2021年度 上場企業による企業用不動産(CRE)売却動向に関する分析
ますます高まるCRE戦略の重要性
ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、上場企業が適時開示を行った不動産売買等に関するプレスリリースを基に、2018-2021年度を対象期間として、コロナ禍を境にどのような変化があったのか、その傾向について調査を行った(※)。
「繊維製品」「陸運業」「化学」「サービス業」業界におけるCRE活用が定着傾向
2018年度以降の上場企業が公表した不動産売買等に関するプレスリリースについて独自に集計を行った結果、2021年度は不動産の売却を行った企業数は2018年度対比で約1.4倍、不動産件数でみると2018年度対比で約1.5倍と、コロナ禍を契機に、年々、日本における不動産の持たざる経営へのシフトが進んでいることが見て取れる。
また、不動産売却を行った企業を業種別に分類し、2018-2019年度の新型コロナウィルス感染症の発生前と2020-2021年度の発生後で比較を行うと、コロナ禍による業績への影響が大きかった「繊維製品」、「陸運業」、「化学」、「サービス業」において2~3倍の伸長率で保有不動産を売却する企業が増加していることが分かった。
個別企業で見てみると、「繊維製品」では従前は動きの無かった東京都や大阪府の一等地に位置するオフィスの売却(例:グンゼ株式会社)、「陸運業」では電鉄系企業による賃貸用資産(ノンコア資産)の売却(例:株式会社西武ホールディングス)やホテル売却による所有と運営の切り離し(例:近鉄グループホールディングス株式会社)、「化学」では賃貸用不動産(ノンコア資産)の売却(例:コニシ株式会社)、「サービス業」ではオフィス(特に本社)のセールアンドリースバックによる大型取引(例:株式会社電通グループ)が目立つ等、各業種において売却傾向に特徴を持ちながらも、一貫して見えてくるのは長期化するコロナ禍を背景とした本業への資金投下を目的とした保有不動産の活用、ひいては、企業経営における不動産の有り方が見直され始めていると言えるのではないだろうか。
セールアンドリースバックは企業財務目標を達成するにおいて、ますますCRE戦略の一般的な手法に
セールアンドリースバックと一口に言っても、最近は数年後の撤退を前提とした取引や、売却後もホテルオペレーターとして運営業務受託を行うものなど、企業の経営戦略に基づき手法は多様化してきているが2021年度実績は2018年度対比で2.9倍にまで増加しており、今後もますます増加の一途をたどると考えられる。
その背景として、セールアンドリースバックはROA・ROEといった経営指標の向上を図る手法の1つとして従来注目されてきたが、近年、ROIC(投下資本利益率)という新たな経営指標の重要性にも注目が集まっている(ROICに着目した企業における経営指標のトレンド分析については「中期経営計画における経営目標としての財務指標のトレンド分析」を是非ご一読頂きたい)。本レポートでは不動産売却に注目した動向に触れるに留めたが、不動産取得(新規の建設を含む)においてはインダストリアル系不動産を中心として2021年度もコロナ発生前同様に取得動向は横這いの状況である。
インダストリアル系不動産の取得理由として事業拡大・生産能力向上を目的としたものもある一方、老朽化を理由にした建替え・移転も多く見受けられる。後者の理由を背景とした不動産取得を予定される企業においては今後、直接利益を生まない不動産への新たな資本投下を避け、セールアンドリースバックを活用した開発をすることでROICの改善につなげる動きも今後増えてくることが予想される。
以上、本レポートでは上場企業の開示する不動産売買に関するプレスリリースを元に分析を行ったが、ククレブグループで提供しているB2Bポータルサイト「CCReB GATEWAY」のサービスの1つである『IRストレージ』では、日々上場企業が開示する適時開示資料を自動的にカテゴリ別に仕分けを行っており、カテゴリの1つに「固定資産譲渡」がある。日々の企業動向の把握にあたり、是非、当該サービスを活用頂き、時々刻々と変化する企業用不動産の動向をタイムリーに効率的に把握する手段として活用頂きたい。
※当該レポートに掲載した図表は企業の開示資料において固定資産の譲渡/取得に関するリリース文書をもとに、ククレブ総合研究所にて集計しております。
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