総研レポート・分析

地政学リスクとは?日本企業にもたらす影響や全体像を分かりやすく解説

米中対立、ロシアによるウクライナ侵攻、緊迫する中東情勢――。地政学リスクの高まりにより、企業の経済安全保障への対応は喫緊の経営課題となっています。

本記事では、地政学リスクが企業にもたらす影響や、日本企業にとって重要な地政学リスク、経済安全保障上の脅威へ対応するために企業経営に求められることを分かりやすく解説します。

改めて「地政学リスク」について知りたい方や、現時点での地政学リスクについて網羅的に理解したい方はぜひご一読ください。

地政学リスクとは

地政学リスクとは

地政学リスクとは、政治的、軍事的、社会的な緊張の高まりが、地理的な位置関係によって、その地域や関連地域の経済、世界経済全体に悪い影響を与えるリスクのことです。

地域紛争やテロへの懸念などから、原油価格など商品市況の高騰や、為替通貨の乱高下、世界経済の停滞を招きます。そのため、企業にとっては投資判断に大きな影響を与える要因の一つとなっています。

近年の例でいうと、米中対立、ロシアによるウクライナ侵攻、緊迫する中東情勢などが挙げられます。

そもそも「地政学」とは地理学と政治学を合わせたもので、地政学リスクは「地政学的リスク」という場合もあります。

地政学リスクがもたらす企業への影響

地政学リスクとは

地政学リスクは、企業の事業活動において重要な影響をもたらします。

たとえば、国家間の対立による政策の変更や、規制の導入・強化。

貿易、投資、人やデータの移動が制限されてしまうと、事業活動に大きな支障が生じます。また、新たな法規制へのコンプライアンス対応が必要となったり、片方の当事国に加担しているとみなされることによるレピュテーション・リスクが生じたりします。

また、地域紛争も企業に大きな影響をもたらす地政学リスクの一つです。

製品の製造拠点や、製品の原産地で紛争が発生してしまうと、生産や販売停止を余儀無くされてしまう恐れがあります。また、事業の継続自体が困難になってしまったり、現地にいる海外駐在員の安全確保が必要になったりする恐れもあります。

日本企業にとって重要な地政学リスク

地政学リスクとは

ここからは、2024年時点で日本企業にとって特に重要な地政学リスクを具体的に解説します。ここで解説する地政学リスクは、次の3つです。

・米国大統領選挙
・米中対立
・ウクライナ紛争

それぞれ以下で詳しく解説していきます。

日本企業にとって重要な地政学リスク①米国大統領選挙

2024年11月に控えている米国の大統領選挙。バイデン氏の選挙戦撤退以前はトランプ氏が優勢でしたが、ハリス氏の下で民主党は勢いづいており、米国大統領選挙は接戦状態が続いています。

支持率はハリス氏が49.3%、トランプ氏が47.7%(2024年10月16日執筆時点)と現時点ではハリス氏がリードしていますが、激戦州が今後どのような動きを見せるかは分かりません。

地政学リスクの観点からこの大統領選を見ると、ハリス氏が当選した場合はバイデン政権の路線が継続されるでしょう。

しかし、トランプ氏が再選した場合、貿易戦争の再発や移民排除に伴う労働市場の混乱、利下げペースの変化、環境政策の後退(反ESG)などが想定されます。

日本企業においては、選挙動向の把握はもちろんのこと、選挙結果に伴ってどのように政策が変更される可能性があるのか、そしてそれらを踏まえた事業への影響を把握しておくことが重要です。その上で、事業戦略の検討や、ロビイング活動の強化などが求められます。

参考:RealClearPolitics

日本企業にとって重要な地政学リスク②米中対立

米中対立は、日本に限らず、国内外の多くの企業が注目している地政学リスクの一つではないでしょうか。

「デカップリング(分断)からデリスキング(リスク低減)への移行」という外交的方針転換があったものの、米中対立は政権に関わらず続いています。

たとえば、米政府は2024年9月13日、電気自動車(EV)の関税率を100%に引き上げるなど、対中制裁関税の大幅な引き上げについて最終決定を下しました。

これを受けて、中国商務省は2024年10月15日、日本産と米国産のヨウ化水素酸に対する反ダンピング関税の適用を5年間延長すると発表。

このように、今後米中対立がエスカレートしていくと、報復関税の応酬へと発展する可能性があります。

常に米中両国の動向を把握しつつ、自社の事業特性に応じて迅速に対応しながら、的確なリスク管理を行うことが求められます。

参照:2024年 地政学リスク展望|PwC

日本企業にとって重要な地政学リスク③ウクライナ紛争

ロシアは、2022年2月にウクライナへ軍事侵攻を開始。2024年10月時点でも戦争状態にあり、終わりが見えない状況となっています。

ロシアによるウクライナ侵攻で特に大きな影響を受けたのは、原油を始めとする商品市場です。侵攻前の2月は90ドル台だった原油価格は大きく上昇し、3月には一時130ドル台まで上昇しました。

また、ウクライナは世界屈指の小麦輸出国であることから、小麦価格も急上昇。

これにより、ウクライナ侵攻は商品価格の高騰と、世界的インフレを呼び込みました。

残念ながら現時点で停戦合意の可能性は低いとされており、企業においては、今後もエネルギー価格が再び高騰し、供給量確保に支障をきたすリスクや、国際社会におけるロシア、中国、イランの存在感が拡大した場合、米国の影響力が低下することにより世界各地で地域情勢が不安定化するリスクなど、あらゆるリスクを想定した上でリスク管理を行うことが求められます。

参考:地政学リスクの全体像の整理|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

経済安全保障上の脅威へ対応するために企業経営に求められること

地政学リスクとは

ここまで解説してきた通り、近年地政学リスクは高まっています。企業は、経済安全保障上の脅威に対してどのような対応が求められるのでしょうか。

サプライチェーンの見直し

一つは、サプライチェーンの見直しです。

地政学リスクが高まっている中、コストや経済合理性を重視したサプライチェーンの構築は適切なリスク管理ができない可能性があります。

欧米の先進企業と比較すると、日本企業はサプライチェーンの可視化が遅れていると言われていますが、強靭で持続可能なサプライチェーンを構築していくためにも、早急に取り組むことが求められます。

経済安全保障を推進するべく政府も動いており、現在は「サプライチェーン強靭化」、「官民技術協力の支援」、「基幹インフラの安定的な供給の確保」、「特許非公開」の4分野に取り組んでいます。1年で65件、計1兆円を超える予算を組んで支援策を展開しています。

リスク評価の見直し

日本にとって最大の貿易相手国である中国による米中対立や、米国大統領選、エネルギー資源がロシアに依存したままでのウクライナ情勢長期化、アセアン諸国の動き、中東情勢など、世界各国であらゆる地政学リスクが増大しています。

ここ数年で、中期経営計画でリスクファクターの洗い出しを行ったり、「リスクマッピング」によるリスクマネジメントシステムを実践したりする企業が増えています。

このように、改めてリスク評価を見直すことはとても重要です。

地政学リスクの高まりにより、企業の経済安全保障への対応は喫緊の経営課題に

地政学リスクとは

本記事では、地政学リスクが企業にもたらす影響や、日本企業にとって重要な地政学リスク、経済安全保障上の脅威へ対応するために企業経営に求められることを解説しました。

地政学リスクの高まりにより、企業の経済安全保障への対応は喫緊の経営課題となっています。

地政学リスクを回避し、新たに生まれるビジネスチャンスを捉えるためにも、企業は早急に社内体制を整備し、必要であれば外部の専門家にも頼りながら、適切なリスク管理をしていきましょう。

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監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。