中期経営計画における経営目標としての財務指標のトレンド分析

中計における企業の重点財務指標はROEが不変もROICが急激に台頭

 ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、2020年及び2021年の間に提出された中期経営計画書(以下「中計」)について、情報支援ツールCCReB Clipを利用して、財務指標(ROA・ROE・ROIC)のトレンドについて分析を行った。なお、2022年4月4日より新市場区分(プライム・スタンダード・グロース)がスタートしたことに伴い、20年・21年に公表された中計を新市場区分に分類して分析を行った。

■2020年における各指標の出現率について(図1)

 まず2020年1月から12月までに中計を公表した企業数は421社であり、そのうちROA(総資産利益率)の目標値を中計に掲げている企業は43社と中計公表企業の10.2%に出現する結果となった。ROE(自己資本利益率)は117社、全体の27.8%を占め、多くの企業においてROEの目標値の達成を経営目標としていることが見て取れた

 ROA、ROEは伝統的な財務指標として多くの経営者が自社の経営指標として利用している中、最近ではROIC(投下資本利益率)を重視する流れが出てきており、2020年の中計においては、9.7%とROAと肩を並べる水準となり、ROICが企業における新たな財務指標となりつつあることが同じく見て取れた。

 なお、ROICとはReturn On Invested Capitalの略称であり、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したかを示す指標であり、これまでは個別のプロジェクトにおける投資採算性を示す指標として使われることが多かったが、経営全体においてもいわゆる株主資本(自己資本)のみならず、銀行借入や社債発行などの他人資本を含む実質的な投下資本を利用してどれだけ効率的に利益を稼ぐかを測るための指標として重視されつつある指標と言える。

 2020年において、ROICを中計における主要指標として掲げているのは、川崎重工業株式会社(輸送用機器)、味の素株式会社(食料品)、三菱重工業株式会社(機械)、三井物産株式会社(卸売業)などグローバル企業であり、中計における経営目標としては、全体からするとまだ限られた企業における目標指標とも言える。

≪図1≫2020年中期経営計画書における各財務指標の出現率 

■2021年における各指標の出現率について(図2)

 続いて2021年1月から12月までに中計を公表した企業数は855社であり、そのうちROA(総資産利益率)の目標値を中計に掲げている企業は74社と中計公表企業の8.7%となり、2020年と比較して減少傾向となった。ROE(自己資本利益率)は254社、全体の29.8%を占め、2020年同様、多くの企業においてROEの目標値の達成を経営目標としていることが引き続き見て取れた

 これに対し、ROIC(投下資本利益率)は106社、全体の12.4%を占め、ROAを抜く形となった。2020年からの出現率の増加率ではROEを上回る水準となり、ROICが新たな財務指標の主力となる傾向を見て取れた

2021年において、ROICを中計における主要指標として掲げているのは、日本電信電話株式会社(情報・通信業)や株式会社日立製作所(電気機器)など、2020年同様グローバル企業が名を連ねているが、株式会社雪国まいたけ(水産・農林業)や株式会社白洋舍(サービス業)などの国内事業を展開する企業でも中計における経営目標とする動きが出てきている。

≪図2≫2021年中期経営計画書における各財務指標の出現率

■新市場区分から見るトレンド(図1’・図2’)

 先の図1・図2における2020年、2021年の各指標の出現率を東証等における新市場区分(プライム・スタンダード・グロース)に分けて分析を行った。

 これによると、各指標ともにプライム市場上場の企業において、出現率が高いことが分かる。特にROE目標についてはプライム上場企業が突出している一方、グロース市場上場企業においては、投資家に対しビジネスビジョンを示す段階にあることから、具体的な経営目標として財務指標の目標を掲げられる企業が少ないと言える。

 ROE、ROICなどの指標の出現率については、プライム市場とスタンダード市場の上場企業での乖離が大きく、今後プライム市場での上場維持を目指す企業においては、定性的な要件に加えて、目標財務指標の達成などの定量的な要件を経営戦略としてどう満たしていくのか、各社の企業不動産(CRE)戦略などの経営戦略にも注視したい。

≪図1‘≫2020年中期経営計画書における各財務指標の出現率(市場区分内訳付)

≪図2‘≫2021年中期経営計画書における各財務指標の出現率(市場区分内訳付)

■業種の観点から見たトレンド(図3・図4)

 最後にこれまでの分析を各企業が属する業種の観点から分析を行った。東証33業種のうちどの業種が各指標を経営目標としているのか、逆に言及がない業種に触れることで見ていくと、そもそも対象社数が少なく、中計を公表していない企業も多いため一概には言えないが、空運、水産・農林業、海運業などが、中計において各財務指標を経営目標として掲げていないことが窺えるが、その他の業種は幅広く各財務指標の目標値を経営目標としていると言え、特にROEについてはかなりの業種においてスタンダードな経営目標となっていることが分かる。

 ROICについては、2021年においては約8割の業種で経営目標となっており、対2020年比でも大幅な増加傾向を示している。特に先述した空運、水産・農林業でもROICを経営目標として掲げ出したことは興味深い。

≪図3≫2020年中期経営計画書における各財務指標の出現率(東証33業種ベース)

≪図4≫2021年中期経営計画書における各財務指標の出現率(東証33業種ベース)

 以上、CCReB Clipを活用して、各財務指標の中計における出現率の分析を行った。グローバルで経済環境が激変する中、物価高などの足元の経営課題に対処する一方で、積極的な新規投資により収益拡大が求められる環境において、ROICがその投資判断の一つの指標となっていき、今後益々重要な財務指標となるものと予測される。

 本年5月から6月にかけて、多くの企業で新たな中計の公表が控える中、ククレブ総合研究所では、CCReB Clipを活用してスピーディーに今回の調査について最新の中計の分析を加えてさらにアップデートして公表を行う。

 ククレブ総合研究所では、年々中計が高度化する中、今後のビジネストレンドや各業界が認識する課題など、CCReB GATEWAYのホットワード分析やレポートを通じて発信して参ります。

 


 

情報支援ツール”CCReB Clip”
「CCReB AI」のAIエンジンを活用して、格納する約1,500社(2020年9月1日現在)の中期経営計画から、ユーザーが抽出したい特定ワードを受付け、そのワードを含む企業のリストをスポット的に作成するサービス