントを指定して、そこからあらゆる方向に移動する際にかかる時間を表示することができ、通勤・通学時間等を把握するのが容易であり、こちらも視覚的に非常に分かりやすいデザインである。
人口の増減をバブルマップで表現する機能も存在し、検討するエリアは近年人口が増加しているのか、減少しているのかといった動向を簡単に知ることも可能である。
他にも不動産売買に必要な様々な情報をこのサイトで把握することができ、利用者数はまだまだ増加傾向にあるようである。日本でもコロナ禍を経て、非対面での不動産売買のためVR内覧等のサービスが出てきているが、韓国ではまた異なるサービスが展開されており、上記のような幅広い情報をインターネット上でオープンに取得できるということは、日本と比較して不動産市場の透明性が高いことと政府による公共データの提供が進んでいることが背景にあるものと推察される。
不動産テック事例②:収益型仮想不動産CASHZONE(https://cashzone.co.kr/en)
近年、最も注目されているデジタル技術の一つであるメタバース。このメタバースの考え方や仮想通貨の技術を活用してプラットフォーム市場に飛び込んだ企業がCASHZONE(キャッシュゾーン)である。CASHZONEが展開するサービスはリワードプラットフォームと呼ばれており、日本ではまだあまり聞きなれないサービスであると思うが、こちらもいくつか実際のインターフェースやイメージ画像を用いて説明したい。
CASHZONEは電子広告プラットフォームであり、プラットフォームの参加者が電子広告を閲覧する度に、「広告を閲覧した参加者」と「プラットフォーム上の仮想不動産である“ランド”の所有者」の両方に仮想通貨である“キャッシュ”が付与されるサービスだ。仕組みとしては、日本にも存在するターゲットを特定した上で表示するWebバナー広告に類似しているが、面白い点はそれをいわゆるメタバース上で行っている点である。Cashzone-Land(キャッシュゾーンランド)と呼ばれる仮想空間上で仮想不動産(=ランド)が取引されており、その仮想不動産のオーナーが仮想空間上で広告スペースを提供し、現実世界のレストランや小売店、その他中小企業等がそこに広告を掲出している。
※CASHZONEの仕組みの概念図(「小商工人」は直訳すると中小企業となるが、主にレストランや小売店を営む企業が広告主となり、広告スペースを提供する「ランド所有者」と広告を閲覧した「一般会員」の両方に仮想通貨の“キャッシュ”が支払われる仕組み)
Cashzone-Landには江南駅(カンナム駅)や明洞(ミョンドン)等の実在する韓国の街が再現されており、参加者は実際の街を歩く感覚で広告と出会うことができる。一方で、現実世界で看板広告を掲出するのとは異なり、仮想空間上の参加者属性(年齢や生活地域等)に応じて最適な広告を表示させ、その効果を測定することができる点はバナー広告に類似しており、広告主にとっての大きなメリットである。メタバースを活用してリアルとネットを融合させた新しいサービスモデルであり、仮想通貨等は仕組み上まだ不安定な部分はあるものの、韓国国内で多くの関心を受けており、今後どのような方向に発展して行くのか気になる非常に興味深い企業だ。
4.韓国においても年々成長する不動産テック市場、今後の課題は?
多様な企業が参入し、様々なビジネスモデルを打ち出している韓国の不動産テック業界だが、香港と同様に欧米諸国の市場と比べると規模の面でもサービスの幅の面でも劣っていると指摘されている。グローバルテック企業をベンチマークとして、更に多様なサービスの開発が必要と言われているが、法令等の関連制度を改善しなければならないという課題も残っているようだ。業界関係者からは「テック系スタートアップ企業の努力に加え、これをサポートする大手企業や政府の支援がなければ国内だけでなく海外市場まで主導するようなユニコーン企業が誕生するのは難しい」といったコメントもされており、この点は日本も同様の論点であると考える。
5.終わりに
以上、韓国における不動産テックの動向について、具体例を踏まえてレポートさせて頂いた。
シリーズ2回を通じて、香港、韓国、そして日本とその国ごとに異なる文化や不動産業界における慣習に応じて、それぞれ独自に不動産テック業界も発展を続けている点が明らかとなった。
引き続き当社では海外、特にアジアの不動産テックにも目を向けながら、本セクターにおける事業を発展させていきたいと思っている。