総研レポート・分析

ROICとは?2023年注目の経営指標(2022年総括)~ROIC達成のカギはオフバランスにあり?~

ROICとは? Return On Invested Capitalの略称であり、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したかを示す指標を言う。このROIC(投下資本利益率)についての記事が最近増えてきているようだ。

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、早くからROICに着目しており、総研レポート2022年5月号・8月号においてもROICに関する考察を行っている。

前回は速報値ということで、2022年1月から7月までに公表された中計をベースに調査を行ったが、今回は2022年7月以降の中期経営計画書(以下「中計」)を追加取得し、1月から12月までの中計をベースに、本レポートのアップデートを行う。

なお、執筆現在で12月は終了していないが、ほぼ年内の中計の公表は一段落したため、当研究所では、分析レポートの鮮度を重視し年間の数値として分析を行ったのでご了承いただきたい

今回は、8月号の記事に追記する形でアップデートを行う(主に黄色ハイライト部分)。

【おさらい】本レポートを読む前に2022年5月号を確認されたい方は、こちら

 

2022年における各指標(ROA・ROE・ROIC)の出現率について(図1)(図1’)

まず2022年1月から7月まで(※)に中計を公表した企業数は642社であり、そのうちROA(総資産利益率)の目標値を中計に掲げている企業は51社と中計公表企業の7.9%に出現する結果となった。ROAの経営指標としての中計における位置づけは年々低下している

一方、ROE(自己資本利益率)は207社、全体の32.2%を占める結果となった。ROAに対して、ROEを重視する企業は依然として多いと言える。

(今回追記(以下「追記」))
2022年1月から12月までに中計を公表した企業数は825社となった。やはり3月決算企業が中計を公表する前半期が大半を占めているため、前半部分で大枠のトレンドを掴むことが可能と言えるが、年間集計をした結果、各指標の位置づけに変化はなく、ROEを重視するトレンドには変化はない、と言える。

そして、前回のレポートでも最も注目したROIC(投下資本利益率)に関しては、96社、全体の15%を占める結果となった。ROICは各経営指標の中でも出現率の伸びが最も大きく、2021年の出現率と比較しても1.2倍とROICが中計における目標経営指標としてROAからその地位を奪ったと言える状況となった。

※ROA:Return On Assetsの略称であり、企業が総資産に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標
※ROE:Return On Equityの略称であり、企業が自己資本に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標
※ROIC:Return On Invested Capitalの略称であり、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したかを示す指標

(追記)
ROIC言及企業は前回調査から19社増え、115社となり、全体の約14%を占める結果となった。ROAとの順位は完全に入れ替わり、ROEに次ぐ重要指標の座を得たと言える。

ROICは、新興企業においては、投資が大きく先行することから、目標指標として設定するには難しい指標であり、グロース市場に上場する企業においては目標指標となることは皆無であるが、一方で事業基盤が確立され、セグメント毎の事業運営が通常であるプライム市場に上場する企業においては、近年投資家が最も重視する経営指標であることに呼応して、経営指標として導入する企業が増えている状況と言える。

(追記)
年間を通して、グロース市場でROICを経営指標として設定した企業は存在しなかった。

≪図1≫ 2022年中期経営計画書における各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の出現率

※東証、札証、名証、福証を含む(以下同様)
※集計期間は2022年1月~7月15日まで(本レポート執筆時点。以下同様)
※ククレブ総合研究所調べ(Powered by CCReB AI 以下同様)

≪図1’≫ 2022年中期経営計画書における各財務指標(ROA・ROE・ROIC)の出現率(アップデート)


※集計期間は2022年1月~12月4日まで(本レポート執筆時点。以下同様)

 

各指標(ROA・ROE・ROIC)とB/Sとの関連性について(図2)(図2’)

2022年に公表した中計について、各指標を目標指標としてセットした企業群とバランスシート(B/S)における各項目(固定資産合計、現金及び現金同等物の期末残高、負債合計、純資産合計)の平均値の直近2期での変動率を分析したのが下図となる。

≪図2-1≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と固定資産合計との関係

※言及企業の連結決算における数字を採用(以下同様)

≪図2’-1≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と固定資産合計との関係(アップデート)

まず、各指標を中計で目標指標として掲げる企業のB/Sにおける「固定資産合計」の直近2期を比較した。

固定資産を構成するのは主に、土地・建物などの不動産や機械装置、投資有価証券となるが、ROICを目標指標として掲げる企業(以下「ROIC選好企業」)の固定資産合計額の伸び率が、他の指標を上回っていることが分かる。なお、ROIC選好企業のうち、スタンダード市場に上場している企業においては、固定資産額が若干ながら減少している。

(追記)
2022年7月以降の中計公表企業を加えて、前回同様の分析を行った。
年間を通じて、ROIC選好企業の固定資産合計額の伸び率は、他の指標を上回っており、継続して積極的な投資を行っていることが窺える。

≪図2-2≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と現金及び現金同等物の期末残高との関係

≪図2’-2≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と現金及び現金同等物の期末残高との関係(アップデート)

次に、「現金及び現金同等物の期末残高平均」の直近2期を比較した。

現金と同等物とは、受取手形及び売掛金などであるが、こちらもROIC選好企業が現預金等を減らす結果となり、他の指標を重視する企業に比べても、手元資金を活用して投資を行っていることが窺える。

(追記)
年間を通じて、前回調査と同様の傾向が見られた。やはりROIC選好企業は手元資金を活用して投資を行っていると言える。

≪図2-3≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と負債合計との関係

≪図2’-3≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と負債合計との関係(アップデート)

続いて、「負債合計」の直近2期を比較した。

負債合計を構成するのは、主に流動負債、固定負債となるが、それぞれ銀行借入や社債発行など様々な資金調達手段がある。ここでもROIC選好企業が負債をより増やしている傾向を窺え、レバレッジ効果を活用した投資を行っていることが窺える。

(追記)
 年間を通じて、前回調査と同様の傾向が見られた。やはりROIC選好企業はレバレッジ効果を活用して投資を行っていると言える。

≪図2-4≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と純資産合計との関係

≪図2’-4≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と純資産合計との関係(アップデート)

さらに、「純資産合計」の直近2期を比較した。

純資産合計を構成するのは、主に株主資本と利益剰余金、自己株式などであるが、基本的に増資をしない限り株主資本は増加しないことから、純資産が増えるのは利益剰余金の積み上げが中心となると言える。ここでもROIC選好企業における変動率は他の指標を選好する企業に比べ変動率が低く、単なる利益剰余金の積み上げだけではなく、利益剰余金を積み上げながらも、自己株式の取得や、投資家への還元を積極的に行い純資産額をコントロールしているものと思料する。

上記の通り、固定資産合計、現金及び現金同等物の期末残高平均、負債合計及び純資産合計の直近2期の変動を通じて各指標との関係を分析したが、投資家が各企業へ求める行動として、手元CFの活用と、低金利を活用した財務レバレッジ、そして自己株式の取得による純資産合計のコントロールという流れそのものであり、本分析においてはROIC選好企業が、ROICの目標値を設定しながら資本市場との対話をより強化していく姿勢を持っているとも言える。

(追記)
年間を通じて、前回調査と同様の傾向が見られた。

ここまで、B/Sの側面から各指標との関係性を分析してみたが、主にB/Sは、投資資金の移動のベースであり、当該資金を使ってどのように「稼いだか」「稼いでいくか」をP/L(損益計算書)からの視点でも分析を行ったのが下図である。

 

各指標(ROA・ROE・ROIC)と営業利益率との関連性について(図3)(図3’)

≪図3≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と営業利益率との関係

≪図3’≫各指標(ROA・ROE・ROIC)と営業利益率との関係(アップデート)

ここでは、各指標を経営指標として掲げる企業の直近2期の売上高及び営業利益を使って営業利益率を求め、2期分の分析を行った。コロナ禍における企業業績への影響は先期で底を打った企業が多く、回復傾向が認められるが、プライム企業では、空運、電気機器において、数千億規模の営業赤字があった影響もあり、営業利益率でのROIC選好企業での数値の優位性は特段見られず、ROE選好企業とROA選好企業での稼ぐ力の違いを確認することはできた。
投資効果を見極めるには短期スパンで判断するのは難しく、中期スパンでの分析が必要と言える。

(追記)
年間を通じてみると、どの市場の企業も全般に業績回復基調にあり、ROIC選好企業においても、前回調査時点に比べると利益率は回復基調にあると言える。 

 

まとめ

以上、2022年5月号の続編として各経営指標の中計における位置付けの変化と、ROICという経営指標が投資家の重視度の高まりに比例して、注目の指標になっていることを最新の事例を集計して分析を行った。

ROIC選好企業は、他の指標を掲げる企業に比べ、手元資金をより活用し、財務レバレッジを活用しながら、利益剰余金の積み増しだけでない、投資家への還元策をより意識した経営を行っている傾向が強いことが本レポートにおける数字面での分析では見て取れた。一方で、その結果、固定資産の合計額は増加していくため、バランスシート面でのトータルの影響も一定程度の考慮が必要とも言える。

企業の不動産戦略(CRE戦略)をROIC経営に絡めるならば、新工場建設等の新規投資であれば、他人資本を活用したオフバランス開発(注:オフバランス効果には各種要件あり)により、自社の投下資本を可能な限り抑え、最大限の利益を取ることにより、社内ハードルレート(ROIC)の達成も可能である。 また、投資資金の捻出についても、手元の現預金の活用のみならず、企業にとって本業との結び付きが薄い資産(ノンコア資産)を売却することによりCFを創出し、バランスシートをスリムにしながら、各種戦略を実行することなども有益である。
いずれにしても、ROIC経営を重視しつつ、オフバランスのアセット戦略を並行して実行することにより、ROE・ROAの指標向上にもつながることから、今後ますますROICを意識した経営が求められるのは世の中の潮流と言える。

(追記)
以上、2022年7月以降の中計を加え、前回8月の調査をアップデートした。結論から言うと、前半期で掴んだ傾向がそのままの流れであったと言え、ROIC選好企業が”新指標ROIC”を設定し、より利益率を重視した経営を行っていく流れは2023年も変わらないものと思料する。

2023年もククレブ総合研究所では、ROICに着目していきたい。

 

なお、ROIC選好企業を具体的に知りたい場合には、CCReB GATEWAYに会員登録(無料)頂き、ご利用ガイドにアクセスし、利用・操作方法を確認後、簡単操作でROIC選好企業の一覧確認と個別企業の中期経営計画書や有価証券報告書などもダウンロードが可能です。効率的な企業分析、アプローチにぜひCCReB GATEWAYをご活用ください。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。

 

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