リスキリングとは?DX時代に求められる理由や導入のポイント、企業事例を解説!
リスキリングとは、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するべく、新しく知識やスキルを学ぶことです。
IoT及びビッグデータやAIといった技術革新による「第4次産業革命」により、リスキリングの重要性が叫ばれるようになりました。政府もリスキリングに今後5年で1兆円を投資すると発表しています。DXが加速している今、人材育成に課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、リスキリングという言葉の定義や意味、リカレント教育との違いや、リスキリングが注目される理由や背景、企業が導入するメリット・デメリット、注意点やポイントを解説します。
実際にリスキリングを導入している企業の事例も紹介しているので、リスキリングの導入を検討している企業の経営者や、マネジメント層の方、人材育成担当者は、ぜひ参考にしてください。
リスキリングとは
リスキリングとは、技術革命や働き方の変化に対応するために、企業が従業員に対してスキルや知識を習得させるための取り組みを指します。
経済産業省は、リスキリング(Re-skilling)を「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。
経済産業省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」の委員である石原 直子氏は、「DX時代の人材戦略=リスキリング」と述べており、現在多くの企業がリスキリングを導入、あるいは導入の検討をしています。
2023年1月から12月に公表された中期経営計画においては、「リスキリング」を経営課題として触れている企業数は、80社。昨対増減率は300%(いずれもククレブ総合研究所調べ)と増加傾向にあります。
「第4次産業革命」に突入している現代において、企業が持続的に価値を創造していくためには、従業員の能力やスキルの再開発をしていくことが求められているのです。
「リスキリング」と「リカレント教育」の違い
「リスキリング」と似た言葉として、「リカレント教育」という言葉があります。
リスキリングもリカレント教育も「学び直し」と和訳されることが多いため、並行して語れることも多いのですが、目的やその方法は大きく異なります。
ここからは、リスキリングとリカレント教育の違いについて詳しく解説します。
リカレント教育とは
「リカレント(recurrent)」は直訳すると「循環する」「反復する」といった意味を持ちます。リカレント教育は、自身が必要なタイミングで学び直し、また仕事に戻るというサイクルを回し続けるありようのことを指します。
総務省の『情報通信白書(平成30年度版) 』 では、「リカレント教育は、就職してからも、生涯にわたって教育と他の諸活動(労働,余暇など)を交互に行なうといった概念」とされています。
つまり、業務と並行しながら学ぶリスキリングとは違い、休職をして大学などの教育機関で学び直すなど、一度職を離れることが前提となっているのです。
また、リカレント教育は個人のスキルアップや学び、自己研鑽などに主眼が置かれている一方、リスキリングは「企業が人材戦略の一環として従業員の能力やスキルの再開発を行うこと」を指す言葉です。個人に主眼が置かれているのか、企業に主眼が置かれているのかという点でも、この2つの言葉の意味は大きく異なります。
また、リカレント教育は個人が自身の関心に基づいて様々なテーマを学ぶことを指しますが、リスキリングは「これからも企業として価値を創出し続けるために必要なスキルを従業員に習得させる」という点が強調されるという意味でも、目的が大きく異なります。
リスキリングが注目されている理由と背景
リスキリングが注目されるようになった理由や背景はいくつかありますが、大きなきっかけとなったのは2020年にダボス会議で発表された「リスキリング革命」です。
これを受けて、世界中でリスキリングを導入、あるいは導入を検討する企業が増えました。
ここからは、国内外でリスキリングが注目されている理由と背景を詳しく解説します。
ダボス会議で発表された「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」
「リスキリング革命」とは、第4次産業革命に伴う技術変化に対応するために、2030年までに全世界で10億人により良い教育、スキル、仕事を提供するというイニシアチブです。
先述の通り、2020年にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会、ダボス会議で発表されたこの「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」は、リスキリングが注目を集める大きなきっかけとなりました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速
リスキリング革命で言及された「第4次産業革命」には、バイオ革命など様々な技術変化が含まれますが、各企業においてとくに注目を集めているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速です。
各国の企業でリスキリングが求められる背景には、このDX化の広がりが関係しています。
DX化に伴い新しく生まれる職業や、大幅に変わる仕事の進め方に対応し、企業価値創造をしていくために、人材戦略を考える上で「リスキリング」という言葉が使われるようになりました。
デジタル人材の不足
上記の「DXの加速」に伴い、多くの日本企業において喫緊の課題となっているのが「デジタル人材の不足」です。
「デジタル人材の育成」と聞くと、システムエンジニアやプログラマーなど、IT関連部署に限られた人材の育成・獲得の問題だと思われる担当者の方もいるかもしれません。
ですが、営業や総務を含めたあらゆる部署で対応が求められるケースも多く、必要な人員は相当数に上ります。
経済産業省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」の委員である石原 直子氏も、「DXは、企業の価値創造の全プロセスを変化させる取り組み。デジタル戦略を考え、ロードマップを描く『一部の人材』ではなく、フロントラインの人々を含む全人材に対して必要と考えるべき」と述べています。
働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大による働き方の変化
2019年に発表された働き方改革や、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行したことにより、私たちの働き方は大きく変化しました。
これまでオフィスワークが中心だった企業もテレワークへとシフトし、対面での顧客応対がオンラインに移行するなど、就業環境は一変しました。
これまでの働き方では対応できない状況が増えたり、柔軟な労働形態を実現したりするためには、新しい働き方に合わせた知識やスキルの習得が急務となっているのです。
政府によるリスキリング推進支援
2020年に経済産業省より発表された『人材版伊藤レポート』では、人的資本経営を実現する人材戦略に必要な共通要素の1つとして「リスキル」を挙げています。
このような潮流を受けて、岸田総理は、2022年10月に総合政策の中にリスキリング支援を盛り込む考えを表明しました。
2023年6月の閣議決定で発表された「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画2023改訂版」では、働く人のスキルアップを通じて、日本の企業や経済を活性化する方向性が打ち出されています。
企業がリスキリングを導入するメリット
リスキリングを実施して社員の知識やスキルを高める取り組みは、企業に大きなメリットをもたらします。
リスキリングを実施することで得られるメリットは以下の4つです。
- 業務の効率化が期待できる
- 採用コストを削減できる
- 人材不足が補える
- 社員のキャリアアップにつながる
それぞれのメリットを確認します。
メリット①:業務の効率化が期待できる
リスキリングにより、社員が高いスキルを習得することができれば業務を効率化することができます。
例えば、社員が高いITスキルを活用することで単純作業を効率化するためのシステムを開発することが可能です。
単純作業を効率化することができれば、業務に関わる労働負荷が軽減されます。また、企業の利益追求に必要な業務に取り組む時間が増えるため会社の利益拡大にもつながります。
メリット②:採用コストを削減できる
リスキリングを実施することで企業の採用コスト削減にもつながります。昨今では、急速な社会の変化の中で先端分野の知識やスキルを持つ人材の確保が急務となりました。
しかし、最先端分野のスキルを持つ人材は希少で採用が難しいばかりか、採用のために多くのコストが必要です。
リスキリングを実施することで社員が最先端分野のスキルを習得することができれば、新たな人材を見つける手間や採用にかかるコストを削減することができます。
メリット③:人材不足が補える
リスキリングを実施することで会社の人材不足を補うことができます。
日本の多くの中小企業は、少子高齢化による労働人口の減少により人材不足の問題を抱えています。
人材不足は、社内で働く社員の労働負荷を高め長時間労働につながる恐れがあります。
リスキリングにより、社内で高いスキルを持つ人材を育成することで業務を効率化することができ、社内の人材不足を補うことができます。
メリット④:社員のキャリアアップにつながる
リスキリングにより高いスキルを身に付けることができれば、社員のキャリアアップにつながります。
習得したスキルを活かすことで、より幅の広い業務で活躍することができます。
また、スキルを活かすことで、任された仕事で結果を残すことができれば昇進や昇給にもつながります。
リスキリングは、スキルを学ぶ社員にとっても大きなメリットがあるのです。
企業がリスキリングを導入するデメリットや注意点
DX時代に、企業が持続的に価値創造をしていくためには、リスキリングの導入は極めて重要ですが、デメリットや注意点もあります。
企業がリスキリングを導入するデメリットや注意点は次の2つです。
- 導入時の負担が大きい
- コストがかかる
導入時の負担が大きい
1つ目は、導入時の負担が大きいという点です。
これからの時代に対応しうるDX人材を育成するための研修や教育プログラムを新たに導入するためには、ある程度のリソースが必要になります。
「自社でリスキリングを導入するための5つのステップ」で必要なフローについて詳しく解説していますので、導入までに必要なリソースを把握する際の参考にしてください。
コストがかかる
リスキリングの導入を検討した結果、「自社にとって最適な人材を育成するためには、自社内で研修や教育プログラムを内製化するのは難しい」というケースもあると思います。
その場合、外部の企業や専門家に依頼するのも一つの手です。当然ですが、コストはかかってしまいます。
適切な投資となるよう、必要とする人材要件に到達するまでにどのくらいの費用が必要なのか、将来的に内製化できそうなのか、などを押さえた上で検討しましょう。
また、詳しくは後述しますが、経済産業省が提供しているポータルサイト「マナビDX」では、デジタルに関する知識やスキルを身につけるための講座情報が提供されています。デジタル人材育成の取り組みに活用してみてはいかがでしょうか。
リスキリングでは何を学ぶべきなのか?
では実際に自社でリスキリングを導入しようと思った際、学ぶべき(従業員に習得させるべき)内容とはどんなものがあるのでしょうか。
経済産業省のIT政策実施機関である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、以下の7職種に必要な専門技術を学ぶことを推奨しています。
- プロダクトマネジャー
- ビジネスデザイナー
- テックリード(エンジニアリングマネジャー、アーキテクト)
- データサイエンティスト
- 先端技術エンジニア
- UI/UXデザイナー
- エンジニア/プログラマ
近年、DX化に伴い「ITスキルはもちろんだけれど、プロジェクトマネジメントや企画開発を担える人材が不足している」と悩む企業が増えていますが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)も、ITスキルだけではなく、プロジェクトマネジメントや企画開発といったスキルの習得も推進しています。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の『DX白書2021-第4部DXを支える手法と技術-』によると、企画開発手法として必要なスキル・技術は次の4つだとしています。
- 消費者の本当に欲しいサービスを探るための「デザイン思考」
- 変化する要求に対応するための「アジャイル開発」
- アジャイル開発を支え、運用・改善し続けるための「DevOps」
- システム開発を効率的に実施するための「ノーコード/ローコードツール」
また、経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」において、認定対象としている分野は以下の三つです。
- AI、IoT、データサイエンス、クラウド(デザイン思考、アジャイル開発等の新たな開発手法との組み合わせを含む)
- 高度なセキュリティやネットワーク
- IT利活用(自動車モデルベース開発、自動運転、生産システムデジタル設計)
自社でリスキリングを導入するための5つのステップ
自社にリスキリングを導入する際、次の5つのステップに分けて実施するのがおすすめです。
- 企業戦略に基づいて必要なスキルを定める
- リスキリングの教育プログラムを決める
- 社内で取り組む
- リスキリングに対する社員の意見を取り入れる
- 実際の現場で活用する
ステップごとに詳細を解説するので、今後リスキリングの導入を検討している企業はぜひ参考にしてください。
ステップ①:企業戦略に基づいて必要なスキルを定める
企業内でリスキリングを進めるにあたり、初めに行うべき重要なことは、「自社に必要なスキルを明確にすること」です。
必要なスキルを明確にすることもなく、外部に委託して闇雲にリスキリングを実施したとしても、自社が必要とするスキルを社員が身に付けることができなければ企業の成長にはつながりません。
あらかじめ、会社の現状や特徴を見極めて「どのようなスキルを持つ人材がいればより事業を拡大することができるのか」を考えてリスキリングを実施することが重要です。
ステップ②:リスキリングの教育プログラムを決める
社員に身に付けさせたいスキルが決定したら、リスキリングの教育プログラムを決めます。
教育プログラムを決める際には、社員のスキルレベルに合わせたプログラムを選ぶ必要があります。
身に付けさせたいスキルに関する知識が不足している社員に、いきなり上級者向けのプログラムを用意しても効果は薄いです。
社員それぞれのレベルに合わせたプログラムを提供することで、素早いスキルの習得を目指してください。
ステップ③:社内で取り組む
社員のレベルに合った教育プログラムが決定したら、いよいよ社内でリスキリングを実施していきます。
社内でリスキリングを進めるにあたって、あらかじめリスキリングを実施する時間を定めておくことがおすすめです。
動画コンテンツのような、隙間時間にいつでも学び直しができる教育プログラムもありますが、リスキリングの実施が就業時間外になると、社員の不満を高める可能性があります。
また、実際に社員がリスキリングを実施している様子を見ていなければ、リスキリングに関する正しいサポートや課題の改善ができません。
効率的な学び直しを行うためには、社内でリスキリングに取り組むための環境作りや社員のモチベーションを維持するための仕組み作りも重要です。
ステップ④:リスキリングに対する社員の意見を取り入れる
社内でリスキリングを実施したら、リスキリングに対する社員の意見を取り入れることが重要です。
社員から取り入れた意見や課題・悩みをもとに、リスキリングの実施方法や環境・制度を改善することで、より効率的なリスキリングを実施することができます。
また、課題や悩みが改善されることで社員自身のモチベーションを高めることができるため、おすすめです。
ステップ⑤:実際の現場で活用する
最後にリスキリングによって習得したスキルを実際の現場で活用しましょう。
現場でのスキルの活用には手順があります。リスキリングで知識やスキルを学んだからといって、いきなり1人でスキルを活用するのは困難です。
まずは、上司や育成担当者の指導のもと新たなスキルを活かした業務に取り組み、経験を積ませることでスキルの定着化を図ります。
習得したスキルが定着したのちに、徐々に仕事を1人で任せることで、実際の現場でも通用する人材を育てます。
リスキリングは実施することが目的とならないよう、現場で学びを活用できる体制を整えることが重要です。
リスキリングを実施する上でのポイント
リスキリングを実施することで、必ずしも社員のスキルを高めることができるわけではありません。
形式的にリスキリングを実施するだけでは、社員の効率的な学び直しにはつながらないのです。
企業は、社員がモチベーション高く自発的に学び直しを進めていけるよう環境や仕組みを整える必要があります。
リスキリングを実施する上でのポイントは以下の3つです。
- リスキリングに取り組みやすい環境を作る
- 社員のリスキリングに対するモチベーションを維持するための仕組みを整える
- 自社の企業経営にマッチした教育コンテンツを選ぶ
1つずつ、確認していきましょう。
リスキリングに取り組みやすい環境を作る
企業は、社員に学び直しの場を与えさえすればよいというわけではありません。
学び直しに必要なコンテンツを与えるだけでは、業務と並行したスキル習得には限界があります。
そのため、企業には社員がリスキリングに取り組みやすい環境を整えることが求められます。
1日の就業時間のうちに数時間をリスキリングによる学習の時間として確保したり、IT環境を整備したりすることで社員の効率的な学びにつなげます。
社員のリスキリングに対するモチベーションを維持するための仕組みを整える
会社内で与えられた業務に従事しながらリスキリングに取り組むことは、従業員にとって負担になります。
そのため、リスキリングに取り組む社員のモチベーションを高める仕組みを作る必要があります。
会社が一方的にリスキリングを実施しても学びは薄いものになる可能性が高いため、社員のモチベーションを高めることで自発的な学習環境を整えることを意識してください。
自社の企業経営にマッチした教育コンテンツを選ぶ
企業がリスキリングを実施する場合は、社員の育成に使用するコンテンツ選びに注意しましょう。
一言で学び直しといっても、身に付けたいスキルによって選ぶべき教育コンテンツが異なります。
従業員のレベルに合わせたコンテンツ選びはもちろんのこと、書籍や動画といったコンテンツの種類によっても変わるため、自社の現状や特徴に合わせたコンテンツ選びが重要です。
自社の社員にマッチした教育コンテンツを選ぶことで、業務に役立つ人材を社内で育成することができます。
リスキリングを導入している有名企業の事例4選
効果的にリスキリングを実施するためには、これまでの有名企業の実施事例を参考にすることがおすすめです。
業種によってもリスキリングで求められる知識やスキルが異なるため、自社の業種や特性を考えながらリスキリングの内容を選びましょう。
積極的にリスキリングに取り組んでいる以下の4社を紹介します。
- 富士通
- Amazon
- 日立製作所
- 三井住友フィナンシャルグループ
それぞれ確認していきます。
事例①:富士通
富士通は、デジタル化が進む現代においてDX企業として生まれ変わるための取り組みに力を入れています。
教育投資をこれまでより4割増やすことで、グループ内の8万人の従業員が業務に必要なスキルを学ぶための研修を提供しています。
富士通は経営に関わる多くの資本をリスキリングに使用することで、社員のスキルアップに取り組んでいます。
事例②:Amazon
世界的なIT企業であるAmazonは、社内のデジタルスキルの底上げのためにリスキリングに力を入れています。
2019年から2025年までの間に7億ドルを社員の学び直しに投じることで、Amazonの従業員10万人に対するリスキリングを実施する計画を発表しています。
リスキリングのための具体的なプログラムとしては、技術職以外の従業員を技術職へ移行させる「アマゾン技術アカデミー(Amazon Technical Academy)」などを用意しています。
また、テクノロジーやコーディングといったデジタルスキルを持つ従業員が機械学習スキルの獲得を目指す「機械学習大学(Machine Learning University)」などもあります。
Amazonでは、従業員のレベルに合わせたプログラムを複数用意しており、従業員に効果的な学びの場を提供しています。
事例③:日立製作所
日立製作所は、重点課題の一つに「デジタル対応力を持つ人材の育成」を掲げています。
日立製作所では、2020年度から「デジタルリテラシーエクササイズ」という名の基礎教育プログラムを提供しています。
このプログラムは、日立製作所グループの全従業員16万人が受講対象で、DX人材の戦略的な育成に力を入れています。
事例④:三井住友フィナンシャルグループ
三井住友フィナンシャルグループでは、会社のデジタル化を進めるために動画コンテンツを用いたリスキリングを実施しています。
動画コンテンツ1本あたりの長さは10分ほどで、社内では合計30本を超えるコンテンツが用意されています。
三井住友フィナンシャルグループがリスキリングを実施して以降、既に2万人以上の社員が研修を受講しています。
社員は通勤時間などの隙間時間を利用することで動画コンテンツを利用し、学び直しを実践しています。
リスキリングに関する政府の支援や取り組み
ここからは、政府がリスキリングを推進するために行なっている支援をご紹介します。
企業が活用できる、経済産業省や厚生労働省のリスキリング支援制作を、各省庁別に解説します。
経済産業省が行っているリスキリング支援
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
専門家へのキャリア相談、リスキリング講座の受講、それらを踏まえた転職相談や職業紹介までを一体的に実施する事業者に対して補助を行う事業です。
リスキリング講座は、ウェブデザインや動画制作、プログラミングなどが対象となっています。これらの受講費用について、講座の受講費用の2分の1相当額(上限40万円)が助成されます。
高等教育機関における共同講座創造支援事業
企業がデジタル・グリーンといった分野の高度人材を育成するために大学や高等専門学校などで共同講座を運営する費用について、3000万円を上限に、費用の一部を補助する事業です。
また、企業側がこうした共同講座による従業員のリスキリングの成果を評価し、待遇に反映する取り組みにも、3000万円を上限に補助します。
デジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX」
ポータルサイト「マナビDX(https://manabi-dx.ipa.go.jp/)」では、デジタルに関する知識やスキルを身につけるための講座情報が提供されています。
デジタルに関する企業の人材育成の指針として策定された「デジタルスキル標準」に沿ったスキル別に講座を探すことができます。
第四次産業革命スキル習得講座認定制度
IT(情報技術)やデータといった分野の専門的・実践的な講座を経済産業大臣が認定する制度です。
人工知能(AI)、IoT、データサイエンス、クラウド、高度なセキュリティやネットワーク、IT利活用(自動車モデルベース開発、自動運転、生産システムデジタル設計)の分野の講座が認定の対象となっています。
講座は、次に紹介する厚生労働省が実施している教育訓練給付金や人材開発支援助成金の助成対象にもなっていますので、合わせてご確認ください。
厚生労働省が行っているリスキリング支援
人材開発支援助成金
事業主が雇用する労働者に対して、職務に関連した知識やスキルを習得させるための職業訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
「人材育成支援コース」「教育訓練休暇等付与コース」などの7つのコースがあり、コースや企業規模にもよりますが、経費の75%が助成される場合があるなど手厚い制度となっています。
参考:人材開発支援助成金
中小企業にもリスキリングは必要?
ビジネス環境の変化が激しい時代において、大企業だけではなく中小企業にもリスキリングは必須だと言えます。
中小企業のなかには、大企業と比べて予算や人的リソースが少なく、新たな教育プログラムの開発へかけられる時間も少ないため、リスキリングの導入に難しさを感じている企業も少なくありません。
しかし、変化の激しい現代は、時代に合わせて変化していかなければ、企業経営を安定させることはできません。
また、デジタル技術を上手く活用することができれば、さらなる事業拡大のチャンスにもつながるため、中小企業にこそリスキリングが求められます。
より良い企業経営を行うために、中小企業でもリスキリングは必須だと言えるでしょう。
リスキリング通してDX人材をいかに育成するかが今後の事業成長に大きく影響
第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で、9700万件の新たな仕事が生まれると言われています。
変化の激しい現代において、自社が持続的に企業価値創造をしていくためには、デジタル人材の育成は必須です。
リスキリングが単なる学び直しやリカレント教育とは異なる概念であることを理解しつつ、企業は自社の経営戦略に合わせて社員に求めるスキル要件を洗い出し、リスキリングの導入を推進する必要があります。
本記事で紹介した導入時のポイントや、有名企業の導入事例も参考にしながら、自社の人材戦略に合ったリスキリングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
参考:経済産業省 第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会 資料
参考:独立行政法人情報処理推進機構 デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査(2019年度)
参考:独立行政法人情報処理推進機構『DX白書2021-第4部DXを支える手法と技術-』
監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産テックを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。