物流施設賃貸市場動向Vol.11 -エリア内での賃料差は拡大傾向に-
マーケットサマリー
2026年4~6月の四半期GDP速報(一次速報)では、実質GDPが3四半期連続でプラスとなり、国内経済は堅調な推移を維持していることが確認されたが、個人消費については物価高の影響もあり好調とは言い切れない。2026年の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、前年同月比で+1%台半ば程度での推移で落ち着き、2026年以降実質賃金はプラスで推移していた。今年度の春季労使交渉における賃上げ率も昨年同様高水準となるなど雇用・所得環境は改善傾向にあるが、春先の原油高等を起点に企業間取引における価格転嫁が進んでおり、今後消費者物価にも波及して上昇率が高まっていくことが予測される。
中東情勢や為替動向など懸念される外部要因は挙げられるが、継続している株高や好調な企業業績,賃上げの広がり等を背景に、国内経済は当面の間、緩やかな回復基調を維持すると見込まれる。ただし、日本銀行は、2026年6月に政策金利を0.75%から31年ぶりの水準である1.0%に引き上げを決定したところであるが、マーケットでは更なる利上げ観測もあり、長期金利も上昇基調を強めていることから、金融環境の変化が国内経済や不動産マーケットに与える影響についてより注意して見ていく必要がある。
本調査時の開発会社等へのヒアリングから、物流施設の建築費は、中東情勢の影響もあり半年前と比較して更に上昇している模様で80万円/坪台が標準的、小さい規模の施設では100万円/坪を超えてくるとのことであり、開発可能なエリアが選別されているようである。
国内・国際貨物輸送量
2025年の国内貨物輸送量は前年対比で-3%程度と、緩やかな減少傾向での推移が続いている。内訳として自動車輸送と内航船での船舶輸送が減少し、鉄道輸送と航空輸送が若干増加した。国際貨物輸送量については緩やかな減少傾向で推移しているが、2025年は前年比で概ね横ばいとなった。鉄鋼の需給動向については、普通鋼鋼材について建設用は需要が減少しているが、製造業用は需要が増加しており保管需要も底堅い。
宅配便取扱数
2025年度の宅配便取扱数を大手3社で見ると、ヤマト運輸は前年度比で+1.7%、佐川急便は同+3.4% 、日本郵便は同+3.0%となった。3社の合計では前年度比+2.5%と、2年連続で増加している。
物流施設の取引市場
2026年1~6月のJ-REIT物件売買金額は交換取引も合わせて約400億円と低調で、このうち過半が物件を譲渡した事例だった。一方で、同年7月以降は物流特化型リートを中心に大型の物件取得も行われており、現時点において金利上昇により物件取得意欲が削がれているというわけではない。
物流施設の賃貸需要
賃貸需要については、前年と比較して大きな変動は見られず、全体的に底堅さを維持している。首都圏や近畿圏では、空室率は低下傾向、賃料は上昇基調で推移している。特に、東京の湾岸部や大阪の内陸部では需給のひっ迫感が強く、高額な賃料での成約や増額改定が進んでおり、精通者へのヒアリングでも強気の姿勢が確認された。 全般的にみると2025年以降の供給量が少ない状況であり、そもそも空室率が低いエリアでは、再契約や空室の埋め戻しのタイミングで既存テナントと比較して高い賃料水準での成約が観察されており、需給が逼迫しているエリアでは今後も賃料の上昇基調が続くものと考えている。
賃料の上昇基調の背景としては、前述のとおり建築費の高騰が続いていることが大きく、これが固定資産税・都市計画税の負担増といった運営コストの上昇にも繋がってくる。加えて、本年も自然災害が発生していることも影響して損害保険料の負担増の可能性もあり、「賃料を上げていかざるを得ない」との声も聞かれる。一方で、全国には従前から空室が多く、かつ、なかなかこれが埋まらないエリアも存在し、賃料を上げていくことが難しい状況も見られる(例えば、仙台市や中部圏の湾岸部,福岡圏の鳥栖IC周辺地域など)。また、開発コストの高騰から、ある程度の賃料が見込まれるエリアでないと採算が合わず建築できない、実際に断念した場所がいくつかあるとの声もあり、供給エリアの選別が強まる可能性について注視していく必要がある。
以上のように、エリアによる需給環境の違いは当然見られるが、エリア内においても賃料水準に幅が見られている。後掲の「エリア別見込み賃料水準」に色付けしているとおり、同一エリアにおいても建物のスペックによって1,000円/坪~1,500円/坪程度の賃料差が発生している。一定の水準のスペックを有していない施設は検討外との需要者も存在するようである。他方で、近年の高スペックな施設については、色付けした水準を大きく超えるところで成約しているものもあり、今後予定されている新築物件について高スペックなものが多いことからも、賃料の上昇傾向は続いていくものと考えられる。

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成
物流施設の供給予定(全国)
現在予定されている新規供給予定面積及び建築物着面積の推移は、以下の通りである。
新規供給予定面積を全国の合計で見ると2026年の供給量は2025年と比較して3割以上減少する。新規供給量は、2023年をピークに減少傾向での推移が続いている。2027年は2025年の水準に戻る見込みである。国土交通省が公表している建築物着工統計調査によると倉庫の着工面積及び着工棟数は2024年と同水準で、2026年も概ね同水準となる。建築費の高騰は天井知らずで、2021年比で2025年は約1.9倍に上昇しており、単価でみると80万円/坪弱で既述のヒアリング水準と概ね同水準である。
2026年の供給量は、弊社にて把握している限りで首都圏が約191万㎡と前年より若干減少している。近畿圏は約87万㎡、中部圏は約28万㎡で2025年と比較して4割程度まで減少する。福岡圏は約32万㎡、東北圏は約19万㎡で2025年と比較して4割ほど増加する。現状2027年に予定されている供給量は現段階で首都圏約169万㎡、近畿圏約71万㎡、中部圏約23万㎡と概ね前年と同水準が見込まれる。福岡圏は2027年に現段階で約56万㎡の供給が予定されており、これまで大規模な賃貸施設が少なかった北九州市で複数の大規模施設供給が計画されている。
また、2026年~2027年にかけて供給される施設で1棟の延床面積が10万㎡を超える施設は14棟あり、そのうち20万㎡以上の施設が4棟ある。工場跡地や区画整理により供給された土地に大規模施設が供給されており、今後も大規模化の傾向は大手開発会社が牽引役となって続いていく。施設規模が巨大化すれば、建物スペックも高くなければ建設できないことから、大規模な施設は標準的な物件と比較して圧倒的な競争力を備えている。ただし、好立地かつ高スペックな大規模施設であれば高い賃料を獲得できるわけではなく、大規模施設が高い賃料を獲得できる要因として各開発会社の地道なリーシング活動による影響も大きく作用している。
施設形態としては、1階が冷凍冷蔵、2階以上が常温倉庫で構成されたマルチタイプ施設の供給が増加傾向にある。3温度帯利用可能な施設をマルチテナント型で求めるテナントが一定量存在する。

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成
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※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成
賃貸物流施設のエリア別 見込み賃料水準・空室率
首都圏
首都圏の見込み賃料水準及び空室率は後掲の通り。
J-REIT公表データに基づく空室率は、東京湾岸及び外環道エリアで空室が発生したため空室率は上昇した。ただし、直ぐに埋め戻されている施設が多く、募集賃料も従前区画より大幅に上昇している。国道16号エリアでは、1,000坪~3,000坪の埋め戻しが複数施設であった反面、5,000坪と10,000坪の大規模な退去があり空室率が上昇している。圏央道エリアでは、複数の施設で退去が相次いだことで、空室率が上昇した。一部施設では空室埋め戻しの目途が立っているが、今後も既存施設からの退去予定を注視すべき状況にある。
開発会社等へのヒアリングによると圏央道の埼玉県(加須)では厳しい状況が続いており、フリーレントを5年契約で1年間付与する事案も観察されているが、それでも成約していない施設がある。また、圏央道(神奈川 厚木)も半年前と状況は変わっておらず、空室が多い状況は続いている。一方で16号(神奈川 座間、相模原)については、半年前より空室の消化が進んでおり回復傾向にある。これまで竣工から2年以上空室が続いていた施設も、満床が見込める状況に近づきつつあるが、フリーレントが多く付与されていることから、当該要因を考慮した実質賃料は低下している。
前回調査時点と同様、ボックス型※施設のリーシングは動きが鈍く、一棟全体が空室の施設も珍しくない。一度空室になると、立地や建物スペックによって空室期間が長期化するため、既存施設についてはテナントを繋ぎとめるため賃料を据え置きで再契約する事案もあり賃料差は広がっている。
東京湾岸(東京・神奈川・千葉)、外環道(東京、埼玉、千葉)、第三京浜は空室が少ない状況が続いており、空室が出た際には従前区画より大幅に高い賃料でも館内増床ですぐに成約している事案も観察されている。また、新規供給施設のプレリーシングが好調なのもこのエリアの特徴で、来年にかけて一段と高い賃料水準の成約事例が見込まれる。
このような状況を反映して次頁のエリア別見込み賃料水準は東京湾岸(都内、神奈川、千葉)、外環道(東京、埼玉)で上限値が上昇している。首都圏で前回調査時点から下落したエリアはないものの、サブマーケット毎に見てみると成約賃料の幅が広がっている地域がある。
エリア分布

©2026 ZENRIN CO., LTD. (Z16KD第851号)
※複層階に接車可能なランプウェイの設置が無い箱型の施設
首都圏 エリア別空室率

首都圏 エリア別見込み賃料水準
※前提スペック
・汎用性のあるマルチ型物流施設(ドライ倉庫)
・床面積30,000㎡~
・築年20年未満
※谷澤総合鑑定所作成。当期は網掛けで表示している。(当期変動分はオレンジ色の網掛け)
東北圏・近畿圏・中部圏・福岡圏
東北圏・近畿圏・中部圏・福岡圏の見込み賃料水準及び空室率は後掲の通り。
東北圏
東北圏に所在するJ-REIT保有施設については、仙台空港近くにある大規模施設で約1,800坪の埋め戻しがあったため、湾岸部の空室率が低下した。仙台市及び周辺エリアでは供給過剰な状況が指摘されており空室が目立っている。賃貸需要が弱い状況で、リーシング期間を引き延ばせば満床になるかは不透明な状況である。これまで強かった内陸部の需要も疑問視されており、全体的に今後賃料水準の調整が見込まれる。よって、今回のエリア別見込み賃料水準の上限値を仙台港以外の地域で100円/坪見直している。2026年も纏まった供給量が予定されているため、しばらくは空室率が高い状況が続く。
近畿圏
J-REIT保有施設については、湾岸部(兵庫)で約7,000坪、湾岸部(大阪)で約2,000坪の空室が発生したため、湾岸部の空室率が上昇した。その他のエリアでは既存施設の空室率に動きが無かった。全般的に好調で2026年以降の供給量が前年までと比較して半減する事から、需給は逼迫した状況が続くものと見込まれる。前回調査時点においては二次空室に対する懸念もあったが、現状ではそのような声は限定的である。従来、相関関係が薄かった内陸と湾岸部の賃料水準は、京都・大阪内陸部の上昇に牽引されるように湾岸部の上昇に繋がってきている。需要も堅調であるため、空室が出ても従前入居していた賃料水準より高い水準での成約となっている。
見込み賃料水準は、内陸部(大阪)茨木IC近隣の6,000円/坪(前回調査時点は6,000円/坪弱)がトップラインとなっている。京都においても久御山ICを中心に5,000円/坪超の成約事例も出てきており上値を追う展開が続いている。兵庫内陸部でも大規模施設の供給が予定されており、近畿圏全体として賃料の伸び余地がまだまだあるものと見込まれる。
中部圏
J-REIT保有施設については、湾岸部(愛知)、内陸部(愛知)ともに既存施設の空室率が上昇した。空室面積としては大きくないので影響も限定的と考えられるが、精通者へのヒアリングによると皆口を揃えて中部圏全体における空室率の高さを指摘する。自社施設を多く保有している製造業や物流企業にとって、4,000円/坪以上の賃料を払って物流施設を賃借するのは、物量が多く保管需要が旺盛な状況のようで、現在はそのような状況にない。
2026年以降の供給量は昨年までと比較して半減するため、今後は既存施設の埋め戻しに注力していくこととなるが、既にテナントの取り合いが続いていることから、賃貸借条件の軟化等、各施設の今後の戦略に注目が集まる。なお、湾岸部(愛知)は東海IC周辺に所在する大規模施設の成約状況から上限値が上昇している。
福岡圏
J-REIT保有施設については、内陸北部(福岡)における既存施設の空室1,200坪が埋め戻されたため、ほとんど空室が無い状況である。実態としても湾岸部(福岡)、内陸北部(福岡インターチェンジ周辺)の需給は概ね均衡しており、新規供給の賃料水準は4,000円/坪台半ばに達している。内陸南部の拠点となる佐賀県鳥栖市については、2026年以降に供給される予定の施設が多く需給面が懸念されている。精通者からも、3,000円/坪台後半程度の賃料が上限との声が多く、新規供給が多い中でも見込み賃料水準は横這いとした。
また、既述の通り工場が集積する北九州市では延床面積が10,000坪を超える施設供給が複数計画されている。既に募集している施設の賃料水準の中には4,000円/坪後半との声も聞かれ、これまで賃貸物件の供給が少なかったエリアであっても、需要が強いエリアでは高水準での成約が期待される。
エリア分布
◇ 東北圏

©2026 ZENRIN CO., LTD. (Z16KD第851号)
◇ 近畿圏

©2026 ZENRIN CO., LTD. (Z16KD第851号)
◇ 中部圏

©2026 ZENRIN CO., LTD. (Z16KD第851号)
◇ 福岡圏

©2026 ZENRIN CO., LTD. (Z16KD第851号)
東北圏・近畿圏・中部圏 ・福岡圏エリア別空室率

※J-REIT公表資料に基づき谷澤総合鑑定所作成。3棟以下のデータ
東北圏・近畿圏・中部圏・福岡圏 エリア別見込み賃料水準
※前提スペック
・汎用性のあるマルチ型物流施設(ドライ倉庫)
・床面積30,000㎡~
・築年20年未満

※谷澤総合鑑定所作成。当期は網掛けで表示している。(当期変動分はオレンジの網掛け)
※参考資料 賃料水準の推移








これまでのエリア別見込み賃料について、エリア毎の平均値をグラフ化したものであるため、賃料水準の推移を把握するための参考資料として掲載しております。
第三京浜・福岡圏については、調査開始時からの推移となります。
※利用上の留意点
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