総研レポート・分析

地方都市における半導体工場立地の影響

2023年の半導体工場を取り巻く環境

半導体需要は、DXやIoT技術の拡大、ロボット、AI、自動車のEV化の拡大などの社会情勢の変化により急速に拡大している。その一方でコロナ禍やウクライナ情勢などの要因が輻輳して発生したサプライチェーンの混乱が問題となり、安定的な確保は喫緊の課題となっている。2022年5月に公布された経済安全保障推進法により、半導体は蓄電池などの10物資とともに特定重要物資に指定され、2022年度の補正予算でも先端半導体の国内生産拠点の確保事業に4,500 億円が計上されている。2023年第1四半期の時点では、半導体産業はこうした手厚い補助を背景に、各社が工場や生産設備の増強を進めている。
本稿では、最新の半導体工場立地の動向と地価への影響についてまとめた。

図表1)主な半導体企業の投資状況

半導体企業の投資状況と地価

図表1は、最近の主な半導体企業の投資状況であり、1,000億円を超える大型投資が散見される。半導体工場には、高速交通網や空港、港湾へのアクセス等の他に、広大な土地と洗浄に利用する大量の水が必要であるが、日本中で適地は限定的で、もともと半導体工場が集積しているエリア(=適地)に、工場新設や生産設備を増設する傾向がみられる。特に大型のプロジェクトが進むエリア3か所の工業地*1の変動率は図表2の通りである。

図表2)大規模半導体工場が進出したエリアの地価動向

北海道千歳市

次世代半導体の国内量産製造を目指して2022年8月に設立されたRapidus(ラピダス)㈱は、新工場の建設予定地を北海道千歳市に選定した。同社にはキオクシア㈱、ソニーグループ㈱、ソフトバンク㈱、㈱デンソー、トヨタ自動車㈱、日本電機㈱、日本電信電話㈱、㈱三菱UFJ銀行が出資しており、2027年頃までに「2nm」の次世代半導体の量産を開始する。量産までに約5兆円の事業費が投じられる大規模プロジェクトである。建設予定地は新千歳空港に近い工業団地「千歳美々ワールド」で、半導体製造には多くの工程があり、半導体メーカー(ファウンドリ)の周辺に関連工場が集積するため、今後は千歳市や周辺に関連工場の進出が見込まれる。

岩手県北上市

メモリー半導体大手のキオクシア北上工場第2製造棟は、岩手県北上市の東北新幹線「北上」駅の北方約6kmに立地する北工業団地の第1製造棟の隣接地に建設され、2023年竣工予定である。半導体関連企業の集積が進む北上市では、2018年度から5年間で工業団地の拡張整備や道路整備、交流施設の整備*2などを行い、企業進出を支援している。第2製造棟の進出により、東北地域の半導体製造拠点としての存在感が高まっている

熊本県菊陽町

熊本県菊陽町に建設中のJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)の新工場は、総投資額86億ドル(約1兆円)で、経済産業省の特定半導体生産施設整備等計画の第1号に認定され、4,760億円の助成を受けているプロジェクトである。公益財団法人地方経済総合研究所が2022年に行った試算によれば、TSMC進出による熊本県への経済波及効果は今後10年間で約4兆3,000億円となっている。JASMの工場関連(造成、建屋、生産)に加え、進出企業関連や住宅開発関連の投資が織り込まれており、1件の工場の進出としては、地域社会・経済への影響は非常に大きいものとなる。
実際、熊本県内では2023年以降に竣工・完成予定の主な半導体関連の事業所開設や設備投資は約20件(図表1・⑪~⑬含む)確認されており、JASMを核に半導体関連の工場の集積が高度に進んでいる。さらに、JASMの新工場では1,700人の新規雇用が発生するため、台湾からの高度人材や県外からの人材流入の受け皿となる住宅需要が高まり、工業地のみならず、地価調査における菊陽町の住宅地(菊陽-3)の前年からの変動率も+8.8%となっている。

以上は2022年地価調査地点の状況である。3月23日に公表された2023年地価公示(2023年1月1日時点)には、半導体工場予定地の近隣に上記3か所のような工業地のポイントが存在しないため、全体的な地価の傾向をみると、千歳市の全用途の変動率の平均は+20.1%と大幅な上昇となった。北上市では全用途の変動率の平均は+1.0%であるが、工場の南西約3.8kmに存する流通センター内の工業地では、工場需要の高まりを受け、変動率が+2.1%となった。菊陽町では、全用途の変動率の平均は+11.2%と同町史上最高の上昇率となった。内訳は住宅地+9.7%、商業地+21.7%となっている。


*1.進出工場に最も近い工業地を抽出した。
*2.北上市「都市再生整備計画事業 事後評価シート(北上工業団地地区)」

 

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