総研レポート・分析

大規模小売店跡地にみる商業テナントの代替性 ー跡地利用は建替えが中心、他用途への転換が進むー

本稿では、2020年以降に閉店した大規模小売店について、閉店したテナントの状況、後継テナントの状況について整理するとともに、商業テナントの代替性について考察する。

大規模小売店跡地の最新動向

今回集計対象とした2020年以降の大規模小売店の閉店店舗276件の業態と跡地の現状を図表1に示した(一覧は後掲の図表2参照)。

閉店した店舗は、食品スーパーが98件、書店や衣料品店等の専門店が43件、GMSが35件の順に多い。閉店した大規模小売店の跡地については、建替えせずに既存建物を活用したケースは29件で、建替え・取り壊しなどを行ったケースが204件、その他・不明が43件であった。

【図表1】2020年以降に閉店した大規模小売店の業態と跡地の現状


調査対象:経済産業省が公表している「大規模小売店舗立地法」の廃止届※及び各種公表資料等から2020年1月1日以降に閉店した大型小売店について、業態、立地、元のテナントの状況、閉店後の状況について調査した。テナント出店については予定を含む。廃止届は大店法時代に開業した店舗には届出義務がない等により、全ての大規模小売店は網羅していない。
※廃止届のうち、店舗面積が1,000㎡未満となり既存建物で同一テナントが営業を継続している施設は一覧から除く。2023年9月調査。

 

閉店店舗を建替えずに既存建物を活用

大規模小売店閉店後、建替えをせずに既存建物を活用しているケースでは、店舗面積が1万㎡以上の大型の商業施設が多く、百貨店やGMSで、跡地にショッピングセンターが出店するケースが多くみられる。郊外型店舗では、駐車場が広い点を活かし、広島県で食品スーパーの建物が工場となったケースや、山口県でホームセンターの建物が卸売業者の支店となったケースがあった。

 

閉店店舗の建替えは主に3つのパターン

閉店した店舗は、建替えられて、①新しいテナントが出店するケース、②従前のテナントが再出店するケース、③開発で商業施設以外を主用途とする建物になるケースに分類できる(図表1・右グラフ参照)。①建替えで新テナントが出店する場合、新テナントが別業態であるケースが55件、従前テナントと同一業態の競合企業が8件、その他・不明が2件となっている。

②建替えで旧テナントが再出店するケースは、老朽化による建替えが多く、建て替え後には新フォーマットの店舗を出店するケースが何件かみられた。例えば、イオンリテール㈱の「そよら」ブランドは、主にイオンスタイルを核店舗とする利便性に配慮された新SCで、2022年4月に名古屋市北区の「イオン上飯田店」の跡地に「そよら上飯田」を出店しており、今後も大規模小売店跡地に3店舗のそよらブランドのSCの出店を公表している。

③建替えで商業施設以外を主用途とする開発が行われるケースは57件みられた。このうち28件が分譲マンションや賃貸マンション、及びこれらを含む複合開発となっている。地方都市においても都心居住が進み、マンション市場が活性化しているため、跡地に高層マンションが開発されるケースが多いものと考えられる。長野市の大型商業施設「AGAIN」の跡地では、地上15階建て、総戸数291戸の分譲マンションが計画されている。新潟市中央区の「新潟三越」跡地では、地下1階地上37階建ての規模で、商業、オフィス、シニア向け住宅、分譲住宅の複合施設が開発される。いずれも中心市街地に存し、生活利便性が良好な立地であり、商業施設からの転用が進んだものと考えられる。

このほか、郊外型の大規模小売店の跡地には物流施設が開発されるケースもみられ、「イオンモール名古屋みなと(店舗面積48,650㎡)」跡地には、延床面積約12.7万㎡の大型物流施設「(仮称)ロジクロス名古屋みなと」が着工している。

 

以上の大規模小売店の閉店跡の事例は、今後の商業施設の代替性を考える上で参考になるものである。時間の経過による商圏人口の減少や高齢化によりマーケットのポテンシャルが変化しても、業態や用途の変更、複合開発の検討により、跡地の有効活用が可能となることを示唆している。

 

【図表2】2020年以降に閉店した大規模小売店一覧

経済産業省「大規模小売店舗立地法(大店立地法)の届出状況について」
法第6条5項に基づく届出一覧及び各種公表資料に基づきティーマックス作成
※大規模小売店名称は届出時の旧名称の場合がある。

 


 

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