総研レポート・分析

2022年度上半期 上場企業による企業用不動産(CRE)売却動向に関する分析

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、上場企業が適時開示を行った不動産売買等に関するプレスリリースを基に、2022年上半期(4月~9月)の不動産売買動向について調査を行った。

2022年上半期は昨年に続き上場企業の不動産(CRE)売却活動が旺盛

2022年上半期の不動産売却/譲渡に関するプレスリリースを集計したところ、上半期としては不動産売却件数が過去最高の件数の101件となった(表1参照)。その背景としては6月に株式会社西武ホールディングス(陸運業)が31件の不動産を売却したことが大きい。同社の売却手法として売却後も全不動産の運営業務を受託する運営受託契約を締結しており、大胆にもこの規模のグループ保有不動産を所有から利用へとオフバランスを行った点に注目したい。

表1)不動産売却動向

2018年の新型コロナウィルス感染症の発生前からの不動産売却動向を1月あたりの平均値で見てみると、企業件数において2021年度、2022年度と長期化するコロナ禍を背景に財務体質の改善等を目的とした不動産売却を行う企業数が増加していることが見て取れる(表2参照)。

表2)不動産売却動向 -1月あたりの平均件数-

2022年下期においてはCCReB GATEWAY「ホットワード分析」でみられる通り、コロナ禍の影響が落ち着く間もなくウクライナ戦争を発端とした「円安進行」、「物価上昇」、「価格高騰の影響」といった事業環境上の懸念材料が出てきており企業も対策に追われる中(図1参照)、今後益々、企業もしくは事業の「稼ぐ力」が試される状況下が続くこととなる。昨今、経営指標として資本効率性を表す「ROIC」が注目される中、企業が保有する資産(=不動産等)をどう活用していくのか、今後の動向に注目したい。

<ROIC参考レポート>
中期経営計画における経営目標としての財務指標のトレンド分析
注目の経営指標ROICに関する考察(続編)

図1)2022年の事業環境

「輸送用機器」「陸運業」のCRE活用が進行中

表3は業種別に不動産を売却した企業件数を整理したものである。過去4年間の平均件数と2022年の実績件数を比較したところ、特に「輸送用機器」「陸運業」において積極的な不動産売却動向が見受けられる。陸運業においては2020年から始まった新型コロナウイルスにより観光事業の縮小、事業会社のビジネス環境の変化(出張自粛、web会議の浸透)の影響が色濃く出た業種であり、2020年以降、電鉄系企業を中心としたノンコアアセットの売却が2022年においても継続している。また、輸送用機器においても新型コロナウイルスの影響や半導体不足の影響による生産台数の低下に見舞われていた業種である。また、直近では原材料価格の高騰という問題にも直面し、財務戦略の見直しが迫られている業種と言えよう。

表3)業種別 不動産売却企業件数

CREにおけるセールアンドリースバック取引きは増加の一途

セールアンドリースバック(売却した不動産を賃借して使用し続けることを指す。ここでは数年後の撤退を前提とした短期取引、売却後も運営業務受託を行うものなども含む総称とする。以下、S&LB)取引を選択した企業件数を2018年より遡ってみてみると、毎年着実に増加をしている(表4参照)。2022年度において代表的な取引事例としては先述した西武ホールディングス(陸運業)のホテル、ゴルフ場、スキー場の一括S&LB売却であろう。その他にも明治機械株式会社(機械)の千代田区の本社や日本紙パルプ商事株式会社(卸売業)の中央区の自社利用オフィスビルといった都心に所在するビルを中心とした本社・自社ビルのS&LBは依然として増えており、企業における不動産の保有・利用の在り方は着実に変化を遂げている

表4)不動産売却においてS&LB取引を選択した企業件数

 

以上、本レポートでは上場企業の開示する不動産売買に関するプレスリリースを元に分析を行ったが、ククレブグループで提供しているB2Bポータルサイト「CCReB GATEWAY」のサービスの1つである『IRストレージ』では、日々上場企業が開示する適時開示資料を自動的にカテゴリ別に仕分けを行っており、カテゴリの1つに「固定資産譲渡」がある。日々の企業動向の把握にあたり、是非、当該サービスを活用頂き、時々刻々と変化する企業用不動産の動向をタイムリーに効率的に把握する手段として活用頂きたい。

 


免責事項
※当レポートに掲載した図表は企業の開示資料において固定資産の売却/譲渡に関するリリース文書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計しております。

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