グリーンウォッシュとは?事例や見分け方、規制の最新動向や企業がリスク回避のためにすべきことを解説
グリーンウォッシュとは、実態が伴わないにも関わらず、環境配慮を印象付けようとするマーケティング手法のことです。
2025年はSSBJ(サステナビリティ基準委員会)の基準が公開される予定です。時価総額の高い企業が主要取引先の場合は、SSBJ基準レベルのサステナビリティ対応を求められる可能性もあるでしょう。
そこで本記事では、グリーンウォッシュの概要や事例、種類や見分け方、国内外における規制動向や企業がリスク回避のためにするべきことを分かりやすく解説します。
グリーンウォッシュについて理解を深めておきたい方や、最新動向を知りたい方、グリーンウォッシュだと批判された企業の事例を知っておきたい方はぜひご一読ください。
グリーンウォッシュ(グリーンウォッシング)とは
グリーンウォッシュとは、「green」(緑、環境に優しい)と、「whitewash」(隠蔽する、美化する)を組み合わせた造語です。実態が伴わないにも関わらず、環境配慮を印象付けようとすることにより、環境意識の高い消費者に誤解を与えることを指す言葉です。
近年の気候変動への危機感や環境意識の高まりにより、グリーン市場の規模は拡大してきました。それに伴い、気候変動対策やサステナビリティ(持続可能性)に取り組む企業や組織が増えています。
しかしながら、実際の取り組みよりも過大にPRしていたり、環境に良い影響を与えていないにも関わらず環境に優しそうなイメージを宣伝していたりする企業も少なくありません。
欧州委員会が世界中の企業を対象に行った2020年の調査によると、「自社は環境に配慮した取り組みをしている」と主張している企業サイトのうち、53.3%は「あいまい/誤解を招く/根拠に乏しい」との結果が出ています。
このような状況では、 ESG投資を積極的に行いたい投資家が適切な投資判断を行うことが難しく、また、環境意識の高い消費者もどの企業や製品が本当に環境に配慮されたものなのか分からなくなってしまいます。持続可能な取り組みを実施している企業が応援されない状況では、結果として環境問題の深刻化にも繋がってしまいます。これがグリーンウォッシュの問題点です。
このグリーンウォッシュが横行している状況を受けて、世界各国ではグリーンウォッシュに関する規制強化が進められています。
グリーンウォッシュだと指摘を受けた事例
具体的に、どのようなケースを「グリーンウォッシュ」と言うのでしょうか。ここでは、参考として過去にグリーンウォッシュだと指摘を受けた企業事例をご紹介します。
マクドナルド
マクドナルドは環境に配慮した取り組みとして、2018年にイギリスとアイルランドの全1361店舗でプラスチックストローから紙製ストローへ切り替えました。
英国では「2020年までにプラスチックストローを廃止する」という政府の方針により、プラスチック削減に向けたマクドナルドの取り組みは当時注目を集めていました。
しかしながら、マクドナルドが切り替えた紙ストローは厚すぎてリサイクルできずに、破棄されていたことが判明したのです。消費者かからグリーンウォッシュであると大きな非難を受けました。
参照:マクドナルド、紙製ストロー「リサイクルできず」 英国とアイルランドで導入|CNN
トヨタ自動車
一方、本当に環境に優しい商品開発に尽力していたとしても、宣伝表現によっては不信感を抱かれてしまうケースもあります。その象徴的な事例がトヨタです。
2008年、トヨタがベルギーで販売したプリウスの広告に使用された「Zeroemissions low」という表現が、グリーンウォッシュであると指摘されました。当時この車種は世界でもトップレベルの燃費の良さを誇っていましたが、実際のデータや法律で定められた基準値との関係を明示していないため、消費者に誤解を抱かせるとと批判を受けてしまいました。トヨタは、グリーンウォッシュの指摘を受けて広告を取り下げました。
また2008年には、高級車レクサスのハイブリッド車の広告に使用された「環境を考えればレクサス」という表現がイギリスで非難されました。「本当に環境を考えるなら大型セダンには乗らない」という論拠のようです。
このように、環境に優しい製品やサービス開発に尽力していたとしても、伝え方によっては指摘をされてしまうケースがあるため、注意が必要です。
参照:Toyota zero emissions ad ruled misleading|Friends of The Earth EU
プラスチック製品販売の事業者10社
消費者庁は2022年、「生分解性」をうたっていたプラ製のカトラリー類やレジ袋などの表示が「優良誤認」にあたるとして、10社に対し措置命令を行いました。
該当する企業は「その場に放置するだけで生分解する」と解釈できる表示をしていましたが、表示の根拠として消費者庁に提出されたのは産業用コンポスト処理施設など特定の環境下で生分解するという資料で、使用後にその場に置きっぱなしにするだけで生分解するというデータなどは示されていませんでした。
このように、グリーンウォッシュを取り締まる動きは、日本においても出てきています。
参照:生分解性プラで再発防止命令 優良誤認で10社に|日本経済新聞
グリーンウォッシュは6種類に分類される
出典:The Greenwashing Hydra|Planet Tracker
英金融シンクタンクのプラネット・トラッカーは、2023年1月に報告書を発表しました。その報告書では、「グリーンウォッシュがどのように繰り返されるかを特定することで、消費者や投資家が環境に配慮した意思決定を行う際に、より注意を払い、適切な選択肢を選べるようにしていきたい」とグリーンウォッシュを次の6つに分類しています。
①グリーンクラウディング(Greencrowding)
②グリーンライティング(Greenlighting)
③グリーンシフティング(Greenshifting)
④グリーンラベリング(Greenlabelling)
⑤グリーンリンシング(Greenrincing)
⑥グリーンハッシング(Greenhushing)
それぞれ以下で詳しく説明します。
①グリーンクラウディング(Greencrowding)
グリーンクラウディングとは、多くの情報に紛れさせることで、自社の不都合な事実を発見されるのを回避する方法を指します。
②グリーンライティング(Greenlighting)
グリーンライティングとは、自社の環境破壊的な活動から目を背けるために、環境に配慮した小さな活動を強調する方法です。
③グリーンシフティング(Greenshifting)
グリーンシフティングとは、企業が消費者に責任転嫁するコミュニケーション手法を指します。例えば、シェルが消費者に対して温室効果ガス削減のためのアクションを問うメッセージを発信したことなど、環境破壊の責任を消費者に負わせるマーケティングキャンペーンなどが該当します。
④グリーンラベリング(Greenlabelling)
グリーンラベリングとは、環境に配慮した商品やサービスであるという表示をして誤解を招く行為を指します。例えば、「100%海洋プラスチック」をうたった製品でも、実際には海洋からプラスチックを回収していない場合があります。
⑤グリーンリンシング(Greenrincing)
グリーンリンシングとは、目標を達成する前に定期的に目標を変更する方法です。環境問題の課題解決に貢献する目標を設定したものの、それを達成できなかった企業にこの傾向が見られると言われています。
近年で言うと、2024年12月に米コカ・コーラが「自主的な環境目標」を変更しました。「2030年までにリサイクル素材を使用した包装を50%使用する」と掲げていた目標を、「2030年までに35〜40%」と大幅に縮小しました。これにより、環境活動家たちから「グリーンウォッシュだ」と指摘されています。
⑥グリーンハッシング(Greenhushing)
グリーンハッシングとは、投資家や消費者からの精査や批判を逃れようとして、企業が持続可能性に関する実績や情報を故意に過小報告したり、公開しなかったりする行為を指します。
参照:The Greenwashing Hydra|Planet Tracker
グリーンウォッシュを見分ける方法とは?「グリーンウォッシュ 7つの罪」と具体例
投資家や消費者がグリーンウォッシュを見分けるために、どのような点に気を付ければ良いのでしょうか。
カナダのグリーンマーケティング・エージェンシーTerra Choice社(現在はアメリカの第三者安全科学機関のULが買収)は、消費者が誤解を招く環境に関する主張をしている製品を特定できるように、以下の「グリーンウォッシングの7つの罪」を発表しました。
①隠れたトレードオフの罪
②証明を示さない罪
③曖昧さの罪
④偽りのラベルを表示する罪
⑤無関係の罪
⑥より大きな「悪」と比べる罪
⑦フィビング(不正確)の罪
それぞれ以下で詳しく解説します。
①隠れたトレードオフの罪
隠れたトレードオフの罪とは、限られた狭い範囲に基づいて製品が環境に優しいと主張することです。
例えば、ファッションブランドが「リサイクル素材で作られている」と主張していながら、生産過程では温室効果ガスを大量に排出しているなど、環境に大きく負荷がかかることをしている点を隠しながら環境に優しいことをしていると主張することが「隠れたトレードオフの罪」に該当します。
②証明を示さない罪
証明を示さない罪とは、信頼できる根拠を提示せずに「持続可能な社会に貢献している」「地球環境に優しい」などと主張することです。
例えば、先述のグリーンウォッシュの事例として挙げた、消費者庁から2022年に優良誤認で再発防止命令を受けた10社も「証明を示さない罪」に該当します。
③曖昧さの罪
曖昧さの罪とは、定義が不十分だったり、範囲が広かったりするために、消費者が意味を誤解する可能性があることを指します。
例えば、「自然由来=環境に良い」とは必ずしも言えませんが、自然由来と製品に記載することは「曖昧さの罪」に該当します。
④偽りのラベルを表示する罪
偽りのラベルを表示する罪とは、第三者の推薦がないにも関わらず、あたかも推薦されているように見せかけることを指します。
例えば、該当機関への確認無しに、「〇〇機関も推薦」と製品に記載することや、存在していない、あるいはまともに機能していない第三者機関から推薦されていると説得力を持たせようとすることなどが「偽りのラベルを表示する罪」に該当します。
⑤無関係の罪
無関係の罪とは、製品やサービスによる環境インパクトとは無関係の情報をもとに、環境への貢献を訴求ポイントとして主張することです。
例えば、法律でもともと決められている基準を満たしているだけにも関わらず、あたかも特別な基準を満たしているかのように記載することは「無関係の罪」に該当します。
⑥より大きな「悪」と比べる罪
より大きな「悪」と比べる罪とは、環境に優しいことをしているわけではないにも関わらず、限られた範囲のみでインパクトを主張し、消費者の注意を問題から逸らすことを指します。
例えば、「競合他社A社と比べて、自社の商品は環境負荷が低いため環境に優しい」と主張することは「より大きな悪と比べる罪」に該当します。
⑦フィビング(不正確)の罪
フィビング(不正確)の罪とは、間違った情報に基づいて商品やサービスを環境に優しいと主張することを指します。
例えば、認定期間などの基準を満たしていないにも関わらず、認証マークを使用することなどは「フィビング(不正確)の罪」に該当します。
各国のグリーンウォッシュに関する規制
グリーンウォッシュに関しては、世界中の規制当局が注目しています。
例えば、伊競争市場庁は2020年に、伊石油大手のエニ社に対し、同社の広告が「ディーゼル燃料がグリーンである」と主張していることに対し、消費者の誤解を招くと指摘。500万ユーロの罰金と、宣伝活動を禁止する措置を行っています。
また、H&Mは環境負荷測定ツール「Higg MSI」のデータを根拠に環境負荷が低いと主張していましたが、これに対してノルウェー消費者庁(NCA)が2022年に、マーケティング統制法に違反する可能性があると指摘。
英国金融行為規制機構は2022年に、戦略計画の一環として「私たちは、企業の慣行が私たちの期待にそぐわない場合を特定し、消費者を保護するために迅速に介入する」と述べています。
日本おいてもグリーンウォッシュは深刻な問題として、規制当局が注目しており、元金融庁長官の中島淳一氏は「投資家をグリーンウォッシュから保護するためにグリーン・クレームの監視を強化する」と発表しています。
参照:グリーンウォッシュとその回避方法:アジア金融業界向け入門ガイド|AIGCC、Client Earth
日本のグリーンウォッシュへの対応
国内におけるサステナビリティ関連の開示制度について、もう少し詳しくみてみましょう。日本においても、グリーンウォッシュを含むサスティナビリティ関連の制度には進展が見られます。
金融庁は、2023年に企業内容等の開示に関する内閣府令を改正しました。改正後の開示府令は2023年1月に公布・施行され、有価証券報告書と有価証券届出書の記載事項の内容が変更されています。
具体的には、サステナビリティに関する企業の取組みについて記載欄を新設し、サステナビリティ関連情報について、①「ガバナンス」及び「リスク管理」に係る事項を必須記載事項とし、②「戦略」及び「指標及び目標」に係る事項については、その重要性に応じて記載を企業に求めています。
特に重要なのは、サステナビリティ関連情報の開示には、開示布令に基づく虚偽記載等の責任を問われる可能性があることです。
この点に関して金融庁は、実際に生じた結果が記載された将来情報と異なるとしても、直ちに虚偽記載等の責任が生ずるとはいえないケースを明確にするため、企業内容等の開示に関する留意事項(企業内容等開示ガイドライン)を更新。
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、国際サステナビリティ基準審議会のIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2号「気候関連開示」に相当する日本版の基準を2025年3月31日までに発行すると発表しました。これにより、日本の開示基準がさらに強化されることが予想されます。
参照:グリーンウォッシュとその回避方法:アジア金融業界向け入門ガイド|AIGCC、Client Earth
企業がグリーンウォッシュのリスクを回避するために
企業がグリーンウォッシュのリスクを回避するためには、どのような観点に留意すれば良いのでしょうか。
非営利団体ClientEarthと気候変動に関するアジア投資家グループAIGCC(Asia Investor Group on Climate Change)が外部コンサルタントのデイジー・マレットと共同で2023年に作成した『グリーンウォッシュとその回避方法』では、グリーンウォッシュのリスクを回避するための主要な推奨事項が紹介されています。
本ガイドによれば、グリーンウォッシュのリスクを回避するためには次の「5 つの柱」が重要だといいます。
①自社のグリーンを精査する
②誠実かつグリーンに
③グリーンの有言実行
④変化するグリーンの色合いを観察する
⑤グリーンの義務に注意を払う
以下で詳しく解説します。
①自社のグリーンを精査する
自社のグリーンに関する主張の正確性と信頼性を精査しましょう。曖昧な表現は避け、十分な裏付けを有した記載にすることが重要です。グリーン・クレームが客観的で正確であり、商品の目的に関して十分な具体性があることを確認しましょう。
②誠実かつグリーンに
自社のグリーン目標が製品及びその財務目標にどのように統合されているかについて透明性を確保しましょう。
例えば、グリーン、サステナブル、サステナビリティ・リンク、トランジションなど、サステナブル商品に適用される表示が、信頼できる国際的なガイドラインや公表されているタクソノミーに合致していることを確認するなどが挙げられます。関連する表示の適切性を検証するために、質の高い第三者意見を得られるないか検討することも良いでしょう。
③グリーンの有言実行
企業やファンドのグリーンイメージが、企業やファンドの内部での行動や第三者との関係における行動と整合していることを確認しましょう。
例えば、気候変動やその他のESGに関する方針がある場合は、事業部門や役割の違いを含め、組織全体でその方針が遵守されていることを確認します。このような方針を遵守するためには、多くの場合、システムや統制、取締役会レベルの監督が必要となります。
④変化するグリーンの色合いを観察する
期待や規制が急速に変化する中、すべての関連法域での動向を監視しましょう。
顧客、投資家、その他のステークホルダーのグリーンへの期待を理解し、グリーン商品、融資活動、投資戦略全般、報告書作成へのアプローチに組み込みましょう。
⑤グリーンの義務に注意を払う
投資家、受益者、ステークホルダーに対する法的義務と受託者責任を把握しましょう。
ステークホルダーに対して気候変動リスクを管理して適切な情報開示を行うことにより、ステークホルダーの最善の利益のために行動していると伝えることができます。
参照:グリーンウォッシュとその回避方法:アジア金融業界向け入門ガイド|AIGCC、Client Earth
グリーンウォッシュの事例は今後ますます多様化していく
本記事では、グリーンウォッシュの概要や事例、グリーンウォッシュの種類や見分け方、国内外における規制動向や企業がリスク回避のためにするべきことを解説しました。
量的な拡大が進めば、質的な側面に関心が向かうのは自然な流れとも言えます。グリーンウォッシュの事例は今後ますます増加し多様化するかもしれません。
一度グリーンウォッシュとの批判を受けてしまうと、企業の信頼とブランド価値を大きく損なう可能性があります。その後イメージを改善することは容易ではありません。
2025年3月には日本の開示基準もより明確になることが予想されます。環境に配慮した取り組みを実践する企業は、グリーンウォッシュ批判に萎縮することのないよう、引き続き動向に注視していきましょう。
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監修
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。