アクティビスト(物言う株主)とは?活発化の背景や、株主提案の事例を分かりやすく解説
近年、アクティビストの活動が再び活発化しています。アクティビストとは、いわゆる「物言う株主」のことで、一定数以上の株式を取得した上で、投資先企業の経営陣に積極的に提言を行う投資家のことを指します。
ここ数年は株主提案数が過去最高を毎年更新しており、企業は企業価値向上に向けた取り組みを投資家と日頃から議論するなど、自社の戦略に理解を求めることが必要となってきています。
本記事では、アクティビストの意味や活発化した背景、代表的なアクティビスト、過去実際にあった株主提案の実例などを分かりやすく解説します。
アクティビスト(物言う株主)とは
アクティビスト(Activist)とは、本来英語で「活動家」を意味する言葉です。しかしビジネスにおいては、いわゆる「物言う株主」のことを指します。
アクティビスト(物言う株主)は、一定数以上の株式を取得し、投資先企業の経営陣に積極的に提言を行うことで、企業価値の向上を目指します。
具体的には、経営陣との対話や交渉、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等などが挙げられます。
「アクティビスト」と聞くと、良いイメージを持たない方もいるかもしれません。これは「ハゲタカファンド」などと呼ばれた、一部の強硬派アクティビストが投資家側のみの短期的リターンを追求する行動が目立ったことが大きく影響しています。
しかしながらこれは一部のファンドに限った話であり、特に近年は企業の持続的な成長を重視して、事業内容に深く寄り添った投資活動を行うアクティビストも少なくありません。
本来、企業経営に必要な要請・提案を行うことは、企業価値向上のためにも必要なことです。企業は、アクティビストを単純に敵対視するのではなく、投資家と日頃から自社の経営について対話の機会を設けながら、企業価値向上に向けた取り組みを進めることが求められます。
アクティビストが活発化した背景
アクティビストの活動は、コーポレートガバナンス(企業統治)が重視されるようになった1980年代頃アメリカで始まったと言われています。
コーポレートガバナンス(企業統治)とは、「会社は経営者のものではなく、資本を投下している株主のもの」という考え方のもと、経営者が株主利益の最大化を図って運営しているかを監視する仕組みのことです。
ガバナンスに課題を抱える企業に対して機関投資家は経営改革や改善を要求するようになり、その後、事業売却や資本構成の変更など、より踏み込んだ要求・提案をする「アクティビスト」が登場しました。
日本においては、2000年代にアクティビストが注目を集めました。代表的なアクティビストは、1999 年に通商産業省(当時)を退官した村上世彰氏が率いた「村上ファンド」と呼ばれる投資ファンドです。
対象企業の取締役会の同意を得ずに仕掛ける買収、敵対的TOB(株式公開買い付け)を日本で初めて仕掛けるなど、投資手法が強圧的とされ、当時の社会や市場では好意的に受け入れられませんでした。その後、リーマン・ショックの影響などからアクティビストの活動は一時期下火になりました。
しかしながら、日本でも資本市場のグローバル化が進み、アクティビストの投資行動は企業経営に一定の効果があるという事例も増えてきました。
また、第2次安倍政権(当時)による経済政策(通称:アベノミクス)により、2014年には日本版スチュワードシップコードが、2015年にはコーポレートガバナンスコードが制定されるなど、コーポレートガバナンス改革が推し進められました。
これらの影響を受け、近年は日本においても再びアクティビストが存在感を高めています。
代表的なアクティビスト
ここからは、代表的なアクティビストファンドを5つ紹介します。
・エリオット・マネジメント
・バリューアクト・キャピタル・マネジメント
・サード・ポイント
・ダルトン・インベストメンツ
・エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
エリオット・マネジメント
エリオット・マネジメントはアメリカのヘッジファンドで、1977年にポール・シンガー氏によって設立されました。
世界最大のアクティビストであり、日本でも存在感を高めており、株式だけでなく、不動産、コモディティ、プライベートエクイティなどにも投資しています。
バリューアクト・キャピタル・マネジメント
バリューアクト・キャピタル・マネジメントは、2000年にジェフリー・アッベン氏によって設立されました。アメリカのサンフランシスコに拠点があります。
アクティビストのなかでも有数の規模を誇っており、他のアクティビストと比べて穏健派と言われています。
サード・ポイント
サード・ポイントはダニエル・ローブ氏が1995年によって設立されたアメリカを代表するヘッジファンドです。
企業に強く改革を求めることで知られており、日本ではセブン&アイ・ホールディングスやIHI、ソニーなどに投資しています。
ダルトン・インベストメンツ
ダルトン・インベストメンツは、1999年に創業されました。
共同創業者のジェイミー・ローゼンワルド氏はかつて日系証券企業で働いた経験を持ち、2008年のリーマン・ショック以前から日本株に積極的に投資してきた老舗アクティビストです。
エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
エフィッシモ・キャピタル・マネジメントは、旧村上ファンドの幹部であった高坂卓志氏、今井陽一郎氏、村上世彰氏の3人が2006年にシンガポールで立ち上げた投資ファンドです。
日本企業への投資を主とするアクティビストであり、日本企業主体の投資ファンドでは、最大規模を誇ります。
アクティビストの株主提案事例
では、アクティビストは具体的にどのような株主提案をし、企業の株価にどう影響を与えて来たのでしょうか。ここからは、実際の事例を2つご紹介します。
ソニー
サード・ポイントはソニーに対し2度に渡り圧力をかけています。
まず、2013年に株式を大量保有した上で、エンターテインメント事業を分離して株式上場するように迫りました。
その後、2019年に上場子会社であるソニーフィナンシャルホールディングス、医療情報サービスのエムスリー、オリンパスなどの株式売却と、半導体事業の分離・独立を迫りました。
ソニーは半導体事業を成長戦略の要としていたので分離には応じず、オリンパス株の売却によってサード・ポイントの要求に応えました。
このようなサード・ポイントの動向はソニーの株価にも大きな影響を与えました。サード・ポイントが2019年6月にソニー株を保有していることを発表したあと、同年7月5日には年初来高値を更新しました。
東芝
東芝の筆頭株主であるエフィッシモ・キャピタル・マネジメントは、2020年7月に開催された定時株主総会の運営の適正性について、独立調査を求める株主提案を提出しました。
東芝はその後の2021年3月に臨時株主総会を開き、エフィッシモの株主提案を可決。株主が開催を求めた株主総会で提案が可決されるのは大企業において異例のことであり、日本のコーポレートガバナンス(統治企業)にとって画期的な出来事だったと受け止められています。
アクティビストは今後より一層日本の株式市場に大きな影響を与える存在に
今回は、アクティビストの意味や活発化した背景、代表的なアクティビスト、過去実際にあった株主提案の実例などについて解説しました。
アクティビストは、企業価値創造を重要視する流れや、日本版コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入・普及などを受け、今後より一層存在感が高まっていくことが予想されます。
日本企業はアクティビストを単純に敵対視するのではなく、緊張感を持って向き合い、対話の機会を設けながら企業価値向上に向けた取り組みを進めることが求められる時代になってきているのではないでしょうか。
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監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。