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コンプライアンスとガバナンスの違いとは?強化するメリットや方法、注目される背景を解説

コンプライアンスとは企業が法令・社内規程・社会規範に従って誠実に行動すること、ガバナンスはそうした行動を支える企業統治の仕組みを指します。

コンプライアンスとガバナンスは密接に関係しており、どちらも健全な経営と社会やステークホルダーからの信頼獲得に不可欠です。

本記事では、コンプライアンスとガバナンスの意味と違いや、注目を集める背景、コンプライアンスとガバナンスの強化が組織にもたらすメリットや、その方法をわかりやすく解説します。

コンプライアンスとガバナンスそれぞれの意味と違い

まずは、コンプライアンスとガバナンスそれぞれの意味と違いについて解説します。

コンプライアンスとは

コンプライアンス(compliance)とは、直接的には「法令遵守」を意味します。近年のビジネスにおいては法令遵守に留まらず、企業倫理・社会規範・社内規範などの順守も含めた広義な意味で用いられるケースが多いです。

コンプライアンス体制の整備には、組織的な内部統制システムを確立させるとともに、従業員一人ひとりの倫理意識の醸成が欠かせません。

ガバナンスとは

ガバナンス(Governance)とは、直接的には「統治」「統制」「管理」を意味します。ビジネスにおいてはコーポレートガバナンス(企業統治)と呼ばれ、株主やステークホルダーの利益最大化と不正抑止のため、透明かつ迅速な意思決定を行う仕組みです。

ガバナンス体制の整備には、取締役会や監査役、社外取締役の導入、指名・報酬委員会の設置、内部監査部門の強化などが挙げられます。

コンプライアンスとガバナンスの違い

コンプライアンスとガバナンスの違い
コンプライアンスは企業が従うべきルールそのものを指すのに対し、ガバナンスは企業としての意思決定や監視の仕組みそのものを意味します。

つまり、コンプライアンスは「何を守るべきか」、ガバナンスは「どうやってそれを守るか」だと言えるでしょう。

両者は補完関係にあるため、ガバナンスを強化することは、結果的にコンプライアンスの遵守を促進することに繋がります。

コンプライアンスとガバナンスが注目を集める背景

コンプライアンスとガバナンスが注目を集める背景には、次の3つの要因があります。

  • 不祥事の増加
  • 法整備
  • グローバル対応、ESG対応の必要性

 

以下で詳しく解説していきます。

不祥事の増加

近年、日本国内外で大手企業による品質偽装、データ改ざん、粉飾決算、個人情報漏洩、ハラスメントの隠蔽といった重大な不祥事が頻発しています。

不祥事は企業のブランドイメージが大きく低下させるだけでなく、損害賠償責任、行政処分、株価下落、人材流出など、経営に深刻な影響を及ぼします。

SNSやインターネットの普及により、こうした事件はSNSやオンラインメディアを通じて瞬時に拡散されます。法令遵守はもちろん、社会規範や倫理を徹底する体制を構築することが喫緊の課題となっているのです。

法整備

日本では2006年の会社法改正以降、内部統制報告制度や金融商品取引法の整備を通じて、企業に対する説明責任と透明性の確保を求めています。

また、コーポレートガバナンス・コードが2015年に導入され、2021年には実効性を高めるべく改訂されました。これにより、取締役会の多様性、社外取締役の機能強化、ESG要素の経営統合などが義務付けられつつあります。

さらに、経済産業省の「グループ・ガバナンス・システム(CGS)ガイドライン」などにより、企業グループ全体における統治の明確化も進んでいます。これらの制度整備は企業に対して形式的な対応ではなく、実効性ある統治体制の構築を強く迫っています。

参照:コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針 (CGS ガイドライン)|経済産業省

グローバル対応、ESG対応の必要性

近年、国際的な投資家やサステナビリティ指標を重視するファンドの影響力が増しています。この影響を受けて、企業の非財務情報への注目が高まっています。

特にESG(環境・社会・ガバナンス)の観点は、ガバナンスの強化が企業の評価に直結する重要な要素となっており、これを欠いた企業はグローバルな資本市場において不利な立場に置かれかねません。

また、サプライチェーン全体でのコンプライアンス遵守も国際取引の前提条件となっており、多国籍企業にとっては一層の対応が求められています。

このように、グローバルな競争環境においても、コンプライアンスとガバナンスは企業経営の重要テーマとなっています。

コンプライアンスとガバナンスが組織に与えるメリット

コンプライアンスとガバナンスの強化が組織に与えるメリット

コンプライアンスとガバナンス体制の整備は、組織に次のようなメリットを与えます。

  • 社会的信用の獲得
  • リスクマネジメント
  • 従業員のエンゲージメント向上
  • 企業価値向上
  • ESG投資の拡大

 

以下で詳しく解説していきます。

社会的信用の向上

企業が法令や倫理規範を遵守し、透明性の高い経営を実践する姿勢は、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がります。

特に近年は、企業に対する監視の目が厳しくなっており、信頼性が企業のブランド価値や評判を大きく左右する時代となっています。

誠実で説明責任を果たす企業は、レピュテーションリスクを抑制し、多様な資金調達がしやすくなったり、安定的な取引関係、優良顧客の維持に繋がったりと、財務基盤の安定に繋がります。

リスクマネジメント

コンプライアンスとガバナンスが組織に与えるメリットとして、「リスクマネジメント」も挙げられます。

ガバナンスやコンプライアンスの体制を整備することで、内部不正やハラスメント、法令違反といった重大リスクの兆候を早期に把握し、適切な対策を講じることが可能となります。

これにより、企業は訴訟リスクや行政処分による経済的損失を回避するだけでなく、長期的な経営の安定性を確保することができます。

特に上場企業にとっては、こうした体制がIR活動や監査対応においても高い評価を受ける要素となっており、資本市場との信頼構築に直結します。

従業員のエンゲージメント向上

コンプライアンスとガバナンスは、従業員のエンゲージメント向上にも寄与します。

企業が倫理的な経営を実践することで、従業員は自分の業務が社会的に意義のあるものであると認識しやすくなります。

また、公正かつ透明性のある人事・評価制度は、職場における信頼関係を醸成し、モチベーションや生産性の向上を促します。

コンプライアンス教育やハラスメント防止の取り組みを通じて安心して働ける環境が整えば、優秀な人材の流出を防ぎ、組織の一体感を高めることにも繋がります。

企業価値向上

コンプライアンスとガバナンスが組織に与えるメリットとして、「企業価値向上」も挙げられます。

コンプライアンスとガバナンスの実効性を高めることで、企業は健全かつ持続可能な成長を遂げるための土台を得ることができます。これは財務パフォーマンスの改善や、中長期的な株主価値の向上に直結します。

また、経営の透明性や説明責任が果たされている企業は、M&Aや資本提携の場面でも高い評価を受けやすく、成長機会の拡大にも寄与します。

企業価値向上

「ESG投資の拡大」においても、コンプライアンスとガバナンスの整備は極めて重要です。

ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する機関投資家は、財務指標に加えて企業の非財務的な健全性や持続可能性を評価軸としています。特にガバナンスは、ESGの中でも投資判断に直結する要素とされ、企業統治が不十分な企業は投資先として敬遠される傾向があります。

実際に、米国企業1,958社を対象に実施された研究では、ガバナンスが劣後する企業グループの保有する現金よりも、ガバナンスが優良な企業の保有現金の現在価値の方が上回ることが明らかにされています。

このように、コンプライアンスとガバナンスに関する取り組みに積極的な企業は、資金調達の面でも優位に立つことができるでしょう。

参照:Dittmar and Mahrt−Smith(2007)
参照:ESGのGと企業価値に係る一考察|月刊資本市場 2023年5月号(No. 453)

コンプライアンスとガバナンスを強化するための方法

では、企業のコンプライアンスとガバナンスはどのように強化すれば良いのでしょうか。具体的には、次の6つの方法が挙げられます。

  • 経営陣によるコミットメントと倫理的リーダーシップの実践
  • 内部統制とリスクマネジメント体制の構築
  • 内部通報制度の整備と保護措置
  • 継続的かつ階層別の教育研修プログラム
  • 取締役会・社外役員の機能強化
  • 組織風土とエンゲージメントの醸成

 

それぞれ以下で詳しく解説します。

経営陣によるコミットメントと倫理的リーダーシップの実践

企業文化は、トップの姿勢が強く影響します。経営者が透明性や説明責任を自ら示すことで、社員にも同様の行動様式が浸透し、制度の実効性が高まるでしょう。

経済産業省が発行する「CGSガイドライン」においても、「経営陣による倫理的リーダーシップの実践」が強く推奨されています。

参照:コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針 (CGS ガイドライン)|経済産業省

内部統制とリスクマネジメント体制の構築

コンプライアンスとガバナンスを整備するためには、内部統制が必要です。

金融庁による「内部統制報告制度」では、業務ごとのリスク評価、職務分掌の明確化、文書化された手続、内部監査の独立性確保が必須とされています。

参照:内部統制報告制度に関するQ&A|金融庁

内部通報制度の整備と保護措置

効果的な内部通報制度(ホットライン)は、不正の早期発見と是正に繋がります。

制度が適切に機能するためには、匿名性の確保、通報者への報復禁止の明文化、社内外の独立した窓口設置、通報内容への迅速な対応体制が必要です。

参照:公益通報者保護法と制度の概要|消費者庁

継続的かつ階層別の教育研修プログラム

コンプライアンスやガバナンスに関する教育研修は、単なる知識の伝達にとどまらず、現場での意思決定や倫理的判断力を育てることが求められます。

特に管理職以上の層に対しては、過去の事例研究(ケーススタディ)、シミュレーション研修、対話型ワークショップなどを通じて、リーダーとしての自覚と責任を強化しましょう。

これらは、コンプライアンス・マネジメントシステムの国際規格である「ISO 37301」でも推奨されている重要な要素です。

取締役会・社外役員の機能強化

ガバナンスの中心となる取締役会の質を高めるには、社外取締役の独立性と多様性を確保することが重要です。

東証が定めている「コーポレートガバナンス・コード」では、取締役会評価や第三者評価の実施、指名・報酬委員会の設置などが推奨されています。これにより、経営の透明性と説明責任を強化し、経営判断の質を担保することができます。

参照:コーポレートガバナンス・コード|株式会社東京証券取引所

組織風土とエンゲージメントの醸成

制度はあっても、それを支える組織風土がなければ取り組みは形骸化してしまいます。そのため、日常的な対話や表彰、人事制度との連動などを通じてコンプライアンスを自分事化する文化を醸成することが求められます。

心理的安全性の高い職場では、報告や相談が活発となり、結果として内部統制の実効性も高まると言われています。

コンプライアンスとガバナンスの強化は、企業の持続的成長を可能にする戦略的手段

コンプライアンスとガバナンスの強化は、企業の持続的成長を可能にする戦略的手段

本記事では、コンプライアンスとガバナンスの意味や違い、求められている背景や、コンプライアンスとガバナンスの強化が組織にもたらすメリット、強化する方法を解説しました。

コンプライアンスとガバナンスの充実は、単なるルール遵守にとどまらず、企業の持続的競争優位性を構築するための戦略的手段であると言えます。

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監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立し、2024年11月に創業から5年で東証グロース市場に上場。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。