物流施設賃貸市場動向Vol.3

賃貸需要は堅調も大量供給により空室率は上昇

マーケットサマリー 

 2022年上半期は、ロシアのウクライナ侵攻や上海のロックダウンによる影響が、世界的に製造業のサプライチェーンの混乱や原油をはじめとした物価上昇を招いており、欧米では物価上昇抑制のため政策金利が引き上げられている。わが国では、金融面での安定化を維持するため日本銀行による金融緩和の続行が表明されている一方、物価上昇の企業業績や家計消費への悪影響も懸念される。

◇国内・国際貨物輸送量

 2021年は、国内・国際ともに前年比で増加した。新型コロナウイルスの新規感染者数が減少し、サプライチェーンが正常化に向かった点が主たる要因と考えられる。2022年に入り、新たな要因によるサプライチェーンの混乱が起こったことで、今後の取扱貨物数への影響が懸念される。特に、製造業での国際貨物の減少が見込まれることから、保管利用としての賃貸需要への影響に注視を要する。

◇宅配便取扱数 

 EC(BtoC-EC)市場規模の拡大と共に、宅配便取扱数は増加傾向にある。 2021年度の取扱数を大手3 社で見ると、ヤマト運輸、佐川急便が前年比で増加し、日本郵便は減少している。3社合計で見ると、前年比+2.2%程度の増加となった。2022年度も5月までの取扱数が3社合計で前年同期比微増での推移となっており、EC企業の市場規模拡大が賃貸需要の下支えとなっている。また、当社ヒアリングによると、業績が好調な荷主からの増床要望が3PL事業社にあがっており、賃貸条件が合えば増床や新規拠点開設を進めていく方針とのことである。

◇物流施設の取引市場

 2022年6月までにJ-REITで売買された物流施設は約1,400億円で、前年同期比で比較するとやや減少しているものの、総額からみれば堅調であるといえる。直近では、取引市場に出回る物件数が限定的であるため、好立地かつ築浅の大型施設については、低い利回り水準であっても、投資家が許容するケースが観察されている。

◇物流施設の賃貸需要

 EC企業や3PL企業が需要を牽引する中、前回調査時点との比較で賃貸需要は総じて底堅く推移している。今後、サプライチェーンが正常化するまでの期間や拡大を続けるEC企業の拠点需要の動向に注目が集まる。なお、今後2023年までに予定される大量供給の需給バランスへの影響については注視を要する。

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所にて作成

 

■賃貸物流施設のエリア別 見込み賃料水準・空室率 

◆ 首都圏

 首都圏の見込み賃料水準及び空室率は後掲の通り。
 首都圏の賃貸物流施設は、新規施設の大量供給により満床で竣工を迎える物件数の供給量に対する割合が半年前と比較して減少している。また、既存施設についても、一部エリアで纏まった空室が発生しており埋め戻しに時間を要していることから、エリアによって需給バランスが緩和されている。
 開発会社等へのヒアリングでは、土地取得価格や建築費の高騰により新規供給施設の募集賃料が、直近の水準から下がることは考えにくいとの意見が多く上がった。実際、新規供給施設の賃料は、同一エリア内で2021年に供給された施設と比較して高い賃料水準で成約している事例もある。募集賃料は上昇が続いているものの、当初の募集賃料でリースアップ出来なかった物件も多数存在しており、竣工後の空室期間が長期化する場合には、賃貸条件の見直しを迫られる可能性も考えられる。なお、既存施設の定期借家契約については、賃料を増額して再契約している施設が複数あった。
 テナントサイド等へのヒアリングでは、荷主やエンドテナントの業態によって一部で需要の減少が認められるものの、EC企業を中心に総じて賃貸需要は底堅いとの回答が得られている。割安なエリアを物色する動きや、新規賃料水準の上昇により、賃借するのではなく自社物件の開発を検討するケースも出てきている。
 新規供給施設で満床まで時間を要する事例や、国道16号エリア及び東京湾岸エリアの千葉県の一部では空室率の上昇が認められている。一方で、開発会社を含むオーナー側の賃貸条件に対する姿勢は半年前から変わっておらず、実際に成約賃料水準も上昇している。オーナーサイドとして高水準の表面賃料を維持するため、1年におよぶフリーレントを付与する提案も見られた。
 後掲の見込み賃料水準の動向より、賃貸市場は底堅く推移しているといえるが、大量供給が進むことで空室率は上昇するものと考えられ、今後の動向についてはエリア毎の需要の強弱によって、見込み賃料水準の上昇下落の方向性が分かれていくものと考えられる。

首都圏エリア別空室率

※J-REIT公表資料に基づき谷澤総合鑑定所にて作成

首都圏 エリア別見込み賃料水準

前提スペック
 ・汎用性のあるマルチ型物流施設(ドライ倉庫)
 ・床面積30,000㎡~
 ・築年20年未満

※谷澤総合鑑定所作成。当期は網掛けで表示している

 

◆ 近畿圏・中部圏

近畿圏・中部圏の見込み賃料水準及び空室率は後掲の通り。

◇近畿圏 

 既存施設の空室率は、近畿圏内陸部で上昇しているが、総じて需給はタイトな状況である。大阪府内陸部エリアは、兵庫県内陸部エリア、京都府エリアと比較して纏まった計画が少ないことから、見込み賃料水準の下限値の上昇が進んでいる。見込み賃料水準について、精通者へのヒアリングによると、現在のところ茨木IC及び吹田IC周辺が近畿圏で最も高い5,000円/坪程度と回答を得ているが、今後この水準が更に上昇するものと見込まれる。
 今後の計画については、2023年に兵庫県川西市で延床面積50万㎡ 超の「ESR川西ディストリビューションセンター」が予定されているほか、奈良県で初となるマルチテナント型施設「LF奈良」(延床面積12万㎡超)が供給予定である。大阪府内陸部エリアは、全体の新規供給予定量がこれまでの供給量と比較して大きく変動しないことから、需給がタイトな状況は続くものと考えられる。

中部圏 

 愛知県湾岸部では、大規模な新築物件が空室を残して竣工予定である。また、内陸部でも一部空室が認められる状況である。今後は、需給バランスが緩和されるものと考えられるが、賃料については現在の募集賃料水準を下げるような動きは無いため、概ね横這いから微増傾向での推移が見込まれる。
 2023年には中部圏で最大規模となる延床面積35万㎡超の「ロジポート名古屋」が供給予定で、規模・スペックともにエリアにおける旗艦物件になることから、当該物件のリーシング状況、成約賃料水準に注目が集まる。2022~2023年の新規供給量は中部圏において記録的なものとなるため、既存施設への影響については、市場全体としての賃料底上げの足掛かりになるか、全体の空室率を上昇させるに留まるか市場関係者が注目する。

近畿圏・中部圏 エリア別空室率

※J-REIT公表資料に基づき谷澤総合鑑定所作成   ※3棟以下のデータ

 

近畿圏・中部圏 エリア別見込み賃料水準

前提スペック
 ・汎用性のあるマルチ型物流施設(ドライ倉庫)
 ・床面積30,000㎡~
 ・築年20年未満

※谷澤総合鑑定所作成。近畿圏・中部圏は当期より調査開始

 

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