総研レポート・分析

人手不足倒産とは?深刻化の原因と背景、解決策を分かりやすく解説

人手不足による企業の倒産は以前から問題視されていましたが、近年ますます増加傾向にあります。2023年11月には、人手不足による企業の倒産件数が過去最多を記録しました。

少子高齢化により日本の労働人口は今後も減少していくことが予想されており、人手不足倒産はさらなる増加が見込まれています。

人手不足による倒産をしないために、企業は今後どのような対応が求められるのでしょうか。

本記事では、人手不足倒産の深刻化の背景と原因、人手不足が深刻な業界や、解決方法などを詳しく解説します。

人手不足倒産とは

人材不足倒産とは

「人手不足倒産」とは、事業を行う上で必要な人材の確保することができず、企業が倒産してしまうことを指します。

ちなみに「倒産」という言葉は法律上定義されているものではありませんが、一般的には「企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」を事実上の倒産と定義しています。

つまり、「人材不足倒産」とは、人材不足が原因で経営が立ち行かなくなってしまうことを指します。

人手不足倒産は増加傾向

人手不足による倒産は、近年増加傾向にあります。

帝国データバンクが2023年11月に発表した『人手不足倒産の動向調査(2023年1-10月)』によると、人手不足倒産の件数が206件になったと発表しました。

この数字を前年同期と比較すると78パーセントも増加しており、過去最多を記録しています。

業界別にみると、建設業が全体の37パーセント、物流業が全体の16パーセントを占めていました。

また、従業員規模別にみると、10人未満の企業の倒産が155件で全体の75パーセントを占めています。10〜50人未満が23パーセント、50人以上は1パーセントでした。

そして、業歴別では30年以上が最も多く、41パーセントを占めていました。

小規模で、業歴の長い企業ほど人手不足と事業継続の課題に直面していることが分かります。

調査をした帝国データバンクは、人手不足割合の高止まりが続いた場合、今後さらに人手不足倒産が相次ぐ可能性も指摘しています。

人手不足倒産深刻化の背景

人材不足倒産とは

ではなぜ、人手不足による企業の倒産が深刻化しているのでしょうか。

理由は以下の3つが挙げられます。

・少子高齢化による労働人口の減少
・採用難易度の上昇
・離職率の上昇

それぞれ詳しく解説していきます。

少子高齢化による労働人口の減少

日本における少子化は年々深刻化しています。当たり前の話ですが、人口の減少に伴って、労働人口も減少の一途を辿っています。

加えて、日本は超高齢化社会を迎えています。総務省統計局省の『平成29年 就業構造調査』によると、介護を理由に離職をしている人が年間に約10万人もいるそうです。

今後も少子高齢化問題はより一層深刻化していくと予想されており、多くの企業の人材確保において大きな影響を及ぼすと考えられます。

人材確保の難易度上昇

「採用難」と言われていたりしますが、現在の日本はいわゆる「売り手市場」となっています。

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の発表(2022年10月)によると、国内統計:有効求人倍率は1.35倍となっています。

求人の数が求職者数を上回っており、人材を採用する難易度が高くなっているのです。

離職率の増加

離職率の増加も人手不足の原因のひとつです。

厚生労働省が2021年10月に発表した「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」によると、新規大卒就職者は31.2パーセントと、3人に1人が3年以内に離職(退職)しています。

新卒採用にかかる1人あたりのコストは約100万円とも言われています。若手の離職率の増加は、企業にとって大きな痛手となります。

また、新卒社員でなくとも、従業員の退職は企業にとって大きな痛手となります。新しい人材確保が難しい採用難の時代において、従業員が退職してしまうことは残された従業員に負荷がかかったり、モチベーションの低下に繋がったりするからです。さらなる退職の増加に繋がりかねません。

人手不足倒産の主な原因

人手不足によって企業が倒産してしまう原因は、主に以下の4つです。

・後継者不在
・採用難
・退職
・人件費の高騰

それぞれ詳しく解説していきます。

後継者不在

一つ目は、後継者不在のために事業継続の見込みが立たず、倒産してしまうという、いわゆる「後継者難倒産」です。

2023年12月の帝国データバンクの発表によると、2023年11月には46件発生しており、1〜11月の累計件数は509件となっています。

500件を超えるのは初めてで、12月を残しているにも関わらず年間の最多件数を更新しています。

採用難

二つ目は、人手不足倒産深刻化の背景でも触れた「採用難」です。

売り手市場となっている現在の日本では、採用活動を行なっても、なかなか必要な人材を確保することが難しい状況です。

特に、中途採用が多く、もともと人材の出入りが激しい中小企業においては、黒字にも関わらず人材不足が原因で倒産するという「黒字倒産」が出るほど、人手不足が死活問題となっています。

社員の退職

三つ目は、社員の退職です。

新しい人材の確保が難しい状況の中、人材が外部へ流出してしまうことは、人材不足倒産を引き起こしかねません。

特に小規模な企業においては、一人あたりの社員の影響や役割が大きいため、一人でも退職すると大きな影響を受けてしまいます。

人件費の高騰

最後は、人件費の高騰です。

東京商工リサーチの2023年の発表によると、人手不足による倒産をした理由として、前年にはなかった「人件費高騰」を挙げる企業が新たに29件も発生しています。

大手企業と比べると資金力が乏しい中小企業は、採用難に悩んでいても、簡単に給与を上げることはできません。

その結果、さらなる人材流出(社員の離職・退職)が進み、人材不足倒産に繋がるという、悪循環に陥ってしまうこともあります。

人手不足倒産が特に課題となっている業界

人手不足倒産とは

なかでも、以下の5つの業界では、特に人手不足による企業倒産が深刻化しています。

・物流・運輸・運送業
・サービス業界
・医療・福祉業界
・宿泊・飲食サービス業界
・建設業界

それぞれ詳しく解説していきます。

物流・運輸・運送業

まずは、冒頭でご紹介した2023年1〜11月に「人手不足倒産」をした企業のうち、全体16パーセントを占めていた物流・運輸・運送業界です。

2024年4月には、時間外労働の上限規制や改善基準告示の改正など働き方改革関連法の適用が開始されます。

「物流2024年問題」などと言われていたりしますが、この2024年問題は、物流・運輸・運送業界の人材不足問題に拍車をかけることが懸念されています。

宿泊業・飲食サービス業界

宿泊業・飲食サービス業界は、離職率の高さに起因する人材不足倒産が課題となっています。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響も大きく受けて休業が続いたり、国の施策などで繁忙期が続いたり、再び休業に追い込まれたりと、長く安定して働き続けてもらう環境を用意しづらい状況が続いたことも影響しているのかもしれません。

人手不足により経営を継続するのに十分な営業日数を確保することができず、倒産してしまう企業が多いようです。

医療・福祉業界

医療、福祉業界は、需要と供給のバランスが崩れていることから深刻な人手不足に陥っています。

2018年10月に公表されたパーソル総合研究所と中央大学が共同研究した『労働市場の未来推計2030』によると、2030年には医療・福祉業界は187万人の人材が不足すると考えられていました。

2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、医療現場における人手不足がより一層深刻化しています。

サービス業界

ここでいうサービス業界とは、先述の「宿泊業・飲食サービス」を除くサービス業を指します。

特に2023年においては、システムエンジニアの人材不足が続いているソフトウェア業で倒産が目立っています。

建設業界

最後は、建設業界です。

2023年1〜11月に「人手不足倒産」をした企業のうち、全体の37パーセントと最も多くを占めています。

社員の高齢化に加え、若い人材が定着しないことも人手不足の原因となっています。

現場の職人のほかに、施工管理など有資格者の不足や退職によって、事業の継続が困難となってしまったケースが目立っています。

人手不足倒産の解決方法

人手不足倒産とは

では、人手不足による倒産をしないためには、どのような解決方法があるのでしょうか。

ここからは、以下の4つの方法を解説していきます。

・働きやすい職場づくり
・採用力強化
・生産性の向上
・女性や高齢者、外国人などの積極採用

働きやすい職場づくり

働きやすい職場づくりをすることは、人材不足の原因のひとつである「離職率」を低下させることに繋がります。

また、社員が長く働き続けられる、定着率の良い職場であれば、求職者にとっても魅力的となるでしょう。

採用難と言われる現在、求職者にとって魅力的な企業は、採用コストを下げながら優秀な人材を確保することができます。

採用力強化

売り手市場となっている今、ただ求人を出しているだけでは、人材を確保することはできません。

優秀な人材の獲得に向けて、自社の採用力を強化する必要があります。

自社の魅力を誰にどう伝えるのかといった採用広報の戦略や、求職者とのミスマッチを防ぐ方法など、採用担当者は自社の採用力を強化するための工夫が求められます。

生産性の向上

生産性を向上させることで、従業員の総労働時間を減らすことができ、結果的に人材不足という課題からの脱却に繋がります。

生産性を向上させるための方法としては、業務の効率化、業務の標準化、ITの活用、外部リソースの活用などが挙げられます。

生産性の向上は利益率の拡大にも繋がりますし、企業を存続させていく上で必要な取り組みですので、ぜひ見直してみてはいかがでしょうか。

女性や高齢者、外国人などの積極採用

DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)に取り組む企業が増えていますが、労働人口が減少し続けている今、多様な人材を活用することで人材不足問題を解決することができます。

女性の社会進出やシニアの労働力人口が増加していますので、積極的に採用すると良いでしょう。

ただし、多様な人材を確保するだけではなく、多様な人材が働き続けられる職場づくりをあわせて行っていくことが重要です。

せっかく採用をしても、働き続けられない環境では、離職率が増加してしまい、採用にコストだけかかって人材不足にまた悩む……という事態になりかねません。

多様な人材が働きやすく離職しにくい環境を整備することができれば、多くの企業にとって人材不足を解決する大きなカギとなるでしょう。

まとめ

今回は、人手不足による企業が倒産について詳しく解説しました。

人手不足倒産は、少子高齢化による労働人口の減少や、後継者問題、求人難、人件費の高騰、離職率の増加といった社会課題の影響から、近年増加傾向にあります。2023年には、過去最多の人手不足倒産件数を記録しました。

特に人手不足が深刻化している業界は、運輸・運送・物流業界や建設業界、医療・福祉業界などが挙げあれ、「2024年問題」の影響も心配されます。

人手不足による倒産をしないためにも、企業は採用力の強化や女性・高齢者・外国人の積極採用をしていくことが求められます。

また、採用面だけではなく、社員の定着率向上のために、働きやすい職場づくり、生産性の向上などの取り組みも効果的です。

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超える。不動産鑑定士。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立。
2021年10月にはデータマーケティング事業を主軸としたククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。