総研レポート・分析

物流施設賃貸市場動向Vol.8 -増えすぎた施設数に賃貸需要は追いつかず-

マーケットサマリー 

消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は2022年4月以降、日本銀行が目標とする平均2%以上の上昇を保持しているが、実質賃金(総額)については2024年6~7月及び11月の3ヶ月が前年同月比で上昇し、その他の月は同減少での推移となった。2024年7-9月期の実質GDPについても前期比+0.3%で2期連続での増加となったが、全般的に見た経済成長率は力強さを欠いている。法人企業統計調査からは2024年7-9月期の経常利益が前年同期比-3.3%と減少したのに対し、設備投資は同+8.1%の増加となっており、家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃)については2024年7-9月期に同+0.7%の増加に転じており、我が国の経済は低成長ではあるが緩やかな回復が続いている。一方で、政府・日銀が掲げる賃金と物価の好循環については、2025年度の春闘においても組合側から2024年度と同水準の賃上げを要求する方針で、既に売上原価,販管費ともに増加傾向にある企業側はどこまで要求を受け入れられるかが、今後経済を成長軌道に乗せる事ができるかの試金石となる。なお、本調査時の開発会社等へのヒアリングより物流施設の建築費は半年前と比較して5~10%程度上昇しているもようで、開発計画にも影響が出てきていることから、今後施設供給量は減少が見込まれる。

国内・国際貨物輸送量

2024年の国内貨物は8月までの公表データで前年同期比で概ね横這いでの推移となった。国際貨物は海上、航空ともに前年比で増加する見込みである。鉄鋼の需給動向については、自動車製造のほか、建築や汎用・業務用機械製造の需要も2024年9月までは前年同月比で減少しており需要の弱さから粗鋼生産、特殊鋼鋼材生産、普通鋼鋼材国内向け出荷、特殊鋼鋼材出荷は減少での推移が続いていることから、保管需要への影響が懸念される。

宅配便取扱数

2024年度の宅配便取扱数を大手3社で見ると、ヤマト運輸は前年同月比で+2.1%、日本郵便は同+8.7%、佐川急便のみ同-4.3%で推移しており、3社の合計で前年同期比+1.4%となっている。宅配便取扱数と物販系分野BtoC-EC市場規模の推移については、市場規模が約14.7兆円に達しているが伸び率は前年比で鈍化傾向にある。

物流施設の取引市場

2024年のJ-REIT物件売買金額は約2,600億円で前年と概ね同水準だった。2024年は長期国債利回り及び調達金利の更なる上昇の見込みから、公募増資を伴う物件取得は限定的だった。J-REIT以外の売買として日本生命が出資するSPCはGLP狭山日高Ⅲ・GLP八尾Ⅰ・Ⅱの3棟を約500億円で、シンガポールREITのESR-ROGOS REITはESR弥富木曽岬ディストリビューションセンターを約390億円でそれぞれ取得したほか、私募ファンド、リース会社等が100億円規模で取得した事例が複数観察されている。2022年以降に大量供給された施設が出口戦略を迎えており、2025年は取引市場でも大量供給が始まる。

物流施設の賃貸需要

需要は堅調であるものの、2022年以降に竣工した施設の空室が多いエリアでは空室率の高い状況が続いている。需要については、Eコマースの荷物を取り扱う事業者・3PL事業者のほか、小売業の拠点再編・集約需要、製造業の保管需要が挙げられる。空室が多いエリアでは、テナントサイドの選別可能な施設が多いことから、一部エリアではテナント争奪戦が繰り広げられている。このような状況から、リーシングの進捗次第でフリーレント期間を標準的な月数の倍に延ばすケースもあり、成約した表面賃料とフリーレントを考慮した実質賃料に乖離が生じている物件が増加している。

空室が多いエリアとして首都圏では国道16号(神奈川 相模原)・圏央道(神奈川 厚木、茨城)エリア・東京湾岸 (神奈川 幸浦)エリア・圏央道・16号(埼玉 関越自動車道沿い・加須以北)エリアが挙げられる。中部圏でも愛知県~三重県湾岸エリアで需給が緩んだ状況は続いており、進行中の開発案件を抱える事業者からは、賃貸需要のボリューム把握と賃料に対する荷主側の厳しい目線に苦慮しながらリーシングを進めているとの声が聞こえた。なお、中部圏内陸部の小牧・一宮エリアについては需要が堅調であり、このほか近畿圏・福岡圏についても好調な状況にある。

潜在的な需要を超える施設数が一気に供給されたエリアでは、募集賃料水準の高止まりも相俟ってリーシングに相当な時間を要しており、しばらくこの状況は続きそうである。


※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成
2024年は8月までのデータ


※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成
2024年は8月までのデータ

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成
2024年11月までのデータ

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成

物流施設の供給予定(全国)

現在予定されている新規供給予定面積は、以下の通りである。

全国で見れば大量供給の時期が過ぎ、供給量は今後減少していく見込みである。国土交通省が公表している2024年の建築物着工統計調査で倉庫の着工面積は2018年頃の水準まで減少しており、竣工年を考慮すると2025年後半~2026年の供給面積は下表の2021年供給量を1~2割程度下回る。供給量の減少に伴って既存施設の空室消化が進むものと考えられ、首都圏では厚木エリアを中心に空室率は緩やかな低下が見込まれる。一方で、建築費の上昇により新規供給施設の募集水準が上昇傾向にあることを受けて、成約水準も上昇傾向になるものと考えられるが、空室面積が嵩んでいるエリアでは実際にテナントサイドが賃借可能な水準に収斂していく傾向にある事から、現在の成約水準より下がるエリアも発生するであろう。特に茨城県や埼玉県北西部(圏央道沿い、関越自動車道沿い)はリーシング期間が長期に及んだとしても、潜在的需要の弱さから空室率は高止まりで推移する可能性があり、成約賃料水準は下落傾向が続くものと考えられる。

2025年の供給予定については、首都圏における大型賃貸物流施設で130万㎡程度で、2022~2024年の平均である400万㎡を大きく下回る。ただし、供給が多いエリアは現在空室が嵩んでいる神奈川県湾岸部、神奈川県相模原市、茨城県が中心となっており、今後のリーシング活動は難航するものと予想される。近畿圏では、大阪内陸部、京都、西宮北、神戸湾岸部尼崎エリアを中心に160万㎡を超える過去最大規模の供給が予定されている。プレリーシングでほぼリースアップが見込まれている大規模施設が多く、需給への影響は現状のところ限定的である。中部圏では「Landport東海大府(約25万㎡) 」、「プロロジスパーク東海1(約15万㎡)」が2025年後半に供給予定で、リーシングの動向に注目が集まる。福岡圏では小郡市で纏まった施設の供給が予定されているが、こちらも2022~2024年に供給された施設の平均と比較すると3分の1程度であることから、エリアの需給への影響は限定的である。東北圏についても、本年の供給量は少なくなっている。

全国的に、新規募集賃料水準は建築費の上昇に伴って上昇が見込まれるが、成約賃料ベースでは調整されるエリアが増加するものと考えられる。また、近時の物価上昇を受けて投資家を意識するオーナーサイドからは、賃料をCPI連動で変動させる契約条項を賃貸借契約に盛り込む事案が増加する可能性が考えられる。テナントサイドからは、中長期的な賃料上昇リスクと捉えられ難色を示される可能性が高く、そのようなリスクをヘッジするため契約期間を3年程度に短期化する可能性が考えられる。これまで収益の変動要因が低い安定的な用途であったが、今後ボラティリティが顕在化する。

また、今後小売業や物流企業のM&Aにより拠点集約や再編が進むものと考えられ、それに伴ってBTS型施設の新規需要創出と複数施設からのテナント退去が考えられ、まだまだマーケットは動きのある状況が続きそうである。

※公表データに基づき谷澤総合鑑定所作成

賃貸物流施設のエリア別 見込み賃料水準・空室率

首都圏

首都圏の見込み賃料水準及び空室率は後掲の通り。

J-REIT公表データに基づく空室率(以下同様)は、東京湾岸エリアで大型施設1物件の空室約3,000坪が生じたことで半年前と比較して0.4%上昇した。外環道エリアでは、都内1物件で満室稼働中の施設から約3,000坪の返室が発生したため0.9%上昇した。圏央道エリアでは千葉県,埼玉県,神奈川県に所在する複数物件で約15,000坪の退去が発生したため半年前と比較して1.3%上昇した。国道16号エリアでは、千葉県、埼玉県に所在する計2棟で約5,000坪の埋め戻しがあり、空室は0.3%減少した。築浅施設のリーシングに苦しんでいるエリアで、既存施設についても纏まった退去が観察され始めた。

成約賃料水準は、築浅物件の成約により上昇傾向にあり、既存施設の再契約に際しても従前より増額で再契約されているケースは珍しくない。ただ、再契約の増額幅は1~2年前と比べて100~200円/坪程度縮小傾向にある。また、既述の通り築浅物件のリーシングに際しては、表面賃料は下げずにフリーレント期間を長期で付与するケースも出てきており、多いもので契約期間に対して2割以上を付与している施設も観察されている。

テナントサイドへのヒアリングでは、インバウンドの影響もありアパレル等の荷動きは好調であるため賃貸面積を増やしていく見込みであるが、立地の選定にあたっては上昇している賃料水準とワーカー確保のための環境確保を天秤にかけながら慎重に行っているとの事だ。また、従来千葉湾岸部で検討していた案件について賃料上昇が著しいため、若干割安な千葉内陸部に検討エリアを広げているといった話もあった。庫内作業についてもオートメーション化を日々推し進めており、開発会社からもリーシングに際してサービス提案を行っている話が聞かれるが、汎用性の高いマテハンが各荷主・3PL企業の個別作業内容等のニーズに当てはまらないケースもあるようだ。現状導入期の物流テック企業が、暗中模索しながらレベルアップしていく事で、現場の作業効率がより一層向上していくものと考えられる。

後掲のエリア別見込み賃料水準は、前回調査時と同様に圏央道(神奈川・埼玉・茨城)の下限値が下落している。各エリア内で上値を追う展開は抑制されてきているが、今後新規供給される高スペックで大規模な施設については現在の相場水準より500~1,000円/坪以上高い水準で成約が見込まれる施設もあり、サブマーケット内でも二極化傾向が進む。

エリア分布

首都圏 エリア別空室率

※J-REIT公表資料に基づき谷澤総合鑑定所作成

首都圏 エリア別見込み賃料水準

※前提スペック
・汎用性のあるマルチ型物流施設(ドライ倉庫)
・床面積30,000㎡~
・築年20年未満

※谷澤総合鑑定所作成。当期は網掛けで表示している。

 

東北圏・近畿圏・中部圏・福岡圏

東北圏・近畿圏・中部圏・福岡圏の見込み賃料水準及び空室率は後掲の通り。

東北圏

東北圏の既存施設については満室稼働が続いている。2021年以前は纏まった規模の新規供給が少なかったが、2022年以降は東北エリアの物流拠点としてのニーズを見込み開発会社の計画が増加した。2025年の供給量は落ち着いているが、2026年以降は大型施設の建設計画が続々と発表されており、成約・募集賃料水準は過去の3,000円/坪台前半~半ばの水準から大きく上昇している。開発会社へのヒアリングによると、4,000円/坪以上の賃料水準になると地元物流会社では借りられない水準になってくるため、需要者層は全国展開する3PL会社や、Eコマース運営事業者等に限定されるとの事である。需給バランスについての懸念点があるものの、築浅物件の成約賃料水準は現在の水準を維持するものと考えられる。

近畿圏

既存施設の空室率は、内陸部や京都エリアでは動きが無かったが、湾岸部において大型施設1物件の空室約7,000坪が埋め戻されたことで半年前と比較して0.7%低下した。内陸部の高スペックな施設の募集賃料水準は6,000円/坪弱に達しており、当該水準がトップラインになっている。湾岸部では尼崎エリアの賃料上昇が著しく、本年竣工の大型施設はプレリーシングが順調に進んでいる状況で、5,000円/坪を超える水準での成約が観察されている。また、京都エリアにおいても上値を追う展開が続いており、開発計画も増加している。逼迫した需給環境を背景とした賃料上昇が続いている反面、大阪内陸部の一部では二次空室が出始めているとの話もあり、今後需給は若干緩む可能性がある。

中部圏

既存施設の空室率は前回調査時から特段変動は無い。また、前回調査時と同様に愛知県から三重県の湾岸部で2022年以降に供給された施設の空室消化が思いのほか進んでおらず、賃貸需要も弱いため需給が緩んだ状況は続いている。開発会社へのヒアリングでは、中部圏に所在する荷主企業は賃料に対する見立てが厳しく、思いのほか賃料上昇が進んでいないとの事であり、2025年以降も2022~2024年までの平均供給量と同様に60万㎡を超える新規供給が予定されている事から、エリアとしての空室率と賃料の動向に注目が集まる。一方で、中部圏の物流施設集積地である小牧エリアは、リーシングが堅調のようだ。

なお、名古屋市内中心部に所在する高スペック施設で5,000円/坪前後の成約が観察されているが、こちらは特殊な事案である。

福岡県

福岡圏の既存施設については満室稼働が続いている。総じて空室率は低く、成約賃料水準は上昇傾向にあることから賃貸市況は好調であるが、前回調査時に「今すぐにでも床が欲しい」というテナントサイドの要望が複数あった状況から、直近は少し落ち着いてきているとの事である。2025年の供給量は2022~2024年の3年間で供給された平均面積の3分の1程度になるため、引き続き堅調な市況が見込まれる。

2024年12月に稼働したTSMC熊本工場周辺では、物流施設の建設計画が増えつつある。ただし、建設需要が逼迫している事から建築費が高騰しており、思うように計画が進められない状況もあるようで、今後急激な施設供給量増加には繋がらないものと考えている。

エリア分布

東北圏・近畿圏・中部圏 ・福岡圏エリア別空室率

※J-REIT公表資料に基づき谷澤総合鑑定所作成。3棟以下のデータ

東北圏・近畿圏・中部圏・福岡圏 エリア別見込み賃料水準

※前提スペック
・汎用性のあるマルチ型物流施設(ドライ倉庫)
・床面積30,000㎡~
・築年20年未満

※谷澤総合鑑定所作成

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