デジタル給与とは?メリットやデメリット、解禁日や導入の流れを解説【2024年5月最新版】
2023年4月より、デジタル給与が解禁されました。デジタル給与とは、給与(賃金)を電子マネー(デジタルマネー)で支払う制度のことです。
今回は、デジタル給与の概要や、解禁された狙いと背景、導入のメリットやデメリット、導入の流れなどを分かりやすく解説します。
最後によくある質問についてもまとめていますので、デジタル給与について詳しく知りたい方や、導入を検討されている方はぜひ参考にしてください。
デジタル給与とは
デジタル給与とは、給与(賃金)を電子マネー(デジタルマネー)で支払う制度のことです。具体的には、銀行口座を介さず、PayPayや楽天ペイなどのスマホ決済アプリなどを通して給与の支払い・受け取りをすることができます。
これまで、給与(賃金)の支払い方法は現金のほか、銀行その他の金融機関の預金又は貯金の口座への振込み等で行われてきました。これにデジタル給与という選択肢が加わり、2023年4月1日より解禁されました。
現在、金融庁に「資金移動業者」として登録されているキャッシュレス決済サービスを提供する業者は82社あります(2024年4月30日発表時点)。
代表的なサービスでいうと、PayPay・LINE Pay・PayPalなどが挙げられますが、このうち、デジタル給与は厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(キャッシュレス決済サービスを提供する企業)の口座に限られます。
厚生労働省は現在申請を行った資金移動業者を審査中のため、まだ企業が給与のデジタル払いが開始できる状況ではありません(2024年5月時点)。
デジタル給与解禁の背景
デジタル給与は、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化といった潮流を受け、電子マネーでの給与受け取りに対するニーズが一定数見られることにより制定されました。
これまで、給与は労働基準法によって通貨払いが原則、労働者が同意した場合に限り、例外として、銀行口座と証券総合口座への賃金支払が認められていました。
そのため、新たな選択肢として電子マネーでの給与支払いを認めるためには、労働基準法施行規則の改正が必要だったのです。
そのため、厚生労働省は2022年11月にデジタル給与(給与デジタル払い)の導入に関する労働基準法の改正省令を公布しました。
先述の通り、この改正省令は2023年4月から施行され、給与支払いに対応した資金移動業者(指定資金移動業者)を指定するための申請受付と審査が進められています。
デジタル給与のメリット
ここからは、デジタル給与を導入することによるメリットを、企業側(支払い側)と従業員側(受け取り側)でそれぞれ解説します。
デジタル給与を導入する企業のメリット
デジタル給与を導入する企業側のメリットは、大きく2点あります。
一つ目は、企業イメージの向上です。
新しい利便性の高い制度をいち早く取り入れている企業は、意思決定スピードや、新しいことに対する積極性など、これからの不確実性の高い時代に対応できうる企業として評価が高まるでしょう。管理・運用の体制が非常に整っているという点でも企業イメージの向上に繋がります。
二つ目は、雇用機会の増加です。一つ目で解説した企業イメージの向上により、より優秀な人材の獲得に繋げていくことができます。
また、2024年5月時点では、従業員への給与支払いを目的とした資金移動業者の口座への送金手数料は明確に提示されていないので分かりませんが、一般的にキャッシュレス決済サービスの多くは銀行口座の振り込み手数料よりも安く設定されています。
そのため、デジタル給与においても、銀行振り込みより手数料が安くなる可能性があります。
デジタル給与の導入による従業員のメリット
デジタル給与の導入による従業員のメリットは、言わずもがな利便性の向上でしょう。
日本におけるキャッシュレス決済の比率は年々増加傾向にあります。「現金を持たずにスマートフォン一つで出かける」「財布を小さいものに買い替えた」という方も増えてきたのではないでしょうか。
このような状況下において、給与を電子マネー(デジタルマネー)で受け取れるようになれば、日常的にキャッシュレス決済を利用している従業員にとっては日常生活の利便性が向上します。
また、デジタル給与は受け取る範囲や金額を従業員自身で設定することができます。
そのため、「毎月の給与のうち数万円のみデジタル給与にする」「ボーナスは銀行口座振り込みにする」など、従業員それぞれの自己資金管理のスタイルに合わせることが可能です。
デジタル給与のデメリット
メリットの多いデジタル給与ですが、デメリットも存在します。こちらも、メリット同様に企業側(支払い側)と従業員側(受け取り側)でそれぞれ解説します。
デジタル給与を導入する企業のデメリット
デジタル給与を導入する企業のデメリットは、給与支払いに関する業務の煩雑化です。
デジタル給与を利用するかどうかは、従業員一人一人がそれぞれの希望に合わせて選択することができます。さらに、給与の一部のみをデジタル給与として受け取ることも可能です。
つまり、給与支払いに関する業務が大幅に増加、それに伴い管理コストも増加する可能性があります。
デジタル給与導入の際は、給与の一部のみをデジタル給与で支払う場合にも対応できるシステムの導入や、多様化する情報の管理体制を検討する必要があるでしょう。
デジタル給与の導入による従業員のデメリット
デジタル給与の導入による従業員のデメリットは、大きく2つあります。
一つ目は、使用できる資金移動業者(キャッシュレス決済サービス)が限られている点です。
デジタル給与は、厚生労働省が認可した資金移動業者に限られます。そのため、従業員が普段利用している電子マネーで受け取れるとは限りません。
二つ目は、入金額の上限が設けられている点です。
資金移動業者の口座は預貯金口座ではないため、入金できる金額は100万円までと上限が設定されています。
そのため、給与や賞与、退職金などすべての給与を電子マネー(デジタルマネー)で受け取りたくても受け取れないこともあるでしょう。
資金移動業者の口座残高が100万円を超えた場合、自動的に事前に登録した銀行口座に資金が移動されます。その場合、送金手数料が従業員の口座から差し引かれる場合があるので注意が必要です。
デジタル給与導入の手順
ここからは、企業がデジタル給与を導入する際の流れについて説明します。
①労使協定の締結
デジタル給与の導入にあたり、企業と従業員との間で、利用する指定資金移動業者などを定めた労使協定を締結します。
企業に労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と、給与のデジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載します。
②就業規則や賃金規定(給与規定)の改正
就業規則には、「給与(賃金)に関する規則」を明示することが定められています。
デジタル給与が規則違反とならないように、導入にあたり就業規則や賃金規定(給与規定)を改正の上、労働基準監督署へ届けましょう。
③従業員への周知と留意事項等の説明
デジタル給与を導入する旨を、従業員に周知します。
具体的には、利用可能な指定資金移動業者や、デジタル給与の受取範囲、デジタル給与での受け取りを希望する場合に会社に必要な届出などを説明します。
④デジタル給与希望者による同意書を集める
デジタル給与を希望する従業員は、留意事項等の説明を受け、制度を理解した上で、同意書に賃金のデジタル払いで受け取る賃金額や、資金移動業者口座番号、代替口座情報等を記載して、使用者に提出する必要があります。
デジタル給与に関するよくある質問
ここからは、デジタル給与に関するよくある質問と、それに対する回答をまとめました。気になるものがあれば、ぜひ参考にしてみてください。
従業員は、今後銀行口座での給与受け取りができなくなるのか?
デジタル給与は、賃金の支払い・受取りの選択肢の1つとして追加された制度です。従業員がデジタル給与を希望しない場合は、従来通り銀行口座などで給与を受け取ることができます。
また、企業側はデジタル給与を希望しない従業員に対して強制することはできないと厚生労働省のページにも記載されています。
デジタル給与は、仮想通貨で受け取れる?
現在、仮想通貨(暗号資産)や、現金化できないポイントでの賃金支払は認められていません。
指定資金移動業者が経営破綻した場合、残高は消えてしまうのか?
厚生労働大臣の指定する資金移動業者が破綻した場合には、口座の残高は保証機関から速やかに弁済されるようです。
デジタル給与の開始日はいつ?
2024年5月現在、デジタル給与で利用する指定資金移動業者は審査中のため、決まっていません。そのため、現時点ではデジタル給与の支払い・受け取りを実際に開始することはできませんし、明確な開始日も決まっていません。
指定資金移動業者が決定したら、一つ前の見出しでご紹介した「デジタル給与導入の手順」を進めることになります。
デジタル給与導入までの流れを知り、事前準備しておこう
今回は、デジタル給与の概要や、解禁された狙いと背景、導入のメリットやデメリット、導入の流れなどについて解説しました。
指定資金移動業者が決定すれば、具体的な手続き内容や手数料などが公表されるでしょう。デジタル給与の導入を検討している企業は、今のうちに社内で進めておける事前準備や、体制作りやシステム導入の検討などを進めておきましょう。
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監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。