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「ランチェスター戦略(弱者の戦略)」とは?導入のメリットや実践のポイント、実践例を解説

有名なマーケティング理論のひとつ、「ランチェスター戦略」。

今や日本を代表する企業へと成長したソフトバンク株式会社も、中小企業だった時代にランチェスター戦略を導入し、飛躍的な成長を遂げたと言われています。

今回は、「弱者のための戦略」とも言われる「ランチェスター戦略」について、概要や実践方法を解説します。

実際にランチェスター戦略を用いた企業事例も最後に紹介していますので、導入を検討している方はぜひご参考になさってください。

「ランチェスター戦略」とは

ランチェスター戦略とは、企業が市場競争で勝つための戦略理論のひとつです。マーケティングを「弱者の視点」と「強者の視点」で分析して経営戦略を立案します。

マーケティング理論は数多くありますが、ランチェスター戦略は、中小企業や零細企業、個人事業主など、事業規模問わず実践しやすいという特徴があります。

ランチェスター戦略は、「ランチェスターの法則」という戦闘法則がベースになっています。

ランチェスターの法則とは、第一次世界大戦時にイギリスのフレデリック・ランチェスター氏が提唱した戦闘法則です。

この戦闘法則を、1972年に日本人コンサルタントの田岡信夫氏がビジネスに応用しました。以来、競争戦略・販売戦略のバイブルとして広く活用されるようになり、提唱から50年以上経った今でも多くの企業で用いられています。

ランチェスター戦略の原点、「ランチェスターの法則」とは

弱者の戦略

「ランチェスターの法則」とは、先述の通り第一次世界大戦時にイギリスのフレデリック・ランチェスター氏が提唱した戦闘法則です。

ランチェスターの法則は、「第一法則(接近戦・局所戦)」と「第二法則(広域戦)」の2種類に分かれます。

ランチェスター第一法則(接近戦・局所戦)

第一法則は、接近戦・局所戦ということで、剣などを使った狭いエリアでの一騎打ちに適応されます。

ランチェスター第一法則(接近戦・局地戦)での戦闘力は、以下のように計算されます。

戦闘人数×武器能力=戦闘力

例えば、戦闘人数は6人、武器能力は1のA軍と、戦闘人数は3人、武器能力は3のB軍が闘うとします。勝つのはどちらでしょうか。

先ほどの計算式に両軍の人数と武器能力を当てはめてみると、

A軍:6×1=6
B軍:3×3=9

となりますので、人数で勝っているA軍ではなく、武器の能力が高かったB軍が勝利することが分かります。

これがランチェスター第一法則です。

ランチェスター第二法則(広域戦)

第二法則は、銃などの兵器を利用した、広域戦に適応されます。

ランチェスター第二法則(広域戦)での戦闘力は、以下のように計算されます。

戦闘員数の二乗×武器能力=戦闘力

先ほどの第一法則で用いたA軍とB軍の事例をこちらの計算式にも当てはめてみましょう。

A軍:(6人の2乗=36)×1=36
B軍:(3人の2乗=9)×3=27

となりますので、今度はA軍が勝利しました。
広域戦になると、人数の違いが戦闘力の違いに大きく影響を与えることが分かります。

「弱者の戦略」と「強者の戦略」

ランチェスターの法則の「第一法則(接近戦・局所戦)」と「第二法則(広域戦)」は、それぞれ「弱者の戦略」と「強者の戦略」と呼ばれます。

第二法則は戦闘人数の差が戦闘力に大きな影響を与えていました。つまり、武器能力を上げたとしても、大軍に勝つのは困難です。

一方、第一法則は戦闘人数が劣っていたとしても、武器能力が勝っていれば勝つことができました。これが、「弱者の戦略」と呼ばれる理由です。

ランチェスター戦略を実践する際の3つのポイント

弱者の戦略

ここからは、ランチェスター戦略を実際に導入する際のポイントについて解説していきます。

ランチェスター戦略を実践する際において特に重要なポイントは、次の3つです。

・ナンバーワン主義
・一点集中主義
・足下の敵からシェアを奪う

それぞれ解説していきます。

ナンバーワン主義

ランチェスター戦略におけるナンバーワンとは、1位を獲ればいいわけではありません。2位と大差をつけた圧倒的1位を目指すことが推奨されています。

なぜなら、2位との差が微差であれば、その地位を奪われる可能性があります。1位と2位が常に激しく争っていては、収益は安定しません。

ですが、圧倒的ナンバーワンになることができれば、2位は勝ち目がないと悟り、棲み分けを意識した戦略に切り替えるため、自社の収益を安定させることができます。

これが、圧倒的ナンバーワンを目指すべき理由です。

一点集中主義

「圧倒的ナンバーワン」とは、「業界1位」のみを指すものではありません。零細企業や中小企業が業界1位を目指すのは、難易度が高いでしょう。

しかし、ランチェスター法則の第一法則(弱者の戦略理論)に則って考えると、狭いエリアでの戦闘においては、企業規模(戦闘人数)が小さくても、武器能力が高ければ戦闘力を高めることができます。

つまり、ある特定の分野において「圧倒的ナンバーワン」を目指せば勝機があるということです。

このことを「一点集中主義」といいます。

地域、顧客層、販路、商品など、自社の強みに絞ってどこに一点集中するべきか考えてみてください。

ワンランク下の企業からシェアを奪う

市場規模自体が拡大している場合を除いて、自社の利益拡大を目指すことは、同業他社の利益を奪うということになります。

成熟した市場では、常にシェアの奪い合いになります。

ランチェスター戦略は、相手との力関係の差が重要という考え方の戦略思想です。そのため、自社よりシェアがワンランク下の足元の敵からシェアを奪うことが効果的だと言われています。

「力関係の差」というと、「ワンランク下よりもっと弱い企業を攻めた方が良いのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

たしかに攻撃はしやすいかもしれませんが、その間に「足元の敵」のシェアが伸びてくることもあると思います。

その点、ワンランク下の企業のシェアを最初に奪っておけば、自社の獲得したシェア分と、1ランク下の企業が失ったシェア分とで、差分が開き、「圧倒的ナンバーワン」に一歩近づくことができます。

これが、ワンランク下の企業からまずシェアを奪うべき理由です。

ランチェスター戦略を導入するメリット

弱者の戦略

ランチェスター戦略を導入する目的は、戦略理論ですから「勝つこと(事業拡大、利益拡大、シェア拡大など)」だと思いますが、数多くある戦略理論の中でも、ランチェスター戦略を導入するメリットは次の2つです。

スタートアップ企業や中小企業でも導入することができる

第一法則(弱者の戦略理論)の部分で解説したように、ランチェスター戦略では、たとえ戦闘人数(企業規模)が劣っていたとしても、武器能力(商品・サービス、ブランド力)が高ければ弱者でも勝つ可能性があると考えられています。

そのため、企業規模や店舗数などの資本が少ないスタートアップ企業や零細企業、中小企業でも活用することができます。

ソフトバンク株式会社も、中小企業時代にランチェスター戦略を導入して大きく成長した企業のひとつです。

ランチェスター戦略は、弱者が強者に勝つことのできる戦略理論なのです。

戦略を実行しやすい

「ランチェスター戦略を実践する際の3つのポイント」の部分で解説したように、ランチェスター戦略では、「圧倒的ナンバーワン」を目指せる分野に「一点集中」する戦略理論です。

「ワンランク下の企業からシェアを奪う」など、戦略の方向性が明確なため、戦略立案における迷いが生じづらく、実行しやすいと言われています。

ランチェスター戦略 5つの実践例

弱者の戦略

ランチェスター戦略は新規事業を市場に展開する際に効果的だと言われていますが、新規事業戦略以外にも実践できるパターンはいくつもあります。

ここでは5つの実践例をご紹介します。

①新規事業戦略(起業戦略)

新規事業を立ち上げる、または起業をする際の戦略です。

「一点突破横展開」などと言われますが、事業の立ち上げ期は「弱者の戦略」で、成長期は「強者の戦略」で闘うことが基本とされています。

日本の大企業は新規事業の成功率が低いと言われていますが、本業と同じく「強者の戦略」で挑んでしまうからなのかもしれません。

②事業戦略

事業戦略や目標を策定する際に適用する戦略です。

市場を調べ、次にシェアを調べ、ポジショニング・マップを作成します。市場の中での自社の立ち位置を客観的に把握することで、経営計画や販売計画、3か年計画などを作る際に活用することができます。

③地域戦略

地域戦略とは、地域を細分化し、ナンバーワンのエリアをひとつずつ作っていく戦略です。

弱者はナンバーワンになりやすいエリアを、強者は需要の大きなエリアや成長性のあるエリア、地域内最大都市などを選ぶと良いでしょう。

④営業戦略

営業戦略とは、シェア拡大のために、どのような営業活動をしていくのが最適なのか、調査、分析した上で目標や戦略を策定していく方法です。

来期のシェア率を5パーセントアップさせるためには、いつ、どの地域の、どの販路の、どの顧客を、どの商品で増やしていくのか? 訪問頻度は? プロセスは? など、具体的なところまで落とし込んでいきます。

ランチェスター戦略を導入した企業事例

弱者の戦略

最後に、ランチェスター戦略を導入した企業の成功事例をご紹介します。

株式会社エイチ・アイ・エス

株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)は、当時旅行業界でメジャーだった国内パッケージツアーではなく、海外格安航空券の販売に注力。

結果としてHISは「海外格安航空券といえばHIS」というブランドと認知度を獲得しました。

旅行業界全体ではなく、「海外格安航空券」という領域での圧倒的ナンバーワンを目指した点は、まさに「弱者の理論」である「ナンバーワン主義」、「一点集中主義」を取り入れた成功事例です。

ニッコウトラベル(現:株式会社三越伊勢丹ニッコウトラベル)

ニッコウトラベルは、顧客の平均年齢が73歳というシニア層に特化した旅行代理店です。

大きな旅行代理店ではありませんが、顧客層を富裕シニア層という特定のターゲットに絞ったことで強固な基盤が評価され、株式上場しました(現在は株式会社三越伊勢丹の傘下)。

こちらも、「一点集中主義」を貫いた結果、強固な基盤を築くことができた、「弱者の理論」の成功事例です。

【まとめ】ランチェスター戦略を活用すれば、弱者でも強者に勝てる

今回は、ランチェスター戦略の概要やメリット、実践のポイント、実践例、導入した企業の成功事例などを解説しました。

ランチェスター戦略は、ニッチなフィールドで圧倒的ナンバーワンを獲り続けることで、着実なシェア拡大・利益拡大を狙う戦略理論です。

企業規模に関係なく導入できますので、ぜひ自社の強みを見つけて取り組んでみてはいかがでしょうか。

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。