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グローバルサプライチェーンとは?経営課題として重要度が増すその背景と大手企業の具体事例を紹介!

コロナ禍以降、ロシア軍によるウクライナ侵攻や安全保障の観点による米中対立などの世界的な情勢不安も重なり、様々な要因から原材料の調達難や原材料価格の高騰といったグローバルサプライチェーンの混乱が起こっており、製造業の生産活動に大きく影響を与えています。本レポートのトップ画像は、2022年に開示された中期経営計画書におけるホットワードの一覧(出典:CCReB GATEWAY)ですが、「サプライチェーンの混乱」というワードは中期経営計画における最もホットなキーワードの一つとなっており、まさにグローバルサプライチェーンが昨今、企業の重要課題となっていることを表しています。

【お役立ち】CCReB GATEWAYホットワード分析機能の活用事例

本記事では、グローバルサプライチェーンについて、基礎知識や具体事例として大手企業の拠点戦略について解説しています。

今後グローバルサプライチェーンの見直しや新たにグローバル展開を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

 

グローバルサプライチェーンとは?コロナ禍や不安定な世界情勢が与える影響と合わせて解説

 

そもそもサプライチェーンとは?

グローバルサプライチェーンの前に、そもそもサプライチェーンとは何かを説明します。

サプライチェーンとは、原材料の調達、加工、製造、輸送、販売、顧客サービスなど、製品やサービスを提供するために必要なすべての活動を含む、製造から消費までの商品の流れを指します。

企業が製品を製造・提供するために必要な資源を効率的に管理し、コストを抑えて付加価値を最大化するためにはサプライチェーンを俯瞰的に管理する必要があり、サプライチェーンの統合的に見直す経営管理手法をサプライチェーンマネジメントと言います。

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グローバルサプライチェーンとは、この製品が生産され消費されるまでに必要となる一連の活動を日本国内のみならず海外を含めてグローバルに行うものです。

国ごとに法律や制度、商慣習、文化も異なることから、グローバルサプライチェーンマネジメントはより難易度が高い経営管理手法となります。

 

日本企業におけるグローバルサプライチェーンの歴史

日本企業におけるグローバルサプライチェーンの歴史を振り返ると、遡ること1960年代、日本の経済成長に伴い、国内市場だけでなく欧米をはじめとする海外市場にも日本企業が進出するようになりました。

これに伴い、海外での部品調達や生産拠点の設立が必要になり、サプライチェーンのグローバル化が進むことでグローバルサプライチェーンが築かれていきました。

さらに1980年代には、円高の影響で日本の製造業が海外展開を促進し、海外での生産や販売が一層進みました。

その後も、日本国内経済の成熟とともに安価な拠点運営費や人件費を求めて、日本国内にあった生産拠点を中国やアジアへ移転する動きが広がり、グローバルサプライチェーンがより高度化されるとともに、産業の空洞化が問題視されるようになりました。

こうしたサプライチェーンのグローバル化とともに、当然ながら世界経済や各国間の関係性等の変動の影響も受けるようになり、例えば英国のEU離脱の際には英国からEU圏の他国に生産拠点を移す企業が出てくるなど、グローバルサプライチェーンは海外イベントなどのリスクにさらされることとなりました。

 

コロナ禍以降、どうグローバルサプライチェーンが混乱しているのか?

コロナ禍により世界的にロックダウンが起こり、工場の生産活動が停止、モノの輸送・輸出入もストップしてしまったことから、長期的にグローバルサプライチェーンが機能不全に陥り、原材料や加工部品の調達が難しくなったことで製品が製造できなくなる事態が起こりました。

その後、コロナ禍からグローバルサプライチェーンが回復に向かう局面でウクライナ危機が起こり、ロシア産の石油や液化天然ガス(LNG)、小麦などの貿易が止まったことで、ロシアからの輸入に依存していた国がその影響を直接的に受けるのみならず、世界的に価格が高騰しています。

燃料価格の高騰は、皆さんの家庭の電気料金の値上がりからも実感されているのではないでしょうか?

こうした原材料の調達難や価格高騰は、製造業の原価を押し上げる要因となり業績に大きく影響することから、事業の継続性や原価削減のためにサプライチェーンの見直しが重要な課題となっています。

さらに足元では、米中対立や円安の影響を受けて世界の工場である中国から工場を移転する動きや日本国内に工場を回帰させる動きも出てきており、まさにグローバルサプライチェーンが経営課題に占める割合は大きくなっていると言えます。

 

あの大手企業のサプライチェーンはどうなっている?日本を代表する製造業のグローバルサプライチェーンを紹介

大手製造企業の事例を確認することによって、激変する世界情勢下で各社がどのようにグローバルサプライチェーンをマネジメントしているかを理解することができます。

日本を代表し、グローバルサプライチェーンを展開する企業の事例として、以下の4社を紹介します。

  • トヨタ自動車
  • 日立製作所
  • キヤノン
  • クボタ

大手企業の事例を参考にし、自社のグローバルサプライチェーンの検討に役立ててください。

 

①トヨタ自動車

トヨタ自動車は、2022年の1年間に世界で約900万台の車を生産(※トヨタ自動車単体)しており、その約7割の637万台を海外で、残り3割の265万台を日本国内で生産しています。

一方で、グローバルでの販売実績は生産台数とほぼ同等の956万台ですが、その内訳は海外販売が85%を超える827万台と、生産台数よりも海外の販売台数が多い実績となっています。

実際にトヨタ自動車は、国内で生産した製品のうち166万台を輸出しています。

トヨタ自動車の生産拠点を確認してみると、日本国内の工場は愛知県内に11カ所、その他製造子会社の拠点が東北、九州、北海道に数拠点ありますが、ほとんどが豊田市周辺に集中しています。

一方で、海外の生産拠点は概ねエリア毎の販売台数に比例する形で、米国をはじめとする北米に12カ所、日本・中国を除くアジア12カ所、中国9カ所、欧州7カ所、その他中南米、アフリカにも拠点があり、まさに世界中で製造していない地域はないほどグローバルサプライチェーンが広がっています。

(出所)トヨタ自動車コーポレートサイト、他
https://global.toyota/jp/company/profile/production-sales-figures/202212.html

 

②日立製作所

日立製作所は、2021年度の売上約10兆円のうち、日本国内の売上は41%の4,187億円、海外売上が59%にあたる6,077億円というバランスとなっています。

また海外売上の内訳は、北米15%、欧州13%、中国13%、ASEAN・インド他11%、その他地域7%となっています。

日立製作所のグローバルサプライチェーンは、トヨタ自動車同様に世界中ほぼ全てのエリアにまたがって生産拠点および販売拠点を配置しており、統合報告書によるとさらにグローバル展開を加速するとされています。

その一方で、各種メディアの報道によると、同社は生産や調達活動を国内回帰させる方針であることを発表しており、具体的にはエアコンなどの白物家電の国内生産を増やし、海外向け輸出の割合を6割程度増加させるとのことです。

背景には中国や台湾などをめぐる地政学リスクがある模様で、価格重視のサプライチェーンから今後は安定性や継続性を重視する考えのようです。

(出所)日立製作所統合報告書、他
https://www.hitachi.co.jp/IR/library/integrated/2022/ar2022j.pdf

 

③キヤノン

日立製作所と同様に工場について国内回帰の方針を示している企業にキヤノンがあります。

キヤノンの地域別売上高(2022年)は、日本国内8,648億円(21%)、米州1兆2,554億円(31%)、欧州1兆340億円(26%)、アジア・オセアニア8,772億円(22%)と、約8割が海外での売上となっています。

サプライチェーンの観点では、国内生産拠点は栃木県、茨城県に集積しており、関東地方以外では大分県にも半導体デバイスの生産拠点があります。

子会社まで含めるとさらに国内・海外ともに幅広いエリアで生産活動を行っており、海外では中国に4カ所、東南アジア4カ所、欧州3カ所、北米2カ所といったグローバルサプライチェーンを構築しています。

一方で、各種メディアの報道によると、同社の御手洗会長兼社長が2022年10月の四半期決算会見にて、地政学リスクを考慮して生産拠点の見直しを行い、メインの工場を日本国内に回帰させるという考えを明らかにしたとのことです。

生産コストの観点でも、海外の賃金や物価の上昇にともない、海外生産のメリットが少なくなっている模様で、国内回帰を進めるにあたっては、工場の自動化などにも取り組み、生産コストの削減を図る方針のようです。

(出所)キヤノンコーポレートサイト、他
https://global.canon/ja/corporate/index.html

 

④クボタ

日立製作所やキヤノンとは逆に、海外への生産移管を進めている企業がクボタです。

クボタの2022年売上は日本国内6,024億円に対し、海外が2兆764億円と、約77%が海外での売上となっています。

一方で、生産比率は日本が7割となっており、現状は日本で生産した製品を海外に輸出するというサプライチェーンになっています。

この状況に対して、円安により海外投資が不利になる状況下でも、販売先への安定供給の観点では“地産地消”が望ましいという考えから海外への生産移管を推進する方針であり、海外生産比率50%を長期的な目標に掲げています。

クボタのグローバルサプライチェーンは今後さらに充実していくと考えられます。

(出所)クボタ2022年12月期決算説明会、他
https://www.kubota.co.jp/ir/financial/presentation/data/rsm133q4(note).pdf

 

経営課題として重要度が増すグローバルサプライチェーン

本記事では、グローバルサプライチェーンについての基礎知識や具体事例として大手企業の拠点戦略を説明してきました。

世界情勢は引き続き不安定な状態であり、地政学リスクや円安など様々な問題が重なり今後もサプライチェーンに目が離せない状況です。

CCReB総合研究所ではグローバルサプライチェーンの動向に注目し、今後も情報を発信していきます。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

 

免責事項
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