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シュンペーターのイノベーション理論とは?定義や種類、企業事例をわかりやすく解説

ビジネス環境の変化が激しい現代において、企業が存続し続けるためには、イノベーションの創出が必要不可欠です。

イノベーションに関する理論は数多ありますが、なかでも代表的なのが「シュンペーターのイノベーション理論」です。

20世紀前半に提唱された理論ですが、今でも世界中の経営者が実践している理論になります。マーケティング理論の基礎と言っても過言ではありません。

そこで今回は、シュンペーターのイノベーション理論について、定義や種類、企業事例などを具体的に解説します。

シュンペーターが提唱した「イノベーション理論」とは?

イノベーション理論

「イノベーション理論」とは、20世紀前半を代表する経済学者ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(以下、シュンペーター)が提唱したマーケティング理論です。

イノベーションに関する理論は他にもありますが、シュンペーターの理論は多くの経済学者に影響を与え、今もなおマーケティング理論の基礎として世界中の経営者が実践している理論になります。

シュンペーターが定義する「イノベーション」とその種類

そもそも、「イノベーション」とはどのような状態を指すのでしょうか。

「イノベーション理論」を提唱したシュンペーターは、イノベーションという概念の生みの親でもあります。彼はイノベーションを、「価値の創出方法を変革して、その領域に革命をもたらすこと」と定義しました。

また、変革の段階では、「新結合(ニューコンビネーション)」が起きるとも述べています。

日本企業では「技術革新こそがイノベーション」という考え方がまだまだ根強いですが、画期的な技術革新だけがイノベーションではないのです。

既存技術を新しい方法で応用することで新商品や新しい市場を創造することや、組織に変革を起こすこともイノベーションなのです。

イノベーションの5つのパターン

シュンペーターの定義によれば、イノベーションは次の5つのパターンに分類されます。

① 新しい財貨、すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
② 新しい生産方法、これは決して科学的な新しい発見に基づく必要はなく、商品の商業的取り扱いに関する新しい方法をも含んでいる
③ 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
④ 新しい組織の出現
⑤ 新しい販路の開拓

繰り返しになっていますが、2つ目のパターンに「新しい生産方法、これは決して科学的な新しい発見に基づく必要はなく、商品の商業的取り扱いに関する新しい方法をも含んでいる」とあるように、必ずしも科学的な技術革新のみがイノベーションというわけではないのです。

経済が発展していくためには「2つの段階」がある

イノベーション理論

イノベーション理論を提唱したシュンペーターは、イノベーションこそが経済発展の原動力であると述べています。

そして、経済発展においては「経済の循環的変化」と「経済の断続的変化」の、2つの段階があるとも述べています。

経済の循環的変化

「経済の循環的変化」とは、経済発展の第一段階にあたります。

ここでいう「変化」とは、人工的に外部から起こされた変化ではなく、経済そのものの変化に限定されます。

現在日本でも少子高齢化が深刻な課題となっていますが、そういった人口構造の変化や、社会情勢の変化などにより起こる経済変化のことを指します

経済の断続的変化

そして経済発展の第二段階にあたるのが、「経済の断続的変化」です。

シュンペーターは、既存の価値や考え方を壊し、新しいものごとを導入する、もしくは創造することを「新結合(イノベーション)」と呼びました。経済の断続的変化では、この新結合(イノベーション)が起きるとしています

シュンペーターが説いた経済発展に必要な「3つの要素」とは

イノベーション理論

「経済の断続的変化」で起こるとされた「新結合(イノベーション)」ですが、シュンペーターは、イノベーションが起こる時にはある3つの要素が重要だと述べています。

それは、「銀行」、「企業者」、「イノベーション」の3つです。

銀行が企業者に融資を行い、企業者はその資金をもとに新しい商品・サービスを生み出し、イノベーションを創造していきます。

イノベーション理論における5つのタイプ

シュンペーターは、イノベーションを次の5つに分類しています。

① プロダクトイノベーション(商品やサービスの創出)
② プロセスイノベーション(生産・流通方法の創出)
③ マーケットイノベーション(市場の創出)
④ サプライチェーンイノベーション(供給方法の創出)
⑤ オーガニゼーションイノベーション(組織の創出)

それぞれ詳しく解説していきます。

①プロダクトイノベーション(商品やサービスの創出)

プロダクトイノベーションとは、革新的な新製品を開発することを指します。

プロダクトイノベーションは「商品イノベーション」と「素材・部品イノベーション」の2つに分類することができます。

また、プロダクトイノベーションのアプローチ方法としては、「技術主導型」、「ニーズ主導型」、「類似品型」、「商品コンセプト型」の4つがあります。

②プロセスイノベーション(生産・流通方法の創出)

プロセスイノベーションとは、生産・流通の過程を改善して生産効率を向上させることを指します。

プロセスイノベーションが起きると、生産コスト・時間の削減、品質の向上に繋がるため、既存の製品・サービスで相対的に利益を生み出すことができます。

具体的には、工場の生産方式の改革、店舗販売からインターネット販売への改革など、様々なプロセスイノベーションが存在しています。

③マーケットイノベーション(市場の創出)

マーケットイノベーションとは、新市場の開拓や新規の消費者を獲得することを指します。

競合他社がまだ参入していない市場を見つけることで、商品・サービスの売上げの向上や、新たなマーケティングの手法の確立に繋げることができます。

近年はSNSの普及により、異業種が新たな市場に参入しやすくなっているため、様々なマーケティングイノベーションが存在しています。

④サプライチェーンイノベーション(供給方法の創出)

サプライチェーンイノベーションとは、供給ルート全般の見直し、改善をすることでコストを抑えたり供給のスピードを上げたりすることを指します。

具体的には、原材料の仕入れや製造・輸送・販売の見直しを改善などです。

たとえば、業者を介さずに自社で仕入れや供給を行うと、輸送などのコストが削減できるため、利益率を高めることができます。

⑤オーガニゼーションイノベーション(組織の創出)

オーガニゼーションイノベーションとは、企業や業界に大きな影響を与えるような組織変革を行うことを指します。

日本ではトップダウン型の組織が一般的ですが、従業員に裁量を与えて組織を運営するボトムアップ型の組織に変革したり、上下関係のないホラクラシー型の組織に変革したりすることで、人材不足の改善(定着率向上・離職防止)や生産性の向上などを期待することができます。

イノベーションを起こした企業事例3選

イノベーション理論

ここからは、実際にイノベーションの創出に成功した企業事例を3社ご紹介します。

ヤマト運輸株式会社

ヤマト運輸株式会社は、シュンペーターのイノベーション理論で言うとマーケットイノベーションを起こした企業のひとつです。

コストがかかり、採算が合わないとされていたためどの企業も参入していなかった、「個人宅配」。

ヤマトは、住宅地に複数の営業所を設け、周辺エリアへ配達する荷物を各営業所に集約し、小型のトラックを使って配送することで個人宅配の市場創出に成功しました。

富士フイルム株式会社

富士フイルム株式会社も、マーケットイノベーションを起こした企業のひとつです。

写真フイルムの市場規模が縮小していくことを見かねて、写真フイルムの分野で培った高い技術力を、化粧品や医療機器といった異業界に応用することで新たな市場を開拓することに成功しました。

写真フィルムの独自技術や高度な光学解析技術を用いて開発されたのが、現在大人気の化粧品シリーズ「アスタリフト」です。

P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)

P&Gは、プロダクトイノベーションを起こした企業のひとつです。

P&Gが開発したジェルボール型洗剤は、2014年の発売以降、3年間で約1億個を売り上げたといいます。

「洗剤の計量が手間」、「液体洗剤の詰め替えが面倒」、「液体洗剤をこぼしてしまったときの掃除が面倒」といった消費者のニーズを汲み取り、画期的な商品を生み出したことで多くの消費者から支持を得ました。

まとめ・イノベーション理論を活用して企業価値の持続的創造を目指す

イノベーション理論

今回は、シュンペーターのイノベーション理論について、定義や種類、実践している企業の事例などをご紹介しました。

冒頭でも述べましたが、世界情勢の変化やAIなどテクノロジーの急速な進展により、ビジネス環境は大きく変化しています。

物事の不確実性が高く、急激な変化が起こる今、企業が存続し続けるためには、イノベーションの創出が必要不可欠です。

シュンペーターのイノベーション理論は、イノベーションとは、高い技術力を有する限られた企業のみが創出できるものではなく、すべての企業にチャンスがあるのだと教えてくれます。

本記事が、自社のイノベーション創出のヒントになりましたら幸いです。

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。