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グリーン水素とは?作り方や必要な製造コスト、ブルー水素・グレー水素との違い、日本企業の取り組み事例をわかりやすく解説!

グリーン水素とは「CO2フリー水素」といわれる、製造段階でCO2(二酸化炭素)を排出しない環境にやさしい燃料です。

ヨーロッパでは天然ガス改質による水素製造時のCO2排出量に比べ、60%以上低いものを「グリーン水素」と呼んでいます。

水素エネルギーにはグリーン水素の他にも、ブルー水素・グレー水素などがあります。

これらは環境への影響を基準に色分けされています。

本章では、二酸化炭素を排出しないグリーン水素について詳細に解説します。ぜひ参考にしてください。

グリーン水素とは

グリーン水素とは

グリーン水素とは、製造工程で二酸化炭素を排出しない環境への影響に配慮された新エネルギーです。

近年、グリーン水素は注目を集めており、多くの企業で環境問題を意識した新エネルギーとして利用されています。

本章では、グリーン水素が注目されている背景やグリーン水素を活用する際の課題について紹介しています。

グリーン水素が注目される背景

グリーン水素は「CO2を排出しない」ため、環境への影響が意識された昨今において注目を集めています。

同じ水素エネルギーであるブルー水素やグレー水素は、製造時に化石燃料を使用するためCO2を排出します。

その点、グリーン水素であれば再生可能エネルギーから水を電気分解するなどの方法によって製造されるため、環境への影響が少なく済みます。

また改質法という化学反応で別の物質に変える方法もあり、どちらも製造段階でCO2を排出しません。そのためグリーン水素は「地球にやさしいエネルギー」として注目されています。

グリーン水素が抱える課題

グリーン水素が「地球にやさしいエネルギー」だと理解されても、簡単に普及しないのには2つの理由があります。

  • 高コストにより実用化が難しい
  • 設備の設計が複雑で実用化が難しい

どちらにも共通しているのが「コストがかかる」という点です。

SDGsのように環境への配慮が意識された現代においても、コスト面からグリーン水素の活用にハードルを感じている企業も多いです。

しかし、中にはグリーン水素を積極的に活用する企業も増えているため、今後はますますグリーン水素の実用化が進んでいく可能性があります。

ブルー水素との違い

グリーン水素と似た水素として、ブルー水素があります。

ブルー水素とは、化石燃料を自動熱分解して水素と炭素に分けたときにできる水素のことです。

ブルー水素は製造時に天然ガスや石炭を使用する必要があり、二酸化炭素を排出してしまう点で、グリーン水素と異なります。

グレー水素との違い

グレー水素もブルー水素と同様に化石燃料から製造します。

グレー水素を製造する時に使用する化石燃料は石油、天然ガス、石炭などです。

グレー水素は、ブルー水素と同様に化石燃料を燃やす際に二酸化炭素を排出する点で、グリーン水素と異なります。

グリーン水素の作り方や製造に必要なコスト

グリーン水素の作り方や製造に必要なコスト

グリーン水素は以下の2種類の方法から製造できます。

どちらの方法を採用しても二酸化炭素を排出しないため、グリーン水素は環境に配慮されたエネルギーだといえます。

  • ガスからグリーン水素を作る改質法
  • 自らグリーン水素を作る電解法

以下で2種類の製造方法について解説します。

ガスからグリーン水素を作る改質法

改質法とは、化石燃料を焼却させて作りだしたガスから水素を取り出す製造方法です。

具体的には、原料ガスを改質炉においてスチームと反応させることで、化学反応を起こします。化学反応により高純度一酸化炭素と水素を発生させます。

改質法では、二酸化炭素が発生せず、地球にやさしい水素の製造が可能です。

水からグリーン水素を作る電解法

電解法は水を分解しグリーン水素を製造する方法です。

水(H2O)を電解すると水素と酸素に分解されます。

電解法でも二酸化炭素は発生しないためグリーン水素の製造方法として活用されています。

グリーン水素の製造に必要なコスト

グレー水素の製造が1kgあたり0.5〜1.7ドルで済む一方で、グリーン水素のコストは1kgあたり3〜8ドル程度かかります。

2つのエネルギーを比較してわかるように、同じ水素エネルギーの中でもグリーン水素は他エネルギーと比べて6倍ほどのコストがかかります。

多くの企業がコスト面でグリーン水素の活用にハードルを感じています。

出典:SDGsACTION「グリーン水素の普及における課題と解決策

企業がグリーン水素を活用するメリット

企業がグリーン水素を活用するメリット

企業によるグリーン水素の活用は、SDGsの観点から多くのメリットがあります。

SDGsとは、17の大きな目標から構成される持続可能な開発目標です。

グリーン水素の活用は、SDGsに含まれる2つの目標に関係しています

以下でSDGsに照らし合わせながら、グリーン水素の活用が企業にとってどのようなメリットをもたらすか解説します。

環境への配慮ができ企業イメージが向上する

SDGsが注目される中、グリーン水素の活用を推進することで「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「13.気候変動に具体的な対策を」の2つの目標に対するアピールが可能です。

グリーン水素を用いることで環境に悪影響を与える二酸化炭素の排出を防ぐことができるため、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」へのアピールにつながります。

また、製造工程で二酸化炭素の排出量がないことから、気候変動に対する対策として「13.気候変動に具体的な対策を」のアピールが可能です。

環境への影響を意識したエネルギーを活用することで企業イメージの向上が期待できます。

ESG投資家から資金調達がしやすくなる

グリーン水素を活用することで、ESG投資家から資金調達がしやすくなります。

ESG投資家とは、「環境・社会・企業統治に配慮している企業」を好んで投資する投資家のことを指します。

グリーン水素を活用することで消費者からの企業イメージが向上するだけでなく、ESG投資家の目に留まりやすくなります。

グリーン水素の活用は、グレー水素などの活用に比べて膨大なコストがかかるため、積極的にESG投資家から資金調達するのがおすすめです。

グリーン水素に関する日本企業の取り組み事例

グリーン水素に関する日本企業の取り組み事例

日本の大手企業は環境に配慮する取り組みとして、すでにグリーン水素の実用化に取り組んでいます。

グリーン水素の活用には高いコストが必要ですが、その分メリットも大きいです。

本章では、日本企業におけるグリーン水素の活用事例について紹介します。グリーン水素の活用を検討している方は参考にしてください。

事例①:トヨタ自動車

グリーン水素の取り組みの1つに、トヨタ自動車の「MIRAI」があります。

MIRAIは日本国内で初めてグリーン水素で走る燃料電池自動車として開発されました。

トヨタ自動車ではMIRAIの製造に伴い、水素の補給が可能な水素ステーションの開設も行っています。水素ステーションは、ENEOSと共同開発契約を締結することで開設を進めています。

事例②:旭化成

旭化成は温室効果ガス(GHG)削減に取り組んでいます。

旭化成は製造だけにとどまっていないのが特徴で、技術・製品・サービスと一貫した取り組みを行っています。

事例③:川崎重工

川崎重工は、水素混焼技術を搭載した「カワサキグリーンガスエンジン」の開発をすすめています。

川崎重工では、水素エネルギーの普及に向けて水素サプライチェーンの技術をすすめています。

サプライチェーンには「つくる・はこぶ・ためる・つかう」の工程がありますが、川崎重工では「つかう」分野に比重を置いて製品開発を行っています。

特に、グリーン水素を利用できるガスエンジンの改造および水素混焼モデルのエンジンの開発に力を入れています。

グリーン水素に関する本

グリーン水素に関する本

水素エネルギーやグリーン水素についてより実践的な知識を獲得するためには、本から知識を得ることも重要です。

事業で活かせる正しい情報を収集するために、ここでは3冊の書籍を紹介します。

日本の国家戦略「水素エネルギー」で飛躍するビジネス: 198社の最新動向

「日本の国家戦略「水素エネルギー」で飛躍するビジネス: 198社の最新動向」とは、2020年から水素エネルギー市場が拡大すると分析している、環境エコノミストの西脇文男氏が執筆されている書籍です。

本書では、FCV(燃料電池自動車)をはじめとする関連業界の最新動向を紹介しています。

西脇氏は、水素エネルギー市場について「160兆円の巨大市場が出現する」と予測しています。

図解入門ビジネス 最新水素エネルギーの仕組みと動向がよ~くわかる本

「図解入門ビジネス 最新水素エネルギーの仕組みと動向がよ〜くわかる本」は、将来的に大規模市場になる水素エネルギー社会の技術とビジネスモデルについて解説している書籍です。

本書では「そもそも水素とは」という基本的なところから、国内で水素エネルギーを取り入れている企業のビジネスモデルまで幅広く解説しています。

著者である今村雅人氏は、同シリーズで再生エネルギーと電力システムについて解説している書籍も執筆しています。

環境にやさしいエネルギーについて詳細な知識を知りたい方におすすめの一冊です。

トコトンやさしい水素の本 第2版

「トコトンやさしい水素の本」は、水素エネルギー協会が出版している書籍です。

本書では再生可能エネルギーから製造した「グリーン水素」とそれを取り巻く技術や最新情報について解説しています。

また、本書では水素の性質や製造方法だけでなく、貯蔵・輸送・供給や「最終的に何に使われるのか」といった内容まで解説しています。

水素エネルギーについて基本的なことから学びたい方におすすめの書籍です。

グリーン水素に関するQ&A

グリーン水素を実際のビジネスの場で応用するにあたって、いくつかの疑問が生まれます。

本章では、グリーン水素の問題点や日本政府の取り組みについてQ&A形式で解説していきます。

グリーン水素の問題点は?

グリーン水素に限らず、水素エネルギーを実用化するにはいくつかの問題点があります。主な問題点は以下の3つです。

  • 爆発の可能性
  • インフラ整備
  • コストが高い

爆発の可能性

水素の発火点は自然発火を誘発するものではなく、危険性は低いです。

しかし、海外で爆発事故を起こした事例があり、爆発の可能性が少しでもある点が問題点と言われています。

インフラ整備

水素エネルギーを実用化するためには製造だけでなく、製造インフラの整備が重要です。

インフラ(貯蔵・輸送・供給)の整備ができてはじめて「利用」まで連携できる体制を構築できます。

いくらグリーン水素が環境にやさしいエネルギーとはいえ、製造のインフラが整備されていなければ継続的な活用は困難です。

そのため製造から利用までいかに連携させるかがポイントになります。

コストが高い

これまで解説してきた通り、グリーン水素の活用にはコストがかかります。

例えばグリーン水素の場合、東京都内の水素ステーションで1,100円/kgという価格で水素自動車の燃料が補給できます。

この価格はハイオクガソリンと同等で、コストが高いと感じる人も多いでしょう。

このようにコストの面から、グリーン水素が身近なエネルギーになるには時間がかかることが予測されます。

出典:Spaceship earth「水素エネルギーとは?メリットやデメリット、実用化に向けた課題と将来性、SDGsとの関係

出典:経済産業省「「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトの研究開発・社会実装計画を策定しました

グリーン水素実現に向けた日本政府の取り組みは?

経済産業省管轄の資源エネルギー庁では、カーボンニュートラル実現に向け鍵となるエネルギーは「水素」であると発表しており、中でもグリーン水素の普及を推進しています。

そこで政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向け2つの取り組みを公表しています。その柱となるものは次の2つです。

1. 水素社会実現に向けた取り組み
2. 水素政策の展開

出典:経済産業省資源エネルギー庁「水素社会実現に向けた取り組み

水素社会実現に向けた取り組み

資源エネルギー庁では、「水素が環境にやさしい燃料であること」、「水素エネルギーの製造にはコストがかかること」が発表されています。

具体的に水素政策をすすめるために、経済産業省では目標と戦略を公表し実現化に向けて動いています。

日本は水素を「つくり」「はこび」「ためて」「つかう」の一連の流れを推進しています。

出典:経済産業省資源エネルギー庁「水素エネルギーは何がどのようにすごいのか?

水素政策の展開

資源エネルギー庁では、具体的に市場へ普及させるための目標が発表されています。

資源エネルギー庁より発表されている「水素基本戦略」として2つのポイントをあげています。内容は次の通りです。

  • 2050年を視野に入れたビジョンと2030年までの行動計画の設定
  • コスト削減の目標としてガソリンやLNG(液化天然ガス) と同程度の実現

出典:経済産業省資源エネルギー庁「カーボンフリーな水素社会の構築を目指す「水素基本戦略」

環境への配慮から、水素エネルギーの市場への普及が期待されています。

グリーン水素を活用して環境へ配慮した取り組みを

これからの経営には、環境に配慮した取り組みが必要になります。その中の1つがグリーン水素を活用した環境への取り組みです。

近年、SDGsが注目を浴びており、グリーン水素の活用が促進されています。

現在は、日本の大手企業が積極的にグリーン水素の活用を進めていますが、グリーン水素が一般的なエネルギーとして世間に普及するのはまだ先です。

しかしながら、グリーン水素の活用は、政府が推進しており企業にとっても大きなビジネスチャンスだと言えます。

グリーン水素などの環境への影響を意識した新エネルギーの活用を進めることで、企業イメージの向上を図りましょう。

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

 

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