総研レポート・分析

2023年度上場企業による企業不動産(CRE)売買動向に関する分析

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、上場企業が適時開示を行った不動産売買に関するプレスリリースを基に、2023年度(2023年4月~2024年3月)の企業の不動産売買動向について調査を行った※1

※1. 当該レポートに掲載した図表はTDnetに開示された上場企業の開示資料において「固定資産」の譲渡/取得に関するリリース文書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計(上場REITは集計対象外)。

不動産売却 – 一般事業法人の企業不動産(CRE)戦略はコロナ対応から資本効率向上へ –

当研究所では2018年度以降に上場企業が開示した不動産売却に関するプレスリリースの独自集計を行っており2023年度における開示状況の調査を行ったところ、2024年3月31日時点の上場企業数3,938社※2に対し、115社(2.9%)の企業において合計146件の不動産売却が行われた実績がみとめられた※3

※2. 日本取引所グループの開示する上場会社数に基づく
※3. 直前連結会計年度において連結純資産・連結経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益のいずれかが30%を超える固定資産譲渡が適時開示基準に該当

2020年度以降、新型コロナウィルス感染症の拡大と先行きの不透明さから不動産を活用した財務戦略(CRE戦略)を講じる企業が増加したが、2023年5月8日に新型コロナウィルスの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行するとともに企業の経営環境も落ち着きをみせ、それに比例するように不動産を売却する企業、また、その積上げ不動産件数もコロナ前の水準に落ち着きを戻した格好となった。

業種別の動きをみるとより顕著であり、2020年度~2022年度にかけて不動産売却をおこなった企業数が増加した「繊維製品」「陸運業」「小売業」「サービス業」において2023年度は落ち着きをみせており、新型コロナウィルスの沈静化による緊急的なCRE戦略の財務施策件数が減ったことがうかがい知れる。

一方で足元では不動産を始めとする資産の売却理由として、東京証券取引所による資本コストを意識した経営要請による、資本効率面を理由とした売却が増えており、日本企業は長きに亘ったコロナ対応から新しい時代の要請に対応した経営戦略を迫られていると言えよう。

 

不動産取得 – 積極的な投資姿勢 –

不動産売却に続き、不動産取得の2023年度動向もあわせて調査を行ったところ、上場企業のうち63社(約1.6%)が合計91件の不動産取得を行っていた※4

※4. 直前連結会計年度において連結純資産の30%を超える固定資産取得が適時開示基準に該当

不動産取得は売却と反比例の関係で推移しており、2019年度・2020年度において一時停滞をしたが、2021年度からは復調し2023年度においては年間の不動産取得件数が過去最高を記録する結果となり、また、その約7割が自己利用を目的とした不動産投資であった。日本経済新聞社2023年12月16日付「設備投資が最高31兆円 今年度修正計画、本社調査」によると2023年度の設備投資動向調査の結果、全産業の投資額が過去最高を更新したとあり、EV自動車生産体制の増強やデータセンターの整備、小売業では消費回復と人手不足に対する投資と、不動産投資件数の伸び、設備投資動向の結果からも日本企業の国内における成長力の強化・高度化に資する国内投資の拡大が2023年度のトレンドであったと言え、2024年度以降もこの勢いが堅調に続くかに注視していきたい。

 

以上、本レポートでは上場企業の開示する不動産売買に関するプレスリリースを元に分析を行ったが、ククレブグループが提供するB2Bポータルサイト「CCReB GATEWAY」のサービスの1つである『IRストレージ』では、日々上場企業が開示する適時開示資料を自動的にカテゴリ別に仕分けを行っており、カテゴリの1つに「固定資産譲渡」がある。日々の企業動向の把握にあたり、是非、当該サービスを活用頂き、時々刻々と変化する企業用不動産の動向をタイムリーに効率的に把握する手段として活用頂きたい。

 

免責事項

当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。